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異世界転生(運命から逸脱した者)  作者: わたあめ
間章~異世界の勇者~編
13/52

2話:転移とステータス

間章2話はじまります。







謎の発光を目にした優奈がそっと瞼を開くと床や壁が白い材質で作られた真っ白の部屋だった。


「ふぇ、ここどこ?」

一瞬呆けたものの見知らぬ場所に、それも数秒しか目を閉じていないにも関わらず移動していたことに優奈は恐怖を覚える。


「ふむ、目を覚ましたか三枝君」

「ひっっ! ……ってふうこせんぱい?」

声がした真横を優奈が向くとそこにはこんな状態でも冷静な風虎だった。


「ふうこせんぱいもいたんですね、良かった~。それでここどこなんです?」

一人でないと安心した優奈が次に感じたのはここはどこだという疑問だった。


「ここがどこかは私にもわからないが、どうやらここに来たのは私達だけではないようだ」


「えっ」


風虎に言われて優奈が慌てて周りを見ると少し先に何十人もの人が倒れている。

「本当だ。……こんな事にも気づかなかったなんて……あっ!」

自分がどれだけ怯えていたかを理解した時、倒れ伏す人込みの中で目が覚めてる人物を発見する。


「あっ、鈴ちゃん」

髪を後ろで結んでポニーテールにした眠たげな少女、それは優奈の親友である東雲鈴だった。

優奈の声で気づいたのか鈴はポニーテールを揺らしながら急いで優奈と風虎に近づいてくる。


「ねぇ、どうしてここに優奈と天龍院先輩がいるの?」

鈴は不思議そうに優奈に問いかけた。

「えっ、どうしてって言われても……」

そんな事私も知らない……優奈はそう思ったが、しかし、鈴の言いたいことはそうではなかった。


「ふむ、三枝君。あそこにいるのは全て佐々木君のクラスメイトだけだ。なのに何故別のクラスの三枝くんや、一学年上の私がいるのか、恐らく彼女はそう言いたいのさ」

その通りだと鈴はコクりと頷く。


「えっ、本当だ。でもなんでりゅうくんのクラスメイト達が?」


「理由は私にも分からない。しかし、この現象を学園で目にしたことはある」

「えぇ! この現象に心当たりがあるんですか!」

「私もそれは気になる」

優奈と鈴はじっと風虎を凝視する。

二人に見つめられた風虎は一度フッと自嘲するように笑う。

「荒唐無稽な話に聞こえると思うが聞いてくれ」

一度そう前置きをして風虎は話始める。


「恐らくここは異世界という所だろう。似たような物を私は佐々木くんと共に学園の図書室で見た覚えがある」

それは、風虎の言うとおり荒唐無稽としか言えない話だった。



「いっ……異世界ですか」

あまりの突拍子のない話に優奈は少し引きぎみになる。

「まぁ、待て私もこんな突飛な事を何の根拠もなしに言ったわけではない」


「根拠があるなら見せて」

鈴は半眼のままズイッと風虎に顔を寄せる。

「そうです!鈴ちゃんの言うとおり見せてください」

優奈も同じように風虎に顔を寄せていく。

鈴と優奈の二人に詰め寄られた風虎はポケットからスマートフォンを取り出す。



「このスマホは特別な物でな何処に居ても問題なく使えるのだがここでは使用することができない。それが一つ、そしてこれがここが異世界だと確信した理由だ」

風虎は二人に向かってスマホの画面を近づける。


「なんですかこれ?」

「優奈、これ多分教室の床」

スマホの画面には教室の床と誰かの足元が写っていた。


「その通り、これは光を目にした時に私が撮った録画映像だ」

「本当、靴が一緒だ……凄いですねあんな一瞬で撮影するなんて」

あの状況で冷静にするなんて流石だと優奈は感心する。


「大丈夫。普通は撮影なんてできない」

感心している優奈に鈴は優奈は悪くないとフォローする。


「まぁ、そうなのだが咄嗟にしてしまったんだ」

