9話:原因と忠誠
はい、次が二章の終わりですね。
私はどうなったのだろうか。
途絶えそうになっていた意識が何か温かい物に包まれたのを感じた。
「んっ」
そこで目が覚めたフェリスは自分が生きている事を知った。
「何故私は生きている?」
ビフロンという男が放ったエネルギーの塊の威力は自分では耐えられるようなものではなかったはずだ。
「リュートさんのおかげですよ」
フェリスがどうなっているんだと思考に耽っていると。横から声が聞こえてきた。
「あっ、ライムど――誰だキサマ!」
知っているスライムの声だと思い、顔を横に向けると、そこにいたのは見知らぬ青色の髪をした少女だった。
もしやくせ者かとフェリスが殺気を迸らせると少女が慌てて声をかけてくる。
「まっ、待ってください。私ですよ、ライムですよ!」
必死な様子で、そんな意味不明な事を言う人間の少女にフェリスは更なる怒りを発する。
「キサマ! 意味不明な事を。ライム殿はスライムだ!」
「ああ、そうです。どう言えば……そっ、そうだ! フェリスさん、手、手を見てください。手ですよ手」
名案だとばかりに少女は手を見ろと何度も言ってくる。
「キサマ! 手が何だというのだ。そんなもの何度も見たこ……とぉ?」
フェリスが少女に何を言っているんだと思いながら手を見てみると、それは今まで見てきた毛むくじゃらの手ではなく、人間のような手だった。
フェリスは慌てて体をまさぐるが、それは
間違いなく人間の体だった。
「なっ! どういう事だ! 何故私が人間になっているのだ!!」
フェリスは訳が分からず混乱するが、そこで少女が話しかけてくる。
「これでわかりましたかフェリスさん」
「ああ、信じられないが……ライム殿なんだな」
「はい!……やっとわかってくれましたか」
やっと信じてもらえたと少女――ライムが涙を流しながら笑う。
「して、ライム殿、何で我らは人間になったのだ?」
今の状態になった原因を先に起きていたライムに尋ねる。
「リュートさんのおかげだと思いますよ。男から攻撃を受けた時に私に何か温かいものが流れ込んできたんです。それが原因だと……フェリスさんにも同じ事が起こりませんでしたか?」
「はっ、はい、私にも同じようなものが流れ込んできました」
確かに二人とも同じ事を感じたのなら、そこに原因がありそうだ。
「ん? どうかしたのですか」
急に頬を赤くして、もじもじとしだすライムにフェリスは不思議そうに聞く。
「いっ、いえ、あの、もしかしてですけど……温かいもの以外にも何か流れ込んできませんでした」
「いえ? 自分には何も……あっ」
フェリスは温かいものが流れ込んできた時に、それとは別にリュートの想いが流れてきた事を思い出す。
フェリスは顔を真っ赤にして俯く。
「なっ、何か変ですね。心臓が凄いばくばくします」
「そうですね、人間の姿になった影響かも」
それからフェリスとライムは二人して俯いていたが、フェリスは此処にいない二人はどこにいるのかと思い、顔を上げる。
「ライム殿、リュート殿とニーナ殿はどこにいるのですか」
もしかしたら二人は怪我でもしてるのかと思い心配の声をだす。
「二人とも平気ですよ。よく周りを見てみてください」
ライムに言われて周りを見ると、ここはカーテンで仕切られたスペースの中だと気づいた。
「ここは、どこなんですか」
「ここは怪我した人達を休ませる診療所という所らしいですよ」
「そうだったんですか、では二人はどこに」
「残った冒険者の方はオークの死体を運ぶという事でギルドの方にいってます……リュートさんは隣で寝てますよ」
ライムが仕切りのカーテンを引くとベッドで寝ているリュートがいた。
「ラッ、ライム殿! リュート殿は大丈夫なのですか」
大声を出したフェリスにライムは耳を押さえた。
「先程も言いましたが、大丈夫ですよ! ただ疲労で眠っているだけです 」
「そうですか、それはよかった」
フェリスは安堵して息をつく。
その時ふとリュートの仮面が外れて素顔が見えているのに気づく。
「ラッ……ライム殿、リュート殿はこのような美しいお顔をしていたのですか」
リュートの眠り姿にフェリスは頬がまたピンク色に染まっていく。
「あぁ、本当にすごいですよね。スライムの時は人間と認識の仕方が違うので、私も驚きましたよ」
驚きの表情を浮かべていたフェリスは直ぐに真剣な顔になり。
「……でも、素顔を見てしまって良いのでしょうか。リュート殿が素顔を隠していたのはきっと理由があったはずです」
「……そうですね」
二人はリュートの秘密を見てしまった事に罪悪感を覚えた。
「……大丈夫」
落ち込んでいた二人に声をかけてくる者がいた。
「ニーナ殿」
「ニーナさん、戻ってきたのですか」
「……うん、ギルド長が、……戻っていいって」
「そうなんですか……それで何が大丈夫なんですか?」
「……ギルド長が……誰にも見せないようにするって」
「まぁ、ギルド長さんには見られてしまったかも知れませんが、最小限に抑えたなら、リュートさんも許してくれますかね……多分」
