パジャマで敵地潜入!?
わたしは地面に落下した。そのはず、だった。
でも、背中に当たったのは何だか柔らかいもので、ポヨンと跳ね返された。
「ぐえっ!?」
「えっ? なに?」
誰かが潰れたような声を出した。アレ? これもしかして、わたしが潰しちゃったのかな?
「あっ、ごめんね!」
跳ね返された勢いでわたしは前につんのめって四つん這いになっていた。毛足の長い絨毯の上に膝から落ちる。ここ、どこだろう。何だか、すごく豪華な部屋だ。まるでジャムのお城の部屋みたい。
振り向くと、大きなベッドに淡いクリーム色の髪の毛をした男の子がいて、起き上がってこっちを見ていた。……うわ、怒ってる。でも、それも当然かな〜。赤に近い濃いオレンジ色の瞳がわたしを睨んでいた。
「おい、貴様っ! どこから来た、名を名乗れ!」
「えっと……」
ど、どうしよ!
相手は子どもだけど、すごく偉そうな感じ。お城でも街でも見かけたことのない子だ。変なところから落っこちて、別の場所に来ちゃったから、ここがどこだか本格的にわからない!
「口がきけないわけじゃないだろう? さっきの言葉、聞こえていたぞ」
ぎゃ〜〜〜!
わたしのバカ!
その子は、枕元の机に置いてあったベルを掴んで鳴らしてしまった。慌ててどこか逃げられる場所を探したけど、その前に部屋に入ってきたふたりの男のひとに捕まってしまった。
ホテルマンみたいな格好をしてるけど、槍持ってる!
わたしは押さえつけられて無理やり座らされた。
「ちょっ、痛い痛い! 離してよ!」
あ、痛いって言ったらちょっと緩めてくれた。
ラッキー。優しいひとなのかも。軍人さんかなぁ。……首輪がはまってるなぁ。アイスくんがしてたのに似てるってことは、ここはもしかして……。
偉そうな男の子がベッドを降りてこっちに来る。いくつだろう……小学校、高学年? 中学一年生くらい? 不機嫌な表情を崩さずに、床にペタンコ座りさせられたわたしを見下ろしてくる。
「女、名は?」
「…………」
「お前、俺様がギースレイヴンのクリエムハルトだと知ってその態度なのか?」
やっぱり!
ここ、ギースレイヴンじゃん!
ぴろんっとここで電子音。遅い! 遅いぞっ、ステータス!
わたしは急いでステータスを開こうとして、目の前の男の子に蹴飛ばされた。
「いたっ!」
お、女の子のお腹を蹴飛ばすなんて、信じらんない!
カスタードクリームみたいな髪の色と名前しちゃって! お前なんかカスだ、このカス!
「名は?」
「うるさい、バーカ!」
「…………お前、頭がカラッポなのか? おい、今すぐこの女を裸にして牢に放りこめ」
「なっ、ちょっと、なにそれ! やめてよね!」
裸にするとか、エロガキじゃん! なんなのコイツ!
槍持った軍人さんも戸惑ってるよ!
「最後にもう一度だけ聞くぞ。よく考えて返事をしろ。女、名は?」
本気だ……この子。
わたしがここで嘘の名前を言ったら、バレたときに殺されそう。それとも、嘘ついた瞬間にバレそう。
炎みたいなのに、すごく冷たい瞳がわたしを見下ろしている。
ちょっと、怖い……。この子もだけど、この子が持ってる力が怖い。命令されたら軍人さんたちは、逆らえないだろうから。
「アスナ。アスナ クサカ、だよ。名前を教えたんだから離してくれる?」
「アスナか。……おい、お前、アレを持ってこい」
「なんなの?」
カスは、わたしの名前を聞いて満足したのかフンッて鼻で笑った。そして、わたしを押さえてたうちのひとりに、「アレを持ってこい」って命令した。アレってなによ。
「随分と遠回りだったが、ようやく手に入れた。まったく、アイスシュークのヤツ、今まで何をしていたんだ」
「アイスくん!?」
「そうだ。俺様がアイツに、お前を連れてくるよう命じたんだ。だが、アイツはいつまでたってもお前を連れてこなかった! さて……何のつもりで単身ここへ乗り込んできたのかは知らんが、ただで帰れると思うなよ」
アイスくんに命令してたってことは、コイツはギースレイヴンの王子だ。やばい、わたし、一番来ちゃいけないとこに来ちゃった……。
もしかして、わざとわたしをここへ落としたの!?
最低……!
「うう〜〜っ! アイスくん……!」
「泣いてもムダだぞ」
「お待たせしました、殿下」
「よし、いいぞ。おい、ソイツの首が見えるようにしろ。ちゃんと押さえておけよ」
「それ、首輪じゃん! やだ……やめてっ!」
アイスくんがしていたのと同じ、趣味の悪いゴツい首輪がわたしの首にはめられる。どうしよう、これでこのカス王子の言いなりになっちゃう!
「やだぁ……! カスの言いなりになっちゃう〜〜!」
「おい、カスとはなんだ、カスとは! まさか俺様のことか!?」
「あ、自覚あったんだ、カス王子」
「貴様ぁ!」
「貴様って言ったりお前って言ったりどっちなの? わたしに何するつもりなのよ、エロガキ!」
「……っ! そんな生意気な口がきけるのも今だけだからな!」
「どういう意味よ」
カスはわたしの髪の毛を掴んで引っ張った。
「いたっ!? 離して!」
「うるさい、黙れ! お前は俺様の奴隷になったんだ、逆らうことは許さない。わかったな?」
「やだ!」
「今夜はここで寝かせてやるからありがたく思えよ」
ヤダって言ったのにコイツひとの話聞いてない!
「……ところで、その不自然にデカい胸には何を隠してるんだ? 武器か?」
「隠してない!」
「ニセモノなんだろ?」
「本物だよ! 触んないで!」
カスの手を振り払おうとして、振り払おうとしたのに体が動かなかった。
「なんで……」
「当然だろう? ん、何もないな、よし。ほら、さっさと寝ろ。俺様ももう寝る」
エロガキ〜〜〜!
軍人さんたちはお辞儀をして出ていった。カスは自分だけベッドに入る。わたしは部屋に取り残されてしまった。
「ねぇ、わたしのベッドは? ……ねぇったら!」
「知るか。そのへんで寝ろ。あ、トイレは絨毯の上でするなよ?」
「しないよ!」
躾の悪いペットか!
くそ〜〜〜、コイツ〜〜!
「ねぇ、寒いんだけど! なんかないの? ねぇ!」
「……うるさいなぁ。そんなに言うならベッドに入れてやる。俺様を蹴飛ばすなよ?」
「えっ」
同じベッドで寝るのはちょっと……。
え〜〜〜〜?
それっきり、カスは寝てしまったのか返事をしなくなってしまった。わたしは、迷ったけど、カスのベッドで寝ることにした。だって、寒いし。絨毯の上だとちょっと固いし……。
こうなったのも、ぜんぶアイスくんのせいだ。
アイスくんのアホ〜!




