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異世界転生(運命から逸脱した者)  作者: わたあめ
間章~異世界の勇者~編
14/52

3話:贖罪と決断

この話は追加した話です。

一度解散してから一時間程たった頃、優奈は鈴と桃花と別れ一人王城を出歩いていた。

自分がどこを歩いているのかは分からない。

それでも龍聖の死を聞いて落ち込む優奈は一人になりたかった。


「あれ? ここはどこだろう」

優奈はキョロキョロと顔を左右に向ける。

すると道は真っ直ぐ続いて左右に窓のような穴があることから自分が棟と棟を繋ぐ通路に居るとわかる。

優奈は幾つも連なる窓の一つに近づき外の景色に目を向ける。

「……きれい」

優奈の視線の先には城下に広がる街が見える。どうやら知らぬ間に城の中でも高い所に来ていたと今さらながらに気づく。


「……ん」

優奈が視線を下に向けると花壇と噴水がある広場があった。





時間が経つこと三十分、優奈は広場に来ていた。

色とりどりの花が植えられた花壇に水柱を上げる噴水、優奈は噴水の端に腰かけて広場を見渡していく。


花壇に植えられた花の彩りが香りがその上を飛ぶ見たこともない色彩の蝶が優奈に小さな感動をあたえる。

「本当にきれい……でも」

――――でも本来は龍聖が見るべき光景だった。

その思いが優奈の気分を更に沈める。


「そんな所でどうしたのおねぇちゃん」

「だっ、誰!」

突然かけられた声に優奈は勢いよく振り向く。

「……君は誰なの」

優奈の向いた先にはプラチナブロンドの少年がいた。少年は後ろ手に手を組みニコニコと笑っている。

「もしかしてここの王子様?」

少年は仕立てのよさそうな燕尾服を着ていた事から優奈はそう思い少年に尋ねたが少年は首を横に振る。


「僕は王子様ではないよ。ただ、ここにはたまに来ているんだ」

「そうなの」

少年の答えに優奈は城に出入りする貴族か何かだと考える。


「まぁ、それはいいじゃないか。それよりも質問に答えてほしいな」

「質問?」

「うん。じゃあもう一度聞くよ。こんな所で何をしているんだい」

何でそんな事を聞くんだろうと思いつつも優奈は少年の質問に答えようとする。

「何でここに……あれ、なんでだろう?」

広場に来たのは特に意味のないただ何となくというものだ。優奈は少年の質問に答える事ができなかった。


「そんな事僕に聞かれてもねぇ、うーん、おねぇさんに心当たりがないということは何か悲しいことでもあったのかな?」

「何で!」

「アハハハ、その図星を突かれたような顔、おねぇさんは分かりやすいな。何、簡単だよ。人が意味もなく出歩くのは大抵一人になりたいからさ、おねぇさんのような女の人なら悲しいことでも起きたってわかるのさ」

