9話:真実と願い
この作品と新作の作品が日間にランクインしていました。
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それでは9話始まります。
リュートの前では獣人の姉弟が殴りあいをを行っていた。
「アダム、お金が欲しいなら私が集めてきてあげる。力を奮いたいなら、いつでも私が相手をしてあげる。だからこの街の領主の所じゃなくて、私の所に戻ってきて」
エメリアは拳を繰り出しながら懇願する。
「ははは、わかってないなぁ。それじゃあダメなんだよ」
アダムもまた拳を繰り出しす。
「何が駄目なの? お姉ちゃん分からないよ!」
エメリアは悲痛の想いで叫ぶ。
「それより、ぼくはずっと聞きたかったんだけど姉さんはどうやってここに来たんだい」
「そっ、それは……言えない」
エメリアはアダムの質問に言いよどむ。
「何だ? 何故あの程度の質問に答えない」
リュートはエメリアの反応に違和感を持つ。まさかこちらをかばったのか。
自分は買われたと言えばそこから買ったのが一人の少年に二人の少女というのが分かる。
「ちっ、正体を隠して買うべきだったか」
自覚はなかったがニーナの事で結構焦ってたようだ。
まぁいい、誰が買ったなんて事は調べればすぐばれる事だ。
「ああ、なるほど、あそこの坊やに買われたのか」
「なっ! なんの事」
「ハハハ、姉さんは嘘つくのが下手すぎるよ」
アダムはエメリアの様子から直ぐに察したようだった。
「ねえ、姉さん」
「何アダム?」
拳を交えながら二人は話す。
「愛してるよ、姉さん」
「なっ! 何を」
アダムのまさかの言葉に驚いたエメリアは隙を見せる。
だが、そこにアダムからの攻撃が来ることはなかった。
「ねえ、そこの君」
「……何だ」
隙を見せたエメリアを放置してアダムが話しかけたのはリュートだった。
「お願いがあるんだけどいいかな」
「何だ? お前らを救えばいいのか」
「ハハハ、やっぱ気づいてた」
「何? 何なの」
エメリアは訳がわからず狐耳を曲げながら首を傾げる。
「……私も……はなしついていけない」
ニーナも同様にリュートに疑問を感じて首を傾げる。
「まず、俺が弟を売らなかった事に疑問を持ったことは言ったな」
「……うん」
リュートはニーナに聞かせるように説明を始める。ついでにこの声はエメリアにも届く大きさだ。
「そこで俺はもしかしたら弟は生きているんじゃないかと思った。だとしたら何で殺されたふりをするか、真っ先に俺は弟もぐるだと考えたんだ。そこで俺は弟は敵だと思っていた。だが、この館に来たとき違和感を覚えたんだ」
「……違和感?」
「それは何かな、僕にも教えてくれよ」
アダムは笑顔を浮かべて質問してくる。
「ここの領主の趣味だよ。地下に行けばわかる。エルフや獣人等が何人も閉じ込められていたにも関わらず人間が一人も居なかった。ここの領主は違う種族の者を集めるのを趣味にしているようだった。なら何故そこの女は領主に渡さなかったのか、俺はそこを不思議に思った」
「あー、なるほどね」
アダムはこちらの言いたいことに気づいたようだ。中々に頭が回る。
だけど聞きたがっているニーナとエメリアは、分からないようで頭にクエスチョンマークを浮かべている。
「話を続けるぞ、不思議に思った俺は違う方向から考えてみたんだ。そしたらある推論が浮かんだ。弟は敵なんじゃなくて姉を救おうとしたのではないかという推論がだ」
「救うだって!」
リュートの推測に驚くのは当たり前だがエメリアだ。だけどリュートの推測が当たれば弟は優しいままだと思い少し嬉しそうでもある。
「ああ、そうだ。お前の盗賊団は恐らく本当にお前を邪魔だと思っていた。領主につこうと考えたのは盗賊団メンバーだったんだろう。弟はそれを察知していた。そこで自らも姉を憎んでいるとメンバーに近づいて姉を気絶させて自分達は領主の所に向かおうとした」
「でも待って、私は売られたぞ」
今の話だと私を売る必要はないだろとエメリアはリュートに話した。
「そこは弟も計算外だった。恐らく仲間がお前を殺そうとしたか領主に渡そうとしたんだろう。だから弟は金になる奴隷として売ったんだ。だけどまだ計算外の事があったんだ。どうだ、ここまではわかったか」
「……うん、わかった」
ニーナはここまでちゃんと理解したようだ。なら後は答え合わせをするだけだ。
「ここまであっているなら続きは自分で話せばどうだ」
「概ね正解だよ。何故わかったんだい」
相手は小さな少年だ。ここまで的中された事に畏怖を感じながら問う。
「まず、俺だったら領主に渡して自分の評価をあげるし、お前の行動を考えた時明らかな不自然さがあった。今思えば奴隷商人が獣人を隠そうとしてたのも変だ。大方大金を渡して予約でもしてたんだろうが」
