8話:怒りとスキル
この話でついに……
ニーナ達の危機を救ったリュートは魔族のビフロンと向かい合っていた。
「お前、魔王軍って言ったな。何故ファートス村を襲う必要がある」
リュートの問いにビフロンは笑みを浮かべながら。
「さあ、僕はただ村を壊滅させろという命令をされただけだからね」
「チッ」
さすがに言わないか。
知られたくない目的があるのか。
あの村にそんな価値があるとは思えない。
可能性があるとしたら、前の魔族と同じフェリスか。
魔族の男がリュートに笑いながら話しかける。
「君、よくこっちにこれたね。君ほどの実力を持つものなら草原のオークのに対処に向かうと思ってたのに」
言外に見捨てたの? とでも言いたげの男にリュートはあっさりと言う。
「いや、倒したけど」
時間は一時間ほど前。ギルドの別室では、リュートの衝撃発言によって部屋にいるものは全て驚愕していた。
「そっ、それは本当か小僧。俺は魔獣の仕業かと」
確かにモンスターが急に現れて村を襲うなど不自然だ。
それに魔王が復活するという噂まである。だが、魔獣という可能性があるのに何を根拠に魔族と決めつけたのかギルド長のバルタはリュートに聞く。
「僕も真っ先に浮かぶのは魔獣による仕業だと思います……が」
誰もがリュートの真剣さに言葉を発せられずに、ただリュートの言葉を聞くことしかできない。
「僕は先程魔族を見かけましたから」
リュートは姿を見ていないが、視線の主が強い事は分かる。まずこの村にいる冒険者ではないだろう。
そんな者がモンスターの大群と同じ時に現れるなんて、偶然よりも誰かが仕組んでると考えた方がいいだろう。
それだけで魔族と決めつけるのは早計だと思うが、リュートは視線に含まれていた邪悪さから魔族だと考えている。
「なっ! それを何故早く言わない」
魔族は見かけたら真っ先に報告をしなければならない事柄だ。
「だから今報告をしてます。それに人間にしか見えませんでしたから」
魔族の死体を見たが、見た目は人間と変わらなかった。
「バカ野郎! そんなの赤い目を見ればわかるだろ」
「……そうだったんですか」
赤い目は魔族の特徴だったのか。ビースト山の時は目なんて確認しなかったからな。じゃあやっぱりニーナは魔族のハーフなのか。
でもニーナの目を見ても魔族と思わないって事はこの世界には魔族とのハーフはいないか珍しいということか。
「あぁ、それでどこで見たんだ」
「デルブの草原で見ました」
「よし、直ちにモンスターと魔族の討伐に」
向かうぞと言おうとしてバルタが冒険者の方に顔を向けると冒険者達は顔を俯かしていた。
「無理だよバルタさんDランクの俺やそれよりも下のギルドメンバーじゃあモンスターだけでも大変なのに、それを操る魔族までいるんだろ」
モーブがそういうと二人の冒険者も自分も同じたと首を縦に動かす。
「お前ら村がどうな――」
「大変です!」
バルタが怒鳴ろうとすると扉が勢いよく開けられ遮られる。入ってきたのはギルドの職員らしき人だ。
「ギルド長ベーマの森にもオークの大群を発見。それっ、それと」
ここからの報告が深刻なことなのか報せにきた職員は言葉を震わせる。
「早く言え!」
「ハッ、ハイ! オークの大群が後5分程で村に到達……そして中にはオークジェネラルもいるとの事です」
「なにっ、オークジェネラルだと」
「ほら、もう無理ですよバルタさん。オークジェネラルなんてCランク以上が討伐するモンスターだろ」
「オークジェネラルは俺がやる!」
「じゃあ、魔族は誰が押さえるんだ! いくら元Bランクのバルタさんでも同時には無理だろ」
モーブの指摘にバルタはリュートの方を向く。