鈴の言葉を聞いた風虎は少し拗ねたように口を尖らせる。


「まっ、まぁ、それはいい、とにかくこれを見てくれ」

一度咳払いした風虎は今度こそ画面を見るように促す。



再生された映像は教室の床が写っているところから始まり直ぐに光が教室を満たす画面に変わっていく。

それから数秒で光は収まり、次に写ったのは教室とは違う場所に倒れてる風虎だった。そして、そこで映像は途絶えた。


「えっ、これだけですか? た、確かにどこかに移動したのは確かですが異世界という根拠には」

一瞬で違う場所に移動するという超常現象に戸惑いつつも優奈はここが異世界だという事については確信できないでいた。

「この後を見てくれ、私が異世界の存在を信じられた理由がそれを見れば分かる」

しかし、それでも風虎は次こそが本番だとばかりに顔を真剣なものに変える。


「「!」」

風虎の言葉を合図のようにスマホの画面にノイズが走りブツッ、と音が鳴りひとりでに映像が再生されていく。

それを見た優奈と鈴は思いきり目を見開く。


「フウコせんぱい、い、今勝手に再生ボタンが押されてませんでしたか……」

「しっ! 間もなく始まる」

そして、再生されてから約十秒、真っ黒の画面から場面が切り替わる。

映し出されたそこはこの部屋と同じく部屋全体が真っ白だった。

だが、ここと違う事が一つ、それは学園の者以外の者が画面に映っていた。その者はノイズ混じりで画質が悪いためか顔が判別できない。分かるのは背丈から小さい子供だということくらいだ。

顔の判別しない子供は画面に向かって笑いながら話始める。


『アハハハハハハ……まさかこんな展開になるなんて思わなかったよ。本当に彼は面白いよ……』

子供は一度口を閉じて、そして、話す。


『……三枝優奈、天龍院風虎。彼が転移するはずだった世界を存分に楽しむといい』

そこでプツリ、と映像は途絶えた。


「えっ、えっ?」

優奈は今見た映像にただ戸惑う事しかできない。

「なるほど。確かにそういう可能性があるかもしれない」

鈴は冷静に今見た人物の言葉と先程の一瞬で移動した事を考えればここが異世界だということは本当かもしれないと思い始めていた。


「そうだろう……そこで一つ東雲くんに聞きたい事がある」

「私の事を知っている?」

鈴は不思議そうに首を傾げる。

鈴の記憶が確かなら風虎と会ったのは今日が初めてのはずだ。


「君はあの東雲家の娘だからね」

東雲流剣術――数百年の歴史をもち類いまれなる実力を持つ者を多数輩出している知る人ぞ知る道場、そこの一人娘にして次期当主の鈴は全校生徒の顔と名前を覚えている風虎からしてみても印象に残っている人物だった。


「なに?」

鈴は頭にクエスチョンマークを浮かべる。何せ初対面なのだ、風虎が自分に何を聞きたいのか予想することができない。


「佐々木君の事だ」

風虎は声を強張らせながら問いかける。


「りゅうくんの事ですか?」

そんな風虎の声を聞き優奈は冷静さを取り戻す。


「あぁ、先程の映像の人物は『彼がいくはずだった世界を楽しめ』と言っていた。私達に共通する彼といえば佐々木君だけだ。そして今、彼はここにいない」

ハッとなったは優奈は慌てて倒れる人込みを見渡すが確かに龍聖の姿は見当たらなかった。


「わからない。また連れてかれて……何時間も見かけてない」

鈴は風虎の様子と問いかけから何かを悟ったのか顔を少し伏せ、顔に影をつくる。

「どういう事? りゅうくんは戻って来てないのならりゅうくんは無事ってこと」

今一状況を理解できない優奈はそう判断した。

しかし、風虎は努めて声を平坦なものにし優奈に自分の考えを説明していく。


「あの映像に出てきた者は私達をここに連れてきたか、それの関係者なのは確実だろう。そんな者が佐々木君が“来るはずだった”とまるで来ることが出来ないような事を言っていた……もしかしたら佐々木君は」