「多分て、怒られたらどうなるんでしょう」
「……ライム、フェリス」
ライムとフェリスがリュートの反応を想像しているとニーナが二人の名を呼ぶ。
「なんですか? ニーナさん」
「どうかしたのかニーナ殿?」
ニーナが自分かり話しかける所はあんまり見たことがない二人は戸惑う。
「……ん、あの時助けてくれて……ありがと」
「「……!」」
二人はそれがビフロンの攻撃の時の事を言っているんだと気づく前に、少しだけ微笑んでいるニーナに気をとられていた。
「あれ? どこだここ」
「「!」」
「……ん、おきた」
リュートが目覚めた声にライムとフェリスは一瞬で正気に戻る。
「……恐るべし、ニーナさんです! 一瞬変な空気になりそうでした」
「あぁ、私はニーナ殿の後ろに花がみえましたよ。……なんだったんだでしょうあれは」
二人は戦慄の想いでニーナを見る。
「?」
ニーナは変な視線で見られている理由が分からず小首を傾げる。
「なにやってんだ?」
そんな三人のやり取りを見て、一番意味がわからないのはリュートだった。
「……なるほど、それは主従契約の効果でだろうな」
ライムとフェリスから死ぬ間際の話を聞いたリュートは今の状況を理解した。
「恐らくだけど俺が人間だから、配下に力を上げた時に姿を俺と同じ種族にしたんだと思う」
「リュート殿が我らに力をくれたのですか」
「まぁ、確かに私が主従契約を結んだとき調子がよくはなりましたけど、力を与えるなんて事可能なんですか」
ライムとフェリスは力を与えるなんて聞いた事がない。
「多分強力なスキルならできるんだと思う。それに何回もできる事でもないしな」
リュートはスキルを使った時、頭に主の覚悟の効果と聞こえたので、何度もできることではないと考えている。
「どうした?」
話が一段落した時にリュートは目の前のフェリスが涙を流しているのに気づく。
「……いえ、私はリュート殿を守る所か守られて、何だか悔しくて」
涙を流すフェリスにリュートは手を差し出す。
「フェリス、俺の配下になれ」
「えっ」
それはつまり約束していた忠誠を今誓えという事か。
「でっ……でも私はまだ全然強くないではないですか」
フェリスは今の自分は配下に相応しくないと思っている。
リュートは勘違いをしているフェリスに言う。
「俺は元々守られるだけの男にはなりたくない。……だから、俺がお前を死なせないから、お前は俺を生かせ続けろ」
リュートは自分の想いをどんどん吐露する。
「……それに、俺はお前の主になるってきめちゃったからな」
母狼との約束も守らなければならない。
「リュート殿」
自分は何をしているのだ、主になってもらいたい者から言わせるなんて。
「いえ、主殿! こちらこそ貴方の配下になると決めています」
フェリスは差し出された手の甲にキスをした。
「……あの、少しいいですか」
忠誠を終えたリュートとフェリスにライムが手を上げて声をかけてくる。
「なんだ?」
「私もスキルとかではなく、リュートさんの配下になってもいいですか」
「……まあ、いいけど」
「ええ!」
フェリスが自分とは違いあっさりと話が決まった事に驚く。
驚くフェリスにライムが耳打ちする。
「フェリスさん、私にもリュートさんの想いは届いたんですからいいじゃないですか」
「まぁ、私に決定権はないですし」
明らかにフェリスは納得していない。
「やり方は言わなくていいよな」
「ハイッ!」
リュートが差し出した手にライムがキスをした。
配下の忠誠を終えたニーナ達女子組はリュートから離れて話し込んでいた。
先程フェリスに耳打ちした話を聞いていたニーナがリュートの想いは何かと聞いていた。
「リュートさんは気づいていないと思いますけど実はあの時リュートさんの想いが流れてきたんですよ」
「……なに」
ニーナの表情はやはり変わらないが何となくわくわくしてるように見える。
「……どうしますフェリスさん、私言うの恥ずかしいんですけど」
「それはこちらも同じです!」
「……………」
二人が頬を染めてお互いにどうするかとじゃれあっている様子を見て、ニーナが怒った雰囲気をだす。
「ニ……ニーナさん?」
「ニーナ殿……ええいわかりました」
ニーナの怒った雰囲気にフェリスが観念して話すことに決めた。
「では、お耳を貸してください」
「……ん」
そっとフェリスに長い耳を近づける。
「“こいつは俺のものだ”という想いでした」
その内容にニーナは驚いた雰囲気をだす。
「……リュート…が」
「はっ、はい」
フェリスとライムは頬を染める。
女子組が盛り上がっている時、リュートは自分の覚悟を確認する。
――俺はもう何も奪わせない。
――奪おうとする者には容赦をしない。
――俺のものをどうするかは俺だけが決められる。
――例え殺すかどうかでもだ。
アイツ等を殺していいのは自分だけだ、リュートは、その考えが異常な事に気づいていない。
二章の終わりは次の話しにしました。
誤字脱字や感想等があったらどしどし送って下さい!