「それはこのリュートがやる」
バルタの言葉に真っ先に反応したのはリュートだった。
「なんで僕が戦うこと前提で話すんです?」
先程から自分が戦う前提で話しているけど、リュートはただここに連れてこられただけで自分から戦うなんて一言も言っていない。
「ええ!」
受付嬢のメイリーが驚きの声を上げる。
「じゃあ何しに来たんだ、坊主!」
リュートは背負っていたバックを下ろしてメイリーに突きだす。
「ハイ、ゴブリンの魔石です。これを渡すために僕は来たので」
「えっ、あっ、ハイ」
戸惑いながらもメイリーはリュートのバックを受けとる。
「では、それじゃあ。仲間の所に行くので」
そう言って扉を開けて部屋から出ようとするリュートにその場にいた全員が固まっていた。
「……って、まてぇぇぇぇ」
バルタが急いでリュートの肩を掴む。
「何を言ってるんだ坊主。ふざけている場合じゃないんだぞ」
掴まれた肩を一度見たリュートは視線をバルタに向ける。
その時初めてバルタはリュートの冷ややかなの目を見た。
「坊主……お前」
その目は輝く金色なのにとても暗く濁って見えた。
バルタはその目に畏怖した。
リュートは魔族に怯えたりしている訳ではない。ただ村の人がどうでも……いや何も思ってすらいないのだろう。
どうでもいい奴はきっとあっさりと見殺しにできるのだろう。
これはリュートの抱えてる闇だ。
この少年は自分じゃあ想像も出来ない環境にいたのかもしれない。
バルタには何も出来ないだろう。
だけど、強くなりたいと言った時の熱い気持ちは本物のはずだ。
バルタは肩を掴む手にさらに力を入れる。
「リュート、それでいいのか」
「何がですか?」
唐突の問いかけにリュートは意味がわからず聞き返す。
「お前無力感をもう味わいたくない。といってたな。この村の人も救えない奴が強くなれるはずないだろう!」
「……」
リュートは無言になる。
それから数秒の間沈黙は続き。
「……わかりました。やります」
リュートは了承することにした。
村を守るためではなく強い魔族と戦うのもいいと思ったのだ。モンスターに手は出すなといっておいたしニーナ達も少しは安全だろう。
「おお! 本当か!」
よかったこれで何とかなるかもしれない。
バルタはさっきからこちらの様子を見てる冒険者三人に渇をいれる。
「テメーら、リュートもやるって言ってくれたんだ。いい加減覚悟を決めやがれ!」
彼等は冒険者だ。そこまで言われて黙ってはいられない。
「わかりましたよ! これでも元この村の一番のランクだったんだ! オークなんて余裕だ。……その代わりガキ、……お前大丈夫なんだろうな」
モーブは最初は威勢がいいが徐々に尻すぼみしていく。
それから5分程で戦の準備が終わった。
外に出ると村中が静かになっている。
リュート達は今村の入口にいた。
「村の住人は全て避難所に退避させた。……遠慮なく暴れろ」
「「「「オオオオオオオ!!!」」」」
バルタの言葉にこの村にいた冒険者百人程が雄叫びを上げる。
オークはもう直ぐ目の前にいる。
「いくぞーー」
「「「「「ウォォォォォォ」」」」」
人間が近づいてくるのに対して一体のオークが仲間に指示をだす。
『人間……来た……殺せ』
リュートはスキルでオークの声を聞ける。
あの個体は知恵を持つようだ。
『『『ブフォォォォ』』』
オークも村に向かって走ってくる。
先頭の方にいた冒険者とオークがぶつかり合う。
「おりゃーー」
冒険者の一人がオークの頭を剣で斬りつける。
「オークなんて余裕だぞーー」
それを見て周りも続けとばかりにオークを狩っていく。