風虎はそこで言葉を止める。しかし、今の説明、何より風虎の沈痛そうな表情からその先に待つ言葉を優奈は理解してしまった。


「う、うそ……そんなのうそだよ!」

故に優奈は認めたくないと声を振るわせながらも必死に叫ぶ。


「……みなの目が覚めてきたようだ。この話はまたあとでしよう」

倒れた者達が次々に目を覚ましていく。ここで話を一旦途絶えさせた風虎は二人から離れて人込みに向かって歩いていく。


「あっ! 鈴ちゃん、優奈ちゃん!」

少し離れた所にいる優奈と鈴のもとに人混みの中から眼鏡をかけた内気そうな少女、東崎桃花が数少ない友達の二人を見つけて嬉しそうに駆けてくる。

「桃花ちゃん……よかった無事だったんだね」

優奈は安心したようにそっと息を吐く。しかし、その顔は暗い。 そんな優奈の様子に気づいた桃花は「?」と鈴の方を見るが鈴はそっとしておけと首を静かにふる。


「君は東崎くんだね?」

状況を理解出来ずにいる桃花に戻ってきた風虎が声をかける。

「ふぇ? って、ふふふふうこさままま」

文武両道、才色兼備で生徒会長をやっている風虎は家とそれに相応しい女帝のような雰囲気からこうして様づけで呼ばれている。

全生徒の憧れといっても過言ではない風虎に声をかけられた桃花は顔を赤くしおもいきしキョドる。


そんなやり取りに今しがた全員目覚めた2-Aの生徒は顔を風虎の方に向けて、

「フウコ様だ!」「キャー、フウコ様よー」「やべぇ、綺麗すぎる」「おっふ」………等と次々に歓声が沸く。


「落ち着きたまえ、今はまずここについての話を……まずここにいるのは2-Aの者達であっているな」

特に大きな声をだしたわけではない風虎の言葉に生徒達はこくこくと頷く。


「ふむ、しかし、私の記憶によると人数が一人足りないようだが」

風虎がそう言うと2-Aの生徒の中から哄笑をあげる者が現れる。


「ハハッ、それって佐々木ですか~……あいつなら死にましたよ」

あっさりと人を殺したと言って笑う男は金城琢磨。風虎には遠く及ばないまでも国内でも有数の資産家の息子である。

しかし、自分の家を鼻にかけない風虎と違い金城琢磨は実家の権力を使い好き放題に暴れる男だった。だが、容姿が整っていることとワイルドともいえる性格から女性徒には人気がある。

優奈は琢磨をキッ、と指し貫かんとばかりに睨む。

優奈は昔から琢磨の事を嫌いだった、憎んでるといってもいいかもしれない。それは、琢磨こそが一番積極的かつ残虐に龍聖に暴力を振るってきたためだ。


「そうそう、琢磨さんがアッサリとな」

そう言うのは背が小さく声が高い琢磨の腰巾着の一人の松野健太だ。


「アハハ、あいつ顔がつぶれてたよな」

そう笑いながら殺した時の事を語るのは松野は逆で背が高く声が低い須田高次だ。


人を殺害しておいて哄笑をあげる琢磨等に優奈は龍聖の死の状況を聞き顔面を蒼白にしながらもあらんかぎりの声で怒鳴る。


「何で笑う!りゅうくんを殺してといて!」

人を殺害しておいてこの笑顔、狂っている、と優奈は感じていた。今まで龍聖を虐めてきたクラスメイトもその死にざまを聞いて顔を青くする者や吐き出す者が続出し騒然となる。クラスメイト全てが龍聖を殺したいと思っていたわけではない。だけどやり過ぎたことに気付くのが遅すぎた。彼らは実際に龍聖が殺されたと知って初めて自分達がしてきたことを理解した。全て手遅れだが。


「どうする優奈こいつら殺す」

鈴は殺気を放ちながら目の前にいる優奈に聞く。了承の一つで本当に琢磨達を殺すつもりだ。


「三枝くんの言うとおりだ。君達は何故そんなに余裕なんだ」

一人冷静な、しかし目に込める圧力を風虎はあげて聞く。

「そんな事聞かなくても分かってるんでしょ~、“天龍院”せんぱい~」

おちょくるような口調で話す琢磨の言葉に風虎は肯定とばかりにギリッ、と歯をくいしばる。


「……どういう事」

優奈は怒り込めた声音で呟く。


「いいか~さえぐさ~。俺に佐々木を殺させたのはな~……天龍院なんだよ」


「えっ」

風虎の家の名がでて優奈は咄嗟に風虎に目を向ける。そして、同時に納得もしていた。日本どころか世界にもその名を轟かせる天龍院が後ろについていたからこそ琢磨はこうして余裕なのだと。