「はは、そうだよ、あの奴隷商人は大金に釣られて君に売っちゃったようだけどね」
アダムは笑ってから一度黙り、顔を真剣なものに変える。
「全部君のいう通り僕は盗賊団のメンバーが姉さんを裏切って領主の下につくというのをたまたま聞いたんだ。そして君の話の通りに姉さんを売ることになった。ここまでは計算外だといえ何とかなる範囲だったんだ。だけど、ここにはあいつが居たんだ」
「あいつ……か」
アダムが言っているのは先程ニーナが言っていた奴の事だろう。
「あいつがいたから領主は獣人を護衛に置くことにしたんだ。獣人は優秀だとね」
「じゃあ、早く逃げよ、今なら誰もいないじゃない」
エメリアはアダムの腕を掴みそのまま館から出ようと引っ張る。
「ダメだよ、姉さん」
アダムは掴んでいる腕を振り払う。
「さっき坊やは二人を助けてほしいのが僕の願いだと言ったけどそれは違う。……僕の願いは姉さんだけを助けてもらう事だ」
アダムは話しながら襟元を開きエメリアに見せる。
「なっ! それは」
そこに見えたのはエメリアにも見覚えがよくあるチョーカーのような革製の首輪だった。
「僕はこの館からは許可なく出ることが出来ない。だから僕を置いて早く逃げてくれ」
「ダメだよ。アダムも一緒じゃないとお姉ちゃんは逃げないよ」
「行くんだ! 早くしないと領主を退避させ終えたあいつが戻ってくる」
「これはどういう事だアダム」
ゾワリと玄関に現れた男により空気が重くなる。
その男はフードを被り声がくぐもっている。
「ちっ、戻ってきたか! 姉さん早く逃げるん」
「私はどういう事だと聞いているのだ」
アダムがほんの一瞬意識をエメリアに向けた瞬間男は目の前に来ていた。
ズブリ、静かな空間に肉を突き破る音が鳴る。
それはアダムの胸を男の腕が突き破った音だった。
「ぐ……はっ」
アダムは地面に膝を着く。
胸からは血が流れ落ち地面を真っ赤に染める。
「アダムーー!」
エメリアは急いでアダムの血を止めようと服を破って患部に当てるが、大量に流れる血液はそんなものでは止まらない。
「は、早く、逃げるんだねぇ……さん」
「待ってて、今この血を止めるから、死なせないから」
止まれ止まれ止まれ、エメリアが必死で対処をしているが血は止まらない。
「その女が侵入した者か」
男はアダムの方にしか気が向いていないエメリアにも腕を突き立てようとする。
「止めろ!」
リュートの声と同時に男にライム、フェリス、ニーナが男に迫っていた。
「致し方無し」
男はエメリアに攻撃するのをやめて後ろに下がる。
「一つ聞いていいか」
三人が男を抑えているうちにリュートは気になっていたことをアダムに聞きにいった。
「はは、こんな時に聞くかな。いい、よ。何かな」
「何で最初からエメリアに打ち明けなかったんだ。機会はいくらでもあったはずだ」
そうすれば二人で逃げる事も出来るはずだ。
「僕は盗賊団のメンバー全員に信頼されてるわけじゃないからね。ここに来てからもだけどあまり自由に動けなかったんだ」
「じゃあ、盗賊団のメンバーがいなくなった時に言えばお前の姉を逃がせただろ」
「はは、残念だけど君達を信用できなかったからね。下手な事は出来ないと気を張ってたらこのありさまさ」
情けないよ、アダムの表情はそう言っていた。
「つまり俺達を信用する何かがあったということだな。それを教えろ」
どうして信用したのか、それにリュートは興味をおぼえていた。
「君達は姉さんを利用したんだろ、にも関わらずあそこにいる二人は姉さんを助けた。そして君は強く賢い、なら一番姉さんが助かる確率が高いだろう」
「そうだな。それが妥当な判断だと思う」
ライムとフェリスを信じ、リュートの強さを信じる。なるほど相手の強さを信じるなんて考え方もあるのか。
「それでどうだい、死に行く者の最後の頼みを聞いてくれないかい。姉さんを頼むよ」
「アダム! 死に行くなんて縁起でも無いことを言わないで」
アダムは微笑みエメリアは涙を流す。
そんな状況を見ながら僅かだが頼みを聞くのもいいかもと思えてくる。
「悪いがお前の頼みは断る」
「は、はは、君はひどいな」
アダムの目は閉じていき、意識を無くしかかってるのが見てとれる。
「だが、俺は元々アイツと戦うつもりでいる。お前の頼みは断るが、願いは叶えてやるよ」
リュートは男の方に歩きながら首をならす。
「さて、この戦いはもう終わりにするぞ」
リュートは全身に魔力をまとわせいく。
「はは、願い……か。よかった、僕は運がよかったようだ」
アダムは笑い瞼を閉じた。
新作の作品、異世界に渡った俺の職業はヒモでした!も同時に投稿しました。一度読んでくださると嬉しいです。
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