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3.5話:ある時の秘密


「あ、卵。買おうと思ってたんだ」


 いつものように帰り、部屋に入ると玲一はふと呟いた。この後わざわざ買いに行くつもりはない。ないならないで適当に料理する。


「くっそ、スマホにメモしたのに……。メモ見ないもんなー」

「レイイチってしっかりしてるようで、結構抜けてるとこあるよね。よく机に足ぶつけるし、お風呂で溺れかけたのを見た時はこっちがハラハラした。死んでるとこ見ちゃうの嫌だし」

「まあ完璧な人間なんていないしな!」


(ん……?)


 風呂で溺れる。玲一はその言葉が引っかかった。それと同時に嫌な汗が出てきた。考えてみれば当たり前のことだが、それをバケ子に確認するのが怖い。


「なあ、もしかして俺が初めてここに来た時には、もう……?」

「あ、うん。ずっといたよ?」

「ハッ! はあぁ……!!」


 その場に崩れ落ち、四つん這いになる。顔をは床を向いたまま、動かない。冷や汗が吹き出る。目眩がする。バケ子の顔を直視できない。


「独り言とか割と多いんだよね? もしかして寂しかったとか?」

「ああ……!」

「あと、人と話す練習とかしてたかな? 分かるよ。新しい場所に出る一日目だと緊張しちゃうよね」

「やめろやめろやめろぉお……!」

「最高にご機嫌な時の鼻歌はちょっと面白かったかも」

「やめろってマジでホントにやめてください」

「……」


 そしてバケ子は、言葉につまった。玲一の顔をちらちらと見る。嫌な予感しかしない。

 やめてくれ。そういうことなんだろ。もう伝わったから。わざわざ言わなくてもいいから。そう言いたかったが、玲一は次々と発射される言葉の弾丸によるダメージで言葉が出なかった。

 彼女は少し顔を赤らめながら、口を開く。


「あと、レイイチも人間だし、男の人だし、その時はわたしのこと見えてなかったし、仕方ないけど……。この部屋で……その……そういうこと、してたのは、びっくりしたっていうか……。ね?」

「うあああああああああああ!!!! 『ね』じゃねええええええええええ!!! 見てんじゃねえええええええええ!! ああ! ああ! ああ! あああああああ!!」


 玲一は枕に顔を押し付け、疲れるまで叫び続けた。

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