「やはりおじいさまか、しかし、なぜ急に」

風虎は祖父が何故今になって龍聖殺害の指示を出したのか分からないでいた。

優奈はそんな風虎の態度からこの事は風虎も知らされていなかったと判断し、龍聖を殺害した張本人である琢磨を鋭く睨む。


「おいおい、何怒ってんだよ――たかが佐々木が死んだくらいでよ~」

「―――――っっ!!」

その言葉を聞いた瞬間優奈は琢磨に飛びかかる。


「三枝くん!」

琢磨に迫る優奈を二人の間に立っていた風虎は抱きつくようにして止める。


「は、離してください!! こいつが……こいつらがりゅうくんを殺したんですよ!」

優奈は許せないと憎悪を目に宿し風虎の制止をふりきろうと力をいれる。手は琢磨を殴ろうと既に顔面の近くまで伸ばされている。


「そんな事はわかっている! だが今は堪えるんだ! ここは見知らぬ場所、下手なことをすれば君の友人に被害が及ぶかも知れないんだ。君はそれでいいのかい」

「…………わかり、ました」

風虎に言われてハッ、となった優奈は伸ばしてた手をだらんと下げて体からも力をぬく。

優奈が落ち着いたとわかったのか風虎はそっと体を解放する。


「ちっ、何だよ。ここにいる奴ら皆同罪だろーが」

ボソッ、と呟かれた言葉に優奈は身を固まらせる。

「金城くんだったね。君もその辺にしたまえ」

「あー、はいはい」

風虎に絶対零度の目で睨まれた琢磨は腰巾着の二人を連れて人込みの中に戻っていく。


「三枝くん。彼が言ったことなら気にすることはない」

「…………はい」

どうみても気にして落ち込んでる優奈に風虎は何か一言くらいかけようかと口を開こうとする。


「三枝くん―――足音」

風虎の言葉は部屋の外から聞こえる幾つかの足音によって途絶える。


何者かが外にいる。その事はこの場にいる全員に伝わり部屋全体に緊張が走る。


ギギギ、僅かに軋むような音と共に扉が開かれていく。

ゴクリ、誰かがそう唾を飲んだとき部屋に鎧を着た男が入る。

「――――っ」

そしてその後ろに目を見張るような絶世の美少女が鎧を着た男数人についで入ってきた。


前方に二人、後方に四人の騎士を連れた桃色の髪の少女が優奈達を見て足を止める。


「本当に来てくれた」

少女は感激したように目を潤わさせる。


「お姫様」

誰かが呆然と声にだす。

少女は足元まである上品かつ高級そうなドレスを着ており首もとにはキラキラと輝くような宝石のネックレスを、そしてその全てが少女を引き立たせるためだけに存在するかのような容姿。少女はまさしく姫のような人とは違う存在感をもっていた。

自分が注目されていると理解した少女はドレスの端をつまみ、名乗りをあげる。


「皆様、突然知らない所に連れてこられて戸惑っていることと存じます。私は皆様がお現れになられた神龍王国ユグドラシルの現第一王女のアリーヤ・アドレイ・ユグドラシルです。先程も言いましたがいきなりの事で戸惑っているであろう皆様に現状の説明をするべくどうか王に会ってもらいたいのです“勇者”様。」

アリーヤと名乗る少女は優奈達を勇者と呼ぶ。


「少しいいかな」


その時一人の少年が手を上げる。

「はい、どうぞ……」

「あっ、僕の名前は北条将輝といいます」

将輝は輝かんばかりの笑顔を浮かべる。

その笑顔を見たアリーヤはほんの僅かだが頬をピンクに染める。

北条将輝は容姿も性格も頭も運動神経もよく女子達からモテている。眉目秀麗の将輝の笑顔は幾人ものイケメンを見てきたアリーヤから見ても美しかった。

そんな将輝の学園では風虎が女帝、そして将輝は王子と呼ばれていた。



「もしかしてたけど僕達は異世界という所に呼ばれたのかな? そして、小説等と同じなら僕達は何か用を頼まれる。そのために必要な何かしらの力を得ている。こんな感じであっているのかな?」

