6話:視線と暗躍
本日2話目です。
ただ、とても短いですが……
フェリスがリュートの事を守ると決意してから三時間後。
『リュート殿、喉が渇いておりませんか』
「いや、へい――」
『ああ、なんて事です、まずはお食事でした』
「だから、平気だっ――」
『なんてお優しい、ですが遠慮しなくてもよいのです』
フェリスは物凄く過保護だった。
『ちょっと、あれ、やばくないですか』
「……リュートが、困惑してるのはじめて」
「いや、お腹も喉も平気だ。……そんなに気を使わなくてもいい」
こんな経験は無いからリュートはどうしたらいいのか分からない。
『そんな! では私は何をすればよいのです』
そしてまたフェリスも母以外の者と接した経験が余りなく、リュートに対してどう接したらいいのか分からない。
「ああ、もうそういう気遣いはいらない。お前は俺のお守りをしたいのか」
『いっ、いえ。私はリュート殿を外敵からお護りしたいです』
「だったらこんなことしてないで強くなる努力をしろ」
『ハッ……ハイ!』
返事をしてからモンスターでも探しに行ったのかフェリスが森林を進んでいく。
それを見送るリュートは一度深呼吸をする。
「なんとか誤魔化せたか」
過保護にされるのはこんなに面倒くさいのか、新たな事をリュートは知った。……知らなくてもよかった事だと思うが。
「強くなるためか……」
せっかくCランクになったんだ、さっそく依頼を受けてみるのもいいかもしれない。
「えっ、もう依頼を受けるのですか」
思い立ったが吉日というからか、さっそくリュートは一人でギルドに来ていた。
「今日試験を終えたばかりですよ。いくらなんでも休みは取った方が」
試験を終えたばかりじゃあ、ろくに疲れもとれないだろう。
「えぇ、だから今日は一人で来ました」
リュートしては疲れが残っている者達はおいてきた。つまり自分は疲れていないと言ったつもりだったが、メイリーからしたらそれはただ危険が増すだけだ。
「なに言ってるんですか! そんなの余計に危ないです」
いくらリュートが強いとはいえ、戦いには何が起こるか分からない。
「それに残念ですね。リュートさんが正式にCランクになれるのは数日後です」
ギルド長が直々にランクを決めた場合には別だかこの少年には休息を与えるべきだ。
「……じゃあ、Gランクの依頼でいいです」
本当はできるだけ強いモンスターの方がいいけど、体を動かしたいだけなのでここはGランクで我慢する。
「う~ん。まぁ、それなら平気ですね」
Gランクのモンスターならこの少年にはどう足掻いても敵わないだろうしね。
Gランクの依頼を受けたリュートは初依頼できた草原――デルブ草原に来ていた。
依頼内容はゴブリン五体の討伐、今のリュートでは準備運動にすらならない。
この世界ではモンスターを許可なく狩るのは違法だ。
好き勝手にモンスターを討伐されると誰が狩ったのか把握できないし。
なにより知恵のある魔獣を討伐しに行って報復に近くの町や村を襲われでもしたら大惨事だ。
ギルドは誰がどのモンスターの討伐に行ったか管理するためにある。
だけど例外もある。
依頼中にトラブルが起きたときは対処しても違法ではない。
つまり今リュートの目の前にいる百体を優に超えるゴブリンを狩っても違法では無いのだ。
「これでちょうどいい運動だ」
リュートはゴブリンの群れに突っ込んでいく。
一瞬で一体の首をもぎ取り、直ぐに並んでいるゴブリンを足で三体まとめて体を蹴り魔核を破壊する。
後ろから反撃しようとしてきたゴブリンを裏拳で顔を砕き、その骨を使い十体程をゴブリンの骨で刺し殺す。
僅か五秒で1/5が減った。
「こんなもんじゃないぞ」
戦いの中剣を抜いたリュートはさらに十体を切り裂く。少しずつ体が血で汚れていくが、リュートは少しも気にしない。
むしろ加熱さを増しての攻撃になっていく。
ゴブリン達は目の前の存在に恐怖を覚えていた。
死ぬ事に恐怖を感じないがモンスターだが、圧倒的の力には恐怖を感じることができる。
その恐怖が言っている。
相手は自分達とは格が違うと。
リュートが振る剣はそのスピードを増し、嵐のように次々とゴブリンを斬りつけていく。
ただその剣の嵐は目であるリュートが一番危険だが。
一分も経たずその数を十にまで減らしたゴブリンは決死の覚悟とリュートに迫る。
「これで終わり――!」
残りのゴブリンに止めを刺そうとしたリュートにどこからか視線が寄せられる。
(見られている……何者だ)
リュートは視線を感じつつもゴブリンを容易に全滅させた。
ただ、リュートの視線は草原の果ての方を向いていた。
時を同じくして、リュートに視線を送っていた何者かはゴブリンと戦った少年に驚嘆していた。
(あの少年は何者だ、あのゴブリンを殺した時の強さ……それにこちらの視線にも気づいていた)
先程の戦いは明らかに十程度の子供が出来る戦いではなかった。
いや、強さだけだはなくあの少年の異常さはモンスターの血を全身に浴びてるのに気にしてる素振りを見せないとこだろう。
その時何物かの腕につけているブレスレットのような物から男性らしき者の声が聞こえてくる。
『ビフロン状況はどうだ』
「えぇ、ご命令はちゃんと遂行しますよ」
どうやらビフロンという名の男であるようだ。
「……ただ」
『どうした? 何かあったのか』
「いえ、問題はありません」
『そうか、だが気を付けろ。別の命令を下していた者達からの連絡が途絶えた。何者の妨害かもしれん』
失敗するような奴と一緒にされたくない。
「それはご心配なく、私に失敗などありえません」
『……ならいいが、くれぐれも油断はするなよ』
「ハイ、それは平気です。……出来なくなりましたから」
ビフロンに下された命令はとある村の冒険者の皆殺し。
『何か言ったか?』
「いえいえ何も言っておりません」
『そうか、では健闘を祈るぞ』
「ハイ、それでは」
通信が切れたビフロンは一人静かに笑う。
「えぇ、問題はありませんとも」
下された命令はとても簡単でつまらない物だった。だけどあの少年がいるなら……
「どうやら、楽しめるそうです……ですが失敗はしませんよ」
ビフロンは笑いながら歩く。
目的地は一番近くの村。
「魔王様、御身のために」
こうして魔王軍――ビフロンがファートス村に向かう。
そうしてファートス村で魔族による戦闘が始まる。
ハイ、とても短いです。
一緒にしてもよかったのですが、今回はあえて別にしました。
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