8話:見切りと決着
タイトル通り一章のメインの戦いは決着です。
眠い中書いたので変なところがあるかも?
あった場合感想などで教えてくれると助かります。
(リュートさん!!)
ライムが食堂にたどり着きリュートの負傷を見て驚く数分前。
ライムとキースの決着がついた頃、リュートとバルトの戦いは激化し始めた……。
食堂に幾度となく鳴り響く剣撃音。
だが先程までとは違い、終始攻めているのはバルトだった。
(くっ!攻められない)
バルトの剣撃を、リュートはちゃんと受け止めることができている。
だけどここにきて、ステータスの差だけでは埋められない事が目の前に起きた。
強化魔法――いつかキースが言っていた、戦闘時の強化魔法の維持がリュートは乱れ始めていた。
本来強化魔法を戦闘でまともに使えるようになるには普通の者で半年以上かかるものだ。
それを一週間で魔力を感じて、またそれをコントロールできたリュートは十分異常なのだが、それでもわずかに戦闘で使うにはまだ早かった。
(このまま無理に使うと魔力が切れる。―なら)
リュートはコントロールできない魔力の放出をやめることにした。
「いい決断力だ。だが強化魔法がなければ今のお前じゃ死ぬぞ」
「おい、殺すなよ!」
バルトの言葉にそれだけは忘れるなとワルドが叫ぶ。
「というわけだ。死ぬなよ」
そのまま勢いよくバルトはリュートに攻めかかる。
しかし、バルトはリュートを攻めきれないことにわずかに戸惑う。
(強化魔法を使っていないのに攻めきれない……まさかリュートは)
「お前その年で二つもスキルを持つのか、いや、もっとあるかも知れないがな」
バルトの言うとおり、リュートはスキル頑強を使ってバルトの猛攻に耐えていた。
(あのスキル、恐らく頑強か。まさか頑強をあの年で持つとはな)
剣を使うバルトは頑強を持っていないが騎士時代、頑強をてにいれるため体をものすごく鍛えていた者を知っている。
その者は取得するのに数年を要したとバルトは聞いていた。
他のスキルを警戒したバルトは攻撃の手を止める。
ならばと、今度はリュートが攻めかかる。
(無鉄砲な)
その攻撃は愚直だと、剣を防ぎ次の攻撃の手を考えるバルトは、そこで背筋を這いずる嫌な予感に身を任せ咄嗟に避ける。
バルトの真横に振り下ろされる剣は鋭い風切り音をあげる。
(何てパワーだ、まさかスキル豪腕だというのか、本当に何て十歳だ)
バルトはリュートのスキル数に戦慄を覚える。
(思った以上にやりにくいな。スキルの切り替えも練習しとくべきだったか)
リュートのスキルは、本来拳で闘う時にその真価を発揮する。
しかし、リュートは剣でも代用できると考えていた。
それから幾度もリュートとバルトは攻守を替えながら剣撃を交えていく。
一見互角だがリュートは違和感を拭えないでいた。
(なんだ。俺は何かを見落としている)
リュートが攻めてバルトがその剣を弾き逆に攻め、それをさらにリュートが避けるという一連の流れを何度も繰り返す。何度めかの攻守に出たリュートは違和感の正体に気づく。
(そうか、スキル!)
