3話:奴隷商人と獣人
3話始まります
レイドタウンのギルド。
その中は5人の美人の受付嬢が座って並ぶ受付所に依頼書の紙が貼ってある依頼ボード、幾つも置いてあるテーブルではギルドでお酒を頼んで飲む者達がバカ笑いをあげてギルド中が騒がしくなる。コレが何時ものレイドタウンのギルドの風景だ。
しかし、いつも酔っぱらい共によりバカ笑いが響くこの場所は今日、一人の少年のによりここ何年もないのではないかというほどの静けさを漂よわせていた。
といっても少年は何かをしたわけではない。ただ椅子に座っているだけだ。
だがその体からは人を黙らせるだけの雰囲気が放たれていた。
(おい、銀仮面どうしたんだよ)
(知るかよ! 知りてーならお前が聞いてこいよ)
(そんなの無理に決まってるだろ! お前が行けよ!)
(ふざけんな! 見ろあの迫力を、殺されるぞ)
銀仮面の少年――リュートの事を冒険者等はアイコンタクトだけで意思を伝えあっていた。
そこで急に立ち上がったリュートに周りの冒険者達はビクッと反応する。
そのまま扉に近づいていきギルドから出ていくリュートに冒険者達は長い安堵の息をついた。
リュートがギルドから出るとライムとフェリスが駆けてくる所だった。
「どうだった」
目の前に来た二人にリュートが一言問うと二人は額から頬に伝う汗を拭いもせずに話始めた。
「スミマセン。街のいたる所を探して色んな人にも聞きましたが見つかりませんでした」
「スマヌ、私も匂いを辿ろうとしたが、この街は色々な匂いが漂いすぎてうまく辿れなかった」
「そうか。こっちもダメだった」
昨日ギルドから駆けだしたニーナの行方が分からなくなったリュート達は、ニーナを必死に探していた。
ライムに街の中を探してもらい、フェリスには獣の嗅覚でさがしてもらっていた。
リュートは戻ってくる可能性があるのでギルドにいたが、ニーナは現れなかった。
「そんな、ニーナさん」
「主殿、どうすればいい」
ライムはショックを受けてフェリスは焦りながら次の指示をリュートに仰ぐ。
「二人が探している内にアレゼルから話を聞いておいた」
リュートは勿論見つからない場合も想定してアレゼルにも何かしらの手がかりはないかと聞いておいた。
話によるとこの街には売り上げが悪くなって達行かなくなり無理矢理拐って性奴隷にする者達がいるとの事だ。
だがそれも僅かな者だけなのでアレゼルも油断したらしい。
こちらに何度も謝っていたがその可能性が頭にあったにも関わらずアレゼルの話を聞こうとしたリュートも油断していたので同罪だ。
せめてライムかフェリスの一人でもついていかせるべきだった。
今となっては後の祭りだが。
「話によるとニーナは奴隷商人に捕まった可能性がある」
「そんな……」
「くっ」
「そこで、今から奴隷商に行こうと思う」
リュートは二人を連れて奴隷市場に向かっていった。
「リュートさん、人を拐らって売るのは犯罪なんですよね。なのに何でこの街では平気なんですか?」
奴隷市場に向かう途中ライムは気になっていたことをリュートに聞いた。
「いや、この街でも許されるのは性目的の奴隷を売るところまでだ。拐って売るとそれは犯罪だ。ただこの街ではわざと見逃しているが」
「何故なんです」
「そういう所は違う種族なんかも売っているからお偉いさん達に人気なんだよ」
「「!?」」
ライムとフェリスが驚愕する。違う種族を無理矢理性奴隷にするなんてその種族に喧嘩を売るようなものだ。
場合によっては戦争に発展してもおかしくない。
「勿論表だって売る事はないぞ、裏奴隷商人だってリスクはわかっている。だけどお偉いさんがスポンサーにいるんだ隠蔽なんて簡単だよ。この情報だってこの街の中でも権力があるアレゼルから聞かなければ分からなかったんだぞ」
モンスター等を狩る冒険者ギルドの長はこの街で上位の権力を持つ。
「何ですかそれは! それじゃああの人は自分の同族が売られてるかもしれないのにそれを言わないんですか」
ライムが理解できないと怒る。
「落ち着け、アレゼルだって同族が売られてるかもしれないんだ。ただ気にはしてるけど下手すれば戦争になるんだ、むやみに発表すればいいというものでもないんだろ」
