7話:魔族と戦いの始まり
7話始まります。
依頼の途中でゴブリン百体を倒したリュートはギルドに行く前に宿で血を流すために風呂に入り血みどろの服を脱ぎ新しい服をきる。
着替えを終えたリュートはギルドに依頼達成の報告をしに向かう。
背中には魔石百個が入っている。
当初は実力を隠すつもりのリュートだったがバルタに実力を察せられた時から“ある程度”の実力を見せる事にした。
ゴブリンは一体一体が弱いので百体を倒すのはCランクには出来ない事ではない。
「随分と騒がしいな」
冒険者ギルドに近づくにつれて慌ただしい音が外まで聞こえてくる。
何が起きたのか、リュートはそのままギルドに入る。
「……これは、何が起きたのですか」
リュートは巻き起こる喧騒の中事情を聞くために受付嬢のメイリーに話しかける。
「あっ……リュートさん! よく来てくださいました。至急別室に来てください」
そのまま腕を掴まれて引きずられるようにリュートは別室に連れていかれた。
別室に行くとギルド長のバルタが一人で片側の椅子を使い、その向かいに三人の冒険者が座っていた。一人だけ見たことがある者がいる。
「げっ、何でこのガキがここに」
ギルドで絡んで来た男、モーブもこの部屋にいた。
「フム、それについても今から話す」
バルタはそのまま顔をリュートに向ける。
「坊主、状況は分かっているか」
「いえ、依頼を終えて、一時間位宿にいたので」
依頼を受ける前はこんなに騒がしくなかったから、その後にトラブルが起きたのだろう。
「そうか、ではまず状況を説明しよう」
バルタの説明によると、三十分ほど前にモンスターの大群を目撃した者がいたらしい。そのモンスターらはこの村の方向に進軍している。
モンスターの数は膨大で、急に現れたモンスターに対して村の人間が避難するのは間に合わないとの事だ。
「突然現れた……ね」
リュートは先程の視線を思い出す。
もしかしたら……
リュートが思考を働かせてると頭に念話が送られてくる。
『リュートさん大変です! モンスターの群が森林からそちらの村に向かっているようです』
『そうか、こちらの方でもトラブルがあった。直ぐに向かうから下手にてを出すなよ』
ライムとの念話を終えたリュートはバルタに森林のモンスターについて報告する。
「話しは分かりました。僕からも二つほど報告いいですか」
「なに?」
状況を理解していなかったリュートから逆に報告を受けるとは思ってなかったバルタは、驚きつつ何の用かと疑問になる。
そこで部屋にいたモーブ以外の二人の冒険者が突然部屋に入ってきてギルド長と話始める少年に対して聞こうと会話に入ってくる。
「おい、さっきからいるこのガキは何なんだ」
「確かこのガキ前にモーブにボコられてた新入りだよな?」
何故新入りがこの部屋にいるのか不思議そうに聞いてくる。
「ああ、この少年はリュート本日からCランクになった」
「なっ!!!」
その言葉を聞いた冒険者は全員が驚きの声を上げる。
それはリュートの実力を少しだが知っていたモーブも例外ではなかった。
それだけランクを三つも飛ばしてのランクアップは異例の事なのだ。
「まじか、Cランクといえばバルタさんを除いたらこの村の最強だぞ」
「そういう事だ、だからこの場に呼んだんだ」
この場にいる冒険者はリュートを除けばこの村のトップスリーの実力者だ。
「それで坊主報告とはなんだ」
「では、まず一つモンスターの大群はデルブの草原だけではなくベーマの森にもいます。それもこちらに進軍しています」
その場に衝撃が走る。
デルブの草原の大群だけでもこの村の兵力、百の確認されてるのだけでも三倍はいるのだ。 もしベーマの森にも同じ数のモンスターがいるとしたら手に負えなくなってくる。
