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わたし、異世界でも女子高生やってます  作者: 小織 舞(こおり まい)
ノーマルルート
29/280

二話つづけて投稿しております。

お気をつけください。


▶【今すぐシャリアディースに会いに行く】



「やっぱりわたし、今からアイツのとこに行く」

「アスナさん!」

「ごめんね、でも、もう決めたの」

「朝になってからでも遅くないでしょう? なんで今……」


 朝になってからだと、学校を休まなくちゃいけなくなる。

 それに、ジャムの目の前で問いただすのは嫌だ。もしもジャムがこのことを知らなかったとしたら、かなりのショックを受けることになってしまう。


 そして、ジャムが結界のことを知ってて認めているんだとしたら、そしたら、わたしがきっと大きなショックを受けてしまう。


 ジャムの、あのすかした態度や、それ以上に仕事に対して真摯なところが、ぜんぶ嘘だったなんて、そんなの考えたくない! 


「ついて来てなんて言わない、ひとりで行くよ。寝てる隙に抜け出したって言えば、シャリアディースだって蜂蜜くんのこと叱らないよ、きっと。わたしの見張り役、なんでしょ?」

「そんな理由で引き留めてんじゃないですよ。わかるでしょ?」

「うん……ごめんなさい」

「よろしい。それじゃ、コッソリ抜け出しますよ」

「うん!」


 わたしが素直に謝ると、蜂蜜くんはニッコリ笑った。

 すごく新鮮。このひとも、こんな風に屈託なく笑うんだ。


 寮を抜け出したわたしたちは、まず学校の車庫に向かった。なぜかと言うと、そこにはヴィークルって呼ばれる、魔力で動く乗り物があるから。家が買えちゃうくらい高価らしいんだけど、さっすがお嬢様ばかりが通う学校、マリエ・プティ。車庫にはそれがずらっと十台は置いてあった。


「魔力の少ないボクじゃ無理ですが、アスナさんには動かせると思いますよ。何と言ってもあの陰険宰相のかけた魔術防壁を維持しているのは、アスナさん自身の魔力なんですから」

「そうなの!?」

「ええ」


 そんな話は聞いてないぞ! シャリ!!


 むかっ腹を立てながら、遊園地にあるコーヒーカップそっくりな見た目のヴィークルに乗り込む。中心にはハンドルの代わりに、台座に嵌まった水晶玉があった。蜂蜜くんに言われるままに手をかざすと、虹色の光があふれてコーヒーカップが浮いた。


 ほとんど音がしないから、誰にも見とがめられずに学校の敷地を出ることができた。そのまま、街灯を頼りに城まで進んでいく。蜂蜜くんが道を教えてくれるおかげで迷うこともない。


「ひとりだったら、どうするつもりだったんですか」

「聞かないで」


 クスクス笑われながらコーヒーカップを運転する。

 王宮への侵入も、ここの警備を担当したことのある蜂蜜くんが衛兵さんに見つからない道を教えてくれた。シャリさんのいるだろう部屋までコソコソと歩いていると、いきなり蜂蜜くんがわたしを突き飛ばした。


「わっ!?」

「走って!」


 がっちゃんと金属のぶつかる音が聞こえた。

 転んで痛む膝をかばいながら、立ち上がって前に進む。振り返ると、ゼリーさんが蜂蜜くんに向かって何か棒のようなものを振り上げていた。


「蜜!」

「いいから、ここはボクに任せて! なるべく早く説得してくださいよね!」

「わかった!」


 わたしは教えられた通りにシャリアディースの部屋まで走った。階段を上って、廊下の一番奥を目指す。ノックもせず勝手に部屋に入ると、待ち構えていたかのようにシャリアディースが立ってこっちを見ていた。


「妃殿下、ごきげんよう。こんな夜更けに何のご用件かな?」

「シャリアディース! ジェロニモさんにやめるように言って。いきなり来たのは悪かったけど、あんな本気で襲い掛かってくることなくない? わたしたち、ちょっと質問があって来ただけなんだってば!」

「ほほう。では先に質問の中身を聞こうかな。おや、膝を擦りむいているようだ。いけないね、こんなお転婆では……」

「そんなのいいから! 早くやめさせて!」


 わたしの声は悲鳴に近かった。

 まさか蜂蜜くんがやられるとは思ってないけど、あのままじゃどっちかが大怪我をしてしまう!


「質問が先だ」

「この……! わかったわよ、質問はね、結界についてよ。あの結界が、魔力を吸い取っているっていうのは本当なの? そのせいで、具合が悪くなる人や、長生きできない人がいるって、知ってるの?」


 思い切ってぶつけた質問。

 でも、返ってきたのは胸が寒くなるような微笑みだった。


「アスナ、君はそれを知ってどうするつもりなんだ?」

「どうって……魔力を吸い取るのをやめてほしいの。結界のほころびは直ったんだよね? じゃあ、もう魔力は必要ないんじゃないの?」


 シャリアディースが、ゆっくりと一歩、わたしのほうへ足を踏み出した。

 わたしは一歩、後ろに下がる。わたしが入ってきたドアは、なぜか閉じていて、開けようとしても動かなかった。


「あ、やだっ、なんで!」

「アスナ……」

「来ないで! ジャムはこのこと、知ってるの!? どうしてこんな、ひどいことができるの? 人間を苦しめて楽しい!?」


 シャリアディースは答えない。

 わたしはドアを開けるのを諦めて、シャリアディースの腕から逃げようと部屋の反対側へ走った。大きなカーテンの向こうはきっと窓だ、バルコニーに出られれば助けを呼べる!


 でも、後ろから髪の毛を引っ張られてわたしは転ばされてしまった。


「きゃあっ!」

「まったく、余計なことに首を突っ込みたがるんだね、君は。だが、私としては好都合だ。そろそろ時も満ちる……、少し早いが計画を先に進めてしまおうね」

「ひゅっ!?」


 トン、とシャリアディースの指が触れたとたん、息ができなくなってわたしはもがいた。

 空気を求めて、喉を引っ掻く。


「オースティアン! オースティアン、来てくれないか! アスナが大変なのだ!」


 わざとらしくシャリアディースが叫ぶ。

 自分でやっておきながら、ジャムを巻き込んでどうするつもり!?


 そう問いただしたかったけど、できずにもどかしい。

 声が出ない、苦しい。ぼやけていく視界の中に、ジャムの顔が見えた。


「アスナ! どうしたんだ、これは!」

「魔力切れだよ、オースティアン。早く対処しないと、アスナが死んでしまう」

「なっ、しかし……!」

「マナの実を取ってくるような暇はないのだよ。私よりも君の方が適役だ、オースティアン。さあ、早く口づけを」

「…………すまん、アスナ」


 ジャムがわたしに覆いかぶさってくる。

 わたしの唇に温かいものが触れた。


「うぐ……!? な、ぜ……」


 キスされても、息苦しさは解消されなかった。

 それどころか、ジャムが喉を押さえて苦しみ始めた。そして、わたしの隣に倒れこむ。


 ぐったりとなってしまったジャムの方へ、最後の力を振り絞って手を伸ばす。

 でも、その手は届かなかった。

 もう、目を開けていられない……。


「ようやくだ、オースティアン。ようやく君との約束が果たせる……ふふふふふ、ははははは!」


 シャリアディースの高笑いを最後に、わたしは眠ってしまったようだった。







END『彼の夢を叶える操り人形』

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