ある者は剣でオークの首をはね、頭を斧で真っ二つにしてオークを殺す者もいる。
冒険者のランクが低い冒険者ばかりだけど低ランクのオーク相手には何とか優勢だ。
だけどオークもただやられるだけではなく二体がかりで冒険者に攻撃する。
ある個体は手に持つ石槍で冒険者を貫き、またある個体は石斧で冒険者の頭を叩き割り、冒険者を確実に減らしていく。
「くそっ、あのオークども思った以上にやるな」
後方で戦況を見てるバルタがそう呟く。
「あの程度でも強い方なんですか」
リュートがみた限りオークはそこまで強いと思えない。
「予想以上にこちらの死者が多いい。……指揮をおくってる奴がいるな」
先程突撃するように指示をしていたあのオークの事だろう。
「では、僕が殺ります」
リュートは前方にいるオークと冒険者の間を素早く移動して後方で数体のオークに守られているオークの所にたどり着く。
突然現れたリュートに後方にいたオーク達は驚く。
『なっ、……いつのまに……どうして……ここが……お前ら殺れ』
「遅い」
オークが護衛に指示をだす時にはもうリュートは護衛のオークを殺し終えていた。
『バカな……こんなこ――』
言葉の途中でリュートはオークの首をはねる。
「どうしてここがって、そんなあからさまな護衛をつけてたらわかるだろ」
リュートはオークの首をはねてからバルタの所に戻る。
「随分と早かったな」
「相手がオークですから、簡単でした」
「そうか……むっ、来たか」
その時前方が騒がしくなる。
「現れたぞー、オークジェネラルだ!」
「逃げろー」
「後ろにさがるぞ!」
重い足音を響かせて現れたオークジェネラルは、人間並みのオークの背丈の倍以上はあり、筋肉が山のように盛り上がっている。体の色もオークが緑なのに比べジェネラルは青色だ。
ステータスを見てみると中々の数値だ。
「スキルは頑強に、初めて見るな……肉体強化か」
リュートがオークジェネラルを観察してるとバルタが前にでる。
「さてと、俺の番か」
バルタがオークジェネラルの前に立つときには十人程の冒険者が何もできずに殴り殺された。
生きている冒険者はもう半分の五十人にまで減っていた。
(悪いな……俺がもっと早く対処できてれば死なずにすんだのに。……村は絶対に救う)
バルタは死んでいった冒険者に誓う。
『グゴギョォォ』
オークジェネラルはものすごい勢いよくバルタに迫っていく。
そのスピードはこの場にいる冒険者の中ではリュートとバルタしか見えない程の速さだ。
バルタは自分の武器を背中から取り出す。
その武器はリュートの身長程の長さの棒に一メートル程の鉄の塊がついている、ばかでかいハンマーだ。
武器を構えたバルタを気にせずにオークジェネラルは破壊力抜群の拳をくりだす。
「しゃらくせぇぇ」
バルタはハンマーを振りかぶりオークジェネラルの拳に当てる。
ハンマーと拳がぶつかる。
威力が勝ったのはバルタのハンマーだった。衝撃によりオークジェネラルは体を後ろに傾かせてしまう。
「ウォォォ」
体勢を崩したオークジェネラルにバルタは己の武器を叩きつける。
『グゴァァァ』
バルタの攻撃にオークジェネラルは苦悶の叫びをあげる。
バルタはそのまま追撃しようとするが
オークジェネラルはそれを素早く一旦さがる事で避けた。オークジェネラルの体にはハンマーの後が深々とついている。
『くしゅー』
オークジェネラルはダメージを負ったがまだまだ戦えそうだ。
「さすがにスキルを使われると硬いな」
バルタはハンマーがあたった瞬間オークジェネラルの肉体が硬くなったのを感じていた。
(あれが肉体強化か)
