9話:エピローグ
とても短いです!
リュートはワルドが用意した寝室で目を覚ます。
目覚めたリュートが起き上がろうとすると、体の節々に激痛が走る。
「無理しすぎたか……」
リュートの体はヘビーベアーとの戦闘時の無茶によって動けないほどのダメージを負っていた。
「……ん、大丈夫?」
リュートは寝転んだ体勢のまま、声がした方向に目線を送る。
すると、寝具の横にある丸イスに座るニーナと目が合う。
「あぁ、命に別状はないだろ。少し休めば動けるようになる」
リュートは体にあった無数の傷が塞がれている事を感じていた。後は休憩をとって体に蓄積されたダメージを抜くだけだ。
「あれ? ライムは」
回復魔法で傷を治してくれたであろうライムの姿をリュートは探す。
『リュートさん、私ならここですよ』
「……?」
ライムとの会話は念話で行っているためリュートはライムの姿が見えない以上声でどこにいるのかを判断することはできない。
『ここですよ。ここ』
その事に気づいたライムは自ら姿をリュートに見せる。
『……なんだ。そんなところに居たのか。急に声が聞こえて驚いたぞ』
そう言うリュートだが、自分の下で枕となっていたライムを見ても表情からは驚いているようにはみえない。
『すみません、私を探してるようだったので』
『まぁ、それはいい。俺は何日寝てた』
リュートの質問に対して、ライムはどういう事だと不思議そうな声音をリュートに送ってくる。
『何日もなにも、リュートさんが眠っていたのは一時間位ですよ?』
リュートはそれはあり得ないと切り捨てる。
『そらはないはずだ。たったの一時間じゃあ、俺の傷を治す程の魔力が戻らない』
リュートの言葉にまたもやライムは不思議そうにする。
『いえ、私はなにもしていませんよ。リュートさんが自分で傷を治したんですよね?』
「何だと……」
どういう事だとリュートは真剣な顔つきをする。
「いや、そうか」
リュートはヘビーベアーとの戦いの最中に力が湧いてくるという現象が起きた事を思い出す。
もし、その時に回復力も上がっていたとしたら短時間での回復も可能なのかもしれない。……何より、気絶する直前にスキルを発動したとの声が聞こえた事で、スキルが発動してリュートに何かしらの影響を与えたのは間違いないことだ。
(俺が持っているスキルの中でそんな効果がありそうなスキルは……適応進化か)
スキル名を思い浮かべた事で、もしやと、リュートは自分のステータスを確認した。そして、ステータスはリュートの想像通りになっていた。
リュート
Lv:1、 HP800→4000、MP550→3500
力400→2500、耐久420→3000、敏捷380→2800、器用350→1500
スキル:神眼、適応進化、学習、孤独、主従契約、頑強、豪腕、強靭、一本突き、水魔法、new剣術、斬撃波
ステータスが今までとは比べ物にならないくらい上昇していた。
ヘビーベアーやバルトを倒しただけでここまで上がるはずがない。
(……適応『進化』……か)
リュートにはハッキリとした効果はわからない。見たところ。ステータスを上げる、いやリュートの全てを進化させている。
(今ならヘビーベアーを一人で倒せるかもな)
そう思えるほど今のリュートは強くなっていた。
「……ねえ、治ったらすぐでる?」
ニーナがリュートに館を出るタイミングを聞く。
「あぁ、。体を動かせるようになったら、ワルドの館から、持っていけるだけ物を取ってから出発する予定だ」
何とか体を動かせるようになってきたリュートはダルそうにしながらも起き上がる。
『リュートさん立って平気なんですか』
『あぁ、軽く歩くぐらいがちょうどいい』
「……わたし、何をしたいのかを持ってくればいい」
ワルドの館を全て見て回るとなると確かに時間がかかる。リュートはニーナの言うとおり、別々に行動することにした。
「そうだな。とりあえずいくらかのお金を持ってきてくれないか?」
武器や装飾品等の部類ならリュートでも探すことはできる。
しかし、異世界の通貨を実際に目にしたことがないリュートは異世界人のニーナに任せることにした。
「……ん、わかった」
ニーナは部谷を出ていき館を物色しに行く。
「剣はさっきの戦いで消耗しているし新しいのをもっていくか」
そうしてワルドの館から物品を盗み出していき、出発の準備をリュート達は着実に進めていく。
それから二時間後……
