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異世界転生(運命から逸脱した者)  作者: わたあめ
二章~冒険者編~
19/52

4話:契約と誓い

戦闘の描写がむずかしい。


長いです。

リュート達の目の前に現れた大狼は、立ち尽くしたまま一歩もうごかない。


こちらを警戒でもしているのだろうか、

(いや、俺達が警戒しないようにか)


リュートは自分の後ろを見て、ニーナとライムがいつでも動けるように、構えているのを見て大狼の意図をさっする。


「わかった。俺達は攻撃しないし、直ぐにでもここから去る」

両手を持ち上げて、何もしないとアピールする。


「……気をつけて、リュート」

『モンスターに話しかけるなんて危ないです』

リュートの突然の行動にニーナとライムは驚く。


当たり前だ。モンスターには話なんて通じないし、両手を上げるなんて行為はただ隙を生むだけだ。


(いや、俺には主従契約がある)


モンスターとも意思疏通を図れる主従契約だが、リュートはこのスキルを余り使わない様にしている。


何度かライムと契約したあとリュートはこのスキルを試したが、どのモンスターも、問答無用に襲いかかってきて話すどころではなかったのだが、この大狼ならば話せるとリュートは思っていた。


『…俺の声が聞こえるか』

『…驚きました。貴方はモンスターと話せるのですか』

そういいながらも、この大狼に驚いた様子など全然感じない。


『どうやら、アンタは知性を持っているようだな』


『そうですね。あそこのスライム位にはあるのではないでしょうか』


『なら、そんな知恵を持つアンタが、唯俺達を追い出すために来たって事はないよな』

この大狼は何の目的で来たのかリュートが考えていると、大狼の声音が切迫した物に変わる。


『はい、貴方達にお願いがあって来たのです。本当は貴方の仲間である、そこのスライムに頼もうと思っていたのですが、ちょうど良かったです』


そこで大狼は血だらけの体で頭を垂れ、自らの願いを口にする。


『捕らわれた私の娘を貴方に助けてもらいたいのです』


『あんたの娘を助けろだと』

それはつまり、この大狼でも勝てない相手と戦えということだ。


『悪いが手伝う以前に、俺達じゃ足手まといになるだけだと思うが』


『確かに相手は強力です。脚が悪い私じゃ、勝てませんでした』

そういう大狼の脚は確かに後ろ脚の一本に

裂傷の痕がある。



『ですが! 貴方の力を借りればきっと娘を救える筈です』


『なぜ、そんな事が言える?』

確かにリュートは自分は少し強いと自覚している。脚が悪く動けない大狼なら、もしかしたら倒せるかもしれない程の力は持っているはずだ。



『貴方達を見つけた時に貴方ならば、貴方なら娘を救えると思ったのです』


『…一応、話だけは、聞いてやる』

リュートはらしくないと思いながらも話を聞くことにした。



警戒している、ニーナと事情は分かってるライムを見張りにやり、大狼とはリュートが二人で話す事にした。


こうすれば、この大狼が何かをしてきても念話をライムに飛ばして、二人は逃げられる。


『それで、何で娘は捕まったんだ』

『はい、あれは三日前でした』―――



簡単に話をまとめると三日前、この山でも

モンスターが少ない所に大狼の親子は、洞窟に隠れて過ごしていた。


脚が悪い母親の変わりに娘が毎日の食事を

とってきていたらしく、その日もいつもの様に娘は食料を探しに行ってたが、いつまで経っても、戻らない娘を母親が探すと数人のフードを被った人間が娘を捕らえているところに遭遇した。


