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第16話 突飛なカブラギの突飛な回答

 場所は駅近くの焼き鳥屋だった。

 ちなみにカブラギの高校は駅から徒歩10分のところにある。


 自宅→2駅→高校→4駅→大学


 大学は自宅最寄駅から乗り換えなしの1本でいけた。バイト先はただタカハシ目当てに弁当屋を選んだわけではない。定期の範囲内でいけることが魅力だった。大学へのアクセスもいい。


 カブラギは母子家庭で、高校も大学もちゃんとアルバイトしながら通っていた。特に大学1年の時はさまざまなバイトをした。タカハシを落とすためワンピースやアクセサリーやコスメが買いたかったのである!


 リップ以外のお化粧をしたのは大学に入ってから。


「「かんぱーいっ」」


 カチンと大ジョッキを合わせるとカブラギは喉を鳴らしてビールを飲んだ。9月とはいえまたまだ暑い。休憩込み8時間働いて疲れた体に沁みた。


 ぷはーっ。


「最高っ。先生っ。大人になれてよかったですっ!!!」


 タカハシはニッコリとうなずいた。


 カブラギは串にかぶりついた。脂が滴る鳥モモ肉をネギと食べると本当に美味しい。


「大人はズルいですねっ!! 高校生はこんなお店横目に見て終わりですよっ」


 ふふっ。タカハシが笑ってくれる。タカハシは大学生になったばかりのカブラギが知らないお店に連れてってくれる。

 やきとりの『とり皮』を歯でしごきながら『大人なんだな〜っ』と思った。


「先生でもアレですよ〜。昨日言ってくれればよかったのに」

「昨日?」

「もっとオシャレしてきたのに……」


 カブラギはキャラクターのついたTシャツに半パン。サンダルであった。ギリピアスはしていた。

 このTシャツ。『マウンテンズ』のペンギンTシャツである。なんでもかんでもライブグッズで揃えてくんなお前。乳がデカいのでメンズサイズ。立つとカブラギの太ももまで隠した。


「焼き鳥屋にオシャレしてこなくていいよ」


 タカハシはキュウリと梅肉のたたきを店員から会釈して受け取った。


「それでカブラギ。初給与で何を買うの?」

「はいっ。古語辞典を買いますっ」


 タカハシはうなずいた。カブラギがそういう生徒であることをよく知っていた。けして無駄遣いはしない。慎ましく母親を助ける子であった。

『どこの事典がいいか』を2人しばらく話し合った。


「高校生の時は向かいのドーナツ店で働いてたしね」

「はいっ。おかげで学用品を揃えられましたっ」

「本当に勉強も部活もアルバイトも頑張る子だったよ。カブラギは」


 自然と部活動の話になった。


 ◇


 カブラギは高校に入ってすぐ演劇部に入部した。理由はただ一つ。タカハシが演劇部の顧問だったのである。


 タカハシはあまり熱心な部活指導を行わなかった。年に2回、学校コンクールがある。地域の高校が集まって演技を競う。名門になると『1位以外は許さない』みたいな雰囲気が漂うがタカハシは順位について一切こだわらなかった。


 朝練も昼練も夜練もない。コンクールに出りゃいいみたいなヌルイ部活だった。女どもがお菓子持ち寄ってどうでもいい話をするために集まっているような場所だ。


 ただ、演技指導の方法が変わっていた。


 台本が配られるとタカハシは生徒一人一人を呼ぶ。で、対面で同じ質問をし続けた。


「お前の役。好きな色はなに?」


 は? それ演技の役に立つんですか?


 だいたいがやる気のない生徒ばかりが集まっているので適当に答える。「青です」「緑です」「黄色です」


 すると


「どうして青が好きなの?」

「どうして緑が好きなの?」

「どうして黄色が好きなの?」


『『『そんなこと聞いてどうするの!?』』』


 全員が心の中で突っ込んだ。タカハシお得意の『そんなこと聞いてどうするの』だ。まあ生徒が先生に言うセリフではないのでやはり適当に答える。「空が好きだからです」とか「ハイキングが趣味なんです」とか「夏生まれでひまわりが好きなんです」


 すると「どうして空が好きなの?」と無限に質問が続くわけだ。これを生徒たちは『禅問答』と言って嫌った。どーでもいいこと聞いてきやがって。台本となんの関係あんねん。

 答えられないと「じゃあ次までに考えてきなさい」と言って他の生徒に代わる。


 指導といえばそのくらいで、あとは『主役』にピッタリと寄り添っていた。

 常に主役の隣にいて何か話している。主役が舞台に出ると黙って主役を見ている。カブラギはそれがうらやましくてたまらなかった。


『主役』はだいたい3年生がなった。夏休み最初に行われるコンクールに出て引退。残りの学生生活を受験勉強にまい進するわけだ。


 3年になってカブラギは『主役』に名乗りを上げた。他の3年生から『どーぞ、どーぞ』された。ダチョウ倶楽部か。『得体の知れない鬼太郎にピッタリ張り付かれる役を担っていただけるとは! アンタ変わってんね!』みたいな空気が漂った。


 台本が配られた『中村烈(なかむられつ)の冒険』

『中村烈という女の子が家出していろいろな人に出会い、家出を反省して帰ることを決意する』それだけの話だ。


 カブラギは『中村烈』役になった。


 タカハシに呼ばれて対面に座ると案の定聞かれた。

「この中村烈って子は何色が好きなの?」


 カブラギは答えた「赤と黒です」


「どうして赤と黒が好きなの?」


 さすがカブラギ。突飛である。


「えーっと。わかりません。なぜ私『赤と黒』って答えちゃったのでしょう?」

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― 新着の感想 ―
[一言] ふたりが可愛すぎてなんか泣きそう
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