少年が話した推理に優奈は本当に子供かと驚く。


「すごいね。正解だよ」

「ハハハ、まぁ、ボクは名探偵だからね」

そう言った少年は優奈の隣に座る。

「それでお姉さん、何があったか僕に話してみない?」

少年は子供らしく無邪気な顔で笑った。






「――――ということがあったの」

優奈はどうしてか少年に話をしていた。

もちろん、細かいところは教えてはいない、話したのは自分の無力さで大事な人を見殺しにしてしまい、それなのに自分はのうのうと生きているという所だった。


「なるほどね~」

「こんな話ごめんね」

相手が少年だからこそ話せたのだが少年に話す内容でもなかった。

「いや、いいよ。中々興味深そうな話だったし……っと、これは失礼だったね」

「それは、別にいいけど」

優奈は少年に対して怒りを感じるのではなく自分の話を興味深いと言ったことに驚いていた。

――――本当に子供なの。

十歳くらいであろう少年の瞳に宿る知性を感じとり優奈は無意識にそんな事を思っていた。


「そうかい、それならよかった。しかし、お詫びはしなければならない」

「いや、そんなの」

自分は気にしていないのにお詫びをされるとむしろこちらが気まずいと優奈は手を振りながら伝えようとする。


「そこでどうだろう……お姉さんの悩みに僕なりの答えを教えるというのは」

「えっ」

しかし、少年の言葉により優奈は固まり言葉を詰まらせる。

「どう、聞きたくないかい?」

少年はニコニコと笑みを浮かべながら優奈に尋ねる。


「わ、私は……」

聞いてみたい。それが優奈の本心だった。

だが、自分の悩みの答えをもらうということは自分の罪悪感を誰かに減らしてもらうということだ。

何もできずに龍聖を見殺しにしてしまい、その罪悪感を他の誰かに減らしてもらおうなんて思ったら優奈は自分が許せそうになかった。


「なに、お姉さんの考えは何となくわかるよ。でも、安心して僕の答えはお姉さんの望みに沿っていると思うから」

「私の望み?」

「そ、だから僕の話を聞いても損はないと思うよ」

少年の言葉を聞いた優奈は少しの間逡巡してからコクリと小さく頷いた。

少年は優奈が頭を下げた瞬間ニヤリと心底嬉しそうに顔を歪める。


「何、簡単の事さお姉さんが大事な人を見殺しにしてしまったのならそれよりも遥かに多くの人を救えばいいのさ」

「人を救う……」

「そうさ、無力な自分を乗り越えるために人を救って救って救いまくる。最も尊く最も残酷な道を選ぶ……それが僕のだした答えさ」

少年の答えを聞いた優奈は呆然とする。

しかし、同時に納得していた。

――――そうか、これは罰だ。

少年は知らないと思うが優奈が人を救うとなったらそこらの人を助ければいいということではない。

勇者の優奈には力がありその力に見合う人助けを行うとするのならそれは、魔族との戦争に行けと言うのと同義だと優奈は考えていた。

「お姉さんは僕の答えを聞いて悩みが解決できそうかい?」

「私は…………」

少年に尋ねられた優奈は口を開く。






「鈴ちゃん、もう結構な時間が経ってるけど優奈ちゃん帰ってこないね」

「うん」

優奈が部屋を出てから既に風虎が決めた二時間になろうかというほど経っていた。

その間桃花と鈴は何をするでもなくベットに座り、優奈の帰りを待っている。

「優奈ちゃん、大丈夫かな」

優奈が龍聖に幼い頃から恋心を抱いていた事を知っている桃花は心配そうにする。

「大丈夫。優奈はああ見えて誰よりも強い」

「優奈ちゃんが?」

桃花はどういう事不思議そうにする。

「そう、優奈はどんなに辛いことがあっても最後には必ず立ち直る強さがある。だから大丈夫」

それは、付き合いの長い親友といえる鈴だからこそ知っている優奈の一面、桃花はその一面を見たことがない。

「よかった」

だけど桃花は鈴の言葉に少し安心したようにする。

たとえ自分が知らないことでも友達である鈴の言葉は桃花に安心をもたらせていた。


ガチャ、ドアノブを誰かが回す音が鈴と桃花の耳に届く。

「優奈」

「優奈ちゃん」

扉を開けて入ってきたのは、部屋を出ていた優奈だった。


「遅くなっちゃってごめんね」

エヘヘと優奈が笑いながら二人に謝る。


「優奈?」

優奈の様子が部屋を出る前と少し違うと鈴は感じた。

「心配したよ~」

「わっ! 桃花ちゃん」

鈴が優奈の変化を本人に尋ねようとしたところを涙を流して優奈に抱きつく桃花に遮られた。

「優奈ちゃん二時間も帰ってこないから、何かあったんじゃないかって」

鈴の言葉で少し安心していたとはいえ、ここは見知らぬ異世界だ。何かに巻き込まれたり、それこそ龍聖の事でショックを受けた優奈が自分から死にに行くとか、色々な不安もまた桃花は抱いていた。

