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魔術学園寮で同室になったやつがおかしすぎる。  作者: 結城暁


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「手紙?」


 もはや、竹馬の友となりそうなクマを今日も目元にこしらえたイザングランは、眠たそうにマルコに言われた言葉をオウム返しする。


「そう、手紙。手紙なら面と向かって言いづらいことも素直に伝えられるし、気持ちも冷静に書き出せるから、今のイザングラン君には最適な手段だと思うんだ」


 隣にいるミゲルもこくこく、と真剣な顔で肯く。


「イザングランはさ、アレクと仲直りしたいんでしょ? アレクだってきっと……ううん、ぜったいにイザングランと仲直りしたいと思ってるはずだからさ! まずは話し合いのきっかけ作りのためだと思って!」

「……きっかけ作り……」

「そう! 二人が話し合えればきっと仲直りできるから!」

「ミゲル……。……そうだな、わかった」 


 力説するミゲルにイザングランは素直に肯いた。

 迷惑をかけたうえに八つ当たりをしてしまい、合わせる顔がなく自室に帰れていない日々が続き、アレクともう何日もまともに話していない。

 そのせいでアレクの顔を見られず、こちらの姿を晒すことにも抵抗を覚え――今では同じ空間にいることさえ少ない。

 マルコの提案は、アレクの姿を遠くから見つめるのがせいぜいになっている今のイザングランにはぴったりの方法に思えた。


「ありがとう、二人とも」

「! いいんだよ、おれたち友達じゃない!」

「そうそう。イザングラン君には勉強を教えてもらったりでお世話になってるし」

「……うん」


 二人の笑顔に、イザングランは込み上げてくる涙を隠すために頭を下げる。

 人がいると書き辛いだろうから、と気を利かせて部屋を出ていってくれた二人に、幾度かの感謝をしながらイザングランはアレクへの手紙を書き始めた。

 ミゲルの机を借りて、まだ何も書かれていない真っ白の便せんを広げ、どうしてアレクには素直になれないだろう、と胸を痛めた。

 ペンを手に取り、まずは時候の挨拶から、いやアレクと僕の仲なのだし、省略しても……。ああでもない、こうでもない、どうすれば、と時には頭をかきむしりながらイザングランは初めて友人に向けての手紙をしたためた。

 ミゲルとマルコが帰って来る前になんとか書き上げ、明日にはきっとアレクに渡そう、と誤字脱字を発見しやすくするため、手紙を一晩寝かせることにした。


 その翌日に張り切って手紙を読み直したイザングランは絶句した。

 誤字や脱字が多かったからではない。自分の書いた手紙が、まるで恋文のようだったからだ。

 しかも、自分のもとを去っていった恋人に未練たらたらの男が書いた、情けない恋文だ。

 そうと気付いた瞬間、イザングランは手紙を両手で押し(ひし)いだ。

 顔は発熱したときのように熱く、頭も沸騰した湯のように煮えたぎっている。それらにつられた体が震えるほどだ。

 とてもじゃないが、こんな手紙をアレクい渡そうなどという気は起きない。

 ちがう、こんなことを伝えたいんじゃない、とイザングランは誰ともなくに言い訳をして、地団駄を踏みたい気分だったし、なんなら床に転がって癇癪を爆発させたいくらいだった。

 だが、イザングランは耐えた。

 ここは自室ではなく、ミゲルとマルコの部屋で、二人がいつ帰ってくるのかも分からないのだから、と自分に言い聞かせて深呼吸を繰り返す。

 こんな手紙(もの)をアレクに渡したって困惑させるだけだ、とアレクに送るのだから、と上等な便せんで書いたそれを屑籠(くずかご)に放り捨てた。

 日を置けば友人に当てたまともな手紙が書けるだろう、とその日は手紙を渡すのを諦めたイザングランだったが、その後、何回手紙を書いても友人に当てた手紙を書くことができず、手紙だったものが何度も屑籠行きとなった。

 その度にイザングランは自分の文才のなさに悲嘆した。ミゲルとマルコの部屋でなかったら泣いていたところだ、と思いながら。

評価、ブクマ、感想に誤字報告ありがとうございます。

とても嬉しいです。励みになります。

今後ともよろしくお願いいたします!

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