3話:試練と力
今回ステータスをあえて極力のせないで書いてみました。
宿で泊まり二日目、リュート達は朝食を食べに食堂に来ていた。
「……ギルドにはいつ行くの?」
今日はギルドに、ランクアップの試験についての話を、聞きに行くことになっている。
「時間指定されてるわけじゃないし、お昼前くらいに行けばいいだろ」
『じゃあ、その間この村をみて回りましょうよ』
今日もショルダーバックに隠れているライムが念話を送ってくる。
「…と、ライムが言っているけど、どうする」
ライムとの念話はスキル主従契約の効果なので、ニーナにはリュートが通訳をしなければならない。
「……いく、お肉たべたい」
どうやら村で食べた、串焼きを気に入ったらしいニーナもライムの提案には賛成のようだ。
「確かにあの肉は絶品だったよな」
今、食べている。豆がはいったクリームスープもそうだが、この世界の料理はやたらと美味しい。
こうしてギルドに行くまでの間は町を探索する事に決まった。
「こうして歩くとこの村本当に辺鄙な所だな」
ギルドがあるからまだ人はいるみたいだが、周りを見ても住人の数が少ないのが分かる。
これといって行くところが見つからないので、早めにギルドに向かう事にする。
「せっかくだし昨日の串焼きを買っていくか」
「……ん、わかった」
このまま、ただギルドに行くのも勿体ないし、あの串焼きならニーナも気に入ってるし、喜んでくれるだろう。
相変わらず舌で蕩ける肉を食べながら、歩いているとギルドで絡んで来たモーブがギルドから出てくるところだった。
こちらに気づいたモーブは顔を強ばらせる。
敵意もないが、こうあからさまな変化は周りに違和感を与えるだろう。
(仕方ない、こちらにも敵意が無いことを伝えとくか)
明らかにこちらに気づいてから歩くスピードを上げたモーブに声をかける。
「すみません、少しいいですか」
「なっ! なんだよ」
(もっと堂々としろよ、明らかに昨日と違いすぎるだろ)
幸い周りには誰もいないが、見られていたら、リュートが報復でもしたのだと思われるのは確実だ。
「いえ、大した事じゃないんですけど、この村には武器屋がないのに、皆さんはどこで揃えてるのかと思いまして」
「そっ、それは、ギルドで買えるし、こっ、…こだわるなら近くの村に行ってそこの武器屋で買うんだ。なぁ、もう行っていいか…ハハ」
「はい。もう大丈夫ですよ」
「ほっ。……なら俺はもう」
「あぁ、あと一つだけ」
「なっ、なんだよ」
安心したところをさえぎられて、緊張を高めるモーブに、リュートは仮面から覗く金色の瞳でモーブを貫ぬいて。
「その、こちらを怯える態度を止めろ」
そう言われて自分が過剰に怯えていたことに気づいたモーブは心の中で叫ぶ。
(じゃあ、その喋り方を止めろよ。怖えーよ)
モーブの言うとおり、自分よりも圧倒的に強いリュートが普通に丁寧に話しかけてきたら、普通に怖いだけなのだが、怖れを知らないリュートにそれは理解できないことだった。
「あぁ、分かったよ、お互い近づかないようにしよう」
モーブがそそくさと、その場を立ち去る。
(近くの村か、そこに行くのもありか)
ランクアップの試験では武器も使うだろうし、装備は整えた方がいいだろう。
先の事を考えながら、ギルドの扉を開ける。
「アッ、リュートさんに、ニーナさん」
3人いる受付嬢の一人のメイリーが声をかけてくる。
「お早うございます、メイリーさん」
「……んっ、おはよう」
ちなみに名前は本人から呼んでと頼まれたので呼んでいる。
「ランクアップの件ですね。別室にて担当の者からの説明があるので案内します」
受付嬢のメイリーに案内された別室には
筋骨隆々ではげてるガタイのいいオッサンが椅子に座っている。
こちらを向くその顔は中々の強面で、その顔を恐がるニーナがリュートの後ろに隠れて、服の裾をちょっと摘まむ。
こちらを向いていたオッサンは相貌を崩して豪快に笑う。
「ガハハ、君達がメイリーちゃんが言ってたリュート君にニーナちゃんか。確かに中々の逸材だ!」
「彼はこの町のギルド長です。今はやっていませんけど、昔はBランクの実力の持ち主だったんですよ」
「ガハハ、そうワシが、ギルド長のバルタだ」
まさかギルド長が担当をするとは思わなかった。
そんな事を思っていたら、ニーナが小声で呟く。
「何で、ギルド長が担当?」
同じ事を思ったようだ。
「ガハハ、人手が足りないというのもあるが、ワシがメイリーちゃんの話を聞いて会いたいと思ってな、こうして担当する事になったのだ」
(わざわざ、最低ランクの俺達に会いたかった。まさかこのオッサン)
バルタと、目が合う瞬間、僅かに殺気をとばしめくる。
