3話:危惧と王女
間章3話です。
勇者達が初めてダンジョンに潜ってから一週間が経っていた。
勇者達はそれぞれ数名でチームを作り、日々それぞれが力を磨いていた。
「なんか最近皆の様子が変わったと思わない? ……なんか恐いっていうか」
ここはダンジョンの中、今三枝優奈は東雲鈴と東崎桃花と共にダンジョンに潜っており、今は地下五階で優奈が二人に話しかけている所だった。
「同感、皆強い力に溺れている。……このままじゃその内危険な事になる」
優奈の言うとおり最近の他の勇者達は変わってきている。
鈴から見てモンスターを楽しんで狩っているように感じる。
「なんだか暴力に躊躇がなくて恐いですよね」
それは桃花も感じているらしく、体を縮こませる。
「そうだね……」
勇者の力は強い悪用でもされれば大惨事だ。気が重くなるのもしょうがないだろう。
「でも私達が更に強くなればいい」
もしもの時は私達が止めればいいと、鈴は二人に意思を伝える。
「うん! 頑張ろう!」
「どんどん、強くなりましょう!」
優奈と桃花も鈴と同じ想いだ。
私達が強くなればいい。
「じゃあ、早速モンスターがきたし、いくよ」
ダンジョンの先から現れたのは普通にたって歩いている蟻のモンスターだ。
「うわっ!」
「ヒィィ!」
触覚がゆらゆらと動きいて顎をギシギシさせるモンスターに優奈達は気味の悪さを感じる。
「あれは、恐らくキラーアント。優奈、桃花。酸に気をつけて」
教官のマークがと鉄並みの硬質な肉体と、特に蟻の酸には気をつけろと言っていた。
「うん、それじゃあ気をつけていこう」
「では、鈴ちゃんに魔法をかけますね」
桃花が固有スキルである支援魔法を発動する。
支援魔法はステータスの数値を上げる事ができる。
「ありがとう桃花」
鈴は桃花に礼を言うのと同時に走り始める。
『ぐしゅ』
一番前にいるキラーアントは岩をも砕く打撃を鈴に放つ。
それを剣術で鍛えられた鈴はそれを最小限動きで横に避ける。
拳を放ったモンスターとそのまますれ違う時に腰から長剣を抜き、そのまま斬り裂く。
一匹はそれでは死ななかったようだが、倒れて痙攣しているから気にする事なく、鈴は二匹目のキラーアントに向かう。
『ぐしゅ』
仲間を殺られたキラーアントは何かを勢いよく吐き出す。
コレが教官のマークが言っていた酸だ。
勢いよく放たれた酸を鍛えられた目と桃花の魔法により上がった動体視力で見切る。
鈴は酸を体を回す事で避ける。
そしてその流れでキラーアントの足を斬って地面に倒す。
立っているモンスターには、素早く近づいて首をはねる。
「これで終わり」
一度酸によって溶けた地面を見てから、最後に足を斬られて地面に倒れてるキラーアントの胸に剣を突き刺す。
「ほえ~、相変わらず鈴ちゃんは流れるように倒すよね」
「はい! なんかカッコいいです」
「……そんな事ない」
褒められて頬を染めながら鈴は二人の所に歩いてくる。
「ええー、本当にすごいよ! 私なんてやることなかったもん」
「優奈は元々接近戦闘向きじゃない」
優奈達は、桃花がチームのステータスの底上げをして、鈴が接近戦闘を行う。
優奈は少ないが攻撃魔法を使える。
「でも私今日何もしてないんだよね」
ダンジョンは地下七階までは真っ直ぐの道なので道を塞ぎかねない魔法を放つ事は出来ない。
情けない。鈴ちゃん達だけに負担をかけないように魔法を使えるようになりたったのに、結局私の負担がいつも少ない。
「でもでも、もうすぐ迷宮のような広さになりますから!」
「そんなに戦いたいなら今日はもう帰えるから、……魔法使う」
そして地下八階からは一気に迷宮のように道が入り組むようになり、また仕組みは分からないがダンジョンは道が壊れても数時間で直るらしい。
「まぁ、戦いたいわけではないけど」
ただ一人何もできない事に優奈は落ち込む。
「それぞれの役割があるからしょうがないよ。優奈には回復の役目もあるんだから」
「……鈴ちゃん怪我してないけどね」
気まずい雰囲気が流れる。
「今日は集会があるから帰ろう」
鈴は集まりを理由にこの空気から逃げる事にした。
王城の貴賓室では王族の者や大貴族に大臣等が勇者達のために集まっている。
「ここは何度来ても慣れそうにないね」
ダンジョンから帰った優奈達は貴賓室に来たが天井の高さや内装の豪華さに気後れする。
「そそそそ、そっ、そうだねねね」
少し内気の桃花は脅えている。
「そう?」
「さっ、さすが鈴ちゃん……」
鈴はテーブルに置いてある料理を平然とたべていた。
「よぉ~三枝~」
「なんかよう」
優奈達に腰巾着の二人を連れた琢磨が笑みを浮かべながら声をかけてくる。
「おいおいつれねないねーそんな不機嫌な声をどうした~」
「分かってるなら、話しかけないでくれる」
優奈が琢磨に機嫌がよくなることなんて一生ない。
「あははは、お前なんかいつでも犯せるんだぜ……おいおい冗談だよ冗談」