もちろん母親は激昂して人間に襲いかかるが、脚が悪い上に数人の相手では、母親は勝てなかったようで、助けをよぶために必死で駆けてる内にリュート達を見つけたらしい。


『捕まえるという事は、相手はお前らが魔獣だと分かってたということか』

モンスターと違い、知性を持つ魔獣なら調教すればいうことを聞かせられる。


『はい、そして狙いは私だと思います』

『そんな脚なのにか、俺だったら娘を狙うが』


この脚が悪い母狼を狙うよりも、娘の方を

狙った方が建設的だと思う。


『いえ、娘はまだ固有魔法を使えないのです。彼らもそれに気づいてきっと娘を囮にします』


『なるほど、だから娘は無事だと思うと』

『はい、私達の固有魔法はそれだけ強力ですから』


『だったら、その固有魔法を使ったらどうだ』


『スミマセン、それは無理なんです。私はその魔法を3年前に使えなくなりました』


『それは、知られていないのか』


『はい、私達の種族は、物凄く少ないので知られていません』


これで状況は分かったがどうするか。

これで協力しても、俺には何のメリットもないし、普通に考えたら断るよな。


そこでリュートは母狼の全身を見る。


銀色の毛は血によって薄汚れていて、至るところに切られた痕や、魔法でやられたのか焦げている所もある。


間違いなく重症、いやそれどころかこの傷は……


『悪いが、断らせてもらう』


『待ってください! もう少しだけ考えてください』

断られる事は覚悟していた母狼だが、すんなりと諦める訳にもいかない。


『もう娘を助けられるのは、貴方達しかいないのです。どうかもう一度かんが…』

『じゃあ、条件がある』

『えっ』


『お前の娘を俺が助けたら二人で俺に忠誠を誓えば助けてやる』

仮面から覗くその目は、それ以外は認めないという意思を持っていて、母狼はその目を見てリュートの意思を感じる。


『……あなたまさか……分かりましたそれでお願いします』


『契約成立だ。まずは少しでも動けるようにその傷に回復魔法をかけるぞ』


『お願いします。……そしてありがとう』


母狼はリュートに心の底から感謝しながら思う。


これできっと全て大丈夫だと。



「―――というわけで、俺達はこいつの娘を助ける事になった」

母狼と話したことは、そのままニーナ達にも伝えたが、ライムとニーナは不思議そうな顔をしている。


「おい、なんだよその顔は」

「……なんか、リュート、へん」

『リュートさんが、そんな事を自らやろうと言うなんてと驚いているだけです』


確かに普段の俺なら真っ先に反対するだろう。


「もちろん、ただやるだけじゃない、助け出したら俺に忠誠を誓うという契約の下やるだけだ」


リュートは契約だからと説明したが、

「……そういうことに、してあげる」


まったく信じていなかった。



それから日が暮れ、空が暗くなる。


リュート達は山の中、母狼の嗅覚を頼りに娘の所に進みながら救出の作戦を確認し合う。


「いいか、最後の確認だ。娘を救出するために突撃するのは俺と母狼だけだ、二人は少し離れた所に隠れて、隙が出来たら娘を連れて天幕まで逃げる。 わかったか」


「……ん、わかった」

『お任せください』


『リュートさん、ここです。ここから娘の臭いがします』


「あれか」

リュート達が前を見ると、確かに四人のフードを被った男達が松明の前で座って、談笑している。


男達のステータスを見るために、リュートが神眼を使うと思いもよらなかった事が見えた。


「どういう事だ」

『どうしたのですか』


リュートの呟きにこの場にいるもの達が聞き逃さないようにと静まる。


「あれは、魔族だ」