クラスメイトは以外と知っている将輝に驚きアリーヤは何故と驚いている。


「すごいですね。概ねその通りですよ。勇者には強力な力が与えられると言われています。私達のお願いについては国王が直接お伝えします」

アリーヤの答えを聞いた将輝は自分の知識通りだと嬉しそうにする。


そんな事があり優奈と風虎と2-Aの生徒達は2列になって上質の布で作られたであろう絨毯や高価かつ堅固な材質で作られた壁や床をしっかりと見る間もなく王の間まで歩いていく。

周りがドキドキやわくわくの雰囲気になるなか優奈は一人顔をしたに向け落ち込んでいた。

龍聖を助けることも出来ずに死なせてしまった罪悪感と先程の琢磨の言葉が頭を何度もよぎる。

隣にいる鈴はそんな優奈をただじっと見守るだけだ。


「皆さま、ここが王の間でございます」

アリーヤの言葉に優奈は目線を上にあげる。

すると目の前には高さ五メートルは優に超える重厚そうな扉があった。扉にはこの世界のものであろう紋様が刻まれてる。


「お父様勇者様方を連れてまいりました」

アリーヤ王女は普段のままの声量で扉の向こうに声をかける。

何かしらの方法で聞き取ったのか扉が内側から開かれていく。



王の間は左右に白い石柱が等間隔に並んでおりその間を深紅の布に金色のラインが刺繍されたレッドカーペットが部屋の最奥にあるちいさな階段まで続いている。僅かな段差の上にはフカフカのクッションで作られている玉座がある。

天井に描かれた雲間から龍が光る宝玉を持って地上に降臨した天井絵、その宝玉の中心がステンドガラスの天窓となっており教会のような神聖な雰囲気を放っている。その窓から入る光を一身に浴びる玉座はさしずめ神の石像というところか、玉座にはそれだけの存在感がある。


「アリーヤ案内ご苦労であった」

天窓から入る神秘な光が当たるその玉座にはこの部屋の主にしてこの国の王である男が座っている。娘と同じく桃色の髪に整った容姿をしている王は扉の前にいる生徒達を見て相貌を崩す。

「ほう、そなた等が勇者殿か。私は神龍王国ユグドラシル現国王のアレクサンドラ・アドレイ・ユグドラシルだ」

アレクサンドラはアリーヤを一瞥する。

すると、アリーヤは王の言うことを理解したのか、

「それでは皆様にどうぞこちらに」

レッドカーペットを歩き王の前まで歩き出す。

生徒達はレッドカーペットの端にいる兵士達に怯えながらアリーヤについていく。



「すまなかった」

王の前がざわつく。玉座の前に2-Aの生徒達が来たとたん王が頭を垂れたからだ。


「我等が力不足ゆえにまたもやそなた等勇者の力を借りようと神に祈ってしまった」

王は面目ないと頭を下げ続ける。


「だが我等には古からこの国を救ってくれた勇者に頼ることしか思いつかなかった……どうか力をかしてはくれないだろうか」

「頭をおあげください」

頭を垂れる王に北条将輝が見かねたように頭をあげるように言う。


「王自ら謝罪と願いを言われたのです。私達もできればお力を貸したいとは思います。しかし、先ほど王女様から私達には力があると言われましたが私達に戦闘経験は皆無でありそして自分達がどのような力を持っているのかを把握しておりません」

将輝は膝こそ着かない者の王を目上の人物として敬いながら話している。


「ふむ、それもそうだな、そこの君の名前は何かな」

アレクサンドラもまた将輝こそこの中の中心的な人間であることを見抜き話し相手として名前を尋ねる。

「私は北条将輝といいます」

「北条殿か、確かに北条殿の言うとおり戦の無いところから行きなり連れてこられて戦えと言うのは酷だろう。そこでだ、3ヶ月程王宮にて鍛練してもらいそれから答えを聞くというのはどうだろう。もちろん報酬は山ほどあげよう」

