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第十一話 愛しの

 クローディアは清らかな男だ。正しく美しい人間だ。王として国を背負うに向かない資質と捉える者は少なくない。ユランに甘言を弄した者達は、クローディアのそういう部分を理解していたから、クローディアではなくユランを使おうと思った。

 金眼でないから駄目だ、金眼が生まれるまで子を成せなど、あれは烈火の如く怒るだろう。ロゼットを想う夫として、そして、金眼だから捨てられた異母弟(ユラン)を慮って。

 綺麗な人間だ。傍らにいれば嫌でも理解させられる。クローディアは綺麗に生まれて綺麗に育った。国が求める、国民が期待する、清廉な王になるだろう。あの老公達も、クローディアの清い部分に難色を示しながらも、それを失って欲しくはないのだ。彼をそう育んだのは、他ならぬこの国なのだから。ならばその息子も求めれば良いのにと思うけれど、そんな柔軟さがあればユランは捨てられていない。


「──って事だから。後はそっちで何とかしろ」

「はー……想像してた中で割と悪い方が当たった」

「俺の想像した中では一番マシだった」

「俺ユランのそういう所ちょっと怖い」

「俺はこれを悪い方って言えるお前の能天気さにゾッとする」


 パーティーは成功に終わり、多忙な日々も漸くひと段落したとソファに沈み込んだミラへ雑談と同じトーンで語られた内容は、今日一日の疲労より余程重くミラの体に圧し掛かった。

 クローディアの子が男児であった事、でも紫の眼だった事。この数ヶ月、ミラとクローディアの頭を悩ませたのはその二つ。勿論、二人にとって生まれて来き子はどんな容姿であろうと愛する命だ。性別の目の色もなんだって良かったし、生まれてすぐの時はロゼットに似た美しい瞳を心から称えた。

 しかしその感動が現実に溶けると、直面したのは古い妄信だ。金色の目。最早信じる者の方が少ないだろう、王と黄金の結び付き。当然クローディアもミラも、金眼でなければ王に在らずなんて欠片も思っていない。

 しかし、関係ないと断じてしまうには、まつわる悲劇を知り過ぎた。


「俺は王になる気も、子を作って渡す気もない。俺がやるくらいならあいつにやらせる」

「誰もやらないしやらせないよ。人身売買と同じじゃないか」

「知ってる、俺がされたからな」

「だよね……」


 既になされた後ではハードルがぐんと下がってしまう。ユランという前例がいて、その当人は表面上健全に育ち、ある意味、愚かな人身御供の成功例となってしまった。そのつるりと輝く瞳の奥にどれだけの傷が隠れているかなんて、愚者は想像もしない。


「一先ずはお前に任せる。クローディアへの報告も含めてな。どういう対応をしようと勝手だが、こっちに被害が及んだら容赦はしない」

「分かってる……むしろ猶予が貰えた事に驚いてるよ。お前の子って事は、ヴィオレット嬢の子の事だろう? 問答無用で消されても不思議じゃない」

「……さあな」


 純粋な疑問を投げられて、はぐらかす文言も浮かばずに顔を逸らすしか出来なかった。自分でも不思議だったから。

 今も昔も変わらず軽んじられて煩わしくは思ったが、怒りと呼べるほどの感情は湧かなかった。ユランの子という事は、ヴィオレットの子を、金眼であったら寄越せと言われたのに。子に興味がないからかとも思ったが、ヴィオレットが生んだ、彼女の遺伝子を継ぐ存在がその他と同列であるはずはない。

 ヴィオレットが育み、命を懸けて生み落とす生命。ヴィオレットが愛する我が子。


「……あぁ、なるほど」

「ん?」

「いや、何でもない。漸く大仕事が終わったんだ、暫くは定刻に帰る」

「あぁ、はいはい……分かってるよ。むしろ休みを取っても良いんだよ?」

「とりあえず老害共の件が落ち着くまでは休まん。何されるか分かったもんじゃない」

「了解。出来るだけ早く結果出すよ」

「遅かったら俺が手を下すだけだが」

「洒落にならないからほんと止めて」

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