将来の夢は?
その夜、キャンディは寮に戻ってきた。蜂蜜くんの次はキャンディに打ち明けようと思っていたから、わたしはキャンディとゆっくり話ができるタイミングを待つことにした。
「アスナ……言いたいことがあるなら言って。こっちを見すぎ」
「えへへへ、気になっちゃった?」
「当たり前でしょう」
そりゃそうだ。
キャンディとふたり、お風呂上りにベッドに腰掛けて向かい合う。
「あのね、キャンディ。わたしね、帰れるようになったみたいなの。だから、アイスくんに手伝ってもらって、元の世界に帰るね……」
「いつ?」
「具体的には決めてないんだ。このことはまだ、蜂蜜くんとキャンディにしか言ってない。ジャムや、他にも、説明しなくちゃいけないひとがたくさんいるし、すぐには帰れないと思う」
「そう……なら、お別れパーティーをしなくっちゃね」
「えっ。いいの?」
「当たり前でしょう! むしろ、黙って帰るほうが許されないわよ」
「そっか。パーティーかぁ。嬉しい!」
「明日、皆に話すわ。週末にパーティーをして、それから帰るのはどうかしら」
「うん!」
キャンディは「もちろん、状況が変わらなければだけど」って釘を刺すのも忘れなかった。
「それにしても、寂しくなるわね……」
「うん。わたしも……。ごめんね」
「アスナが謝ることじゃないわ。それに、私ももうすぐ、ここからいなくなってしまうから……本当に寂しい」
「えええっ!? ど、どうして、キャンディまで?」
キャラメルとチョコが泣くよ〜〜!
キャンディ、学校、辞めちゃうの!?
「あのね、アスナ。これはまだ公式に発表していないのだけど、私、王妃候補を降りたのよ。だから、もうここにはいられないの」
「……あ、そっか。ここ、花嫁学校だったわ!」
「そういうこと」
なるほどね〜〜!
キャンディとジャム、ふたりとも「結婚したくない」って言ってたもんね。政治的な駆け引きとかはよくわからないけど、キャンディのパパ、本当に許してくれたんだ〜。
「よかったね、キャンディ」
「ええ! 思い切って言ってみて、本当に良かった。でも、ここを離れなくちゃいけないことだけは心残りね」
「うん……楽しかったよね、ここでの生活」
「今思えば、短すぎるくらい……。だって、一ヶ月と少しくらいじゃない?」
「うん。思い返すと、ホント……」
「泣かないのよ、アスナ」
「ん~~~!」
泣かないも~~ん!
「アスナがいなくなる前、カーリー先生とお話しする機会があったの」
「え?」
唐突に、何を言い出すのかと思ったら、キャンディはわたしの手を取って目を輝かせた。
「あの方ってすごいわ! 芸術の最先端よ! 彼は花で女の子を幸せにするの……! 今度、ファッションと花の融合をテーマにショーを開くのよ。私もぜひ参加したいって言ったら、助手にしてくれたの! もしかしたら、私、彼の弟子として学園に戻れる日が来るかもしれないわ……」
「それって、キャンディが生徒としてじゃなく、教える側として学園に行くってこと?」
「そうよ! そうなれたら、どんなにいいか!」
「すごい! なれたらいいね! それか、お花の先生じゃなくて、他の先生になってもいいんだし!」
「他の……そうね、それもそうね! 女の子を幸せにする方法はひとつじゃないわ。ありがとう、アスナ。私、考えてみるわ!」
キャンディはとても嬉しそうに笑った。
……いいなぁ。すごいなぁ。ちゃんと自分で、将来やりたいことをしっかり持ってるんだ。
わたしは……わたしはどうしよう。
何も考えてこなかったけど、クリームくんやアイスくんと出会って、話をして、困ってる子を助けられたらいいなって思ったんだよね。
「わたしも、キャンディみたいに将来の夢を探そうかな」
「いいわね、それ。絶対に必要よ」
「うん。……っていうか、もっとしんみりするかと思ったのに、いつもどおりの流れだね、わたしたち」
「……ふふっ。涙は、さよならのときまで取っておくのよ。だって、勿体ないじゃない。アスナといられるのは、あと少しなんだもの。もっと、アスナの笑顔が見たいわ。泣いてたら、曇って見えないじゃない」
「キャンディ……!」
かっこい〜〜〜!
キャンディに抱きついたらベッドに押し倒されちゃった。その日はそれで寝ることにした。明日は一番面倒な、お城での説明フェイズだ。は〜〜、これがゲームならスキップするのに。
次の日、やっぱりお城から招待状が届いてた。
これが舞踏会の招待状ならな〜。いやでも、わたし踊れないし、そもそも相手がジャムならいいや。
キャンディと一緒にお城へ行くと、正装のエクレア先生とドーナツさんに出迎えられた。
「アスナ!」
真っ先に駆け寄ってきてくれたのがドーナツさんでぇええ!?
気がつけば視界が高い! わたしはドーナツさんに腰から抱き上げられた!
「きゃあ! アスナ!」
「何をするんです、オールィドさん!」
キャンディとエクレア先生がドーナツさんに抗議する。
ドーナツさんはクルクル回って、それからわたしを降ろしてくれた。そして、ギュウッと抱きしめてきた。ちょ、苦しいよ~!
「アスナ、ありがとうな! アスナのおかげで陛下が無事に戻ってこられた!」
「あ、う、うん。わかった、わかったから……」
「おっと、子ども扱いはダメなんだっけ」
「さすがにね。ちょっと。ビックリした」
「スマン!」
言いながら笑ってるし……いいけどさ。
でも、キャンディや先生の目は冷ややかだった。話題変えよっと。
「先生、すっかり良くなったみたいですね」
「はい、おかげさまで。ありがとうございます」
「どういたしまして!」
エクレア先生は笑顔でわたしにお辞儀した。わたしもお辞儀を返す。なんだかおかしくなって、ふたりして笑ってしまった。
「では、こちらへ。国王陛下と、先王陛下がお待ちです」
先王っていう言葉にハッとする。そっか、とうとう……ジャムのお父さんに会えるんだ。えっ、そっちじゃない? まあ、そうだね。