リュートの目に見えたのは、全種族から嫌われている種族の文字だった。


松明の前に魔族が四人いるが、娘の狼がどこを見ても見当たらない。


「おい、娘がいないぞ」

『いっ、いえ居ます、あそこの木に』


近くの木を見ると、確かに一匹の銀狼が脚を紐に繋がれて、逆さまにぶら下がっている。


「おい、落ち着け!」

母狼の声や体が震えて、物凄く怒りを堪えているのが分かる。


『えぇ、平気です。ですがあのもの達は、地獄に送ってやりましょう』


「それは、任せるよ。俺はただ娘を助けるのを頼まれただけだ」


リュートは気配を消しながら魔族の一人に近づいていく、強化魔法を使ったリュートはあっという間に魔族の一人に気付かれずにたどり着き、剣を振り下ろす。


「甘いな」

その魔族は振り向きもせずに、リュートの剣をその腕に着いた小手で受け止める。


この程度で倒せるとは最初から思っていなかったリュートは次の攻撃に移る。


「いや、戦闘中に後ろを向くばかにいわれたくない」


「プギッ」

強化した足で勢い良く蹴ると魔族の首がへんな方向に曲がり、変な声を最後に魔族の男は絶命した。


「おいおい、魔族ってバカなのか」

仲間が死んだ所を見ていた、他の魔族がリュートの言葉にふざけるなと異論を挟む。


「そのバカと一緒にするな!」

「あれだけ、カッコつけるなと言ったのに」

「そうだ、あのばかと……ん、このガキ我らの正体に気づいているぞ」


そこで警戒を上げる魔族達、どうやら真っ先に気づかなければいけない事に気付かないほど、先程の奴と一緒にされたくないのか。


「貴様、我らの事を知ったからには…死ね」


一瞬でリュートに肉薄する魔族の速さは中々だ。


ニーナ達じゃあ敵わないだろう、…だかそれでもリュートには及ばない。


「なっ!」


迫り来る魔族よりも、さらに速く迫るリュートに驚きの声をだす魔族を斬りつけるリュートだが、違う魔族が放った魔法を避ける溜めに後ろにさがる。


ここまでの攻防でお互いに実力を理解した。


「なんだよあのガキ! メチャクチャつえーぞ」

「落ち着け、こっちは三人いるんだ」

「そうだよ、三人もいるんだから平気だよ」


一人の実力はこちらが上、数は向こうが上なら簡単だ。


「数を同じにしちゃえばいい」


「えっ」

魔族の後ろから僅かな気配も感じさせずに母狼が現れて、その肩に鋭い牙を突き立てる。


「ぎゃぁぁぁぁ、いつ現れたんだよ」

母狼の気配消失は一級品だ。リュートでさえもその気配を察知する事ができなかったのだ、実力で劣るこの魔族達が察知出来なかったとしても何ら不思議な事ではない。


「いてぇぇぇよ、このくそが! 命令がなきゃテメーなんていつでも殺せんだよ」

そういって、噛まれた方とは逆の手で腰に吊るしてた短刀を抜きとり、それを母狼の体に突き刺す。


『ぐぁぁぁ、今です。私が注意を引きますからその間に娘を』


「そんな手に引っかかるわけないだろ」

残りの二人がリュートに攻撃を仕掛けてくる。


魔族の一人が、リュートに向かって火の玉を飛ばしてくる。


火の玉をリュートは避けるが、避けた方向にもう一人が長剣で斬りかかってくるがそれをリュートは受け止める。


「チッ」

魔族は魔法で援護しようとするが、リュートは仲間と重なり迂闊には攻撃できない。


だが、そこで魔族が怒声を上げる。

「おい、テメーなにやってだよ、いいから早くうちやがれ!」

「ふん、なら死なないようにしろよ」

仲間に向かって魔族は火の玉を放つ。

(仲間ごと)


咄嗟に避けたリュートだが、熱が届き右腕を火傷したが、巻き添えを食らった魔族には何のダメージもない。


(こいつ、スキルを使ってない)


