5話:勇者と配下
前回、次は三章だと言ったな……あれは嘘だ!
これは、二人の少女が強くなろうとする話である。
とあるダンジョンの四階にて一人の少女と三人の男が剣を打ち合っている。
「鈴ちゃん! 大丈夫!」
「クッ、だ、大丈夫」
そうはいっても相手は三人なのだ。
楽じゃないのは見れば分かる。
それから数合打ち合ったが、そこは剣術道場の娘の鈴だ、三人相手でも確実に剣を相手の体に当てる。
だが、体を斬られたはずの男は何事もなかったかのように再度鈴に斬りかかってくる。
「本当に痛覚がないのはやっかい」
鈴が相手をしていたのは男達であった者だった。
アンデッド。理由は分からないがダンジョンで死んだ者が長年の間死体を放置するとモンスターとなって蘇る。
今鈴と戦っているアンデッド達は冒険者のなれの果てだ。
もちろん死んでいるので痛覚がないので先程から鈴が斬りかかっても関係なしに突っ込んできていた。
「どうしよう優奈ちゃん! 剣の鈴ちゃんじゃあ、あのモンスターとの相性が悪いよ」
「でっ、でも私達には戦う手段がないよ!」
優奈達がダンジョンに初めて潜ったのは昨日だ。強くなるためだからって安易に来るべきではなかった。
「優奈、桃花、私が隙を見て離脱するから逃げるよ」
鈴は話す間も迫りくるアンデッド三体にスキルを使う事にした。
アンデッド達と打ち合っていた鈴の剣が速さをましてアンデッド達の腕を切り取る。
地面に腕が落ちてもアンデッド達は素手で迫ってくる。
「だけど素手なら簡単に逃げられる」
鈴は剣を鞘に戻してアンデッド達から素早く逃げる。
「はぁ、はぁ、逃げ切れた?」
「うん、大丈夫みたい」
「はぁ、はぁ、よっ、よかったですー」
優奈達は全力で逃げて、運よくモンスターに会う事なくダンジョンから出ることができた。
優奈達だけの初ダンジョンはモンスターからの逃亡という散々な結果だった。
「東雲さんに負担をかけないために、強くなりたい……ですか?」
「はい、そうなんです……スミマセン王女様に変なこと相談しちゃって」
「いえ、勇者様の相談ならいくらでも聞きます。それに声をかけたのは私の方です」
ダンジョンから帰った優奈が一人王城を歩いてると、たまたま通った王女様が話しかけてきて、先程のダンジョンでの経緯を話した所だった。
「私も戦いは余り得意ではないので何とも言えないですが……魔法とかどうですか」
王女様の提案に優奈は首を横に振る。
「駄目ですよ。私の精霊は治癒の魔法しかありませんしスキルもないですから」
「なら、もう一度契約すればいいじゃないですか」
「えっ、でも私は一度契約をしたじゃないですか」
精霊契約は一度しかできないはずだ。
「アラ、一度しか出来ないのは失敗した場合だけですよ。精霊は相性があう精霊がいる限りその人の器が埋まるまでは何度でも挑戦できますよ」
「あっ、そうか」
失敗したら二度と出来ないのはわかっていたが、てっきり成功しても一度だけだと勘違いしていた。
「ですが、違うときに契約すると精霊同士が干渉しあってうまく魔法が発動出来なくなるのでやりすぎは駄目ですよ。それでどうです?」
「はいっ、おねがいします」
絶対に契約を成功する。優奈はそう決意した。
王城の中、一人誰もいない訓練室で剣を振り続ける鈴がいた。
(今の私じゃあ優奈と桃花を守れない。もっと強くならないと)
鈴はダンジョンでの不甲斐ない自分を思い出す。
もしもアンデッドがあと一体でもいたら優奈達を守れなかったかもしれない。
そんな考えを振り払うためにただひたすらに剣を振り続ける。
(私が強化魔法をちゃんと使えたら)
ダンジョンで鈴はただの剣のみでアンデッドと戦っていた。
アンデッドに限らず無属性の魔法は効果が高いとはいえないが大体のモンスターにダメージを与える事ができる。
(もっとうまく使わないと)
鈴が纏う強化魔法は魔力が安定せず直ぐに霧散してしまう。
鈴は魔力を扱うのが下手だった。
放出はできるので精霊契約はできたが、その精霊も魔力を扱えないと宝の持ち腐れだ。
(このままじゃ駄目だもっともっともっと)
鈴はスキル瞑想を使い集中力を高めながらさらに剣を一心不乱に振る。
(もっと強くならなきゃ、龍聖に合わせる顔がない!)