戦いを見ているリュートはオークジェネラルが使ったスキルが肉体強化だと気づいた。最後の俊敏な避けかたから、頑強と違いスピードなども上がるようだ。
その時頭に声が響いていた。
「来いよデカブツ」
『グルル』
バルタの挑発が分かったのか、オークジェネラルは歯を剥き出しにして怒りをあらわにする。
姿勢を前屈みにして突撃する体勢を整えるオークジェネラル。
『グゴァァァ』
オークジェネラルは地面を力いっぱい蹴る。その勢いで砂ぼこりを撒き散らせる。先程のスピードを軽く上回る速さでオークジェネラルはバルタに迫る。
コレがオークジェネラルの本気の速さなのだろう。
オークジェネラルの速さと勢いを加えた攻撃は食らったらひとたまりもない。
……くらったらだが。
「ウォォォォォォ」
バルタは叫びをあげながらハンマーの柄を力いっぱい握る。
「……あれは」
リュートはもちろんバルタのステータスを見ている。
だから今バルタがしようとしているかも分かっている。
「ウォォォォォォーくらえーー」
バルタは握ったハンマーを迫ってくるオークジェネラルに振り下ろす。
「大・鉄・槌」
轟音が鳴り響く。
「……これは予想できなかった」
リュートがバルタが放った攻撃を見てポツリと呟く。
先ずハンマーはオークジェネラルの頭に直撃した。
そしてその瞬間オークジェネラルの頭部が破裂して、ハンマーの勢いは落ちることなくそのまま地面に吸い込まれた。
「……ははっ、久しぶりにやったからやりすぎちまった」
砂ぼこりが晴れると、ハンマーが柄の先まで地面にめり込んでるのを冷や汗をかきながら苦笑いしているバルタと地面に倒れている頭部のないオークジェネラルの成れの果てが見えた。
「「「「ウォォォォォォ! バルタさんがオークジェネラルを倒したぞ! つづけー」」」」
バルタがオークジェネラルを倒したことで冒険者達の士気が上がり、オークを次々に倒していく。
このまま勝てそうだ。
この場の全員がそう思ったからだろうか、
直ぐに喜びの声が絶望に変わる。
「オッ…オイあれ」
「うわぁぁ」
「まだいたのか!」
村の入口に向かって森林の方向から勢いよく近づいてくる者が三体。
「オークジェネラルがまたくるぞーー」
「うわぁぁ、この村は終わりだー」
背を向けて逃げようとする冒険者にバルタが怒鳴り付ける。
「落ち着けーオークは倒し終えたんだ、後三体の辛抱だろ」
「ふざけんな! オークジェネラルなんて一体がギリギリだろ」
オークジェネラルが見えた事でこの場が一気に阿鼻叫喚になる。
だけど一人沈黙したまま動かない者がいた。
……リュートだ。
この時リュートは何故森林の方からオークジェネラルが現れたのかを考えていた。
(何故このタイミングで現れた。それも森林の方からだ。指示をだしてる魔族の命令……だとしたらニーナ達が危ないか)
リュートは魔族は草原にいると思っていたが森林から来たオークジェネラルに魔族が命令したのだとしたら今魔族は森林にいるということだ。
「ちっ、仕方ない」
リュートは胸をよぎるざわつきを感じつつ森林に向かう事にする。
「おい、ガキが前にいったぞ」
「なんだ? あの仮面のガキ」
「あれ最近入った新入りじゃないか」
一番前にでたリュートを見てなんで子どもがと冒険者達はざわつく。
「坊主……おい、テメーら全員下がれ坊主の邪魔だ!」
リュートの邪魔にならないようにバルタは冒険者を下がらせる。
「必要ないけどな」
バルタの配慮にリュートは呟く。
ゆっくりとオークジェネラルに近づくリュートは鞘から短剣を抜く。
「終わりだ」
リュートが呟いて短剣が光を反射したと同時にオークジェネラルの首がはねとぶ。
「「「なっ!!!!!」」」
その場にいた全ての者が驚愕する。