純粋な種族の差が肉体の頑強さに現れている。


このまま戦っても、二人相手だと流石に部が悪いと感じたリュートはここで少し本気をだすことにした。


「なんだ、このガキ雰囲気が」

「気をつけろ、嫌な予感が――」

言葉が終わる前にリュートは魔族の目では一瞬追えないほどの速さで一気に迫り斬りつける。


「はやっ」

「あぶねぇー」


このままでは仲間をやられると思った魔族は腕を突き出し、腕で止めて見せた。魔族の腕と引き換えに、リュートは斬撃をふせがれた。


剣は腕にはまったまま抜けず、この時リュートの足は止まってしまった。


「おかえしだ」

動きを止めたリュートを魔族は殴ってぶっ飛ばす。


「ただのパンチがなんて威力だ」

魔族の拳の威力は絶大でリュートの腕がしびれる。


魔族はやはり強いとリュートは思う。今のリュートじゃあ二人相手が限界で、長引いたら自分がまけてしまうかもしれない。


「俺がもう一段階強くなるいい機会だ」


ファートス村に来る前に取得していたスキル俊敏を使う。


その瞬間、今度こそリュートは魔族の反応速度を確実に超えた。


「なっ、どういう事だ」


片方の腕でだけじゃなく、もう片方もなくなっていた事に気付く、一瞬で自分が知覚する事もできずに斬られたのだ、間違いなく、自分達は殺される。


「やれー! 俺を殺すつもりの全力で魔法をうちやがれー」

状況を見てもう助からない自分を殺せる程の魔法を放てと叫ぶ。


「あぁ、悪いな」

そう言って魔族はリュートを殺すための魔法を放つために魔力を練る。


「そんなのさせると思うか」

「あぁ、思うぜ」

魔法が完成する前に倒すつもりのリュートに腕が無いにも関わらず、体全体でしがみついてくる魔族。


火事場の馬鹿力という奴なのかしがみつく力はとても強い。


「喰らい尽くせ」

そう呟かれた言葉と共に黒い炎が放たれる。


あれが魔族だけが使えるという闇魔法なのかその熱量と威力の高さが見ているだけで伝わってくる。


「一緒に死んでもらうぜ、ガキ」

黒い炎はそのまま魔族とリュートを飲み込んで爆発した。


額から汗を流し、息も乱れながら闇魔法が

爆発した影響で出来た土煙を見つめる。


「やったぞ、倒したぞ」

闇魔法の威力は他の魔法とは威力が違うのだ、それを真っ正面から食らったんだ生きている訳がないし、仲間も確実に死んだだろう。


「悪いな、だがお前のお陰で倒せた」

心の中で自分から犠牲になった仲間の冥福を祈る。


「う~ん、中々の威力だな」


その時倒した筈の少年の声が聞こえた。

「ばっ、バカな」


土煙が消えるとダメージを受けた様子がない少年が悠々とたっている。


「なぜ生きているー!」


「いくら闇魔法が強いからって、俺とお前の実力が違えば防ぐ事は出きる」


リュートは防御系のスキルを使い守りを固めていた。その防御力かなりのもので、実際、闇魔法を一緒に食らった魔族はその強靭な体をバラバラにしながら死んだ。


今のリュートはそれ程の威力を持つ攻撃なら無傷で防ぐ事ができる。


(急がないとヤバイな)

