1話:新たな街とギルド長
三章の始まりです。
レイドタウン。人間国の中でも商業が盛んの町だ。街の至るところに商店が道を連なり。他の店には客をやらねえ、とばかりに必死でお客を呼び止める声が至るところから聞こえ、大音量となり町に響く。
「……うるさい」
「まあ、そのうち慣れるさ」
「主殿の言うとおりだ」
「でも私もスゴいうるさいと思いますよ」
そのレイドタウンにたどり着いたばかりの四人の人間が話し合っている。
その四人は傍目から物凄く目立っていた。
金髪に人形のような無表情ながらも可愛さと綺麗さが見事に合わさった顔に胸は控えめだがスレンダーな体に耳が長いエルフの少女。
銀色の髪につり上がった目、その瞳の色は金色。男の目を引く服を押し上げる胸。どこか獣のような雰囲気を漂わせる美人の少女。
青色の髪にパチッとした大きな目、ほどよく育った胸に金色の瞳の可愛い少女。
前の三人とは違い奇怪な姿に注目を集める銀の仮面に白い髪をしている金目の少年。
「なんか見られてませんか?」
青髪の少女――ライムが見られていることに僅かな不快感を覗かせながら言う。
「害はない。気にするな」
「でも主殿何故我らは見られてるのですか」
「……私もわからない」
「フェリスはともかくニーナもわからないのか」
狼のモンスターから人間になったばかりのフェリスはともかくニーナが分からないとは思わなかった。
「いや、エルフは美形っていうしそういうのを気にしないのか」
自覚しないと大変かもしれない。
「いいかフェリス、人は可愛い女や美人の女を見るもんなんだ」
「ええ、私は可愛いか美人なんですか!」
「ああ、フェリスは美人だと思う」
「こ、光栄でございます!」
リュートに美人と言われたフェリスは涙を流していた。
「納得できません!」
「またか、いい加減何が納得できないか教えてくれ」
ライムはレイドタウンに馬車でくる三日間も何度か急に機嫌が悪くなった。
「わかりませんか! リュートさん、私の顔は人間達から見ると可愛いですよね」
「えっ、まあ、そうだろうな」
怒ってる理由を聞いたのに何故顔の事を聞くんだ? とリュートは不思議そうにする。
「ありがとうございます。……ですが、ならなんで私の胸は小さいんですかああ!」
「は」
リュートは本当に意味がわからなくなった。
「だからー、何故フェリスさんはあんなたゆんたゆんなのに私は小さいのですか! 私森にいたとき何度か来た冒険者の話を聞いて知っているんですよ。男の人は胸が大きい人がすきだと!」
ライムは自分の胸に手を当てながら言う。
「いや、別に小さくはないだろ」
実際ライムの胸は大きいとは言えないがそれでもちゃんとある方だ。
「ですが! あまりにフェリスさんと違うではないですか!」
「やめないかライム殿! 先程から聞いていれば下らない事で主殿に文句をいうでない!」
「フェリスさん頬が赤いですよ。……大方リュートさんが自分の胸に興味があるかもと思っているんでしょーが」
図星だったのかフェリスの背筋がはねる。
「にゃっ、そっ、そんにゃことはにゃい」
「そうだぞ、俺は胸にこだわりなんてない。そもそも胸の差はスキルで勝手に決まった事だ俺が決めたわけじゃない」
じゃなければどっちも大きいだろと言う、リュートの答えにライムとフェリスはそれぞれ違う驚き方をする。
「ええ! じゃあ私の胸は大きく出来ないんですかああ!」
「なっ! 主殿は私の胸は嫌いなのか!」
「はぁー、ちょっと面倒くさいな……ニーナこういうとき――」
どうすればいいんだと聞こうとしたリュートがニーナの方を向くと、女組の中で一番小さな自分の胸をさわっているニーナがいた。
「…………なに」
「あー……何でもない」
胸を押さえどことなく不機嫌の雰囲気をだすニーナに言葉を濁してしまう。
「ねえ、私の胸大きく出来ないんですか!」
「主殿! 見ろこの胸を大きいのだろう?」
「………なに」
迫ってくる少女達にリュートは何も言えなかった。
リュートはこの時、男はこういう時何も言えなくなると知ったのだった。
「わぁ、見てくださいこのプリリ海老!
