4話:勇者と忍び寄る影
間章4話目です!
「勇者様方少し話があるのだがいいかな」
第二王女のサラが姉のアリーヤの部屋に向かっている時に、貴賓室では国王様が勇者に話を始める所だった。
「何の話をするんだろ?」
優奈は褒め称えてくる貴族等から離れるために部屋のすみのテーブルにこっそりと鈴と桃花といる。
「皆様には申し訳ないが訓練を終えたら聞くと言っていた勇者として戦うかの答えを直ぐに答えてもらいたいのだ」
急な発言にその場の勇者達は戸惑う。
「三ヶ月と言ったのを一ヶ月と経たずに言ったのだ、勇者の皆様が困惑するのも分かるがすまぬ、どうか決断してはくれないか」
「少しいいかな」
「おお、風虎殿か」
「私も含めこの一月で皆もある程度考えはまとまっているだろう、先ずはその急な変更の理由を聞かせてはくれないか」
「おお、もちろんだとも」
国王様一度口を閉じて少し間を空けてから話始めた。
「かねてより怖れていた魔王軍の魔族が動き始めたのだ。…数日前五つの小さな村が魔族の襲撃により壊滅させられたのだ」
「それが魔族の仕業だと」
「ああ、そうだ。わずかに生き延びた者と何より魔族を倒してみせた村が一つあったのだ」
「それは凄いな魔族とは強力な種族なのだろう」
「その通りだ、この世界には冒険者という戦闘のプロがいるのだがその者らでも上位のランクを持たぬ者でなければ魔族は倒せない程だ」
「その冒険者に頼む事は出来ないのか? 今回魔族を倒した者とかな」
「魔王軍の規模は絶大だ冒険者だけでは手が足りないのだ。それに今回魔族を倒したのは、わずか十歳の少年だ。とても任せられない」
「それは本当に凄いな」
「それに魔王の脅威はもう民衆にも伝わってしまっているのだ。昔から世界を救ってきた勇者でしかその不安を払拭することができないのだ。……本当にスマヌもう頼れるのはソナタ達勇者だけなのだ少しだけでも考えてはくれぬか」
国王様は一筋の涙を流す。
「さすが王様だな」
「フウコ先輩何がです」
王様の話が終わった途端に優奈達の下にきた風虎の呟きに優奈が反応する。
「三枝君は皆がどう答えると思う」
「えっ、私は元々受けると決めてたからいいですけど他の皆は急ですし断る人や考え込む人が多いと思います」
優奈だったら考え込んで直ぐには答えられないし。
「そうかな、私は大多数が受けると思うよ」
「ええ! 何でですか」
自分とは反対の答えに驚く。
「先ず今、皆は自分の力に自信を持って恐怖感が薄れている。行きなり子供が力を得たんだ。しょうがないだろう」
「もう一つは今の生活を彼等は捨てられない。豪奢な部屋に何でも買ってもらえて、何より勇者のステータスは持っているだけで周りに人が寄ってくるのだ。今の彼らの大多数が、好きなものを買え、自分は力を好きにふるい、異性が好きなだけ寄ってくる。そんな状況をまだ子供の彼らがこれを捨てられるとは私には思えない」
「それじゃあ、あの国王は最初から計算ずくだったの」
「察しがいいじゃないか東雲君」
「別に」
「えっ? えっ?」
「どっ、どういうことですか?」
察する事が出来なかった優奈と桃花は風虎らの話についていけない。
「天龍院先輩はこれは国王の狙いだと考えているんだよ。覚悟を決めた優奈はともかく、皆は凄く不安だったはずだよ。」
「そう、東雲君の言うとおり皆は不安だったはずだ。国王はそこを狙った。先ず三ヶ月だけ訓練してくれと頼んだ。その後は勝手に勇者達が今の状況に慣れて他の環境では満足出来なくなるからな……見たまえ」
そう言ってフウコ先輩が指し示す方向を見ると一組の男女が手を握りあってお互いの顔を見つめているところだった。
「あれって、長沼君だよね」
「はっ、はい。あのキレイな女性は知りませんけど」
断片的に聞こえてくる声から、どうやらあのキレイな女性に魔王を倒すと誓っているようだ。
「何故か国王が呼ぶのは美男美女の貴族ばかりだろう。古典的の手法だが効果はあるようだな」
「ハニートラップというやつですか!」
そんな、それが本当ならやっぱり国王様の計算通りという話が真実味を帯びてくる。
「いや、それは少し違うかな、あの国王様もしくはそれを考えてる者が凄いところは、一切手をださない所だ。……あの女性は自分の意思で長沼君に近づいたんだ、魔王と戦う勇者の妻になるためにね」
「でも、やっぱりそれは好きじゃないって事でしょ!」
好きでもない人と付き合うなど優奈には考えられない。
「ある程度の地位を持つものが自由に結婚出来ないのはしょうがない事だ……私も含めてな」
天龍院直系である風虎にはそんな事は常識であった。
「では、返事を聞かせてはくれないか。この国の勇者として戦う事に異存があるものは言ってくれてかまわない」
国王様がそう言うが異存を挟む者は一人もいなかった。
「そうか、皆やってくれるか。この国の王として感謝する」
国王はそう言って頭を下げる。
「やってくれるなんて、…そんなの当たり前じゃないですか!」
突然声を上げて王様に近づいていく者がいた。
「北条殿」
聖剣の持ち主の真の勇者――北条将輝である。
「僕たちは国王様にはお世話になっているんです。そうでなくても勇者の僕たちには人を救う使命があるんですから」
「おお、おお、そう言ってくれるか!」