少年の腕がぶれたと思ったらモンスターの首が飛んでいたのだ。驚くのも無理ないだろう。
「ははっ、坊主さっきの俺の戦いはなんだったんだよ」
バルタは呆れながらそうこぼす。
現役を退いてから何年も経っているとはいえ元Bランクの自分が必殺技を使ったのにあっさりと勝たれてはそう呟きたくなる。
後ろで冒険者達が喜びの歓声をあげる。
そうして急いでリュートが森林に来たら、ニーナが殺されそうな所に遭遇した。
リュートがモンスターを倒し終えてから来た事にビフロンは笑いながら褒める。
「アハハハ、まさかオークジェネラルまでだしたのにこんなに早くくるとは思わなかったよ。すごいじゃないか」
「そんなに笑ってていいのか」
「!」
ビフロンが笑っているといつの間にかリュートが目の前に来ていた。
ビフロンは驚きの表情を浮かべてから急いで後ろにさがる。
「はは、本当に凄いなー。一瞬見失ったよ。……今度は僕が――行くよ」
ビフロンはリュートに近づきながら背後から野球ボールだいの黒い塊を三個出現させる。
「ほらほらほらー」
ビフロンは連続でリュートに拳を突きだす。
リュートもそれを避けたり受けたりしているが時々混じる黒い塊のせいで攻撃に移れない。
『なんと! リュート殿はあんなに強いのですか』
リュートの本気の戦いを初めて見るフェリスが感激の声を上げる。
だけどニーナとライムの反応はフェリスとは違った。
「……リュート、まえと、全然違う」
『フェリスさん、あの男を母親並みの強さを持つといってましたよね……私が知るリュートさんはフェリスさんの母親よりも格段に劣るはずてした』
『なんですと!』
この三日で何故ここまで成長したのかニーナ達は戸惑う。
戸惑っているのはビフロンも同じだった。
先程から一撃もリュートに有効打を与えられない。
「ははっ、本当に本当にすごいよ……ならこれでどうだい」
ビフロンは黒い塊を三個から十個に増やした。
「頑張って避けてね」
ビフロンは全ての黒い塊をリュートに向けて放った。
「くっ」
これは避けられないと思ったリュートはスキルをも使い防御の体勢をとる。
「ぐがぁ」
リュートはスキルを無視して体を走る衝撃に呻き声をだし地面に膝をつく。
「アハハハ、残念、痛いでしょ」
ビフロンは地面に膝をつくリュートに近づいて顔面を蹴る。
「くはっ! ……そうか内側から」
地面に倒されたリュートはビフロンの黒い塊の特性に気づく。
「アハハハ、正~解この塊はねエネルギーの塊なんだ防ぐ事はできないよ」
中々厄介な攻撃だ。……なら避ければいいだけだ!
リュートは立ち上がりどんな攻撃にも対応できるように集中する。
「アハハハ、よく立ったね……だけど」
ビフロンは拳の前に黒い塊を移動させてリュートに殴りかかる。
リュートは黒い塊を避けるために後ろに下がったがビフロンが一気に体を近づけリュートを殴りつける。
「まだまだいくよー」
殴られて体勢を崩したリュートにビフロンは追撃を仕掛ける。
一撃二撃と攻撃するビフロンは異常に気づく。
自分の攻撃に段々リュートが対応してきている。
「はぁぁー」
黒いエネルギーを放ってもリュートは剣を振りかぶり黒いエネルギーを消す。
「なっ!」
「お前に警戒したのは黒いエネルギーの塊だけだ、それも消せる事ができたし、もう負ける気がしない」
リュートは使えるようになっていた斬撃波で黒いエネルギーの塊を相殺したのだ。
「アハハハ、随分と余裕だね。……ならこれならどうだい」
ビフロンは黒いエネルギーの塊をさらに増やして五十個まで増やした。
「消えろ」
リュートは斬撃波をいくつも放ち黒いエネルギーを全て掻き消した。
