2話:手がかりと失踪
三章2話が始まります。
「じゃあ、そこに座ってもらえる」
レイドタウンのギルド長のアレゼルに人目につかない所で話すために来賓室に案内されていた。
「では失礼します」
リュート達アレゼルとは向かい合うようにしてソファーに座る。
「ええ、……それでバルタからは強くなるためにここに来たと聞いたけど、どうやら違うようね」
「いえ、最初はそのつもりでした。この街ならより高ランクの依頼が受けられますしね」
リュートは外用の喋り方をする。
「でもそう言うって事はやっぱり違う目的があるのね」
アレゼルの言葉にリュートは静かに頷く。
「はい、見れば分かると思いますが僕の仲間のニーナはエルフです」
「……よろしく」
「ええ、よろしくね。…それでそこのエルフちゃんが何か私に用があるの?」
「ええ、その通りです。僕達はこのニーナを故郷に帰すためにいろいろな所を冒険してるんです」
リュート達はニーナの呪いについての手がかりが何もない状態なので、手がかりがあるかもしれないニーナの故郷に行くしかないのだが、奴隷商人のワルドに売られたニーナは戻り方が分からないとの事だった。
もちろんニーナが魔族とのハーフかもしれなくて何かの呪いを掛けられてるとは言わない。
話したのはニーナは奴隷商人に拐われて故郷に戻りたくても戻れないという事、そんな時紹介された者がたまたまエルフで好都合とばかりに高ランクの依頼よりもニーナの事を優先した。という所までだ。
「そう、それは大変だったわね」
話を聞いたアレゼルは神妙な相槌を打つ。
「本当に……大変だったでしょうね」
「……?」
アレゼルは意味深な視線でニーナの顔を見る。……いや正確にはその赤い瞳をだ。
コイツまさか!
リュートが視線の意味を察したと同時にアレゼルは言葉を放った。
「ニーナさん、貴方もしかして魔族とのハーフ?」
「……!!」
その言葉にニーナは誰が見ても分かる驚きの表情を浮かべる。
「……そう、やっぱりそうなのね。こんなことが本当にあるなんて」
「何で分かったんです」
確かにニーナは魔族と同じ赤い目をしている。
だけどこれまでその事を指摘した者は一人もいなかった。
「マルディル……聞き覚えはあるわね」
「…………うそ」
ニーナはアレゼルが言った名前に聞き覚えがあるようで僅かに体を震わせている。
「大丈夫ですか、ニーナさん!」
「平気ですかニーナ殿!」
震えるニーナにライムとフェリスが心配の声をかける。
「ニーナ、知っているなら話せ」
リュートはおおよそ察しているが震えてるニーナに話させる事で少しでも落ち着くように自分で言わせる。
「……マルディルは、……村長の名前」
やはり、ニーナの故郷の者の名前だった。
「私はマルディルとはちょっとした知り合いでね、一人のエルフの女性が拐われて戻った時には身籠ったという話を前に聞いたのよ。それが貴方なんでしょう。目を見た瞬間に分かったわ」
もう隠し通すのは無理だ。問題はこの女がどうでるかだが……
「……そう、私はハーフエルフ……でも私は魔族じゃない!」
ニーナは震える体に力をいれ、アレゼルを睨みながら力強く叫ぶ。
「貴方自分の目を見たことあるの?」
「……!?」
お前は魔族でもあるぞとのアレゼルの言葉にニーナの体は再度震えだす。
さらにアレゼルが自分に向ける侮蔑の目が村の皆に向けられた目とそっくりに感じたニーナは震えたままソファーから立ち上がって駆け出してしまった。
「ニーナさん!」
「ニーナ殿!」
そのまま二人の声を背にしてニーナは来賓室から逃げ出した。
ライムとフェリスはそのままニーナを追いかけようとする。
「待ってくれないかしら」
直ぐにそれをニーナが駆け出した原因であるアレゼルに制止させる。
二人はアレゼルを睨んでからリュートにどうするかと視線で問う。
「いい、席に座れ」
二人はしぶしぶとだが言う通りにソファーに座った。
「悪いことしちゃったわね」
先程ニーナに侮蔑の目を向けていたアレゼルは何事もなかったようにように目から侮蔑の光を消した。
「わざとニーナが逃げるようにしましたね」
「ええ、私は魔族とかで区別するのは無意味だと思っているからね」
それはリュートも同感だ。
どんな種族でも醜い悪意を持つのは同じだ。
「何でわざわざそんな事を?」
「もしかしたらあの子が知りたくない事を話すためにかしらね」
「知りたくない事をですか」
「ええ、知らない方がいいと思うし、聞かせない方がいいと思う事よ」
アレゼルは一拍の間をあけてから話だした。
「私がマルディルに聞いたのは、世にも珍しいハーフエルフがいるという以外にもあるの。マルディル曰くあの子は世界に破滅をもたらす者に関係があるらしいの」
アレゼルの衝撃の発言にライムとフェリスが怒りの声を上げる。
「ニーナさんはそんな事をする人じゃありません!」
「キサマ。ニーナ殿を愚弄するか」
「あの子が優しい子なんて事は初対面の私でも分かるわ。でもマルディルは嘘をいう人でもないのも確かなの!」
「ライム、フェリス、少し黙れ」
リュートは二人を黙らせた。
「アレゼルさん。詳しく教えてくれませんか」
「ごめんなさい。私も聞いたけどマルディルは口を閉ざして話してくれなかったの」
どうやら嘘ではないようだ。
「そうですが。ならニーナの故郷を教えてはくれませんか」
「……分かったわ。その代わりあの子は連れていってほしくないの。マルディルは彼女を物凄く恐れているわ」