琢磨の首には剣が添えられている。
「その口をもう一度開いてみろ、殺す」
鈴は琢磨に殺気を叩きつける。
鈴は琢磨を本気で殺そうとする。
「やめて鈴ちゃん」
「優奈……わかった」
何故止めるのかと鈴は優奈に視線を向けるがその顔を見て下がる事にする。
「ごめんね鈴ちゃん。こんな奴鈴ちゃんが殺す価値もないよ」
鈴は間違いなく琢磨を殺そうとしていた。それは優奈も殺したいと思っているので気持ちは分かる。
でも私はこんな奴を鈴ちゃんに殺してほしくないし、それはきっと鈴ちゃんも同じはずだ。
「金城、生かしてあげるからもう私達に関わらないで」
「っち、今日は引いてやるよ。でも覚えてろよ、二人纏めて犯してやるからよ~」
琢磨はそう言って優奈達から離れていく。
「アイツ何しにきたんだろうね」
去っていった琢磨に不機嫌さを隠さずに優奈は呟く。
「穢らわしいですね」
「えっ」
優奈の後ろから聞いたことのない少女の声が聞こえてきた。
「誰?」
優奈が振り向くといたのは、桜色の髪に黒色がまじった豪奢なドレスをきたとても可愛い少女がいた。
ここにいることからただ者ではないのは分かるけど、この少女の目を見ただけでもただ者ではないと分かる。
緑色の瞳の中に小さな光のようなものが動いている。
「これは失礼しました。私は第二王女のサラ・アドレイ・ユグドラシルです。どうぞお見知りおきおきよ」
第二王女を名乗る少女がドレスをつまむ。
「あっ、はい。私は一応勇者の、三枝優奈です」
優奈も名乗ると王女様は微笑み「存じております」と言った。
「その王女様が何のよう」
鈴がワザワザ話しかけてきた王女様に用件を聞く。
「簡単です。あなた達は勇者ですから」
「えっ、それで何で私達なの?」
王女様のよく分からない理由に優奈は首を傾げる。
「今の彼らは勇者とは呼べません。貴方がたを除けば、天龍院様だけでしょう」
この王女様は力に溺れている勇者達を認めない。
「それに私には見えますから……」
「えっ」
何かを呟いた王女様に優奈が聞き返す。
「いえ、何でもありません」
「そうですか?」
「はい、では、私は他にも回りますので」
王女様はそう言って離れていった。
「あの王女様、ちゃんと見てるね」
「あのくらいでないとこちらも信用できない」
「他の人は今の皆を喜んで褒めてますからね」
周りを見ても勇者達は階級が高そうな人達に誉められて誇らしそうにしている。
「これで、本当に魔王を倒せるのかな」
優奈は不安そうに小さく言葉をこぼした。
優奈達から離れた第二王女のサラは貴賓室をでて廊下を歩いていた。
「なんなのよ、あいつらは、マトモなのが少ししかいないじゃない」
サラの目は特殊で人の強さやどれだけ精霊を集めているか等、人の器を見抜く事ができる。
確かに器が大きく実力もある者もいたが、力に溺れてこちらを見下しているような奴らばかりだった。
「お姉さま!」
「えっ、サラどうして? 先に行ったはずじゃ」
サラが向かったのは姉のアリーヤの私室だ。
「お姉さま! 本当に彼等に魔王討伐を任せていいのでしょうか」
部屋に入ってサラは姉に訴える。
「確かに今は少し慢心してる方が多いいけど、風虎様と何より聖剣持ちの北条様もいるから平気よ」
「お姉さまも分かっているでしょ、あの方ではダメだと」
「……そんな事ないわ」
アリーヤは一度沈黙してから否定するが本心ではないのがすぐに分かる。
「お姉さまは嘘をつくのが下手です!」
「本心よ……優しい北条様ならきっと魔王を倒して世界に平穏をもたらしてくれます」
「では、お姉さまはあの方と結婚してもいいのですか!」
昔から聖剣持ちの勇者と王女は婚約しなければならない。
「それに、あの方ではきっと世界は救えません」
サラの目は将輝の本質を見抜いていた。
「それは……それでも私は彼等を信じます。……私にはそれしかできませんから」
「お姉さま……」
世界を勇者達に任せてるのは事実なのでサラは何も言えない。
沈黙して下を向いた妹に姉であるアリーヤは笑顔で話しかける。
「ねえ、サラ、お父様に頼んで二人でどこかに出掛けましょう」
「そんなの無理に決まってます」
「護衛の人達はもちろん連れていくわ。ただ違う場所で二人の時間をつくるだけなら何とかなるかもしれないでしょ」
「……お父様が許すなら」
「そう、約束よ!」
アリーヤは声を弾ませて部屋を出ていく。
「フフ、気が早いよ」
一人残されたサラは意外と行動力がある姉に思わず笑う。
私には勇者は信じられない。
だけどお姉さまを信じることなら誰よりもできる。
今はもう少し様子を見よう。
その間にお姉さまと出掛けるのも楽しそうだ。
サラは姉と出掛けられたらどんなに楽しいだろうかと想像する。
サラはそこでの出会いをもちろん想像できるはずもなかった。
少し無理矢理書いたので変かもしれません。
次回で間章は終わりの予定です。
誤字脱字や感想等があったらどしどし送って下さい!