「ご、ごめんね桃花ちゃん。でも、私は大丈夫だから」

そんな桃花の気持ちが伝わった優奈は少し申し訳ない気分になった。

――――って、そうじゃない。

二人に言わないといけないことがあると、優奈は顔を真剣なものにする。


「鈴ちゃん、桃花ちゃん、私、決めたよ」

「優奈?」

「優奈ちゃん?」

急に真剣な表情になった優奈に鈴と桃花は困惑する。


「私、強くなる」

「それは、戦いにでるって事?」

優奈の言葉を聞いた鈴は始めに驚きながらも発言の意味を直ぐに理解し、優奈と同じように表情を真剣なものに変える。

「そうなの優奈ちゃん!」


「うん、私はりゅうくんのかわりにこの世界に来たらしいんだ、なら私は人を守りたい。そうすればその人達はりゅうくんのおかげで救われたということだから」

優奈は少年の言葉を聞いて、人々を救う事に決めた。もう、何もできない自分が嫌だった。

たとえ、危険な目に遭っても戦う。それが優奈がだした結論だった。


「そう、なら私も」

「鈴ちゃん!」

今度は優奈が鈴の発言に驚く番だった。

「な、なんで、もし、私に合わせてるならやめて」

もし、鈴に何か危険があったら本末転倒だ。

「……それは違う。私は私の誓いを果たすだけ」

「誓い?」

鈴の誓い。それは、親友の優奈も聞いたことのないものだった。

「そう、絶対に守らなければいけない誓い」

鈴はキュット口を噛む。

「鈴ちゃん……」

自分には止めることができない。優奈はそう直感した。

「わ、私も!!」

鈴と優奈が見つめあっていると蚊帳の外にされていた桃花が声を張り上げる。

「私も二人と一緒に戦います!」

「桃花ちゃん」

優奈は今度こそ本気で驚いた。桃花は臆病な性格だ。自ら戦うと宣言するなんて予想だにしていなかった。


「だ、駄目だよ桃花ちゃん。危険なんだよ」

優奈は焦りながら桃花を説得しようとする。

桃花は話せばきっと諦めてくれると思っていた。

しかし、桃花は気弱な表情をキリッと勇ましいものにする。


「だったらなおさらだよ!!」

「桃花……ちゃん」

「桃花……」

怒ったような桃花を初めて見た優奈と鈴はその迫力に気圧される。


「優奈ちゃんのやろうとしていることが危険なんだとしたら、余計に私は二人だけではいかせない!」

「桃花ちゃん……」

顔を真っ赤にして涙を浮かべながらも気丈な態度をとる桃花を見て、優奈は眩しそう目を細める。

「……桃花ちゃんはすごいな。私にできなかった事をやっちゃうなんて」

今の桃花は優奈達のために危険を覚悟で一緒に行くと言った。それは、地球で優奈ができずにいたことだ。

「――――わかった。一緒にがんばろう」

優奈は最終的にそう結論した。

「はい!」

桃花は元気よく笑顔を見せながら大きく頷く。


「ねぇ、そろそろ時間だから行く準備をして」

場がいい感じにまとまったのを見計らって鈴は優奈と桃花に待ち合わせの時刻が近いと伝える。


「あっ、そうか、風虎先輩に言われた時間いつの間にか経ってたのか」

優奈は自分が城内を彷徨いていた間どれだけ時が経っていたのか知らずにいた。

「って、あれ? 何で鈴ちゃん達時間がわかったの?」

異世界に転移した時、携帯を持っていた者と持っていない者がいた。風虎と優奈は持っており、鈴と桃花は持っていない。それなのに何故時間がわかったのか、鈴に尋ねる。


「これ」

鈴は手に持った物を優奈の目の前に掲げる。

「砂時計?」

鈴が持っていたのはいくつかの線が引かれている砂時計だった。

「そう、十個の線があるでしょ、これがメモリになっていて一番上の線にいったら一日経っているらしい」