何でニーナを殺すでも追放でもなく奴隷商人に売ったのはもしかしたらニーナを故郷の道を分からなくさせるためだったのかもしれない。
「分かりました。僕が一人で行くことにします」
「分かったわ。一度マルディルに聞くから少し時間はかかると思うけど、それでいいかしら」
「それでかまいません」
今回で一気にニーナの呪いについての手がかりを見つけられた。
……それにしても世界に破滅をもたらす者か、それをかけてるのは恐らくその者だ。
だとしたらリュートが思っていた以上に、ニーナの呪いは大変なものなのかもしれない。
「ねえ、その代わりといってはなんだけど一つお願いしてもいいかしら」
「お願いですか?」
唐突なお願いにリュートは訝しげな視線を向ける。
「ええ。でも安心して、とっても簡単な事だから」
「まあ、聞くだけ聞いてみます」
「それでいいわよ。……リュート君のステータスの数値を見せてほしいの」
そのお願いは確かに簡単にできるが、リュートの全く想像してなかったお願いだった。
「ステータスの数値を……ですか」
「ええ、そうよ。本当はいけない事だけど君みたいな少年が強いと聞いたら気になるのも本音だしね」
「それは何となくわかりますが……」
「お願い! スキルは写らないステータスプレートを使うから」
「分かりましたよ。……ただし」
「わかっているわよ。誰にも話さないし、盗み聞きもさせないわ」
そう言ってアレゼルがウインクを送ってきた。
「やはりわかってましたか」
今目の前にいる女はファートス村のギルド長バルタは勿論の事、今のリュートでもスキルなしでは勝てない。
リュートを監視する者に気づいても当然だ。
「ああ、安心して、この部屋は魔法で覗いたりする者から守る魔法をかけているから」
そう言ってアレゼルはステータスプレートをリュートに手渡した。
プレートを受け取りながらリュートは最後に見たステータスの数値を思い浮かべる。
リュート
Lv:1 HP:60000,MP:50000
力35000、耐久45000、敏捷40000、器用6000
スキル:神眼、適応進化、学習、孤独、主従契約/頑強、豪腕、強靭、一本突き、水魔法、剣術、斬撃波、瞬転、炎魔法、空脚、肉体強化、威圧
プレートにはスキルは写らないが改めて考えると随分と増えたものだ。
「あははは、これはすごいわ。たった十歳でこの数値なんて。私の10分の1も生きていないのに自信をなくすわ」
リュートのステータスの数値を見たアレゼルは、笑いながら聞き捨てならない事を言った。
「エルフといえば定番だが、これで百歳越えは凄いな」
肌はすべすべで潤いがあり若々しい程の弾力を持つのが見ているだけでわかる。
これで百歳越え、本当にすごい。
「あっ、しまった。……いい、今のは忘れなさい!」
自分で暴露したのにアレゼルはすごい剣幕で怒りだした。
「言いませんよ。話が終わったようですしもう行ってもいいですか」
怒っていたアレゼルはピタッと動きを止めてから頷いた。
「ええ、行きなさい。あの子落ち込んでるとおもうから」
私のせいなんだけどねとアレゼルは苦笑した。
この広い街じゃあ迷ってしまう。急いでニーナを探しに行かないといけない。
リュート達はギルドを出てニーナを探し始めた。
その頃ギルドから逃げ出したニーナは見事に迷っていた。
知らず知らずの内に人通りのない、薄暗い路地裏に来てしまっていた。
「……はやく、かえらないと」
ニーナは逃げ出してしまった事を後悔していた。確かに自分でも気づいていないほど故郷の者達の視線をトラウマにしていたが、きっと今頃心配させている仲間を思うとどんどん後悔が溢れて止まらない。
「……かえろう」
仲間を思い浮かべて、絶対に帰るぞと意気込むニーナが来た道らしきものを辿ってギルドに戻ろうと決めて後ろを振り返るとフードを深く被った何者かが立っていた。
「……だれ」
相手に問うニーナにフードを深く被った何者かは低く、くぐもった声を発した。
「キサマを主が所望だ」
聞き取り難かったが何とか自分を拐いに来たと分かったニーナは戦闘体勢をとる。
「遅い!」
戦闘体勢をとったもうその時には目の前に
男が踏み込んでいた。
「……っ!」
あまりの速度で踏み込んで来た男にニーナは咄嗟に腰に差す二本のナイフを過去最速の早さで抜いて男に切りかかった。
男はニーナの斬撃を至近距離にもかかわらずあっさりと横に避けた。
「……くっ」
駄目だ一度離れたらもう勝てない。
そう判断したニーナは腰を回転させて無理矢理ナイフの軌道を変える。
「ほう」
男は感心したような声を上げるがナイフを簡単に避けてしまう。
ニーナは確実に当たると思っていた攻撃をあっさりと避けられて呻く。
駄目だ。余りにも身体能力が違いすぎる。
「……うっ」
腹部に強烈な衝撃を受けた。
お腹を殴られたのだ。
的確にこちらの急所を打つ拳に急速に意識が遠のいていく。
体を傾かせていくニーナは咄嗟に男にてを伸ばす。
「……!?」
そこで男のフードに手をかけて少しずらしてしまったニーナは驚愕の表情を僅かに浮かべる。
「ちっ」
慌てて男がフードに手を当ててずれを直すがニーナは確かにフードの間から覗く獣のような耳を見た。
男の正体に思い当たった瞬間にニーナの意識が落ちてしまった。
その日ニーナは失踪した。
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