先程から一人の魔族を足止めしている母狼だが、その体には新たにできた傷がいくつもついている。


これでは娘を救いだす前に母狼の方が死んでしまう。


『ライム、母狼が危ない、罠とかあるかもしれないが助けるなら今だ』


あんな無防備に木に吊るしてるんだ、何かしらの罠があるのは間違いない。


本当はそれを確認してから助けに行くつもりだったがこのままじゃ母狼が娘に会えずに死ぬので急いで助ける事にする。


『今行きます!』


これでライムとニーナが動き始めただろう、俺は目の前のこいつが要らぬ手を出さないようにさっさと倒すだけだ。


「だったらもう一度!」

そういい焦りながら魔力を練る魔族だが、

それは無謀すぎる。


「おい、さっきの仲間がやってくれた事を忘れるなよ」

そんな時間がかかる魔法をリュートはわざわざ撃たせるような事なんてしないし、ここにはリュートを足止めできる者もいないのだ。


短剣を持ちながら迫って来るリュートに魔族は怯えながら無理矢理、半端な魔力で魔法を放つ。


「しねぇぇぇ」


「最後の最後でそれかよ」


半端な魔法をリュートは剣で切り裂き、魔法を放った魔族にもその刃を突き立てた。


「ぐっ、くそが、だがみてろ人間などあの方のまえでは」


話してる途中で絶命した魔族はそのまま地面に倒れる。



「お前が離さないから、仲間が死んだじゃねーかよー」

その声に振り向けば最後の魔族が今だに母狼に肩を噛みつかれながら短刀で体を刺し返している。


『リュートさん、娘、助けましたよ』


ライムからの念話が届き、木の方を見てみると、ニーナとライムが母狼よりも小さな狼を地面に下ろしていた。


これで母狼の望は叶えた。


「おい、そこのお前! 狼の娘はもう救出した。逃げるなら今だぞ」

もちろん逃がすつもりはないが。


魔族の肩から牙を抜いた母狼がリュートの所に向かう。


『本当ですか!』

母狼にリュートは娘の方向に指をむけると、母狼は涙を流しながら、感謝を述べる。


『ああ、ありがとう、本当に貴方に頼めてよかった』


「くっ、ふふふふ、はははは」


突然最後の魔族が高笑いを始める。


「助けちまったのか、ならしょうがないよ、これは使いたくなかったんだよ」


やはり、何かしらの切り札は持っていたのか、先程のリュートの強さを見ていながらの、この余裕相当自信があるのだろうか。


『母上にげて!』

そこで聞いたことのない叫び声が聞こえてきた。


娘の狼の方を見ると目を覚ましている。


(にげろ? 何からだ)

リュートの思考が娘の狼の叫んだ内容に向いた瞬間、行きなり大型の犬のモンスターが現れた。


『あっ、あれは』

母狼が現れたモンスターを見て驚きの声を上げる。


大型のモンスターは漆黒の毛に頭部を二つ持っていて、蛇頭の尻尾を三本生やしている。


『あれは、オルトロス、強力なモンスターです』


母狼に言われるまでもなく、目の前のモンスターが強力なのはわかっている。


(この迫力を感じない訳がないだろ)


リュートがステータスを見るとその数値は母狼より少し劣るが、脚が使えず、瀕死の状態の母狼よりもこのモンスターのが強いだろう。


「ハハハ、これでお前らはおわ――」

犬のモンスターが味方であるはずの魔族を食い殺した。


モンスターの口からは骨が砕ける音や肉を噛みちぎる音が、微かな呻き声と共に聞こえてくる。


『母上、ご無事でしたか』

唯成り行きを見守っていたリュートと母狼の所に助け出した娘の狼が駆け寄ってくる。


『ええ、私は無事よ、貴方も無事でよかったわ』

再会した親子は首をクロスし合う。


そこで母狼の出血と傷の多さに娘の狼が気づいて悲しみの声を上げる。


『なっ! これが全て母上の血ですか』


『これくらい大丈夫よ、それよりも助けてくれたこの方達に感謝しなさい』


そこでリュートの方を見て娘の狼は頭を下げて感謝の意を表す。


『この度は、助けて頂きありがとうございます。……そしてどうか母上の傷を治してはくれませんか』


娘の狼は声に悲痛さを交えながら懇願してくる。


『悪いなそんな時間はない』


大型の犬のモンスター、――オルトロスがこちらを向いて歯を剥き出しにしている。


『ギハッ、まさかフェンリスヴォルフに会えるとは、食べごたえがありそーだ』


狼を食べるつもりなのか涎をダラダラとこぼしながら、ニタニタ笑っている。


(……こいつも魔獣か)


ステータスの強さに知恵を持つとなるとやっかいさがさらに増す。


『あいつの命令なんて聞きたくなかったけど、今回は褒めてやりてーぜ』


この魔獣は使役されてるようだが、このモンスターさえ従えるとは、どれ程の強さの者が命令を下したのだろうか。


『それにそこのガキ、お前も中々うまそうだ』


リュートもどうやら狙いをつけられたようだが、簡単に食われる訳にはいかない。


「まずは、…一発」


普通に戦ってもリュートでは敵わない。


だから最も油断してる今が攻撃のチャンスだ。


強化と俊敏同時での攻撃だ、これが今のリュートの最速でもある。



『ハハハ、おせーよ』

だが、その最速をモンスターは軽く越えてくる。


オルトロスのステータスの中で最も数値が高いのが敏捷だ、リュートではその動きについていけない。


『くらいな』


オルトロスはリュートが剣を振り上げた所を蛇頭の尻尾で撃ち抜く。


「…っ!」

お腹に衝撃が来て、胃液が込み上げてくる。


『ギヒッ、さっきも見てたけどお前頑丈だな』


リュートはお腹を打たれが、倒れる事はなかった。どうやら耐えられたようだ。



(どうする…速すぎて攻撃できない。何かで足止めしないと)