最後の言葉に何名かが反応を示すのをアレクサンドラ王は見逃さなかった。

「分かりました。少し皆と相談します」

将輝は一歩前にでてから後ろのクラスメイトを振り返り声を張り上げる。


「今聞いたとおりだ。みんなどうだろう、とりあえず国王様の言うとおりにしてみないか」

将輝の賛成の意思を聞いた他の者達はとなりにいる者たちとどうするかを話し合っている。


「天龍院先輩はどう思いますか」

このままでは話が進まないと思った将輝は学園で一番慕われなおかつただ一人の先輩である風虎に答えを尋ねる。 「妥当なものだと思うよ……ふむ」

そう評した風虎はそこで手をあげる。

「ここで私からも一つ国王様にいいかな」

「ふむ、して君の名は」


「これは失礼しました。私は天龍院風虎という者です。ここにいる中では一番の年上ですので話などはできれば私にも通してもらえると助かります」

風虎がもつ他の者とは違う気品さに王は一度溜め息を漏らす。


「風虎殿か、して聞きたいこととは」

「先ほどから聞くに、この地には何人も勇者が来たことがあるように仰ってます。そこで尋ねたい私達は帰れるのですか?」

誰しもが聞きたかったことを言った風虎に王の間が静まりかえる。誰もが緊張する中王が話始める。

「……そうだな。結論を言えば帰れる。過去に二回現れた勇者の二回ともが問題を解決したあとに神によって元の世界に戻って行ったらしい」

帰れるという答えに生徒達が喜びあっているなか風虎はその言葉の意味を真っ先に理解し目を細める。


「つまり私達は魔王という者を倒さなければ帰れないと」

戦わなければ帰れない。そう言われた生徒達の喜びの声は消え去り今度は勝手に連れてこられたという怒りや絶望に変わっていく。


「ふざけんなよ何が様子をみろだ帰るには戦うしかねーじゃねーか」「いや! 私帰りたい!」「ざけんなヨ!」「怖いよまま!」

怒鳴り声をあげる者、日常に戻りたいと願う者や帰れないことに涙する者、それぞれの思いの叫びによりの王の間が喧騒に包まれる。

「皆静まれ!」

風虎の渇に生徒達は直ぐに静まりかえる。自分が部屋にいる異世界の者達に観察されているのを感じながら風虎は話始める。



「皆の思いは痛いほど私にも分かる。だが今は静まるんだ……国王、戦いにでない者は必ずいるだろう、その者達はどうするつもりだ」


「もちろんこちらが勝手に呼んだんのだから戦にでる者と同じ扱いとはいかぬが快適な生活は保証しよう」

王の言葉に一度風虎は頷いてから再度語る。


「そこでどうだろうか、先程北条君が言ったとうり一度ここで過ごすというのは。皆にも考える時間が必要だろうしな。何、少し長い旅行だと思え、せっかくの異世界なのだ、はめをはずせとは言わないが楽しまないのは損だろう」

言葉の最後に風虎はらしくないウインクを生徒達に見せる。


「そうだ皆! 僕達は勇者でこんなに仲間がいるんだ、何があっても乗りきれる」

風虎が場を和ませようと理解した将輝が更に生徒達を鼓舞する。

学園で最高の人気と信頼をほこる二人に言われた生徒達は少しずつ落ち着いていく。

「まぁ、風虎先輩と将輝が言うならとりあえず3ヶ月がんばるか」「フウコ様と過ごせるのだもね」「将輝君ともよ、キャー!! どうしよう」「少し異世界に憧れもあったしな」


「ふむ、少しにぎやかすぎになってきたがまぁよいか」

落ち着くどころか異世界にあった興味に騒ぎ始めた者達に若いなとも思いつつ先程よりはましかと風虎は判断する。


「さすが勇者殿だな。見ろ、あの美しく凛とした風虎殿を」

「それをいうなら将輝殿もなかなか、勇ましく皆を鼓舞する姿はまさに勇者」


国王の近くに控えていた国の重鎮等も中心人物である二人を誉めている。

和やかな雰囲気になったのを見計らって王は入り口にいる娘に顔を向ける。



「とりあえず話はまとまったようだな、なら次はステータスの確認と聖剣の持ち主が誰かを調べるとしよう。アリーヤ、彼らを案内してさしあげなさい」


「はい、お父様このアリーヤにお任せください」






王に言われたアリーヤが勇者達を案内した所は体育館のような広いスペースの中心に銀の石でできた台座がありその上の水晶のみがある不思議な白い部屋だった。


「では皆様あの水晶に手を当てステータスを計ってください。ステータスにはその者のレベル、生命力のHPに魔力の数値であるMP、その他に攻撃力、耐久力、敏捷力、器用さをはかります。因みに普通の人でレベルが1上がるごとにステータスが10増えるのですが勇者である皆様は10倍以上はあるかと思います」