準備を終えたリュート達は柵を出るための扉の前にいた。
リュートは剣2振りを腰に携帯し。異世界の通貨やわずかな食料にわずかな水、薬草や様々な道具をショルダーバッグに入れて肩に担ぐ。
「これも着けないとな」
そしてリュートは顔を隠すための仮面をつけていた。
仮面は額から鼻までを隠すベネチアンマスクだ。ワルドの館にあった黒のコートを、(それも大人用の物のためリュートの足元まで裾が届いている)を着ているリュートがマスクまで装着するととミステリアスな雰囲気がある。
「……ん、にあってる」
「そうか? ニーナの方が似合っていると思うが」
ニーナは子供に与えるためにワルドが用意したのか、館にあったひまわりのような淡い黄色のワンピースを着ていた。
ボロボロだった髪をすいて、更なる輝きをえた金髪はワンピースと相まって妖精のようにさえ見える。
それでも、戦闘時に動きを阻害しない為の革ベルトをニーナは腰に巻いて裾が広がることを押さえていた。
そう、ニーナはちゃんと戦う事ができる少女だった。
その証拠に腰に二本の短刀を帯びている。
「……ん、ありがと」
リュートに褒められたニーナは嬉しそうな雰囲気になる。
『リュートさん。早く行きましょうよ』
スライムのためお洒落することができないライムは不機嫌になっていた。
「そうだな」
それにリュートが気づくことはなかったが。
「出発するか」
そう言ったリュートが、扉を開いて柵を出た瞬間、それを待っていたかのように前方の大樹が並ぶ道からから3体のモンスターが現れる。
「またお前ら」
現れたのはライムとの出会いのきっかけであるモンスター。
ストロングコングだった。
『リュートさん私がやりましょうか』
リュートとであった頃と違い。今のライムはストロングコングを超えている。
『いや、準備運動にちょうどいい。俺がやる』
進化した今の実力を試したいリュートはモンスターと対峙する。
「さあ来いよ、時間がもったいない」
ライムよりも更に強いリュートには余裕がある。ストロングコングはそんなリュートに怒ったのか、歯を剥き出しにする。
しかし、それでも襲いかからないのはリュートの実力を野生の勘で理解していたからだった。
「来ないなら俺からいくぞ?」
リュートは自分からモンスターに向かって駆けていく。
その速さはリュートにとって本気ではなかったが気絶する前の全速力と同じ位のスピードは出ていた。
あっという間にモンスターに肉薄したリュートはあいさつ代わりの一発を放つ。リュートの拳を顔面にくらったモンスターは顔面の骨を砕かれる。
「えっ、もう死んだのか。三割位しか力いれてないぞ」
力が上がっているとはいえ、余りのあっけなさにリュートは呆然としていた。
今のリュートは進化した肉体を十全に使うことはできない。しかし、それでもリュートは目の前のモンスターとは圧倒的な差があった。
「これは直ぐに終わるか」
リュートは鞘から剣を抜いて、骨を砕かれて呻いているモンスターにとどめをさす。
仲間が剣で貫かれた瞬間。動きを止めたリュートにストロングコングは攻めかかる。
「なるほど。少しは考えることができたようだな」
恐怖を感じないモンスターには逃げるという選択肢がない。そのため相手を殺せるチャンスを見るとモンスターは本能によって動いてしまう。たとえ、そんなものが存在しないとわかっていても。
リュートはストロングコングに刺さったままの剣から手を放す。
そして、真っ先に近づいてきたモンスターの鼻っ面に掌底を当てる。
「ゴギャ!」
掌底をくらったモンスターは衝撃で体を仰け反らせる。リュートはそこを狙って、ストロングコングの胸を一本突きで魔核を穿つ。
「これで終わりだ」
最後の一体を、腕を引き抜いたリュートは今だせる全力で殴りつける。パンッ!と破裂音が鳴る。リュートの腕はストロングコングの顔の上半分を抉りとっていた。モンスターは血を噴き出しながら倒れていく。
そんな、エグい殺しかたをしてもリュートは眉ひとつ動かさなかった。
ここまでで十数秒。リュートはもうすでに、この森で最強の力を得ていた。
「じゃあ今度こそいくぞ」
リュート達は村に向かって歩いていく。
そこの村でリュートは謎の銀仮面と呼ばれ、異世界に現れた勇者の事を聞くことになる。
これで一章はおわりです。
二章に入る前に間章として勇者として転移してきたクラスメイト達の話を入れます。
誤字脱字や感想等があったらどしどし送ってください。