鈴と龍聖は中学生からの知り合いだ。
優奈を通して知り合ったのだが龍聖は人に関心を余り持たないので、人付き合いが余り好きではない鈴は好感を持てていた。
優奈とは違い鈴は暴力を振るわれてる龍聖を助けようと何度もしたが、龍聖にその度に止められていた。
鈴は龍聖の制止を突っぱねていたがある男が優奈を狙っていると言われて優奈の方に付いていなくてはならなくなった。
その時鈴は龍聖に何かあった場合は自分も手をだすと約束した。
鈴はいつでもクラスメイト達を殺す覚悟はしている。
(でもそれは、優奈達に何かあったら、今は優奈達を守らないといけない。だから強くなる)
鈴はそれから2日間ひたすらに剣を振り続けていた。
(……お願い私に力をかして)
王女様と精霊と契約しやすくするための正殿に優奈は来ていた。
相変わらず魔力の放出により体が重く苦しい。
(だけど前よりは耐えられる!)
『よう、俺っちを呼んだのは嬢ちゃんかい』
声が聞こえると同時に目の前に光の玉が現れる。精霊だ。
(よかった……来てくれた)
『ハハ、嬢ちゃんの魔力は優しいからなつい来ちまった』
(お願いがあるの)
『ハハ、攻撃用の魔法が使いたいんだろ』
(うん、使いたい!)
優奈は手を握って必死に伝える。
『決まりのようなものだから聞くぞ、なんで魔法が欲しい。治癒の魔法が使えるだろ』
(私が治癒の魔法だけじゃ足りないから)
『はっ、足りねぇか。……ハハ、それでいい人を守るには強欲な程力を求めろ! 契約成立だ!』
(ありがとう。私はこの力を大事に使うから)
『そうだな、下らねぇ事に使うとこっちも萎えるからそこは頼むぜ』
(うん!)
契約を終えた優奈は魔法陣からでる。
「三枝様、おめでとうございます」
「はい、王女様が勧めてくれたお陰です」
「いえ、私がしたことなんて些細な事だけです。これは三枝様の想いが精霊にも伝わったおかげです。お仲間を守るのを頑張ってくださいませ」
「はいっ、ありがとうございます」
これで少しは友達を守れる。
優奈は涙を流しながら笑顔を咲かせる。
優奈が精霊契約をしてから三日後。
優奈達は再びダンジョンに潜っていた。
「すっ、すごい」
「前とは全然違います」
優奈と桃花の目の前では鈴がこの間の再現かとばかりに三体のアンデッドに襲われている。
だけど三日前とは明らかに違う。
鈴の速さが上がってアンデッドの剣が鈴の剣に当たることさえない。
剣を幾度か避けた鈴はアンデッドを素早く斬りつける。
その斬撃には白い光が纏われていた。
魔核を切り裂かれたアンデッド達は切り口に魔力によって焦げあとをつけられて活動を終えた。
「すごいよ鈴ちゃん!」
「本当です! たった三日ですごいですよ」
優奈と桃花は鈴に駆け寄る。
「ううん、こんなんじゃあまだまだ駄目」
鈴はこの三日で強化魔法を格段にうまく使えるようになったが、さすがに完璧とはいえなかった。
普通の者が全身に纏う量の魔力で数秒間の間しか強化魔法をつかえないので、動く一瞬や斬りつける一瞬にしかうまく使えないのだ。
「……そんな事より次は優奈の番」
「えっ」
道の先から数十体のアンデッドがぞろぞろと近づいてくる。
「なんですかあれは! 優奈ちゃん大丈夫なんですか!」
「優奈なら大丈夫でしょ」
鈴は微笑みながら優奈にアンデッドを任せるために桃花を連れて少し下がる。
「……うん、大丈夫」
優奈は力強く答える。
迫りくるアンデッドを優奈は静かに見つめる。
(落ち着け、大丈夫だ)
アンデッドは元は人間だ。少し躊躇う気持ちはある。
(……だけど私はもう逃げない!)