やはりこの男は薄々とこちらの実力に感ずいている。警戒する必要があるようだ。
「ご存知かと思いますが、僕はリュートでこちらが僕の仲間であるニーナです。どうぞよろしくお願いします」
「ガハハ、こちらこそだ。君達の才能には期待しているぞ」
「いえ、僕達なんて、まだまだです」
「ガハハ、そんな事はないだろう。これでも元Bランクなんだ。人をみる目には自信がある」
「あはは、それは光栄です。強くなれるように頑張ります」
「ガハハ、おうガンバレ」
「アハハ」
「ガハハ」…………
……こわい)
空笑いを上げ続ける二人の後ろでニーナは怯えていた。
………
……
…
「ガハハ、それで試験の内容だが、君達二人には、こちらが指定する場所に3日間居続けるという物だ。まずコレができないと冒険者はできないぞ」
ただ実力をみるだけじゃなく、野営の準備や、常に集中できるかなど、依頼で何日も
出ないといけない時を想定しているのだろう。
「分かりました。それで試験をやる場所というのは」
「ガハハ、君達には、ビースト山に行ってもらう。そこのモンスターは警戒心が高く、また隙を見せたら襲ってくるようなモンスターがうようよいるところだ」
それはおかしいだろう。そんなところはFランクの試験で行くような場所じゃない。
受付嬢の方を見ても、その顔は明らかに暗い。前もって聞かされていたか。
「分かりました。その試験受けます」
リュートはそれをニーナ達に確認する事なく承諾する。
試験の内容に関わらず、決定するのはリュートだと、昨夜決めておいた。
「うん? いいのか、考えてもいいんだぞ」
バルタも即決されるとは思ってなかったのか、聞き返してくる。
だけど、リュートは最初からこういう試験をまっていた。
「いえ、必要ありません。直ぐにでも受けられます」
バルタはリュートを数秒間見つめ、心底嬉しそうに笑う。
「ガハハハハハ、そうかそうか、どうやらワシが思ってた以上の逸材のようだ、…よし」
そこで受付嬢に顔を向ける。
「メイリーちゃん、今夜から試験開始だ!
……リュート君達はそれまでに準備しといてくれ」
リュート達が準備をしに宿に帰っていった
後、ギルドの別室では、ギルド長と受付嬢が話していた。
「ギルド長、本当にいいんですか! リュートさん達をDランクレベルのビースト山に行かして」
しかも、試験を受けるのはまだ小さな子供だ。Dランクレベルのモンスターになんて命を捨てるような物だ。
受付嬢の言葉に対しバルタはただ小さく肩を揺らすだけだ。
「くっ、安心しろいメイリーちゃん。あの坊主はちゃんとその事に気づいておるわ」
「そんなまさか! 知っていて試験を受けるはずが」
メイリーの指摘は最もだ。最低ランクの者が、それも十歳の少年がDランクレベルの試験を普通は受けないどころか、その機会すらないのが常識だ。
「ガハハ、メイリーちゃんも知っているだろう。Aランクから上の奴等は常識じゃあ計れないのを」
それはつまりあの少年がそのレベルだという事で。
「まさか! リュートさんがAランク並みの実力だと!」
「いや、まだそこまでの力はないだろう……だが、確実にあの少年はAランクになるぞ」
元Bランクの者の放つその言葉は確かな重みを持ち、メイリーは知らず知らずに唾を飲み込む。
バルタは先程の少年に殺気を放った時を思い出す。
(ワシの殺気をそよ風の如くながすとはな)
少年のこれからを思うと笑みが漏れる。
「ガハハ、楽しみだ! 少年」
この後、バルタ達は一人の少年の伝説の一ページ目を目撃する事になる。
場所は変わりファートス村の門前、試験の準備を終えたリュート達は集まっていた。
「すみません、馬車を用意してもらって」
「ガハハ、気にするな。歩いていくんじゃ時間がかかるしな」
時刻は夜の9時、今から馬車で出発してもビースト山に着くのは、朝方だ。
歩きだと、3日はかかる。
「ガハハ、では少年、健闘をいのるぞ」
「気をつけてくださいね、リュートさん、ニーナさん」
「大丈夫ですよメイリーさん。きっと帰って来てランクアップしてみせます」
「……がんばる」
そうして見送られながら、馬車に乗り村をでるリュート達は朝に備え、睡眠につく。
馬車の揺れで目を覚ましたリュートは体を起こす。
『リュートさん、起きていたんですか?』
人間程眠らなくても平気なスライムであるライムが念話を送ってくる。
「いや、ちょっと目が覚めてな」
そのまま、窓から空を見上げる。
「月が綺麗だな」
『そうですね』
この世界の月は空気がきれいだからだろうか、嫌にキラキラしている様な気がする。
「悪いな、ライム」
『何がですか』
「ここ最近宿でしか話してないだろ」
町では何があるかわからないので気が少しでも散る念話は極力使わない様にしてた。
