放課後のナイショ話?
部屋に戻ると、蜂蜜くんが厳しい顔をして立っていた。
「おかえりなさい、アスナさん」
「た、ただいま……」
笑顔がめっちゃ怖いんですけど!?
何でコイツは無断外泊したこともあるくせに自分のこと棚に上げてわたしのこと怒ってるの?
「ずいぶん遅かったですね?」
「ごはん食べてきちゃったからさぁ……。色々あって、ちょっと時間かかっちゃったんだもん」
「色々ですかぁ。ふ〜〜ん」
「な、なによ」
可愛いパジャマ姿で、髪の毛も下ろしてる蜂蜜くんがすごんだって、こ、怖くないんだからねっ。
「お風呂に入るような色々があったってわけですか。あんのエロ猿……」
「ちょっ、違う! 誤解だよ! ただの事故だよ!?」
ジャムとは何もありませんでしたー!
水かけられたのも、庭師さんから見えない位置にいたわたしが悪いんですー!
「ホントに何もされてないから! 無事だし! 心配することなんて……!」
慌てて言い訳をしていたら、蜂蜜くんに抱きしめられてしまった。ふんわりとオレンジの香りが広がる。
「心配、しましたよ」
「蜜……」
「アイツに命令されて、貴女の側にいることすらできなかった自分が、情けなくて……悔しいです」
「ありがと。心配かけてごめん」
「まったくですよ」
蜂蜜くんの言葉に思わず笑ってしまう。
そこは、「貴女は悪くないです」って言うところじゃない? でもまあ、いっか。
パジャマに着替えてベッドに潜ると、上の段から蜂蜜くんの声が降ってきた。
「アスナさん」
「なぁに?」
「今日、アイツに会って、何か解決しましたか?」
「……どうだろ。解決しそうな気もするし、言いくるめられただけな気もするし。それより、初めて聞いたことばっかりで、頭の中が整理できそうにないよ。会いに行かなきゃいけないひとがたくさんいるし、シャリの魔法講義受けに週に一回お城に行かなくっちゃいけなくなったし」
「えっ!? まさかアスナさん、アイツと契約したんじゃないでしょうね!?」
「するわけないじゃん! そこは、ちゃんとわかってるよ。でも、確かに魔法は武器になるし……」
それに、シャリアディースから魔法を習えば、蜂蜜くんをアイツの契約から解放してあげられるかもしれないじゃない?
「あんなヤツのとこに行くべきじゃないですよ」
「わかってるよ」
「わかってないでしょ。どうして、自分から危険に突っ込んでくんです? もう、みんな、放っておけばいいんですよ……」
「逃げても、解決するわけじゃないからね」
「…………」
「おやすみ、蜜。また明日ね」
ベッドの上段からは不満そうな唸り声が返ってきた。
もう寝よう。明日こそ、キャンディの誤解を解かないとね。
ああ、そういえば、ドーナツさんにお手紙も出さないと。伝書機、借りるタイミングなかったんだよね、結局。それもキャンディに借りようかな。それにはまず、キャンディを捕まえないと。そんなことを思っていたせいか、その夜に見た夢は、キャンディの髪の毛みたいに真っ白な、ウサギを捕まえる夢だった。
放課後、わたしは首尾よくキャンディを捕まえていた。
いや、むしろ捕まってくれたのかな? キャンディは「ふたりきりで話せる場所へ行きましょう」と言ってわたしの手を引いた。案内されたのは、すごく広い学園の敷地の中で、寮とは反対側にある庭園のすみっこ。ゼリーさんに連れられてきた崩れた石柱のすぐそばだった。
「ここなら、誰も来ませんわ」
ホントかな……。この前来たよ、わたし。連れてこられたよ。
「アスナの言いたいことはわかっていてよ。ミシェールさんからも聞きましたわ、貴女たちふたりの間には、まだ何の関係もないと」
「うん、そう……いやいやいや、まだってなによ、まだって」
これから先もそんなご予定はありませんことよっ!?
「さすがに同室の生徒同士がそういう関係になるのは、いただけませんわ。学園の秩序が崩壊してしまいますもの」
「大丈夫だから安心して」
キャンディは悩まし気にほうっとため息をついた。
つややかな白い髪を掻き上げて、桜色の唇をすぼめて。濡れたエメラルドみたいな瞳でわたしに流し目を送ってくる。……何食べて育ったらこんな色気が出せるわけ? だって14歳だよ。まだ中学生じゃん?
「私、アスナが女子生徒とあんな風に顔を寄せ合っているところを見て、やっぱりアスナも私と同じなんだと思いましたの。それは、とても喜ばしいこと……」
まったく違うけどね。お仲間じゃないけどね。
「それなのに私ったら、とても胸が痛んだんですの。だから、あのとき、あんなひどいことを言ってしまって……申し訳ないと思っていたんですの。でも、アスナを見ると上手く言葉が出てこなくて、逃げてしまったんですわ」
「それって?」
「私、自分で思った以上に、アスナのことを好きみたい」
「えっ」
えっ、ちょっと、それってどういう意味?
「アスナのことが好きですわ。ふざけて、抱きついて、困らせて……。貴女に甘えていたの。アスナは、口ではやめなさいって言いながら、私を完全に拒絶したことはありませんでしたものね」
まぁ、確かに。
べつに嫌じゃなかったし。だって、そんなの友だち同士のおふざけの延長線じゃない?
「まだ友情の範囲でしたのよ、今までは……。ああ、でも、この不思議な痛みは、高鳴りは、本物の恋なのかもしれませんわ!」
「大丈夫?」
「アスナ! 貴女のお顔をよく見せて? もっと、近くで……」
ずずいっとキャンディが近づいてくる。熱でもあるのかなこの子は。
今にも倒れそうな感じで前のめりになっていたので、とりあえず両手でその肩を支えてあげた。
「アスナ......!」
「そ、そんなのダメです〜〜〜!」
「えっ? アイスくんっ?」
雑木林から飛び出してくる人影。鮮やかな水色の髪の毛をしたその子は、思いっきりコケて地面に顔面スライディングしていた。痛そう……。
結界を越えられるアイスくんの登場です。次回は登場人物紹介を挟んで、とうとう隣国ギースレイヴンへ!?




