友人
親近感を抱くと、何となしに距離が近付く。その親近感が、互いの一番深く大きな部分に対してだったから、余計に。顔見知りが知人となり、話す時間に違和感を覚えなくなると、それは友人と呼んで差し障りないだろう。
とはいえ、頻繁に連絡を取り合ったりする訳でも無く。会話と言っても、自分の主が促してくれた時に二、三、言葉を交わすだけ。元々友人に対する優先順位が高くない二人にとって、それで充分に『友人』を継続させるだけの関わりだった。
ただお互いに仕事一筋……中毒と称しても良いだろう。そして趣味と言う趣味もなく、主君への大き過ぎる忠誠心。生活する上であらゆる部分が共通している二人は、自然と行動パターンが 似てくるらしい。
「あ」
「あ」
いつかのカフェでばったり、なんていう事も、ままある事だった。
「お久しぶり……でもないですね」
「二週間ぶりです。姫様とそちらに伺った時以来なんで」
「また強制休暇ですか?」
「今回はちゃんと自分で申請しましたよ。せっつかれたのは否定しませんけど」
「それは珍しい。何か予定でもありましたか?」
「何となく……そろそろここの飯が食いたいなと思ったんで」
席は他にも空いていたが、同じテーブルに着いた。ここで顔を合わせると自然と話が続いて、カウンターの無い店内で一人席を陣取るのも気が引けるからと。
互いに好きな物を注文するが、マリンが先に食べ終わり食後のコーヒーを嗜んでいる頃、リツが空の皿を積み上げ終わる事が多い。量を思うと早食いの部類だが、リツは食べ方も食べ終わりも美しい。だからだろうか、食べ終わっても席を立たずに彼を眺めるのが習慣になっていた。
「そろそろこのお店のメニューは全部食べたのでは」
「ですかね。どれも美味かったですよ」
「リツさんって好き嫌い無いタイプです?」
「そうでもないですよ。食べられない物がないだけで、嫌いだなーって思いながら食う時もありますし」
マリンは二杯目、リツは食後のコーヒーを嗜みながら、ゆったりとした時間が流れる。リツが一杯飲み終わると解散がいつもの流れで、次の約束をする訳でも無い。連絡手段も持たないので、次に会うのはリツが主と共に屋敷を訪れた時か、それとも偶然の再会か。
店の外はまだ明るい。いつもならこのまま日用品を買いに行くか、そのまま帰って夕飯まで眠るかの二択だ。日用品に関してはまだストックに余裕があるので買い出しの必要は無いし、ならば帰って惰眠を貪るか。
「……あの、リツさん」
「はい?」
「今日はお休みで、予定がある訳では無いんですよね?」
「まぁ……そうですね。ここで飯を食うのが目的みたいなものでしたし、後は帰ってトレーニングくらいしかする事ないです」
決してマリンに言えた事ではないのだが、休日の過ごし方としてそれでいいのか疑問だ。身体を休めるという意味でなら、まだ睡眠を選択しているマリンの方がマシ、くらいだろうか。
「では少し、付き合って頂いても構いませんか?」
予想外の発言に赤茶色の瞳がまあるくなる。
そういう顔は年下の青年らしいな、なんて。




