わたしのいない間の話?
泣いているわたしに、アイスくんは優しかった。何も言わずに、ずっと背中をさすってくれていた。でも、いつまでもこうしているわけにはいかない。……風がちょっと寒かったしね。
帰ってきたわたしたちに一番最初に気がついたのは、寮にいたキャンディと蜂蜜くんだった。再会できて嬉しい気持ちはどこへやら、わたしは両脇を掴まれて寮の中に引きずり込まれてしまった。
「ひどい格好ですよ本当に!」
「ドレスがグシャグシャよ、アスナ。これ、洗濯しても落ちないかもしれないわ」
「まったく、こんなハレンチなドレスを着て! 視界への暴力ですよコレ」
暴力ってなによ、暴力って!
「あ、あの、僕……」
「アイスくん、ごめん、すぐに着替えてくるから待ってて!」
「あら、帰っていただいて結構ですわ」
「そうそう、カエレ」
「キャンディ! 蜜! やめなさいよ!」
アイスくんをいじめたら可哀想でしょ!?
「でも、私、この子好きじゃないのよ」
「ボクもです〜」
コイツら〜!
「いいから! アイスくんはわたしを助けてくれたの! ね、アイスくん! だから、どこにも行かないで、ここにいて?」
「……わかった。アスナさんがそう言うなら」
キャンディと蜂蜜くんのトゲのある視線を受け止めて、アイスくんは笑った。なんか、成長したね。図太くなった? それはとてもいいことだと思うよ!
わいわい言いながら寮に入って、シャワーを浴びて着替える。ああ、いつもの制服がすごく、懐かしい。……って、本当なら元の世界の制服を懐かしむべきところを、マリエ・プティの制服に馴染んじゃってる! いかん!
でも、髪の毛結んでシュシュつけて、これでいつものわたしに戻れた気がするよ。伝書機も、首元にセット! そういえば結局、ソーダさんから受け取った伝書機はギースレイヴンに置いてきちゃったな……。使い方なんて教えてないけど、もしもクリームくんが手に取ってくれたら……もしかすると、ね。
サッパリしたところで一階まで降りていくと、キャンディたち三人が庭にティーセットを用意しているところだった。ケーキがある! 嬉しい〜!
パッと飛び出すと、キャンディが「めっ!」って感じで顔をしかめた。ごめんごめん。
「じゃあ、お茶にしながらお話しましょうか。アスナのいない間、こっちでも信じられないことがたくさん起こったの。まず何から話すべきかしらね、ミッチェン」
お、わたしがいない間にさらに仲良く……ミッチェン? ミシェールじゃなくて? えっ、それ、蜂蜜くんの本名じゃん!
「み、みみみみ、蜜?」
「はい〜? あ、ああ、バラしましたよ。だって、キャンディスさんてばアスナさんと同じくゼロ距離でグイグイくるんですもん。さすがに女の子とその距離はちょっと……。なので、ボクのことはぜんぶバラしました。ここでは混乱を避けるために女装を続けますけどね〜」
「なによそれ〜〜! わたしだって女の子なのに! ひどくない!? キャンディのときは目のやり場に困って、わたしだったら何も感じないって言うの〜〜〜!?」
「そういうわけでは」
「じゃあどういうワケよ!」
あっ、視線逸らした! もう!
「落ち着きなさいな、ふたりとも! こんなときに喧嘩なんかやめてちょうだい。すぐに日が暮れるのよ? もめてる時間なんかないでしょう」
「ごめんなさぁい」
「すみませ〜ん」
蜜! 反省してないな!
「ん! んんっ!」
キャンディの咳払いにわたしはちゃんと椅子に座り直す。怒られちゃう怒られちゃう!
「いいこと? まず、大きな収穫はお兄様……陛下の居場所の見当がついたことよ」
「じゃあ!」
「ただし! 現状ではとてもその場所まで行き着けないの」
「そんな……」
ジャム、まだ帰ってこられないんだ……。
「陛下をさらったのは、元宰相のシャリアディースに間違いないこともわかったわ。あの方の目的は、陛下そのもの……いいえ、正確には初代オースティアン王子を生き返らせるために、陛下の体を欲しがっているの」
「なら、早く助けに行かないと!」
そこに口を挟んできたのは蜂蜜くんだった。
「そうできれば良かったんですけどね〜。その場所がなんと、海の彼方の氷の国なんだそうですよ。この国は、ほら、ずっと閉じこもってたから造船の技術が廃れちゃってて、どうにもならないとか」
「それに海には、何だか得体の知れないものがいるらしいのよ」
あ、暴れ海竜……!
酢飯〜!
船はない、それを造る技術もない、おまけに海には暴れ海竜がいる。そうなったら、ジャムを助けに行くルートは……
「何か、頼りっぱなしで良くないけど、精霊の力を借りるしかないんじゃないかな、この状況。風の精霊であるソーダさん、それか大地の精霊であるコンちゃん、そして光の精霊のクッキーくんに頼るしか……」
でも、あんまり人間に肩入れさせちゃ、ダメなんだったよね……。
と、ここで精霊に関してはスペシャリストのアイスくんが口を開いた。
「クォンペントゥスに頼るのは、無理だと思う」
「どうして? 大地が凍りついてるから?」
「いや、そもそも海の上の氷の島は、島と言いながら土ではないから、クォンペントゥスの領域じゃないんだ。それに、あれはクォンペントゥスの奥さんである水の精霊シャーベ・スベルベルトの領域なんだ」
「シャーベ……ット? まぁいいや。水の精霊とか言いつつ凍ってるじゃん」
「それが……色々理由があるんだ。凍ってしまったのは、シャーベ・スベルベルトの意思だよ。これは大昔に遡るんだけど、火の精霊ジフ・オンが、宙に浮きっぱなしはつらいからって自分の家を探してたときがあったんだ。ジフ・オンは安定した場所が欲しくてクォンペントゥスの領域である大地に身を寄せたんだけど、一緒に暮らすうちにその……ジフ・オンに子どもが生まれちゃって……」
「えっ」
「それで、シャーベ・スベルベルトは怒って海の彼方に自分の国を作って引きこもっちゃったんだって。だから、クォンペントゥスがあの国に行くのは無理なんだよ」
「こ……こ、コンちゃ〜〜〜〜〜ん!?」
何してんだあのエロウサギぃ!