「……と、ここだ」
リュートは石造りの小屋に二人を案内した。
「こんな所にニーナさんはいるんですか」
「匂いもしないし、私もここには居ないと思うが」
「じゃあここにはいないんじゃないか」
リュートはあっさりとニーナは居ないと言う。
「なっ、ニーナさんがいるから来たんじゃないんですか!」
「この街には何人も奴隷商人がいるんだぞ、どれが裏奴隷商人なのか分からない。それにあくまでニーナが拐われたというのは可能性があるだけで確定したわけじゃない」
今出来るのは奴隷商人を地道に当たる事だけだ。
リュートは奴隷商人がいる所に歩を進めていく。
時間を遡ること少し、リュートがライム達と別れた後ギルド長のアレゼルと話終えた直後の事。
(どういう事だ…………)
その頃数百メートル後方の路地ではリュートを監視している魔族が困惑していた。
監視していたはずの少年の姿が消えたのだ。
(どこだ、どこにいった)
魔族の男は消えた少年を探すがやはり見当たらない。
トン、そんな時後ろからわざとたてたような足音が聞こえる。
(まさか! ありえない)
まさかと思い魔族の男は視線を後ろに切り替える。
視線の先にいたのは白い髪に金色の目、何より目立つ銀色の仮面をつけた少年。
それは間違いなく消えたはずの少年の姿だった。
「ばかな! 何故貴様がここにいる!」
魔族の男は監視役としては失格な程狼狽え声を荒げる。
男の監視の仕方は固有スキルである【複眼】というものだ。
このスキルを使えば相手を離れていても見る事がや声を聞くことが出来る。
魔族の男監視に絶対的な自信を持っていた。
だが確かに今後ろに監視していたはずの少年がいる。
(どうやってだ?)
叫んだ事で少し冷静さを取り戻した男は少年がどうやって自分の監視から抜けたのかに思考を回す。
「俺がどうやってお前の監視を抜けたか気になるか」
少年がこちらの考えを読んだようなタイミングで言ってくる。
「ああ、気になるね。教えてほしいくらいだ」
「そこまで言う必要はないだろ」
「なっ―――」
またも少年が一本道の路地に関わらず視界から消える。
そして顔の横を襲う衝撃。
「がっっっ……」
魔族の男は家屋の壁にぶつかる。
「まさか……」
魔族の男は少年がどうやって自分の監視を抜けたのか理解した。
男のスキルは離れた所でも認識できる。
自分がその場所にいるのと同じように認識するのだ。
「まさか私の認識できない速さで動いたのか!」
男は愕然と叫ぶ。
アレゼルとの話を終えたリュートは自分を監視している魔族の所に行くことにした。
勿論相手が何らかしらの方法でこちらを見ている事はわかっている。
(さて、どうやってばれずに近づくか)
男が常に近くにいるから効果範囲があるのだろう。さて、それはどのくらいか。
まあ、関係ないか。たった数百メートル逃げる暇も与えない。
そしてリュートはスキルも使って最速の早さで魔族の所に来ていた。
「まさか私の認識できない速さで動いたのか!」
男が叫ぶのをリュートは冷たい目で見ていた。
「ああ、お前のスキルはそういう効果か」
魔族を殴ったリュートはスキルの効果を把握した。
「お前に一つ聞く」
「なんだ?」
リュートは壁に寄りかかっている魔族に声をかける。
「昨日俺の仲間がギルドから駆けて出たのを知っているな」
「あ、ああ、あのエルフの事か」
「そうだ。監視の役目のお前なら行方を追っただろ」
リュートはニーナの事を聞くために魔族の所に来ていた。
「知らないな。私の役目はお前の監視だけだ」
「嘘をつくな」
リュートは殺気を迸らせる。
「なっ、なんだこれは……ビフロンの比ではないじゃないか」
リュートが強いのは分かっていたがここまでとは思っていなかった魔族は目の前の少年に恐れをいだく。
「もう一度聞くぞ。俺の仲間はどこに行っていた」
「まっ、まってくれ! 本当に知らないんだ。途中までは見てたんだ。だっ、だけど効果範囲を抜けて見えなかったんだ。ほっ本当だ」
「じゃあ追えた範囲でいい答えろ」
「ああ、それなら道に迷ったのか裏路地の方に向かうエルフと、その後ろを追っていたフードを深く被った、多分男がいたのを見た所までだ」