プリップリですよ!」
「ウム、このオークの味噌煮も中々の味だ」
「……このゼラ鳥の手羽先もゼラ鳥の身がもつ舌の上でとろける肉に鳥とは思えない程の濃厚の味それでいてくどくはなく飽きずにいくらでも食べれそうな所にさらにわずかにピリッとするスパイスをいれる事で食欲がそそられ旨味がさらに深くなっている……全てがマッチしておいしい」
「そうか、美味しいなら良かったよ」
ニーナが饒舌だし余程美味しいのだろう。
あれから三人に迫られたリュートは無視を決め込んで適当に近くにあった料理屋に逃げ込んだ。
どうやら三人も美味しい料理で先程の事は忘れたようだ。
リュートはそのまま自然に食事をしている三人に視線を向けるようにして、こちらを監視してる者に気付かれないように気配を探る。
(気配を感じるのは……隣の店か)
リュートは魔族をファートス村にて倒した直ぐ後にこちらを監視する一人の者に気づいていた。
(何か企んでるのか?)
リュートは自分を監視している者が魔族だと考えてる。
リュートが魔族を倒してから監視につくのが早すぎだし、実力もリュートが倒したビフロンよりも僅かに強いのだから人間よりも魔族のが可能性が高いはずだ。
だけどリュートは疑問を感じていた。
こちらに直ぐ監視をつけるような対応が早い者がつける監視の数が四人に対して一人と少ないし、また実力が低すぎるのだ。
こちらの力を見誤ったのか、戦う気はないのか、それとも今はこちらを気にしている場合じゃないか。
リュートは今この世界には勇者という存在が来ているのでその可能性がもっともあり得そうだと思っている。
(勇者の存在はもう世界に広まったし、何かを勇者にするのかもしれないな……まあ、俺には関係ないけどな)
リュートはそう言うが一人のクラスメイトの顔を頭に思い浮かべる。
同じクラスで普通にリュートに話しかけてきていた中学生からの知り合い。
ファートス村で心配という感情をリュートは強く持つようになった。
自分は今心配をしていると自覚している。
(やっぱ関係ないか)
リュートは心配しているのを自覚しながらも勇者に本当に何かが起ころうとしても干渉しない事に決めた。
リュートが一人考え事をしていると目の前にフォークに突き刺さった肉がリュートに向けられていた。
「ほら、主殿も食べたらどうだ。美味しーぞ」
「ああ、もらうよ」
フェリスがつきだすフォークにリュートは口をつけた。
「……これは、中々美味いな」
オークの肉の臭みを味噌が消して、それだけでなく味に深みを与えている。リュート好みの濃い味で美味しい。
「だろ! 主殿も喜んでくれて私も嬉しいぞ」
リュートが喜んでくれたのが本当に嬉しかったのかフェリスは満面の笑みを浮かべる。
(そうだ、俺はコイツらの方が大事なんだ)
リュートは己中の守る奴には優先順位をつけて、それを忠実に守る。
「リュートさん! 私のプリリ海老も食べてください! 本当にぷりぷりで美味しいですから!」
「……ゼラ鳥たべていいよ」
ライムとニーナも自分が食べているものをつきだしてくる。
「ああ、いただくよ」
リュートは笑みを浮かべて料理に口をつけていった。
「随分違うな」
食事を終えたリュート達が次に向かった所はこの街の冒険者ギルドだ。
ファートス村の木造のギルドと違いこちらは石造りでできている。
また大きさもファートス村が普通の家だとしたらこちらは少し小さめのスーパー位はありそうだ。
外観を見たリュート達はそのまま扉を開いて中に入る。
中に入った瞬間視線を感じリュートは目を細める。
(どうやらこんな所も違うようだな)
ファートス村でも視線を感じる事はあったがそれは子供のリュート達が入ってきたからだ。
「なんです? この不快な視線は」
「全くだ」
「……ん、この視線、…へん」
今リュート達に向けられている視線は邪なものばかりだった。
考えてみれば当たり前だ。ニーナ達は全員が、道ですれ違えば何度も振り返る程の美貌を持つのだ。