王女は説明を終えると誰からやるのかと視線で訴える。


「ではまずは私が計ろう」

先ずは風虎が名乗りをあげた。

風虎は王女と共に部屋の中心まで歩いていく。台座に着いた風虎は優しげに水晶に触れる。



天龍院風虎

Lv:10、HP3000、MP2500

力1200、耐久2000、敏捷1800、器用800

固有スキル:束縛の鎖/スキル:見切り、観察



「フム、レベルが10から始まってるようだが」


「それは人は成長するにつれレベルがある程度上がるのです大体15才の成人くらいで10前後です、それにしてもすごいですねスキルも行きなり三つも持っているなんて」


「そんなにすごいのか?」


「はい、スキルは固有スキルと普通のスキルがあるのですが普通のスキルは後から取ろうとするとものすごくたいへんですし適正がないと取ることさえできないのですよ、それを最初から二つも持っているのですから」


「フム、では次は誰がやる」

風虎が入口にいる者達に尋ねると男が一人ニヤニヤしながら前にでてくる。

「俺がやりますよ~天龍院先輩~」

「ふむ、では次は君がやりたまえ」

ステータスを計り終えた風虎が王女と共に入口に戻ろうとするとすれ違いざまに次に計測をする金城琢磨が王女の腕をとる。


「あれ~、俺にはついてくれないんですかあ~」

「はい、ステータスは本来見せびらかすものではありませんから」

先程風虎と一緒に居たのは風虎が自分のステータスを見ながら皆に説明をした方が伝わりやすいと言ったためであり信頼の有無に関わらずステータスを計るとき他人は見ないというのが暗黙のルールとしてあった。


「あ~、俺そういうの気にしねーから~」

「……では」

王女を連れた琢磨は水晶に手を置く。


「へ~こうなるか」


金城琢磨

Lv:12、HP3200、MP2000

力1800、耐久2200、敏捷1700、器用600

固有スキル重の拳/スキル:鉄拳


「金城さんもすごいですね」

「スキルは二つだけどな」


その後は琢磨の腰巾着の二人がステータスを計り他の者も続々と計っていく。残ったのは優奈達三人と将輝の四人だけだ。

「以外、北条君は真っ先にやると思ってた」

「ハハッ、ちょっと緊張してね、よし、じゃあ次は僕が行くよ」

鈴の遠回しの先に行けという意思を理解している将輝は水晶に近づいていく。

北条将輝

Lv:11、HP3500、MP2300

力1600、耐久2000、敏捷2000、器用700

固有スキル聖なる剣/スキル:光魔法、限界突破


「まぁ、すごいですね北条様、限界突破はとても珍しいのですよ。それに光魔法は魔族に効果的です」

最初の二人が居る許可を出したため流れでずっといたアリーヤ王女が将輝のステータスに興奮している。



それから直ぐに優奈達もステータスを計り終える。

ステータスを計り終えた後、王女は勇者達に少し待機するように言った後部屋をでていった。




待機すること五分部屋に剣を持った王女様が戻ってくる。

「皆様、お待たせしました。この王国にはかつて召還するたびに数人の勇者が現れたと言います。そしてかつての勇者達は聖剣を使う者が他の勇者を引っ張り真の勇者になるといわれてるのです。ですので今から聖剣の使い手を確かめます」 王女は柄が青色で鞘が金色で剣身が輝いていて模様が描かれている聖剣を掲げる。


