8話:ライムの戦いとフェリスの戦い
8話始まりです。
「さぁ、始めますか」
二人の獣人と向き合うライムは魔力を体に纏って強化魔法をかけていく。
魔法、女子組の中で今の所、魔法を上手く扱えるのはライムだ。
体に纏う魔力には無駄が少なく、綺麗に強化魔法を発動できている。
(リュートさんの言う通り気づいていない)
ライムはファートス村でフェリスと共にリュートから教わった事を思い出す。
「いいか、お前ら二人に魔力というものを俺が分かる範囲で説明する」
リュートはライムとフェリスをベットの上に座らせて自身は立ちながら説明しはじめる。
「まず、魔力とは魔法を発動させるための動力源だ。それはライム、魔法を使えるお前なら理解出来るな」
リュートは魔法が使えず、フェリスは今は使えない。ニーナは呪いのせいでスキルを制限されても闇魔法なら使えるが、魔族しか使えない闇魔法を使うわけにもいかないので実質ライムだけだ。
「はい、何となくですけど」
「まぁ、それは俺には分からない事だから置いておくが、俺でも使える魔法があるのは知っているな。……フェリス」
「ウ、ウム、強化魔法とやらだよな」
「その通りだ」
フェリスがほっと息を吐く。
「強化魔法なら俺でも使えたし、もちろん二人にも出来る。そこで二人にはこの魔法を覚えてもらう」
そこでリュートは自分が初めて強化魔法を見た時と同じように手を突き出して魔力を纏わせていく。
「ちゃんと見るんだぞ」
リュートが魔力を手のひらに集中させると白く光り輝く。
「……これはきれいですね」
「ウム、幻想的だ」
リュートが放つ光は部屋中を明るくしている。
「これが魔力なのは分かるな。ここまでなら誰でも訓練すればできる。だが二人には一段階上のこれを出来るようになってもらう。……見てろよ」
「は、はい」
「ウ、ウム」
二人が先程と同じようにリュートの手のひらに視線を向けると、すっ、と魔力の光が消えた。
これから、何か変化があるのかと待ってみても、魔力は消えたままだ。
「えっと、リュートさん? 魔力消えてますけど」
「私もそう見えるが」
二人の答えを予測していたリュートは、少し微笑んで言う。
「だが俺は魔力を消していないぞ」
「えっ」
「誠ですか!」
「そうだ、生き物は魔力を感じるための目には見えない第六感のようなものが大体の者に備わっている。それを誤魔化すための魔力の気配を消す。俺はこれが上に行くために必要な要素の一つだと思う」
戦闘の度に魔力を察知されては相手に防御の体勢を早めにとられてしまう。
「これを一週間で覚えてもらうぞ」
その時のリュートは一切の容赦がなかった。
「…………はっ」
一瞬あの時のリュートを思い出して意識がトリップしていた。
本当にあの時は地獄だった。
だけど、そのお陰で今、ライムが強化魔法を使っている事に獣人は気づいていない。
身体能力は向こうがわずかに上だと思う。
(だけど、魔法は私のが上手です!)
ライムは獣人の一人に駆ける。
「なに!」
「想像より遥かに速いだと!」
二人の獣人もある程度の戦闘数をこなしている。
相手の力量を見極める眼力は、持っているつもりだ。
にも関わらずライムはその見極めを超えて迫ってくる。
慌てて獣人は防御の体勢をとる。
「遅いです」
とん、ライムは獣人の胸にそっと触れる。
「ぶっ飛んでください」
「ぐっっは!!」
獣人の胸をものすごい衝撃が襲う。
ライムはゼロ距離から水弾を撃ち込んだ。
獣人は意識を一気に刈られながらぶっ飛んでいく。
「先手必勝です!」
まずは一人、これで勝ちが見えた。
「キサマ! よくも仲間をやってくれたな!」
仲間を倒された獣人は激昂する。
「かかってきなさい」
「キサマーー!」
獣人は激昂したまま突進してくる。
ライムは迫り来る獣人に水弾を十発ぶつける。
「そんなもの、わかっていればくらわないわ!」
獣人は水弾を腕を薙いで弾く。
「やはり食らいませんか」
ライムのステータスは、リュートとの主従契約により、当初とは比べ物にならないほど上がっている。
だがしかし、スライムの弱点力と耐久のなさは、ステータスを見ると残っている。
「なら、これならどうです」
今度は水弾を一発にして威力を上げたものを放つ。
「ぐぉぅあ」
今度のは危ないと思ったのか獣人は全力の拳で水弾を弾いて消し去った。
「大振りをしましたね」
「っ!!」
獣人がしまったという表情を浮かべる。
先程のライムの動きを見ていたのにも関わらず、体勢を乱し、隙を見せてしまった。
「怒って周りを見失いましたね」
ライムは無防備な獣人の頭に手を当ててニッコリ笑う。
「おやすみなさい」
「くっっそーー! ……」