「坊主、その情報はどこで」
「今はそれはいいでしょう。ただ僕はこの情報は正確だぞ、としか言えません」
「わかった、詮索はしない。…それで二つ目の報告はなんだ」
バルタは眉間を指で押さえながらこれ以上大変な事にはなるなよと思う。
だがリュートが放った言葉は先の衝撃よりもさらに大きな衝撃を部屋全体にもたらすものだった。
「今回のモンスター騒動には魔族が関わっているかもしれません」
一方その頃ベーマの森では、ニーナ、ライム、フェリスは歩みを止めてファートス村の方をじっと見てるモンスターの大群を見守る。
ニーナ達は木の影に隠れて大群を横からみている。
大群は緑色の皮膚を持つ豚面のモンスターだ。それぞれ手に武器を持っている。
「……ぶた?」
『あれは、オークというモンスターですよ……まぁ、伝わらないですが』
主従契約を使えないニーナとは会話が出来ない。
『確かにこれでは不便ですね』
『ですよね、リュートさんが特別なんですもんね』
『うむ、リュート殿は凄いからな』
二匹のモンスターはリュートが特別なだけだと再確認する。
「……たたかう?」
『いえ、リュートさんは手を出すなと』
言葉は通じないが体を左右に振ることで意思を伝える。
「……んっ、わかった」
ライムの意思が伝わったニーナは見守るだけに徹しようとした。
それから一時間位たっただろうか、ライムがモンスターの大群に気味の悪さを覚える。
『なんか、変じゃありませんか』
『なにがだライム殿?』
『いや、あのオークの大群、先程から視線をずっと前にやっているんですよ』
『確かにいくら何でも静かすぎますね』
元々オークという種族は野蛮で騒がしいのに大群を見ても一体も騒いでる者がいない。
『もしかしたら、オークに言うことを聞かせてる者がいるのかも』
『その可能姓が高そうですね』
「……だれか、きた」
五感が鋭いニーナが新たに現れた者に真っ先に気づく。
その男は黒いコートをその身に纏って現れた。
その者は整った容姿をしている二十代位の男で柔和そうな笑みを浮かべている。
ただ赤い目だけが鋭く爛々と輝いている。
「始めるよ」
一言男が喋った途端ニーナ達は背筋があわだった。
「……つよい」
『母上並みの気迫だと!』
『急いでリュートさんに知らせな―――』
「あれ、こんなところに鼠が三匹もいる」
男がこちらを見て口角を弓なりにして笑う。
「駆除しなくちゃダメだよね」
ニーナ達は全力背を向けて駆け出す。
「逃げなくても大丈夫だよ」
一瞬で男が前に回り込んでいた。
ニーナ達を見て何度も頷いてから笑う。
「う~ん君達弱いね~、つまらない戦いをして興ざめしたくないしな~よしっ、オークに任せよう」
観戦のつもりなのか枝に腰を下ろす男。
気付かない所でリュートによってニーナ達は命拾いしていた。
「……リュートにたのむ」
『悔しいですがリュートさんが来るまで時間を稼ぎましょう』
『不甲斐ない』
だけど目の前の男は意地でどうにかなるものではない。三人は時間を稼ぐ事を一致させていた。
「じゃあオーク、やれ」
男の命令を合図にオークの大群がニーナ達に迫る。
「……ライム、フェリス、いっぱい、たおすよ」
『数は三百くらいですね。なら一人百体ですね』
『そのくらい朝飯前です!』
オークの武器は石斧や石槍だ。
その武器を持ったオークが五体がニーナに攻撃を仕掛けてくる。
「……その武器じゃあ、当たらない」
ニーナは石を紐でをくくりつけている棒をナイフで全て切断する。
切断された部分が地面に落ちる前に五体の首を一瞬で切り裂く。
これで五体を倒した。
『いきます!』
ライムは接近戦は苦手だ。
その代わりに水魔法で一気にオーク十体を水鉄砲で撃ち抜く。
これで十五体。
『ハァァァ』
