7話:姉弟と喧嘩
スミマセン、昨日から体調が悪いので短めになっております。
突然現れた死んだはずの弟に叫んだあとエメリアは硬直した。
頭の中では色々な事を考えてるのにそれを表にだせない。
「アッ、アダム、な……なんだよね?」
言葉につまりながらもエメリアは本当に弟なのかを確認する。
「酷いな姉さん。僕の顔を忘れたのかい」
そんなわけない。アダムの事を忘れるなど絶対にありえない。
夢かと思った。幻覚かと思った。
でもこの声、喋り方、これは本物のアダムだ。
「よかった。よがっだよ~」
本物の弟だと分かった瞬間、エメリアは何故生きてるのかを問う前に瞳から涙を溢れさせる。
「うっ、ひくっ、ほんどうに、よがっだよー」
エメリアは涙腺を決壊でもしたのかのように止めどなく涙を流す。
そしてそれを止めたのは泣く要因となったアダムだった。
「姉さんは本当に――バカだよね」
「えっ、アダ……ム」
その声でエメリアの涙が止まる。
アダムが放つ声は聞いたことがないくらい底冷えしたものだった。
「不思議に思わないのかい、何故僕が生きてるのか」
そんなの初めに見た瞬間に思った事だ。
「その答えは簡単さ、あの時僕は死んだんじゃない。死んだふりをしたのさ」
「な、なんでそんなことを」
そんな事別にする必要はないはずだ。
「何故って、そんなの姉さんがいる盗賊団じゃあ駄目だからだよ」
「なっ、何で、裕福ではなかったけど楽しく過ごせてたのに」
エメリアの言葉にアダムはカッと目を見開く。
「それさ! 姉さんは甘いんだ。何故僕達は質素な暮らしをしていた。僕達には力があったんだぞ。だけど姉さんは必要以上に盗みはしないという決まりを定めた。盗賊団のメンバーが何度も文句を言っていたにもだ! みんな姉さんについて行けなくなったのさ。だから僕は思いついたんだよ。
姉さんを排除すると。…だけど姉さんは盗賊団の中で一番の実力者だ、純粋な実力じゃあ勝てない。そこで僕が姉さんを狼狽させるために死んだふりをしたのさ」
あれは傑作だったとアダムは肩を震わせる。
「なっ、なら、そんな事をしなくても私を追い出せばよかったのに」
アダムが自分をこんなにも嫌っているなら、辛いけど私は盗賊団を抜けたのに。
少なくともアダムが死んだと思った時の辛さよりは断然ましだ。
「それじゃあ駄目だったんだよ。それじゃあ、姉さんに絶望を与えられない」
「何で、そんな事言うのアダム」
エメリアは今日一番の痛みをアダムとの会話で味わっていく。
エメリアの心情を表すかのように場が静かになりもの寂しさが漂う。
「キサマ! エメリア殿がどんな思いでここまで来たかわかっているのか! エメリア殿もうつ向くな! 大事な者が生きていたのなら、目の前にいるものから目を逸らしてはだめだ!」
そんな空気を破ったのはこれまで黙って成り行きを見ていたフェリスだった。
エメリアの弟が何を考えてるなんてフェリスに知るよしもない。
だけど、それでもエメリアは弟と向き合わなくてはいけない。
大事な人なら尚更だ。
死んでしまったら話すことさえできないのだから。
フェリスの叫びには力強さが宿っている。
フェリスの叫び声で今さらながらにその存在に気付いたアダムは軽く驚く。
「おや、まさか君達は姉さんの友達かい」
アダムは黒装束に身を包んだフェリス等を見て笑みを浮かべる。
不思議な事にその笑みは優しく見えた。
「驚いたよ。あのいつも僕以外に友だちのひとりもいなかった姉さんに友達が出来ているとは」
アダムが驚くなかエメリアは俯いたまま小さく呟いた。
「……目の前にいる者から目を逸らすな」
フェリスの言葉はエメリアに届いていた。
そうだ、今は悲しみに逃げるんじゃなくてアダムが何を考え何をしたいのか、アダムをちゃんと見なきゃ。