頭を撃ち抜かれた獣人は、一瞬で意識を失った。
気絶した二人の獣人をライムは見下ろす。
「二人だと厳しいと思いましたが、戦いかた次第ではまだまだ行けそうですね」
さて、こっちは終わった。フェリスさんの方はどうなっているんだろう。
振り向いたライムが見たのは無傷のフェリスだった。
「何だこいつは!」
「我らの攻撃が当たらん!」
戦闘が始まると同時にフェリスに獣人が二人同時に攻撃を仕掛けた。
拳は絶え間なくフェリスに襲いかかる。
だが、その拳がフェリスに届く事は一度もなかった。
「フム、その程度ではあたらんぞ」
拳の嵐をフェリスは悠々と避ける。
ただでさえ強力の種族であるフェリスは、リュートとの契約で潜在能力を引き出しずつある。
「では、そろそろ私も反撃させてもらうぞ」
フェリスは戦いを無駄に長引かせるような事はしない。相手の力量を見切った今、相手に失礼のないように全力で倒すのみだ。
殴りかかってきた一人の獣人の腕をとり、引っ張って、もう一人の獣人も攻撃範囲に割り込ませて、攻撃を阻む。
「ふんっ」
腕を掴まれて引っ張られた獣人は体勢を崩して、脇腹を無防備にさらしている。
そこを拳で殴る。
「ぐっばっ!!」
獣人は体をくの字を反転させたように曲げる。同時にあばら骨が折れる音も響く。
獣人は口から泡を吐きながら、地面に体を近づけていく。
「なっ!」
「そこで油断をしては命取りだぞ」
いつの間にかに泡を吹きながら倒れた仲間に僅かに隙を見せた獣人は、近づいているフェリスに気づいて全力で拳を振るうが、それを、フェリスに片手で受け止められてしまう。
「なに!」
自分の全力をあっさりと防がれた事に唖然とする獣人。
そこをフェリスは、拳で顎を思い切り打ち抜く。
「がっ」
脳を揺さぶられた獣人は、ふらふらとして地面に座るように倒れていく。
その目は白目をむいている。
「ふぅー、終わったか。……ん、あっちも終わったようだな」
戦いを終えたフェリスがライムの方を見ると、そこには唖然とするライムがいた。
「どうしたのだ? そんな顔をして」
「いえ、無傷ですか、と思いまして」
「そっちも、傷ついているようには見えないが?」
「それは、まぁ、そうですけど」
確かに結果を見ると、ライムも同じく無傷だ。しかし、相手の油断をついた自分とは違い、フェリスは実力で終始圧倒していた。
「このままじゃ、ダメですね」
ライムはある決心を固めた。
「あららー、あっさりと終わったよ」
ライムとフェリスの戦いを見ていたアダムは、冷や汗を流す。
「これ、僕やばいなー。……まさか、姉さんの仲間があそこまで強いとは」
「安心して、アダム。これは姉弟喧嘩、手はださせないよ」
「それは、良かったよ」
アダムは冷や汗を流しながら薄らと笑う。
「あとは、お前らだけか」
その時通路の奥から声が響いてきた。
闇の中、窓からささる月明かりがその姿を照らす。
「あっ、はは、本当に手を出さないでくれるんだよね」
現れたのは、体のいたるところに返り血を着けた、フードを被った小さな少年だった。
その少年は何もせず立っているだけだが、アダムの直感が目の前にいるのは化物だと言っている。
少年は状況を一度見てから頷く。
「あー、手を出すなということね。わかった。今は俺は手をださないよ」
「はは、そう、今は……ね」
自分の命がいつ死んでもおかしくない状況になったアダムはふと気づく。
「ねぇ、君、臭いは血だよね。そういえば、さっきからこの館にいた本来の守衛の声が聞こえてこないんだけど」
アダム達は最近雇われたばかりだ。
この館には獣人以外の守衛もちゃんといる。だが、その声は一度も聞こえない。
「地下探すのにいろんな所を探したからな」
つまり全て殺したという事だ。
わずかな声も出させずに一瞬で。
本当に頼むから手を出さないでくれよ。アダムは心から本気でそう願った。
「じゃあ、アダム何か中断しちゃってたけど、そろそろやるよ」
「はは、正直もうやる意味が分からないけどね」
二人は今度こそ姉弟喧嘩を始めるために近づいていく。
二人が近づいていくのをリュートの直ぐ後ろからニーナは見ていた。
ニーナは違和感を覚えていた。
多分、今あの女の人と戦う人がこの中で一番強い敵なのだろう。
だけど、自分を襲った者は目の前の男の人よりも遥かに強く見えた。
「……もしかして、まだ敵いる?」
ニーナの呟きは目の前のリュートにしか聞こえなかった。
本日から新作の異世界に渡った俺の職業はヒモでした! 始まります。
活動報告から飛んだほうが早く見れるとおもいます。
一度読んでくださると嬉しいです!
誤字脱字や感想等がありましたらどしどし送ってください!!