「なっ!」
自分がだせる限界の数を一瞬で消されてビフロンは唖然とする。
「今度は俺が攻撃するぞ」
リュートはビフロンが目で追えない速さで迫り肩を剣で裂こうとする。
「くぅぅ!」
ビフロンは咄嗟に後ろに下がり僅かにかすっただけですんだ。
だけど今ので分かってしまった。
この少年は自分よりも強いのだと。
「バカな! この僕が、魔族である僕がなぜ君より劣るんだ」
ビフロンは信じられないとばかりに喚く。
「知らないな」
「かっ!」
一瞬でリュートに近づかれたビフロンは剣の柄でお腹を殴られ地面に膝をつく。
「さっきとは逆になったな」
「アハハハ、じゃあ次は蹴られるのかな?」
「いや、殺すだけだ」
リュートは止めを刺そうと剣を持ち上げる。
「アハハハ、そういう訳にはいかはいよ」
「……っ!」
ビフロンは地面にエネルギーをぶつけて砂煙を発てる 。
ビフロンは戦いが好きだ。強い奴と戦うのも弱いやつをいたぶるのもどっちも楽しいと思う。
だけど一番大切なのは命令を成功させる事だ。
「魔王様のために命令は遂行しなきゃね」
村を襲うオークは全ていない。
なら自分がやるしかない。……それにはリュートが邪魔だ。
「殺さなきゃ」
だけど自分じゃあ勝てない。ならどう勝つか。
「君から油断すれば平気だよね」
ビフロンは笑みを深め黒いエネルギーの塊を放てるだけ放った。
砂煙を突き破って出てきたエネルギーの塊をリュートは余裕を持って避ける。
「まあ、君なら避けるよねー」
「……まさか!」
砂煙から現れたビフロンの笑みを見てリュートは狙いを察する。
リュートは後ろを振り向いて叫ぶ。
「狙いはお前らだ逃げろ!」
ビフロンが狙ったのは、ニーナ、ライム、フェリスだった。
『『危ない!!』』
「……えっ」
ライムとフェリスはボロボロのニーナを真っ先に吹き飛ばして黒いエネルギーの塊の射線からぬけ出させる。
「……ライム、フェリス」
地面に飛ばされたニーナが二人の名前を呼んで、手を伸ばした先で二人にエネルギーの塊が直撃した。
『『グァァァァァ―――』』
『『…………』』
二人は叫び声を上げてから直ぐに静かになって横たわっている。
それをニーナとリュートは見ている。
「あはっ、隙だらけだ」
倒れた二人を見たまま動かないリュートの後ろからビフロンは殺そうと今日初めて使う剣を腰から抜いて斬りかかる。
この時ビフロンが勝利する可能性が無くなった。
リュートはこの世界に来て少しずつ変わって来ていた。仲間を作ったり普通の日常をおくったり、前の世界では考えられない事だった。
そして母狼の死はリュートに無力感を教えた。無力感をもう味わいたくなくて強くなったのに結局仲間をやられてしまった。
気づいてしまったのだ。ニーナ達といるとき確かに楽しかった。ニーナは意外と臆病で食いしん坊でいつも無表情なのに楽しそうで、こっちまで微笑ましくなった。
ライムと見た月は初めてキレイに見えた。
フェリスは自分から俺に忠誠を誓うなんて言ってきて。
アイツ等ならこのまま普通の日常を一緒におくれるような気がしてた。
なのに奪われた。
なぜだ、なぜ俺は奪われた。
俺が弱いからか、だから仲間を守れなかったのか、何故何故何故何故、何故だ。
――俺が奪われてしまったからいけないのなら、もう奪わせない。まだあの二人は取り返せるはずだ。
後ろでビフロンという男が笑っているのが分かる。
仲間を助けようとした二人がボロボロなのに、こいつは元気だ。
そんなのは許さない。
この時リュートは初めて心から怒った。
「殺してやる」
リュートは呟きながら後ろから迫る剣を手で止める。
「なっ!」