フェリスは縦横無尽に動きオークを次々に殺していく。
オークもただやられるだけではなく反撃しようとはするが、フェリスの速さについていけずさらに死ぬ数を増やしていく。
先程男はフェリス達を弱いと言ったがそれは間違いでもないが正しくもない。
確かにフェリスは未熟だ。
母に比べると圧倒的に劣るのは動かしようのない事実。
だが、フェンリスヴォルフという種族は未熟だからといってオーク程度に負ける事はありえない。
「……すごい」
『私達とは一段格が違いますね』
フェリスの戦いぶりを初めて見たニーナ達は頼もしさを覚えながらオークの数をへらしていく。
あっという間に半分に減ったオークを見てゆっくり観戦をしていた男が動き出す。
「あ~あ、もういいや」
男が手を振るといくつもの小さな黒い塊が残りのオークを貫いていった。
「よっと、……ごめんね、君達が弱いからってさらに弱い奴らを戦わせたってそりゃつまらないよね」
枝から下りた男は笑いながら謝罪してきた。
「だから僕が戦ってあげるよ」
男はニコニコ笑っているがニーナ達にとっては最悪だ。
「じゃあ君からだ」
ニーナ達が戦闘体勢をとる前に男はニーナの前にたどり着いていた。
「……!」
目を見開くニーナ、動きが全く見えなかったのだ。
「パンチするよ」
男が拳を前に突きだす。
それは男にとってはただのパンチなのだろう。
だけどくらったニーナは数メートル吹き飛ばされた。
「……かはっ」
木にぶつかり勢いが落ちたが、ニーナは一撃で戦闘が厳しいほどのダメージを負っていた。
止めを刺そうとニーナに近づく男。
『させません!』
ライムはさせるかと特大の水鉄砲を放った。
「残念」
男はそれを裏拳で弾く。
『なら私が止める!』
全力のスピードを出して攻撃しようとするフェリスに男は嘲笑うようにその速さを軽く超えてフェリスの頭に手をつく。
「君ってフェンリスヴォルフだよね。その割には弱いけど」
『ガッ!』
男は、おいた手で地面にフェリスの頭を叩きつけた。
フェリスが急いで顔を上げたら男はニーナの所についていた。
「……くっ」
朦朧としているニーナに男は手刀の形にした手を見せる。
これで斬るという意味だろう。
「バイバイ、エルフのお嬢ちゃん」
男の手が下ろされる。
『ニーナさん!』
『ニーナ殿ー!』
「させないぞ」
「!」
男は何者かに顔を蹴られて地面に倒れる。
その速さは男に気づかせないで攻撃出来るほどだった。
「いてて、あっ、きみは!」
男は待ち望んでいた少年の登場に歓喜の声を上げる。
そしてそれはニーナ達も同じだった。
「……ありがとう」
「まぁ、ギリギリだったけどな」
『リュートさん!!』
『リュート殿!』
ライムがふらついているフェリスと一緒にリュートの所にくる。
「後は俺がやる」
そう言って前に出るリュートに男も笑いながら立ち上がり先程迄と違い戦闘のための体勢をとる。
「そうか彼女は君の仲間だったのか。よかったなんて運がいいんだ君から来てくれるとは、……僕は君と戦いたかったんだから」
男をスキルで見たリュートはこの男が前に自分を見ていた者でモンスターに命令を与えた者だと確信する。
「そうか、なら思う存分やってやるよ。前の魔族とは違う事をいのるぞ」
リュートの指摘に一瞬驚く男だが直ぐに笑みになり。
「僕の正体を見破っていたのか。君はやっぱりおもしろい」
正体がバレてるならと男は自己紹介を始める。
「僕は魔王軍のビフロンという者だ。よければ君の名前も教えてくれないか」
「俺の名前はリュート。……ただ世界を楽しみたいだけの男だ」
自己紹介を交わしあった二人の戦いが今始まる。
次回は遂に主人公が……
誤字脱字や感想等があったらどしどし送ってください!!!