「だから、一つのメモリで約二時間だって分かるの」

鈴の説明の続きを桃花が引き継いで優奈に説明した。

「ああ。なるほど、結構便利だね」

「そうだよね、さっき優奈ちゃんがいないときに天龍院先輩が持ってきてくれたんだ」

「風虎先輩が」

自分が落ち込んでいる間に、時間が分からない人がいると考えて皆のために時計を、恐らく王女にもらったであろう風虎に優奈は流石だなと思う。


「やっぱりすごいな。私も風虎先輩みたいに冷静で強い人にならないと」

皆を指揮していた事といい、自分も風虎みたいに冷静で強ければよかったのにと優奈が考えていると鈴がまったをかけるように呟いた。


「天龍院先輩は優奈が思ってる程強くないし冷静じゃなかった」


「えっ」

鈴の言葉に優奈は固まる。

――風虎先輩が冷静じゃなかった?

そんな様子は全く見受けられなかった。

信じられないと鈴に視線を向ける優奈に鈴は自信ありげに話していく。

「天龍院先輩体が少し強ばってた。きっと色々堪えてるんだと思う。龍聖の事よく気にしてたし」

優奈はハッとする。自分が龍聖に好意を抱いていたように風虎も龍聖を特別視していた。

そんな好意を向けていた龍聖が死んで全く気にしていないなんてあり得ないことだ。

普段通りに見えたのは鈴の指摘通り、ただそう装っていただけだと優奈は気づいた。




優奈が風虎の心情に気づいたとき当の本人の風虎はベッドに潜っていた。


「スマナイ、佐々木君」

風虎の声は微かに震えていた。

声と同じように体を震わせ、顔を悲しみに染めるその姿は先程までの冷静で強い風虎ではなく唯のか弱い少女のように見える。


「私は無力だ。身内が犯した過ちに気づけなかった」

元々龍聖を殺害するように金城達に指示したのは風虎の祖父だ。その事実は風虎を苦しめていた。

最愛の者の死とそれを犯したのが自分の身内だという罪悪感が風虎を板挟みにする。


「しかし、それでも私は進まなければならない」

異世界に来てしまった者達を導くのが年長である自分の責務だ。いつまでもくよくよしてはいられないと風虎は体の震えを無理矢理抑える。


「……さぁ、行かなければ」

ベッドから立ち上がる風虎の顔は普段通りの凛々しいものだった。


彼女達が想い人と再会するのはそう遠くない話だが、その時、風虎がどういう顔をするのかは神でさえ見通せない。






時間は少し戻り、優奈が少年の言うとおりに人を救うと決断し、噴水広場から立ち去った後、そこにはまだ先程の少年が噴水の縁に座っていた。

「……ちゃんと巻く事に成功したよ」

少年は虚空に向かって呟く。その声はどこか冷たいものへと変わっている。


「……わかっているよ。三枝優奈はちゃんと戦う事を決心したよ。巻いたからその過程は変わったけれどね」

少年は誰かと会話しているように見えるがその場所にいるのは少年一人だった。


「……結果の分かる物語は退屈だしね、早く終わらすに越したことはないだろ? それに、“仮面”がもたないし……うん、そうだね君の言うとおり僕も楽しみだよ」

少年は一人で虚空に向かって何度も頷く。


「……そうだね。勇者の物語はもう結末までわかっている。でも、彼が関わってくれば結末は変わる」

ニコォ、少年はそこで口を限界までつり上げて嗤った時、噴水の水が止まる。


「物語は“シナリオ”通りに進むのかはたまた気まぐれによる“改変”が起こり予想だにしない結末になるのか……楽しみだよ。ね、“僕”」

再び勢いよく噴水が上がったとき、そこに少年の姿はなかった。




これからどんどん追加していきます。

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