リュートが違和感に気づいた瞬間、バルトの剣が剣速と重さをましてリュートを襲う。
リュートは咄嗟に下がるが刃は肩を裂いていった。
数センチ肩を裂かれ血を流しながらリュートは自分の違和感が正しかった事を確認する。
(バルトは剣術のスキルを使っていなかった。いやそれどころかスキル一つ使ってさえいない)
リュートはもちろんスキルの事を失念していた訳ではない。
剛腕や斬撃波など、ちゃんと警戒はしていた。
少しでも変な動きがあったら、リュートはすぐに下がっていただろう。
だけどリュートはスキル剣術について誤解をしていた。
リュートは最初から剣術のスキルは使われていると思っていたのだ。
だけどそこである疑問がわいた。
そして、リュートはスキル学習が発動していなかった事に気づいた。もし、バルトが剣術を使っていたらリュートはそれを取得できているはずだ。それに気づいたリュートは咄嗟に下がることでその命が助かった。
(まだ、本気じゃなかったのか、どうする。左肩が上がらないぞ)
『リュートさん!!』
その時リュートは自分の事を呼ぶライムに気づく。
『ライムか。ちょうど良かった。肩頼めるか』
ライムの魔力が少なくなっていることにリュートは気づいているがここは正念場だと判断する。
リュートの肩に這いよったライムは回復魔法をかける。
そのおかげでリュートの左腕は使えるようになった。
「おいおい、ずるいな。それにそのスライムがいるという事はキースは死んだか」
そう言ってからバルトは黙る。
「悪いなリュート、そのスライムがいれば傷は治るのだろう。なら、キースの分の怒りをお前に遠慮なくぶつけられる」
バルトから魔力が噴き出していく。
「この技は1日2発までしか撃てないんだが一発くれてやる」
“斬”と剣をふりおろすバルトから斬撃波が放たれリュートに向かっていく。
スキルを神眼で知っていたリュートは、反射的にかわすことができた。
避けたリュートが横を見ると地面が数メートル先まで抉れていた。
(神眼でスキルを知っていなかったら危なかった)
「随分と反応がいいな、不意を突けたと思ったのだが」
「あんなに喋っておいて不意もなにもないだろう」
「そうにしても早すぎたと思うけどな。どうせまた何かしらのスキルを使ったのだろう。なら」
バルトは体を沈める。
「直接この手で決めよう」
バネのように起き上がったバルトは一気に直進する。
そのスピードは先程までとはまるで違う。
(はやい!)
バルトは強化魔法も使用していた。
とても素の状態のリュートでは避けきれない。
「くっ」
リュートは幾度となく襲う斬撃をさばく事だけに全神経を集中させる。
だが、それでも徐々にさばききれなくなっていき、リュートの体に切り傷を増やしていく。
『リュートさん、私も手伝います』
傷付くリュートを見かねたライムが疲弊しているのも気にせずに叫ぶ。
『やめろライム、お前はワルドを見ていろ』
この戦いの目標はあくまでワルドだ。そのワルドから目を離し逃げられでもしたらバルトを倒しても意味がない。
リュートとバルトの実力が拮抗しているからか 、先程からワルドは逃げる隙を伺っている。
『だから俺の事は心配するな』
リュートの考えはライムも理解できる。ライムは渋々とだが頷く。
しかし、このままでは長くたたずにリュートが負ける。
なら、今のリュートが勝つ方法はスキルしかない。
相手から学び、更なる力を得るスキル学習にかけるしかない。
リュートはここ三日間スキルについても考えていた。
最初一角兎のスキル一本突きを、リュートは取得出来なかった。
そこでリュートは角がない自分は、取得できないものと思った。が、ストロングコングとの戦闘時、リュートは一本突きを自分なりのやり方で再現し、取得してみせた。
ここでリュートは学習はスキルによって学ぶまでに時間差があり、種族特有のスキルや確認しずらいものは特に時間がかかると推察した。
剣術は剣を使うものが上手になる。つまり技術を上げるスキルなのだ。それを見ただけで修得するには時間がかかる。
そして斬撃波を習得できなかったのは確認回数が足りないか、剣術スキルが必須なのだろう。
つまり今、リュートが習得するべきは剣術スキルだ。
(俺の考えがただしければ剣術スキルを習得するためにはバルトのスキルの攻撃を耐え続けるしかない)
リュートがそう結論づけている間もバルトの攻撃は続いている。既にリュートの体にはおびただしいほどの傷と血がついている。