リュートが攻撃の手段を探していると後ろから声をかけられる。


『……私がやります』

『なっ! 母上、無茶です』


母狼もこのままでは倒せない事は分かっているので、足止めに志願する。


(確かに方法はそれしかない)

リュートでは目で追えない速さも母狼ならば追うことが出きるだろう。


本当にいいのかと視線で訴えると、母狼は唯静かに頷く。


『お願いします、私にやらせてください』

その目は決死の覚悟を決めていて、リュートはすぐに決断する。


『頼む』


母狼が前に出てオルトロスと向き合う。


『ギヒッ、待っていたぜー』


オルトロスが母狼に向かって走り出す。


その速さはリュートでもギリギリ見えている速さだ、もちろん母狼も見えているだろうが、脚が悪い母狼じゃあ避ける事はできない。


『ガァァァァ』『ギシャャャャ』


お互いに首を噛み合う2体のモンスター。


だけどオルトロスには首が二本ついてあり、もう一方の首が母狼に向かって、さらに噛みつく。


『くぅっっ』

『母上! 待ってください今助太刀に』

『ダメよ! 貴方はそこで見ていなさい』


母狼はオルトロスの首から牙を抜いて、体を捻らせる事で、無理矢理オルトロスの牙から抜け出した。


『オイオイ、なんて無茶やってんだよ。ギヒ、オモシレー』


母狼の首の肉はかなり抉れている。


『ハァ、ハァ、その程度なのかしら』

母狼は瀕死ながらも闘志を僅かながらも緩めない。


『ギヒッ、ならここから速さを上げるぜ』

そう言って速さを上げたオルトロスの動きは、リュートにはもう捉えられない。


母狼は目で追えてるが、何もできずにその体に傷を増やしていっている。


何をしているかは目で追えないが、傷から見るに爪で体を切られているらしい。


『オラオラどうした、やり返さないのかー』


優勢のオルトロスは攻撃の威力を少しずつ上げていく。


『ぐぅぅぅ、調子に乗るな!』

傷を増やしながらも、母狼も唯やられるだけじゃない。


怪我をして瀕死の状態でも母狼―――フェンリスヴォルフもまたオルトロスに劣らな

いステータスを誇るのだ。


リュートが見れたのは母狼が腕を上げて、オルトロスがぶっ飛ぶ所だった。


『このやろー、やりやがったな』

『私の脚が怪我してても貴方に攻撃し返す事は出きるのよ』


どうやら攻撃を仕掛けてきたオルトロスを母狼がカウンターで殴り返したらしい。


これなら脚が悪い母狼でも攻撃出きるし、攻撃の威力も相手が速い分上がる。


『くそが、いてーじゃねーか…もう死ね』


オルトロスは二つの口から母狼に向かって黒い炎を吐きだし、それが空中で重なりあい炎が大きくなる。


『こんがり焼いて、たべてやるよー』


対する母狼もその口から灼熱の炎を吹き出す。


高威力を持つであろう二つの炎がぶつかり合いその余波を周りに散らしながら爆発する。


『母上ーー』


砂煙が巻き上がる爆発地に一つの影が浮かび上がる。


『ギヒッ、残念だったな』

現れたのは体を傷や血だらけにしながらも

笑いながら立つオルトロスだった。


『はっ、母上はどこだ』

砂煙がひどくて母狼の影が見えない。


『まさか』

母の影が見えないのは起き上がってないからではないのかと娘の狼が思っていると、わずかに地面に横たわっている母らしき影が見えた。


『母上! 起きてください母上ー』


『ギャハハハハ、どうやら俺様の勝ちのようだなー』

オルトロスが勝利の高笑いを上げる。


『違うな、勝ったのは』


『アッ、なんだ』

砂煙に紛れてリュートはオルトロスに向かって剣を振り上げる。


『ギヒッ、バカが、確かにダメージはあるがテメーの攻撃が俺様に当たるわけ――』


オルトロスはそこで自分の脚が動かないのに気付く。


