どうしてなの、アイスくん?
名前を呼ばれて、わたしはギュッと脇を締めて警戒態勢になった。アイスくんが来てる……!
「どこ……?」
「ここだよ」
「わっ!?」
ドアから入ってくるか、天井から来るか、どっちかだと思ってたのに、アイスくんてばカーテンの陰から出てきた! ずっとこの部屋にいたわけ〜?
「どうしてそんなとこから!」
「それより、アスナさん、大丈夫だった? 怪我してない? 殿下に何かされたり……」
それより、じゃないよ。大事なことだよ。
っていうか、アイスくんのせいで落っこちたんだよね? 何かされたりって、奴隷にされたわ!
「近寄らないで。それ以上わたしに近づいたら、この新しいハリセンがうなるわよ!」
「えっ、あっ……」
わたしがハリセンを構えると、アイスくんは戸惑ってまごまごし始めた。困ったような顔。昨日みたいに変な雰囲気はなくなってた。
とにかく、話を聞かなきゃしょうがない。
わたしはいったん、ハリセンを収めた。
あ、そうそう、部屋のドアも閉めておかなくっちゃね。鍵は……閉まらないようになってる。とにかくしっかり閉めて、わたしはアイスくんに向き直った。
「アイスくん、もしかしてわたしのこと助けに来てくれたの?」
「そう! そうだよ! 早く逃げよう、アスナさん!」
「待って、アイスくん。これ見て……わたし、あの王子に首輪をはめられちゃったんだ……」
「そんな……!」
アイスくんは悔しそうに顔をくしゃっと歪めた。握りしめた拳を、どこへやったらいいのかわからないみたいにしてた。
「遅かった……! まさか、この国へ来てると、思わなかったから……。ごめん、アスナさん」
謝ってほしいのは、このことじゃないんだけどなぁ……。
あ、そりゃもちろん、ここに落っことしたことも謝ってほしいけども。元々、アイスくんがわたしのことを寮から連れ出そうとしなければ、こんなことになってないんだからさ。
「わざとここに連れてきたわけじゃ、ないの?」
「違うよ! 僕がアスナさんを苦しめるわけない。殿下が戻ってくる前に、首輪を外して早くここを出よう」
「わたしの首輪、外せるの?」
「うん……。あの、ある程度の血を、首輪の内側に流し込むことができれば……」
なんですと!?
血を……!?
「わ、わたし……ちょっと、それは……。く、首にナイフとかは、こ、怖いんだけど! それに、怪我、どうやって治すの……? 魔法?」
「……これは、火の精霊に焼いて塞いでもらって……」
「えっ!? そ、それ、火傷の痕なのっ!?」
待って待って待って、怖い! 無理!
「でも……外さないと、ここから逃げられても首輪に苦しめられることになる。外すなら、早いほうがいい」
「それは! わかるけど……でも、待って。今はやめとく。それより、アイスくんにお願いがあるの」
「……なに?」
むっ、なんか……空気が重くなった。
アイスくんが、一歩わたしから退いた。
「あのね、わたしの友達に、わたしが無事でいるって伝えてほしいの。この国に来たのはアクシデントだったけど、ここに来て、色んなことを知れたから、もう少しここで……」
「いやだ」
「えっ」
えっ、今、断られた……?
「あの、アイスくん……?」
「嫌だ。どうしてあんな国の連中のために、そんなに一生懸命になるの? こんな、自分の命が危ないっていうときに。アスナさんには危機感が足りてないんじゃないかな?」
「それは……わたしだって死にたくないよ。だから、ギリギリまで情報収集してから……」
「それが、甘いんだよ」
吐き捨てるように言われて、わたしはカッとなった。
そんな、馬鹿にしたように言う!?
「なによ! そもそもアイスくんが余計なちょっかいかけてこなかったら、こんなことにはなってない! 助けてくれないなら、わたしのことは放っておいてよ!」
「助けないなんて言ってない! そんなことしたら死んじゃうじゃないか!」
「アイスくんのせいで死にかけたんでしょ!?」
「!」
言いたくなかった本音が、つい、口をついて出た。
こんな風に責めるつもりじゃなかったのに……。
「アイスくん……、あの……」
「……わからない」
「え……?」
「アスナさんを助けたいだけなのに、どうして、僕は……。まだ大丈夫だけど、時間は無限じゃない。アスナさんの魔力が溜まりきる前に何とかしないと……」
「何の話?」
「じゃあ、僕はもう、行くね。また会いに来る。今度は、火の精霊を連れてくるから」
「ちょっと待って!」
わたしはアイスくんの腕をギュッと抱きしめて、引き留めた。
「お願い……」
「アスナさ」
「わたしのこと、伝えて。お願い! キャンディたちに、伝えて……それも嫌なら、伝書機を貸してくれるだけでもいいの」
「伝書機って、もしかして……」
アイスくんはポケットに手を入れて、伝書機を出してくれた。でも、え……多くない、これ……。
「その辺をずっと飛び回ってたから、回収しておいたんだ」
「それっ!」
皆の伝書機だ! わたしのために、飛ばしてくれたんだ!
伸ばした手は、叩き落された……。
「必要ないから、処分するね」
「は? え、意味わかんない……。ね、それ、わたし宛てだよね? ちょうだい! それ、声が入ってるはずなの、魔力をこめれば持ち主まで……」
「知ってる。だから、これはもう、いらないんだよ」
「どうしてよ! 返して!」
「バイバイ、アスナさん。また、すぐに会えるよ」
「いや! 待って、アイスくん! それ返して! 返してよ……」
アイスくんは、わたしの手を振り払って行っちゃった……。
ひとりで、帰っちゃった。わたしは置き去り。あの伝書機も、ぜんぶ、持って行っちゃった!
あの中にはきっと、わたしを心配した皆が声を吹き込んでくれてたっていうのに。たったひとこと、「無事だよ」って、それを伝えたかっただけなのに……!
それすら、許してもらえなかった。
ひどい……。アイスくんはずるい。わたしの所へ来たとき、「助けてほしい」って言ってた……。わたしに、お願いをしたんだよ?
わたしは、叶えたじゃない?
そのお願いに従って、ギースレイヴンまで行ったじゃない!
それなのに、アイスくんは……わたしのお願いは聞いてくれないんだ。
「アイスくんのバカ……!」