ファートス村でも見られてはいたがここまでの不快感を与えるものではなかった。
(これは、間違いなく絡んでくる者が現れるな)
リュートがそんな事を考えた時だった下卑た笑いをあげながらハゲ頭にそれぞれ赤と青の服を着る瓜二つ顔の二人の大男が近づいてきた。
「どうしたんだ僕~こんな所に入ってきて~」
赤色の服を着る大男がバカにするような言い方をする。
「人に会いに来たんだよ」
「おいおい、この兄貴、この坊主俺たちに生意気な口きくぜ」
この難癖、案の定絡らまれた。
そして赤色の男が兄青色が弟と分かった。
「それは、スミマセンでした。人と会いに来たのでそこを通してください」
目の前に二人の男がいるものだから通れない。
「ギャハハハ、そうだよやればできるじゃねーか」
「よし、兄貴通してやろうぜ……だけど通るには通行料が必要だよな」
「ギャハハハ、さすが弟。そうだな通行料は必要だ。何がいいかな~」
「兄貴兄貴、俺女がいいな~」
「女か~、おっ、ちょうどこのガキの連れに女がいるぞ」
俺はいつまでこの茶番劇を見ればいいのだろうか。
「というわけだ。女を寄越しな」
「そうだぜ、お前見たいな小僧に女はまだはえーよ」
いや、どういうわけだよ。
「ちょっと何なんですか貴方達は! 自分達で道を塞いでおいて何が通行料ですか!」
「その通りだ! 主殿がキサマら程度に優しく接してくださるのをいいことに好き勝手」
「……リュートといる」
リュートが少し呆れているとニーナ達は大男の兄弟に怒っていた。
「へっ、嬢ちゃん達は俺達と来るべきだぜ。いい女は強い男といた方がいいぜそんなガキなんかよりも……えっ、リュート?」
ニーナがリュートの名を呼んだ瞬間にギルド中が騒然とする。
「ぎぎ、銀仮面にリュートという名前って……もしかしてあの〈表情無しの銀仮面〉なのか」
「兄貴それって魔族を一人で倒したというあの銀仮面の事か」
リュートの正体に思い当たり兄弟は顔から汗を流しながら顔を青ざめさせる。
「「すっスミマセンでしたーー」」
兄弟は二人揃って土下座の体勢をとった。
「なっ、この人達どうしたんですか?」
「さすが主殿だ! その名を聞かせるだけで相手をひれ伏すとは」
「……すごい」
急に態度をかえた兄弟に三人は驚くがそれも無理のないことだ。
リュートが倒した魔族はCランクレベルのオークジェネラルを従えていたことからBランク以上はあると考えられていた。
その事が冒険者伝いに広がっていき、その魔族を倒したリュートはAランクくらいの実力はあるのではないかと冒険者等に噂が広まっていた。
Cランクの兄弟ではとても勝てる相手ではない。
「わるかった。どうか許してくれ!」
「ごごご、ごめん、あの銀仮面だって知らなかったんだ。許してくれよ~」
兄弟は必死に許しを乞うてくる。
「はい、許してあげますよ……ただ」
その瞬間ギルド中の空気が重くなる。
リュートがギルドにいる者全てを威圧したのだ。
「次彼女等に手を出そうとすると……分かりますよね」
リュートは口元に笑みを浮かべるがギルドのもの達は威圧により顔を青ざめさせている。
「あらあら、今ここには貴方の威圧に耐えられる人がいないから抑えてくれないかしら」
不意にリュートに声がかけられる。
「……貴方が」
「ええ、そうよ。私がバルタに紹介された者よ」
威圧を解いて声の方を向くと長い緑髪に透き通るような翡翠色の瞳を持つ二十代くらいの美人の女がいた。
「ギッ、ギルド長!」
土下座をしていた兄弟の兄の方が女を見て驚きの声をあげた。
「そこの男が言っちゃったけど、ギルド長のアレゼルよ。会いたかったわリュート君」
「ええ、こちらこそ貴方に会いたかったです」
リュート達がこの街に来たのは当初からの目的であるニーナの呪いについて調べるためだ。
そして目の前にいるアレゼルの髪からは先端の尖った耳が覗いていた。
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