「そうか嘘ではないようだな」
これでニーナが拐われたのは間違いないようだな。
「それで、そのフードを被った男はどんな奴かは分からなかったのか」
「ああ、、いやまてあの男は私の視線に気づいていた。それに気配の遮断も上手かった。それに走っても体幹がぶれない上に服の上からも分かる鍛えられた肉体……もしや」
一人考えに耽り始める魔族。
「何か心当たりがあるのか」
「ああ、多分だが……獣人かもしれない」
魔族の男は今まで色んな者を監視してきた経験からそう推察した。
「獣人」
新たな情報にリュートの意識が魔族から僅かに逸れる。
魔族の男はその瞬間を狙ったかのようにリュートに闇魔法の黒い鉤爪で攻撃を仕掛ける。
「まあ、待て」
「うっ」
攻撃を仕掛けた魔族の喉元にリュートの剣が突きつけられていた。
後一センチでも進んでいれば喉を突かれて魔族の男は死んでいただろう。
「お前と取引したい」
「なっ!」
まさかの事に魔族の男は驚く。
「そんな戯れ言を信じると思うか」
リュートは魔族の男と話をしていく。
……「――――――これならどうする」
「……キサマは我々よりも残忍だな」
「今回は油断した俺も悪かったんだこれくらいやるさ」
「……分かった。その取引受けよう」
路地にて誰にも気づかれることなく人間と魔族の取引が成立していた。
「これはこれはお客様本日はどのような物をお求めで」
石造りの小屋の地下にそのお店はあった。
「こんな所に来るのなら理由は一つしかないだろ」
「左様でございますね。直ぐにご案内いたしましょう」
奴隷商人の男が商品の所に三人を案内していく。
「ねえ、おじさん! かわいい子いっぱいいるよね!」
「ええ、ございますとも本日は坊やが商品のお求めで」
「うん! おねぇちゃんがいっぱい買ってくれるって」
「それはそれは、いいお姉さんですね」
「うん!」
「りゅ、リュート、嬉しいのは分かるけど走らないの」
「そっ、そうだぞー、ある……リュート、姉さんのいうことはー聞かなきゃだめだぞー」
奴隷商人とリュートの会話に後ろにいるライムとフェリスが少し引きながらも決めていた姉弟設定通りに話をする。
勿論二人が引いているのはリュートが子供っぽく喋っているからだ。
それもやたらと演技が上手いので余計に違和感がすごい。
「ねえ、おじさん。ここには獣人っていないの?」
「獣人ですか……申し訳ないですが他種族は高級ですのでこちらではお取り扱いをしてな」
「なんだないのかー。お金いっぱい持ってきたのに」
小さく呟いたリュートの言葉に奴隷商人がピクリと反応する。
「諦めなさい。無いものはしょうがないわ」
「は~い」
「……ちなみにご予算は」
「えっ、大金貨10枚くらいもってきたよね」
「そっ! そうですか!」
お金の額を聞いた奴隷商人は明らかに狼狽する。
大金貨10枚は日本だと1000万の価値はある。
ワルドの館でとったものと魔族を倒した報酬でリュート達はかなりのお金をもっていた。
「いや~実に幸運ですよ。丁度先日獣人を仕入れたところなんですよ」
「わ~い、やったー」
ここは眼の色をかえた奴隷商人に合わせる。
「ではコレがご所望である獣人でございます」
奴隷商人に案内された場所にその獣人はいた。
タンポポのような黄色の髪につり上がった目、ちいさなふっくらとした唇、ボロボロの薄布からはみだしそうな乳房、そして三本のふさふさの尻尾にピンと長く伸びる狐耳、その獣人は狐のようだった。
「アンタ……だれよ」
「……決めた。君を買うよ」
リュートは最初からこの獣人を買うと決めていた。
その眼に写ったステータスを見て正しかったと確信する。
エメリア・ アンジェーネ(狐の獣人)
元姫・盗賊団頭領
Lv:60、HP25000,MP5000
力10000、耐久10500、敏捷11000、器用800
スキル:獣化/肉体強化、強靭、盗人
「どうやらお前の言っていたことは真実のようだな」
リュートは秘密の取引者に小さく呟いた。
何でこの獣人を買う必要があるのと思うと思いますがそれは次回でわかります。