優奈の魔力が高まっていく。
(安らかに眠ってください)
優奈の魔法が発動する。
それは真っ赤な炎だった。
炎は蛇のようにくねりながら動きアンデッドの全てを包んでいく。
炎が消えるとモンスターは全て消え去り地面まで焦げている。
「ほあ~、優奈ちゃんもすごい」
「おめでとう優奈」
初めての魔法で息を乱していた優奈は二人の方を向いて笑顔を見せる。
「うんありがと――」
優奈がありがとうと言おうとした時後ろから何かが落ちた音がした。
優奈と違い何が落ちたか見えている桃花と鈴の顔が青ざめている。
「なっ、何を見て」
後ろを向いた優奈が見た光景は、天井から岩が落ちているところだった。
「帰ろっか」
「「うん」」
優奈達は締まらないままダンジョンをぬけだした。
場所は変わってファートス村、そこでは二人の少女がとある事を頑張っていた。
「あっ、主殿私はいつまでこうしていればいいんですか」
「リュートさんんん、溶けちゃいますよー」
「駄目だ! 我慢しろ――お風呂は肩まで浸かるんだ」
「うう~本当に溶けるー」
リュートはお風呂に入らず汗の臭いがしていたフェリスとライムを泊まっている宿のお風呂に入れていた。
「ほら、あと五分で出ていいから」
フェリスとライムはお風呂を知らないので最初は少し躊躇いながらも普通に入ったけど直ぐに出ようとするので、リュートがずっと見ていなければならない。
「主殿は私に恨みでもあるのか、なら謝るのでどうかこの熱い地獄から出してください」
「そうですよ~こんな溶けちゃいそうな所に入れるなんて酷いです」
「だけど人間は大体入っているんだぞ」
人間になった二人には大多数がやっている事を教えたい。
「こんな熱い所に入るなんて、そんなの嘘ですよー。ならリュートさんも入ってみて下さいよ」
「そうだぞ主殿、虚言を言った我らをからかわないでください」
「嘘じゃないんだけどな。ならライムの言うとおり入れば信じるか?」
そう言ってリュートは服に手を当てる。
「「えっ」」
二人が驚きの声をあげた時にはリュートは服を脱ぎ終えていた。
「ほら、今から入るからな」
リュートの肉体はとても10才とは思えない程に筋肉が発達していて、小さな傷が至るところについている。
「リュートさん! きけんですよ!」
「主殿危ないぞ!」
「だから平気だって……ふぅーやっぱ気持ちいいけどな」
リュートが湯船に入ると二人は立ち上がり心配の声を上げるがほっこりしているリュートを見て呆然とする。
「リュートさんが言った事は本当だったんですか」
「主殿を疑ってしまうなんて配下失格だ」
「ああ、そういうの良いからちゃんと湯船に浸かれ」
リュートに言われて、ちょうどリュートを挟むようにして湯船に浸かり直すフェリスとライム。
「リュートさんはお風呂でも仮面を外さないんですね」
仮面をつけたままのリュートにライムが言った。
「ああ、まあな」
「?」
何故か不適に笑うリュートにライムは不思議そうにする。
「もう一ついいですか」
「ん? なんだ」
「さっきから体全部見えてますけどいいんですか」
チラチラとリュートの下半身をライムは気にする。
「なんだ。隠した方がよかったか?」
「ええ、まぁ、特にフェリスさんがヤバイので」
リュートがフェリスの方を向くと、何やら鼻息を荒くするフェリスがいた。
「ハァハァ、……っななななな、何を言っている。私は主殿の股間なんて見てはいないぞ!」
フェリスは息を荒げながら顔を真っ赤にしているので説得力が全くない。
モンスターである彼女等でも男の体には興味はある。
「そうか、もう慣れて来ただろ。俺はもう上がるよ」
リュートは湯船を上がって、そのまま浴室を出ていく。
浴室がフェリスとライム二人になったとき、フェリスがライムを睨む。
「ライム殿! 先程はよくも私を売ったな」
「しょうがないじゃないですか! あのまま直視してたら鼻血がでそうだったんですよ!」
「そんなの私も一緒だ! わたしなんてさらに鼻息荒くしたのを見られてしまったのだぞ」
「それは、悪かったですけど……でもリュートさんも悪いと思いませんか」
「むぅ、主殿を悪くは言いたくないが、確かに本能に忠実になりやすい私達に裸は少し無防備ではあったな」
「そうですよ! 私抱きつきそうになったんですから」
「私も襲いそうになるのを必死に堪えたぞ」
「私もです! リュートさんは無防備すぎるんです」
二人は湯船の熱さも忘れて語りあう。
少し絆が深まった配下の二人であった。
これはお風呂で男を襲うのを頑張って堪えた二人の話でもある。
はい、三章始まりませんでした。
本当にごめんなさい。
次回からは本当に三章なのでよろしくです。
誤字脱字や感想等があったらどしどし送ってください!!