『なっ、なんだ、何で脚が動かない』

急いで足元を見ると、その脚に母狼が噛みついていた。


『てっ、テメー離しやがれ』

オルトロスが必死に引き剥がそうとするが、母狼は決して離すことがないように全部の力を噛みつきに込めている。


『残念、勝つのは……俺達だ』

リュートは全力の力を一撃に込めてオルトロスを切り裂く。


『ぐぁぁぁ!』


リュートの大上段からの一撃はオルトロスの肉を裂き、骨を、魔核さえも切り裂いた。


魔核を破壊された、オルトロスは地面に倒れ舌を伸ばしながら絶命した。

リュートの頭にステータスが上がった声がするが娘の狼の声にそちらに気をとられる。


『母上? 母上!』

声の方を向くと母狼が倒れていて娘の狼が必死に呼びかけている。


『傷を治さないと、おい、そこの貴様! 早く母上に回復魔法をかけろ』


『けほっ、やめなさい。……どうせ無駄よ』

『えっ』


そう、いくら回復魔法をかけても、もう母狼は助からない。


『魔核をやられてるから回復魔法は意味がない』


『やっぱり気づいていましたか』


リュートは神眼でステータスを見たときに気づいていた。


『母上、待ってくださいまだ死んではだめです』


『そうだ、死ぬなら俺との契約を守ってからにしろ』


『そうでしたね、貴方に忠誠を誓う約束でした』

リュートと母狼の契約の内容を聞いて娘の狼は驚きの声を上げる。


『母上なんて約束を、私達銀狼の忠誠は一度誓ったら、一生取り消せないのですよ』


銀狼は一度忠誠を誓ったら一生をその主と過ごし、またその主が死んだら自分も死ななきゃいけないという決まりがある。


『早く誓え、俺の配下になると』

リュートは絶対にこの約束を破るなと目で告げる。


『貴様! こちらの弱味につけこんで、そんなの誓えるわけが』


『はい、誓います』

『母上! なぜこんな奴に』


母狼はちゃんと理解していた。

自分が死んだら娘は一人になると、リュートはそうさせないために忠誠を誓うという条件をつけたことを。


なんて優しい人。

母狼はこの人に会えてよかったと感謝の気持ちでいっぱいになる。


『あぁ、そうだわ、貴方に名前をつけないと』

これからは人と暮らすのだ、名前がなければ不便だろう。

これが最後にあげられる贈り物ができてよかった。


『そうね、フェリスなんてどうかしら』

我ながら中々可愛い名前が浮かんでよかったわ、あぁ、もうなんて顔をしているの。


『母上ぇぇぇ』


『もう、泣かないの、…リュートさん、約束お願いしますよ』

『あぁ、約束は守るよ』


よかった。もうこれで思い残す事はない。


あぁ、だんだん眠くなってきたわ。


『最後に主従契約をかけるぞ』

リュートから契約の力が母狼に流れ込む。


『暖かい、本当に暖かいです』

体が暖かくなり体もかるい。


『せめて安らかに眠れ』

『はい、ありがとうございます。彼女達にも感謝してると言っといてください』


先程から静かにしているニーナとライムを母狼は見る。


彼女達が仲間ならこの娘も平気だろう。

もしかしたら恋敵になるかもしれない二人だけど仲よくしてね。


『あぁ、フェリス貴方を心から愛している…わ……』


『私もです、母上……』

こうして娘の為に死力を尽くした母狼は眠りについた。


その夜は悲しみの慟哭が途絶える事はなかった。


月明かりの下、仮面に隠れたリュートの表情は見えないが、この母狼の生きざまは確かに胸に刻まれていた。





この話は前から書きたかった話なので書けてよかったです。


誤字脱字や感想等があったらどしどし送ってください。


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