人間みたいに感情を持つライムはきっと寂しかっただろう。
『大丈夫ですよ、それは寂しくなりますけど、でもこうしてリュートさんと二人で綺麗な月を見れて私はうれしいですよ』
月が綺麗なせいだろうか、少し心が暖かくなるのをリュートは感じた。
「そうだな。本当に綺麗だ」
たまには月を見上げるのも良いかもしれない。
たどり着いたビースト山は麓から山頂にかけて緑を濃くしていき、登る事に入り組そうだ。
「……ここ、登るの」
少しめんどくさそうなニーナ。
「まぁ、ちゃんと登ったか確かめるために魔石を二十個は持っていかないといけないからな」
まぁ、前のゴブリンよりは手応えがあるだろうし、リュートは少し楽しみにしているのだが。
……よわい
コレが山を登り始めたリュートが、初遭遇したモンスターに対しての感想だった。
アックスビークという鋭く分厚いくちばしを持つ大型の鳥だが、スキルを持ってないし、ステータスも千台とスキルを使うまでもなく倒せてしまった。
「おいおい、登る事にモンスターが強くなるって言ってたが、この程度から少し強くなったくらいじゃ物足りないぞ」
張り切ってただけに、拍子抜け感が否めない。
その時ニーナがリュートの所に進み。
「……リュート、わたしがやる」
「う~ん、まぁ、同じ位のステータスだし、ここはニーナにまかせるよ」
「……んっ、まかせて」
目に力を入れて、私に任せろという雰囲気をニーナは放つ。
タイミング良くモンスターが現れた。
犬の頭を持ち武装をした人型のモンスターだ。
スキル【神眼】を使うと、コボルドとでた。
スキルは剣術を持っており、ステータスの数値も力から始まり、1500、2000、1800と
ニーナにとっては数値上では苦戦する相手だ。
ニーナのステータスは、コボルドよりもそれぞれ200ほど数値が低い。
コボルドがニーナに攻めかかる、中々の剣速だ。スキル剣術を使っているのだろう。
それに対するニーナの得物はナイフ2本だが、問題はない。
あの程度のモンスターならニーナは確実に勝つ。
コボルドが振った剣に対し、ニーナは自ら前に出て一本のナイフを相手の刀身に当てそのまま滑らせるようにして、剣筋をそらす。
「……これで、おわり」
もう一本のナイフで首を裂く。
首から出血し絶命するコボルドの所に行き、その心臓から魔石を抜き取る。
「……二つ目」
「また、動きが良くなったな」
ニーナは中々の天才だ。
技術はまだ未熟だが、咄嗟の反応がずば抜けている。
『う~、あれでステータス制限されてるんですよね。それなのに私よりも強いなんて……』
自分の弱さを悔やむライムだが、ライムも充分に強い、まぁ、リュートのスキルと合わさった時に発揮できる力だが。
「まぁ、これからだ、また狩るの手伝うよ」
『はい…ありがとうございます』
少し落ち込んでるがちゃんと警戒はしてるし大目にみよう。
それからも登り続けてモンスターが現れたらニーナが倒し、数が多い時は、リュートやライムが手伝うという事を何回か繰り返すと、次第に現れるモンスターが減っていった。
ギルド長のバルタが言っていた通りこちらを警戒し始めたのだろう。
ここからが勝負というわけだ。
登り始めてから数時間がたつ頃には、山の中間にたどりついていた。
暗くなり始める前に野営の準備をする事にしたリュート達は、どこかいいところはないかと探していた。
「ここでいいだろう」
リュート達は少し開けていて、ちゃんと周りを見渡せる場所に天幕を張る事にした。
天幕を張り終わり、一休みしようとした、リュート達の耳にモンスターの足音が聞こえて来た。
その足音にリュートは戦慄する。
(気配を感じれなかった。それに今の足音はわざとたてたものだ)
今のリュートの察知能力を掻い潜るモンスターは、よっぽど気配を消すのがうまいか、Dランクよりもさらに強力なモンスターじゃないとできない。
リュート達が遅すぎる反応をとると、一匹の大狼が至る所から血を流しながら立っていた。
リュートはスキル【神眼】を使い、そのステータスを視ると、驚愕した。
フェンリスヴォルフ
Lv:100、HP1000/40000,MP2000/30000
力20000,耐久22000,敏捷28000,器用3000
スキル:滅炎/綱化、大牙、瞬転、炎魔法
この時リュートは、初めて圧倒的な力というものをみた。
この大狼は何をしにここに現れたのか。
僅かな敵意も感じないこの大狼が何を起こすのか、何か大きな事が起こる予感を感じながらも、
「ハハッ」
リュートはただ笑う事しかできないでいた。
次回新ヒロイン登場!
ステータスがあった方がいい等の感想があればもどします。
誤字脱字や感想等があったらどしどし送ってください。!