思います国王様は将輝の言葉に涙を流す。
周りの皆もそれにつられたのか涙を流してる者達もいる。
「なにこれ」
その状況に真っ先に優奈の口から出た言葉はこれだった。
「ええ! 将輝君なんであんなに燃えてるの!」
「わっ、わからない」
「なんか変ですぅぅぅ」
桃花と鈴までもが勇者の使命だとか言って燃えている将輝に戸惑う。
「今の彼は見事に使命感を燃やしてしまったんだよ」
「フウコ先輩は知っていたんですか!」
「ああ、彼とは一緒のチームで訓練してたからな」
「それで、北条君なんであんなに使命感に溢れてるんですか」
優奈が聞くと風虎は一度苦笑する。
「王様に世界の人々が困っているやら、真の勇者やら褒められていたら、物語の主人公になったつもりなのか急にああなったのだよ」
そこで風虎はさらに苦笑を深める。
「なんせ、本人に僕のヒロインになって下さいと言われたからな」
告白をされたとあっさりと言った。
「それ、言ってもいいんですか」
「もちろん他の者には言わないさ」
「それで答え聞かせて」
「おや、東雲君はこういう話が好きなのか」
「そうなんですよフウコ様! 鈴ちゃんて結構乙女なんですよ」
「桃花黙ってて」
桃花の言葉に鈴は頬を染める。
「もちろん断ったさ」
“私の好きなのは彼だけだからね”風虎は小さくそう呟いた。
「私が好きなのは彼だけ…か」
優奈は先程の風虎の言葉をベットで一人小さく反芻する。
左右のベットでは鈴と桃花がすでに就寝しているが、優奈はここ毎日いつも寝るのが遅い。
「何でフウコ先輩はりゅうちゃんに想いを伝えなかったんだろう」
優奈から見た風虎はそういう事はハッキリ言う人に見える。
「でも、もし告白を受けたらりゅうちゃんはどう答えるのかな」
何かあっさりと断ってきそう。
でも、どんな顔をするのだろう。優奈は龍聖の顔を思い浮かべる。
つー、と一筋の涙が優奈の目から耳の方に落ちる。
「……うっ、くっっ、うぅぅ」
口を噛み声を出すのを堪える。
だけど瞳からは涙が止まらない。
優奈はここ毎日龍聖を思っては涙を流していた。
最初は堪えられた。知らない世界で戸惑ったけど他の事を考える余裕がなかったから。
(ごめんなさいりゅうちゃん。会いたいよりゅうちゃん)
優奈は無意識のうちに何も出来なかった事を謝罪し、龍聖を求めた。
唇から血が出始める。だけど声は漏らさない。
きっと二人も同じように悲しくなっちゃう。
優奈は今日もじっと涙を堪えていく。
(優奈……)
優奈がベットで涙を堪えているのを鈴がじっと見ていた。
鈴はここ最近優奈が泣いているのに気づいていた。
この涙はきっと私では止められない。それだけ龍聖の存在は優奈の中で大きい。
だから私は、優奈が龍聖以外の悲しみで泣かないように守る。
優奈と一緒に居るのが鈴の望みで龍聖との約束なのだから。
鈴は決意を新たにする。
これもまたここ毎日行われる事だ。
こうしてまた夜が明けていく。
そして、それから三日後、世界に勇者の存在が広められて人々は希望の象徴の登場に歓喜した。
優奈が涙を堪えている時、とある勇者の部屋の中では甘い女の嬌声が響いていた。
3つあるベッドの真ん中の一つに男女が肌を合わせて乱れておりその左右のベッドでは人が男女の行為を見ている。
「いいなあー琢磨さん女とやれまくって」
「だよな、これで何人目だ」
見ているのは背が低い松野と背が高い須田 の二人だった。
ここ最近琢磨は女を連れ込んでは男女の営みを行っている。
顔だけはいい琢磨についてくる女は何人もいるのだ。
そして松野と須田が部屋をでないでいるのはこの部屋以外にいく場所がないのと……
「ほら、後はお前らが楽しめよ」
琢磨は女とやった後は決まって二人にもヤらせてくれるのだ。
「ふぅ~、やっぱ前座にもならねぇー」
琢磨は子分の二人と連れてきた女がヤっている所を背にしながら、何をするでもなく立ち尽くす。
「三枝~やっぱり、お前を早く犯して~」
琢磨は中学の頃から幼い顔で胸が大きい優奈に狙いをつけていた。
「邪魔者の佐々木は殺ったんだ。次は東雲を」
「あら~ん、貴方いいわね」
「誰だ!」
突然目の前に現れたフードを被った人影に琢磨は叫ぶ。
「うるさいわねぇ~ん」
「だからテメーは誰だ……」
そこで琢磨は異常に気づく。
こんなに大声をあげてるのに後ろの三人はこちらを気にしてる様子がないのだ。
「お前何をした。それにどうやって部屋に」
「そんなのどうでもいいじゃない~ん。私はただ貴方の望みを叶えにきただけ」
「望みだと」
「そう……………………というわけなのこれなら貴方の望みを叶えられるでしょ」
フードを被った人影に言われた言葉を反芻した琢磨は口角を吊り上げて笑う。
「ああ、いいぜ」
「そう、契約成立ね~ん」
「わかった。……くく、三枝~貴賓室で言ったことが本当に実現するぜ。クハハハハハハハハハハ」
琢磨は狂ったように笑い続ける。
琢磨は知らない者の言葉を簡単に信じた自分に疑問を持つことができなかった。
気づかれる事なく勇者達に災厄が忍び寄っていく。
次回三章レイドタウン編!
誤字脱字や感想等があったらどしどし送って下さい!
今回は作者的にちょう急いで書きました。
その理由は活動報告にて……あっ、たぶんどうでもいいと思われますよ。