「その聖剣の使い手を選ぶというがどうやるのだ」

もっともな質問を風虎が王女に尋ねる。

「簡単です。聖剣は自ら使い手を選ぶといわれております。ですから柄に掴まればわかります」


「ふむ、どれ……なにも変化ないな」

風虎が握っても聖剣は反応を示さなかった。


「では次は僕が……」

将輝が少し興奮しながら聖剣に手を伸ばすが琢磨が先に柄を握ってしまう。


「オイオイ、ヒーロー君は最後にやれよ」

「それはいいけどヒーローはやめてくれ」

「ホイホイっと、ちっ、反応しねー」

琢磨が握っても聖剣は反応しない。その後は他の者や優奈達が聖剣を握るが誰にも反応することはなかった。

そして、残ったのは将輝一人だけだった。つまり聖剣の使い手は将輝ということだ。


「やっぱ将輝か」「さすが北条君」「俺達を引っ張ってくれよ勇者様」

順当な結果に他の者達の反応も悪くはなかった。


「やめてくれよ、でも僕みんなに安心してもらえるよう頑張るよ!」

皆から期待の目を向けられた将輝は謙遜をしつつも嬉しそうに聖剣に触れる。


しかし、聖剣は反応を示さなかった。

「あれっ?どっどういう事でしょう」

十数秒握っても反応しない聖剣に将輝と王女様が慌て始め、それから直ぐに異変を感じ始めた周りの者達も戸惑いだす。


「あっ、光った」

将輝の言うように聖剣は光を放ち始めていた。

「良かった、どうやら聖剣に選ばれたのは北条様のようですね」

王女は聖剣の使い手がちゃんと居たことにホッと安心している。

「そうですか、僕が……」

将輝は聖剣を握る手に力を入れる。

「では、とりあえずこれで終わりという事でいいのかな」

一段落したと見た風虎が王女様に聞く。


「はい、風虎様。今日はお疲れだと思うのでお部屋を案内と入浴とお食事で終わりです」

王女はご苦労様だと頭を下げる。


「よし、では皆疲れただろう、今から部屋に案内してくれるらしい。部屋は三人一部屋だそうだ。その間に入浴し、そうだな、二時間後に一度ここに戻ってこよう。では解散だ」

その時、タイミングを見計らったかのように五人のメイドが部屋にはいってくる。


「このメイド達がお部屋に案内いたします。それで本当に風虎様はお一人様でいいのですか」

生徒数は三十一人、一部屋につき三人ずつと決まっているので風虎は一人ということになっていた。


「うむ、人数的にそうだしこの先についても考えないといけないしな」

王女様は一部屋に四人で入ればと提案したが風虎はこうした理由から一人で考えると断っていた。


それから勇者達はそれぞれの部屋に案内されていく。

三枝優奈は東雲鈴と東條桃花の三人と一緒の部屋になっていた。


「うわ~ホテルみたいーー」

部屋に入った桃花はホテルのような部屋に声をあげる。


部屋の中は広く内装はベッドにデスクにクローゼットとシンプルだが確かにホテルのような部屋だった。

「すごい!ベッドふわっふわだよ鈴ちゃん優奈ちゃん!」

桃花は子供のようにベットをトランポリンのように跳び跳ねる。

そのテンションの高さは桃花にしては珍しいほど高かった。


「優奈、龍聖の考えてる」

鈴はずっと落ち込んでいる優奈に最初の部屋以来に声をかける。

「どうしてわかったの」

「優奈元気ない、それに明らかに桃花が無理してるのにも気づいてない」

鈴の言葉に優奈が桃花を見ると桃花は眼鏡のしたに涙を浮かべていた。


「龍聖君、本当に死んじゃったんだね。私暴力を振るわれてる龍聖君を……怖くて……ただ見てる事しかできなかった。ごめんなさい……ごめん……なさい」

そんなの今さらだよ、私も同じだった。優奈は泣いて謝る桃花にどちらの言葉も言うことができなかった。


「私なんて力があるのに何もできなかった。守るための剣術だったのに」

鈴もまた一筋の涙を流していた。それは桃花の罪悪感とは違い無力感を含んだ涙だった。

それを見た優奈の瞳からもツゥー、と涙が流れ落ちていく。

優奈の脳裏には琢磨が言ったお前らも同罪の言葉が何度もリフレインしていた。


ごめんねりゅうくん。

優奈の胸は悲しみと絶望に引き裂かれそうになっていた。

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