ビフロンは自分が力を込めて振った剣を簡単に受け止められて驚く。
「スキル『孤独』」
リュートは全身から力が溢れる感覚と同時に自分でも知らないはずのスキルの使い方を本能が教えてくれたような感覚も味わっていた。
リュートがここまで急成長した一つの要因であるスキル『適応進化』は格上の相手を倒したときそのレベルまで進化できる効果もあるとなんとなくわかった。
そして今使うスキル『孤独』の知らなかった効果もなんとなく分かる。
「なっ、なにを」
リュートから不気味ななにかを感じて咄嗟に逃げようとするビフロンの肩にリュートが触れる。
「奪わせろ」
その瞬間ビフロンの肩の感覚が消失した。
「なにをしたー」
肩の感覚が消失したビフロンが訳もわからず叫び散らすがリュートはただ静かにビフロンの全身を触れていく。
「ひっ、ひぃぃぃ」
リュートの右手に触れられた所の感覚が次々消失していく恐怖に、ビフロンは怯えの声をだす。
スキル『孤独』の凶悪の効果は右手で触れた所の感覚を消して最終的に全ての感覚消し去り相手を何も感じれずに孤独に殺すというものだ。
「これで終わりだ」
ビフロンは外傷は少ないが全ての感覚を消されて、死んだ自覚もないままに殺された。
その死に姿は立ったままだった。
「……リュート、大丈夫?」
ビフロンを殺して立ち尽くしてるリュートの下にニーナがやってくる。
「……なにがだ」
ニーナの方を向かないままリュートはそう言う。
「……リュート、かなしんでる」
「俺の顔見えてないだろ」
リュートは淡々とそう答える。
「……顔、いつも仮面で見えない、だから雰囲気でわかる………」
無言になったニーナの方を向くとその目からは涙が流れ落ちていた。
「悲しんでるのはお前じゃねーか……安心しろまだあの二人は奪われない」
「……?」
リュートの言葉に、ニーナは困惑する。
「今の俺ならあの二人にもっと力をあげられる……俺はアイツ等の主だぞ」
その時頭に声が響く。
『スキル【主従契約】を発動。主の覚悟により主従契約のレベルがあがりました。配下に力を与えられます』
「……っ」
「……まぶしい」
主従契約をつかった途端にライムとフェリスの体が光だす。
それから数分間光は続き、徐々に光は消えていった。
「……うそだ――」
光が収まった時現れたものを見てリュートが呆然と声をだすと同時にスキルの初めての効果を使った影響かリュートの意識が急激に薄れていく。
「無理……だ」
そこでリュートの意識は完全に落ちた。
そのころ、森林に行ったリュートが、いつまで経っても戻らないので、バルタはリュートの死も覚悟でベーマの森に来ていた。
「……おきて」
どこかで聞いた事がある声を頼りに枝を掻き分けて進む。声がした場所につくとエルフの少女がいた。
草を掻き分ける音にエルフの少女が気づいてこちらを振り向く。
「……だれ!」
「おおっ、俺だよ嬢ちゃん。ギルド長をやっているバルタだよ」
エルフの少女はこちらの事を覚えていたのか一度頷いてから話しかけてきた。
「……なんで、いる」
「ああ、リュートを探しにな。……あれが魔族か」
どうやったのかは分からないが立ったまま死んでいる者がいる。恐らく魔族だろう。
「どうやら勝ったらしいな」
エルフの少女の膝の上で眠るリュートを見てバルタは呟く。
「んっ、誰だ?」
そこでバルタは木の影で気づかなかったがリュートの直ぐ近くに人影があるのに気づいた。
よく見るとふたりの人が服も着ずに倒れている。
それは青髪と銀髪の美しい少女ふたりだった。
最後の二人は誰なんだろうなー(棒
次回二章エピローグ(予定)です。
誤字脱字や感想等があったらどしどし送って下さい!