「あっ、アダム!」
フェリスの叫びのおかげで少し冷静になれたフェリスは力をふりしぼってアダムに声をかける。
「領主と手を組んだのも、力を奮えてお金もいっぱい貰えるからなの」
「ああ、そうだよ。盗賊団の時とは比べ物にならないくらいもらっているし、力も奮い放題だ」
「そんなに力を奮いたいの、お金が大事なの。たとえそれで人が傷付く事になってもアダムは喜べるの!」
私は人を傷つけてまで得るお金なんていらないし、力を奮う事も喜べそうにない。先程殺した者の顔を思い浮かべるだけでも体が震えそうになるくらいだ。
「そうだよ姉さん。力も金も僕は欲しい。そのためならいくらでも弱者を蹴落とすよ」
「……分かった。それがアダムの考えなんだね」
自分はアダムをちゃんとわかっていなかったのだろうか、ならちゃんと姉として止めなければならない。
こんなに落ち着けるのは先程渇をいれてもらったおかげだ。
「アダム! 初めての姉弟喧嘩をしよう」
どんな事があっても絶対にアダムを連れて帰ってやる。
「……そして終わったら、二人の名前を聞いてやる」
自分を助けてくれた少女二人の顔を思い浮かべながらエメリアは微笑む。
「姉弟喧嘩? ハッ、駄目だよ。行けっ」
アダムが合図を出すと階段の上から四人の人影が落ちてくる。
「あんた達か」
落ちてきた四人は盗賊団の中で屈指の実力をもつ者達だ。
エメリア一人じゃあ苦戦するだろう。
「ちょっとは空気をよんでください」
ライムが四人の獣人全てに水鉄砲を飛ばす。
「くっ」
夜の闇にまぎれた水弾は三人の獣人に防がれるが一人の肩には当たった。
好都合な事に水弾を食らった獣人が体勢を崩した事で一人の獣人にぶつかり左右で二人ずつに別れた。
「1号! 片方は私に任せてください」
フェリスは正体がばれないようにライムに声をかけて、右側の二人の獣人に迫っていく。
「ああ、そういう決まりでしたね。2号、頼みますよ」
ライムもまた同じように左側の獣人に近づいていく。
「チッ、見事に分断されちゃったよ」
「これでゆっくり話せるよ」
二人きりになったエメリアはアダムに声をかける。
「アダムは私が嫌いなの」
「……ああ、嫌いさ。世界で一番嫌いさ」
「…そう、でも私は愛してるから、アダムを止めるよ」
エメリアはそっと腕を上げる。
「ハッ、今のボロボロの姉さんなら僕だって戦えるよ」
アダムも同じように腕を上げて戦闘の構えをとる。
「姉さんも力を奮うのが楽しいはずだよ。さっきまでいっぱい殺してたじゃないか」
「……っ!」
戦闘が始まるかいなかというときにアダムはエメリアに告げた。
「ハハ、やっぱり姉さんは甘い」
アダムの言葉に動揺を見せたエメリアに一気にアダムは近づいて腕を突きだす。
「ぐっ」
エメリアは腕を交差させて防御するが威力を消しきれない。
重い、いや違う、私が疲れてるだけだ。
エメリアの髪の色はいつの間にかに淡い黄色に戻っていた。
「ハハハ、時間切れのようだね。さっさと攻めかかって来ないからこうなるのさ。それに先程の動揺っぷり。姉さんを裏切った奴らを殺して罪悪感でも感じてるのかい」
「私は結局復讐をしてたのに気持ちを殺せなかった。だけどそれでよかったと今は思う。私は人を傷つけて何も感じない人にはなりたくないから」
エメリアは決意を叫び、ボロボロの体でふらつきながらもアダムに近づいていく。
「ハハ、姉さんはやっぱりバカだよ。人を殺す度に気落ちしてたらきりがないのにね。……いいよ、やろうよ。本気の姉弟喧嘩とやらを」
アダムはふらふらのエメリアに笑みを浮かべながら近づいていく。
優しく切ない姉弟喧嘩が始まりを迎える。
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