だがそれでもリュートは一瞬たりとも目をバルトから逸らさない。
バルトも今が決め所と思い攻撃の手を休めない。
バルトの動きを見切るのが先か、はたまたリュートの体が切り裂かれるのが先か、それが決まる瞬間この勝負はつく。
そして、勝負はあっけない程あっさりと終わりをみせる。
「かはっ、バカな剣筋が鋭くなった」
バルトの動きを見極めたリュートは剣術のスキルを取得することに成功した。
剣術を使っての攻撃はリュートの剣をバルトの剣よりも速く相手の体に届かせた。
リュートに横薙ぎで切り裂かれたバルトの体に一文字ができる。
バルトが驚いたようにリュートの剣は遥かに速くなり鋭くなっていた。
「コレが剣術か……剣が体の一部の様だ」
その時のリュートはおびただしいほどの傷と血によって朦朧としていたが体が嘘みたいに軽いのを感じていた。
体を深く斬られたバルトは両膝を地面につかせて、前のめりに倒れる。
「まさか、一週間で負けるとはな……俺もまだまだということか…あの世でキースと鍛え直し…だ」
バルトはそのまま目を瞑り生き絶える。
「ばっ、バカな!こんな小僧にバルトが負けただと!」
バルトの敗北にワルドは信じられないと喚く。
「フゥ……さて」
リュートはワルドに視線を向ける。
その圧倒的な美貌から発せられる視線は力強く鋭い。
リュートの眼力に圧倒されたワルドは半歩足を後ろに下げる。
しかし、ワルドはリュートのような子供に恐れた自分を認めないとばかりに、平静を装いリュートに声をかける。
「小僧、どうだ私の部下にならないか」
ワルドはここにきてリュートを仲間に誘う。
「そんな誘いに乗ると思うか」
「なっ! かっ……金ならいくらでも払うそれならどうだ悪い条件じゃないだろ」
これならどうだというワルドをリュートは鼻で笑う。
「そんなの信じられないし、お前が俺を諦めてくれるとも思えない」
リュートは剣を手にしたままワルドに近づいていく。
「やっ、やめろ命だけは助けてくれ」
命乞いをし始めるワルドにリュートは質問する。
「じゃあ答えろ。エルフの少女を誰から買った」
呪いについての情報を得るためリュートはワルドに聞く。
「なっ! お前あの部屋に入ったのか」
「そんなのは今はいい、答えろ誰だ」
「くっ! あの娘がいた村の長とフードをかぶった男だ」
リュートはニーナが売られたのは闇魔法を使えるからという理由ではないと思っていた。
(そこの長は呪いについて知っているのか? それともフードの男という奴が裏で手を引いてるのか……)
「答えたぞ、助けてくれるんだな」
「あぁ、もういいぞ」
「では助けて……」
希望を持ち目を輝かせるワルドにリュートは冷めた目を向ける。
「じゃあな」
躊躇いもなくワルドの首をリュートは切り裂く。
顔や体に大量の血が降り注ぐがリュートは顔色一つ変えない。
『大丈夫ですかリュートさん、今回復魔法を』
ライムが心配の声をあげる。
『大丈夫だそんな魔力に余裕もないだろ。こんなの少し休めば平気だ。それより血を止めるための包帯か何かを持ってきてくれ』
包帯をとりに行こうと部屋を出ようとしたライムは扉の向こうから聞こえる足音に真っ先に気づく。
『リュートさん、何かこちらに来ます、モンスターかもしれないので気を付けてください』
ライムの忠告と同時にそれは現れた。
現れたのは体長四メートルの巨体を持つ二足歩行の熊だった。
勿論、ただの熊ではない。その熊には身体中に赤いラインが入っている。
その姿に聞き覚えのあるリュートは、神眼を使いステータスを確認する。
ヘビーベアー
Lv:40、HP3000、MP500
力1000、耐久900、敏捷700、器用400
スキル:剛腕、頑強、かみ砕き、破壊突き
リュートの予想は当たっていた。
リュートはバルトから聞いていた。護衛のメンバー全員で追い出すのがやっとのモンスターがいると、その名はヘビーベアー。
この森最強にして主のモンスターだ。
ヘビーベアーは近くのライムを無視し、リュートを見る。
モンスターはリュートの方が強者だと理解していた。
リュートに視線を向けていたモンスターは、巨体とは思えないスピードでリュートに突っ込んでいく。
そのスピードはリュートが戦闘態勢をとる前に攻撃を放てる程だ。
(全力で守れ!)
その攻撃は強靭に頑強を使ったリュートの守りを突破した。
(~~~っっっ!!!)
