表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/26

7.5話:ある時の夕食


 とある帰り道、玲一は足早に家に向かっていた。一心不乱に足を動かすその様子は競歩に近いかもしれない。


「ねえレイイチー、わたしも晩ごはん食べたいなあー」


 棒読み気味の台詞を聞くのは三回目だった。しばらく無視していれば諦めるだろうと思い、ずっと聞こえないふりをしていたが、そろそろ家に着いてしまう。家に着いたらもう何をしでかすかわからない。玲一は折れることにした。


「あー、何がいい?」

「えっ! いいの!? ありがとー!!」


 なにがありがとーだ、白々しい。

 幽霊でも食事をとる。それが分かってからたまに昼食を食べさせていた。学食はまだ安い部類に入るため負担が少なかったのだ。

 そして今日はついに夕食をねだられてしまったのだ。


幽霊(おまえ)ってさあ、なんも変わらないよな」

「え?」

「俺だと髪は伸びるし髭も伸びるしで変わるだろ。でもお前は髪は伸びない、爪も伸びてない、汚れもしなけりゃ服も変える必要がない、ついでに背も伸びない」

「死んだ時そのまんまなのかもね」

「なのに飯は欲しいって。おいおいおいって感じだ」


 最近は食事だけでなく、風呂にも入るし髪のセットもする。今までよりもかかるお金がドンと増えた。


「レイイチは、作る晩ご飯の内容が変わらないよね。買ってくる以外だとだいたいカレーじゃん」

「うるせ」

「だから今日はいつもと違う感じでよろしく!」

「注文が多い。んー、じゃあ肉じゃがでも作るか。具材があったからな。だいたいカレーと一緒だろ?」

「ほんとに大丈夫?」

「なら食べなくてもいいんだぞ」

「いやっ、冗談! 冗談だよ!」


#


「てゆーかレイイチ、料理ってできるの?」


 台所に立つ玲一に、バケ子は訝しげに問いかける。彼女が今まで玲一の調理に立ち会ったことはない。


「たまにやってんじゃん。冷蔵庫にいろいろ入ってんだぞ? 知ってるよな?」

「でもあれ料理って言うより男飯って感じが強くて……。やばくない?」

「やばくねーよ。いいだろ、男なんだから。見た目は二の次だ」

「そんなんでちゃんと作れるのかな……。あっ、肉じゃがって知ってる?」

「馬鹿にしすぎだろ。今の時代は調べりゃなんでも出るんだよ」


 意外にも玲一の料理スキルは低くなく、大きなトラブルもなく淡々と作っていった。 


「どうよ」


 バケ子用の少量の肉じゃがが入った皿を見せる。


「見た目は悪くないね」

「ほら見ろ。じゃあ、いただきます!」

「い、いただきます……」


 一口食べる。適度に咀嚼し、飲み込む。

 玲一は自身ありげだったが、バケ子の感想はそれに伴わなかった。


「ふん。不味くはないけど……って感じね」

「ああ、四捨五入して、美味いって訳だな」

「おかしくなったの?」

「なってない」


 そんな掛け合いをしつつ、玲一は気づいていた。肉じゃがを次々と口に運ぶ箸と、そのたびに浮かぶ笑顔が何より感想を語っていたことに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