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異世界転生(運命から逸脱した者)  作者: わたあめ
二章~冒険者編~
20/52

5話:優しさと決意

短めです。

リュート達が試験の為にビースト山に来てから期限の三日がたっていた。


「……なんか、ひさしぶり」


「たったの三日だろ」

試験を終えたリュート達はファートス村に戻っており、これから試験の結果を聞きにギルドに行くところだ。


今この場にいるのはリュートとニーナだけでライムは娘の狼と共にビースト山から、リュートが転生した日に降りた森林に向かっている。


「……フェリス、元気ない」

「それは、まだ三日だからだ」

娘の狼――フェリスの母は山でのモンスターとの死闘で残りわずかの命を使い、眠りについた。


あの母狼がいなければリュート達はモンスターを倒せなかっただろう。


あれから母狼のお墓をリュート達は親子の住みかであった洞窟に作った。


ふたりは、それきり無言のままギルドにたどり着いた。


「あっ! リュートさん、ニーナさん」


扉をあけて入ると一人の受付嬢がリュート達を見て喜びの声を上げる。


「よかった、無事に終えたんですね」


明らかにあそこのモンスターはG級のランクアップの試験にしては、モンスターのレベルが高かったから心配していたのだろう。


「僕たちは無事ですよ、メイリーさん」


「……大丈夫」

実際リュート達は大丈夫だったので安心させるようにメイリーに言う。


「はい、本当によかった。…そうです、ギルド長がお二人がきたら直ぐに別室に連れてくるようにいわれてるんでした」



別室に入ると相変わらず強面のギルド長が椅子に座ったままこちらを見てくる。


「オオッ、来たか坊主達」

席に着いたリュートとニーナは、ギルド長と受付嬢と向かい合う。


「まずは、良く無事に帰って来た。試験はどうだった」


「これを」

リュートとニーナはそれぞれ背中に持っていたバッグをギルド長に渡す。


「これは?」

何を渡されたのかとギルド長は聞き返す。


「魔石です」


「「!!」」

この二つのバッグに入る量となると試験の条件であった二十個を優に超えている。


これにはリュートの実力を察していたギルド長も驚く。


(まさか、ここまでとは)


驚きの表情を浮かべたギルド長だが直ぐに笑顔を見せる。


「おめでとう、試験は文句なしの合格だ」

リュート達にとくに驚いた様子は無い。

当たり前だこれで落ちたら誰もランクアップなんて出来やしない。


「それで坊主達の新しいランクは、…Cランクだ!」


この言葉に真っ先に反応したのは受付嬢であるメイリーだった。


「なっ! 行きなり三段階飛ばしてのCランクですか。問題になりますよ」


冒険者になって一週間もたっていないのにこんなに飛び級した者は過去一人もいない。


ギルド長であるバルトはメイリーに心外だとばかりに言う。


「何いってるんだメイリーちゃん。俺はこれでもちゃんと気を使っているんだぜ」


坊主になとバルトは小声でつけ足す。


一目見たときから感じていた。


(何があったんだ? 三日前よりも遥かに強くなっていやがる)


バルトはむしろBランクをあげたいくらいだったのを我慢している。


「……坊主、随分強くなったみてーだな」


バルトは素直に称賛を贈った。


だけどそれに対してリュートは思いもよらない意見を口にする。


「別に…ただ自分の無力さを味わっただけだ」


実際リュート一人では何もできなかった。

魔族を倒せたのも母狼が一人を足止めしてくれたからだ。


リュートでは三人の相手は厳しかった。

オルトロス戦では、母狼との戦いをを見ることさえできなかった。


リュートがしたのは、ボロボロになって母狼に脚を噛みつかれて、脚を止めたオルトロスに止めをさしただけだ。


この世界にはあのレベルやそれを遥かに超える者達もいるのだ。


自分の無力さを痛感する。


「坊主、強くなりたいか」

そんなリュートにバルトが問いかける。


強くなりたいか……そんなの決まっている。


「俺は強くなりたい」

(俺…か)

リュートは今まで僕と言っていた。

言葉を繕う事を忘れる程その言葉には重みがある。


(これは、ただ強くなったわけではなく、器まで大きくなったか)