衝撃で後ろに下がったリュートのお腹には鋭利な爪痕が刻まれていた。
(危なかった。スキルのおかげで深傷を負わずにすんだ)
ヘビーベアーの攻撃の衝撃は確かに守りを通過してリュートに届いた。
だがリュートも強くなっているのだ。それはこの森の主の攻撃に耐えられるくらいなっていた。
しかし、リュートの肉体はバルトとの戦闘で既にボロボロだ。
(ヤバいなさっきの傷から血がどんどん流れる)
リュートの出血量はすでにいつ倒れてもおかしくないほどになっていた。
今のリュートは目は霞んて、体はすでに限界で立っているのがやっとの状態だ。
だがそれでもリュートの頭は冷静だった。
(ここで死ぬのか。まだなにも出来ていないのに……ふざけるな)この時リュートは初めて死に対して抵抗する。
だけど体は限界だ。ならどうするか?
決まっている。どうせこのままでは殺されるだけだ。
だったら、限界なんて越えなければいけない。
リュートのそんな意思に未使用だったスキルが発動する。
(これは……)
リュートの体は軽く、力がみなぎっていた。
先程よりも、ちから溢れるリュートの迫力に警戒したのかヘビーベアーが二足歩行から四足歩行に切り替える。
体勢を低くして隙を減らした本気の姿勢だ。
(恐らく生半可な攻撃は通じない)
リュートは体の状態を確認する。
スキルによって力が戻ったとはいえ、怪我した左肩は使えない。
(なら片手で十分だ)
一撃で決めるとリュートはヘビーベアーに奥の手を使うことにした。
(いくぞ!)
モンスターに突っ込んでいくリュートの速さは今日一番だ。
やはり、先程のスキルによって、身体能力が上がっている。
リュートは回復した魔力で体を強化してモンスターを殴打する。
だがそれはモンスターの体に大したダメージを与える事ができなかった。
(ならこれでどうだ)
体を貫くためのスキル、一本突きをリュートは使う。
「っ‥グゴァァ!」
体に刺さったリュートの手にヘビーベアーは苦悶の鳴き声を上げる。
しかし、それでもモンスターを倒しきれない。
リュートは腕を抜き、次の攻撃へと移ろうとする。
(筋肉に挟まれて抜けない!)
だが、その腕を引き抜くことは叶わなかった。
ヘビーベアーは動けずにいるリュートの頭を刈ろうと腕を振るう。食らえばリュートの頭は簡単にもげるだろう。
『させません!』
ライムは残りの魔力で作った水魔法でヘビーベアーの腕を弾く。
そのおかげて腕はリュートの頭上を過ぎていった。
(今だ!)
ライムが作ってくれたこの幾を逃がせば確実に死ぬ。
奥の手をだすタイミングは今しかない。
(ここからは俺が命がけでやる番だ)
生半可な攻撃は通じない事は分かっている。ならはまおリュートは自分に出せる最高火力を思い浮かべる。
(炎だ。内側を焼き、爆散させる爆発力だ)
燃え盛る炎をイメージしながらリュートは魔力を集めて高めていく。そこで、ライムはリュートが何をしようとしてるか気づく。
『リュートさん、まさか魔法を! だめです。また爆発するだけで……まさか!』
ライムの予想通り、リュートはその時生じる爆発を利用するつもりでいた。
(終わりだ)
リュートの魔力は限界まで高まり――そして膨張し爆発をおこす。
『リュートさーーーーーーーん!!』
内側から爆発したモンスターは肉片を散らして言うまでもなく即死だ。
そしてリュートは――
『……聞こえてるよ、なんとか無事だ』
ヘビーベアーの耐久は高く、爆発のエネルギーのほぼ全てを遮ってくれた。それによりリュートは生き抜くことができた。
生きているとはいえ、怪我をしないというわけにはいかなかった。魔力を暴発させた右手は、指が焦げて変な方向に折れ曲がっている。
『あーライム、すっからかんの所悪いが、死にそうだ。回復魔法なんとか頼む』
『はっ――はい! 何とか捻出します』
ライムは慌てながら回復魔法をリュートにかける。
リュートはついに限界を迎えたのか静かに瞼を閉じていく。
―――スキル【適応進化】を発動したまま、リュートの意識は闇に落ちた。
次回一章最終回の予定です。
前書きでもありますが、何かおかしい所を見つけたら感想などで教えてもらえると助かります。
今回ニーナが出ませんでしたが次回はでます。