この少年がたった三日でここまで変わった事に驚くと同時に、この少年はどこまで行けるのか将来が楽しみになる。


なら俺も人肌脱ぐとするか。



その頃、ライムとフェリスは森林に――名をベーマの森に着いていた。


そこで二匹のモンスターはリュートの事について話していた。


『ですからライム殿、私はあのような卑怯な者に忠誠を誓う訳にはいかないのです』


フェリスは自分のせいとはいえ、弱味につけこんで忠誠を母に誓わせたリュートは、自分の主にはふさわしくない。


『でも、リュートさんはとても優しい方ですよ』


『どこがですか! こちらの足元をみてくるような奴ですよ』


『でも、結局は助けてくれましたよね』

『そっ、それは』

確かにフェリスが助かったのはリュートのおかげでもある。


『それに、リュートさんは。めんどうくさがったりするけど、何だかんだで優しいですしね』


信用出来ないと、言いながら私を受け入れてくれて、最初は嫌だと言っていたけどニーナさんを檻から出し、生きる希望を上げたのも結局はリュートさんだった。


『それに、…いえ、これはやめましょう』

ライムは何かを言おうとして止める。


そんなのを見たらなんとしてでも聞き出そうとしても不思議ではない。


『何ですか、教えてください』

ライムは言おうか一度迷う。

結局少しだけヒントを教える事にした。


『そうですね。では一つヒントを…なぜリュートさんは貴方の母親を配下にしたんでしょうね』


『どうしても何も、そんなの』


確かに、わざわざ死に体の母上に忠誠を誓わせる必要がどこにあるのだろうか。


それに、私を配下にするメリットも少ないのに何故だ。

私は母上と違い弱い。、将来を見越して? 忠誠を誓わず信頼できない私を、強くなるかもしれないから、なんて理由だけで仲間にするか。


オルトロスが出てきた時もそうだ、現れた時点で逃げ出すこともできたのにアイツそうしなかった。


アイツが得たのは結局私だけだ。

余りにも割に合わない。


もし、これが全て母上と私のためにやった結果だとしたら。


『まさか! アイツは私の為に!』

母上の死をアイツは知っていた。

なら助ける条件の忠誠は私に向けられての事になる。


私が母上と別れた後に一人にしないために。


『気付きましたか』


『あぁ、そうでもないとあの母上がアイツに私まで忠誠を誓わせるはずないしな』


銀狼の忠誠はとても強い反面主に相応しくない者には絶対に屈しない。


いくら娘を助けてくれたからといい、リュートが主に相応しくないと思ったら、契約を破り、私だけは絶対に逃がしていたはずだ。


母上は気づいていたのだ。

リュートの優しさと器の大きさに。


それに気付けずにリュートを罵っていた私。


情けない、私は主を選ぶ前に配下として失格だ。


『……ライム殿、私は決めたぞ』

私はリュートについて行こう。


配下にはまだならない、今の私はそれに相応しくない。


だから私が相応しくなったら、主になってもらえるようお願いしよう。




無言になって考え込むフェリスをライムは見守る。


(どうやら自分なりの決意を固めたようね)

きっとこの子はリュートの事を好きになるだろう。


あの人はモンスターとかそんな事を気にしない人だ、だからこちらもモンスターであることを忘れてしまいそうになる。


『あっ、フェリスさん、リュートさんが来ましたよ』

『えっ、ほ…本当だ』


ギルドに行っていたリュート達がベーマの森に着いた。


『リュートさん、ランクどうでした』

まずは、ギルドに行った目的の事について聞く。


「あぁ、Cランクになったよ」

『そうですか! それはよかったです』

ランクについてはリュートに聞いていた。

一気に上がったのはきっと凄い事なのだろう。


「あぁ、それで三日後にこの村を出ることにした」


『随分急ですね? 何かあったんです』

ライム達に聞かないでの決定だ。

何かしらの事があったのだろう。


「ギルド長にここよりも強いモンスターが出るところを教えてもらってな、そのため拠点を違う町に移す事にしたんだ」


『そうですか、私は平気ですけど』

フェリスにも確認をとるためにリュート達がフェリスに視線を向けると。


『リュ……リュート殿』



ギルド長に強くなるために強力なモンスターが出るところを教えてもらい、自分の知人の宿まで紹介してもらってから、ベーマの森に来たリュート達は、そこでライム達に合流した。


(なんだ?)

こちらの名前を呼んでから、口を閉ざして黙るフェリスにリュートは不思議そうな視線を向ける。


「なんか用か?」

フェリスがリュートに話しかける事なんて一度もなかったはずだ。


『リュ……リュート殿~』

目の前のフェリスが頭を地面に当てる。



『この度はその恩に対して数々のご無礼をいたしてしまい、申し訳ございませんでしたー』


「何の事だ」

顔を上げたフェリスの目には涙が垂れ流されている。


『そのお心遣いに気付くこともなく、弱味につけこんだ卑劣などと』


「…ハァ、そんな事、気にしてないし弱味につけこんだのは事実だ」


『いえ、私はもう気づいています。リュート殿はライム殿の言うとおりとてもお優しいと』


『あっ、私の名前を出さないでください!』


どうやらライムが何かを言ったらしい。


『お詫びというわけではありませんが…私にリュート殿を守らせてくださいませんか』


「忠誠を誓うということか」

てっきり、リュートはそう思ったけどフェリスは勢いよく左右に首を振る。


『滅相もありません! 私では配下に相応しくありません…だから』


そこでフェリスは自分の想いを口にする。


『私が強くなったら……主になってください』

まるで愛の告白のような空気の森林でリュートはその答えを言葉にする。


「いや、元々お前は忠誠を誓わなければダメだろ、約束なんだし」


ここでまさかの正論を放つ。


「だけどまぁ、期限を言ってなかったのは俺のミスだ。早く俺に忠誠を誓えるようになれよ」

それはつまり、無理矢理じゃなくて、私のタイミングを待ってくれるわけで。


『はい、直ぐにでも配下になってみせます』


こうして、新たな目的地とリュートの配下候補のフェリスが仲間に入る事が決まった。

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