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198.切り札



 

 きっと誰よりも、ヴィオレットよりも知っている。ユランの中には優しさや善性といった清い情がない事を。ヴィオレットと比べて他を切り捨てるという次元を超えて、誰にも心を傾けようとしない事。その徹底ぶりは一種の潔癖で。ヴィオレット以外を、汚らわしいものとして認識している。

 

 そして、そこが好ましい。


「シーナが求めるのは過程でも感情でもなく、結果だ。思い入れも、頑張りも、どうでもいい。凡人が死に物狂いで出した結果も、天才が片手間に弾き出した成果も、俺達にとって価値の差を出すのは利益率だけなんでな」

 

 誰よりも努力しているけど成果が伴わない人間と、何の努力もなく成功する天才がいたとして、情に流され努力する人間を選択する奴を、シーナの人間は絶対に信用しない。

 シーナの国民性は、豪快で豪胆。弱肉強食、結果主義。

 優しい弱さよりも残酷な強さを、譲り合いより潰し合いを。よくもまぁ他国と戦争にならないものだと思う。国内では毎日どこかで殴り合いが繰り広げられているらしいけれど、日常だからこそ収束も早いらしい。

 生粋の戦闘狂の群れ。その頂点がギアの父であり、恐らく次その椅子に座るのはギアだ。


「お前には情がない、情けをかけない。非情に利益を追求できる。お前の例外はヴィオレットただ一人だからな、博愛で平等な奴よりずっと分かりやすい」

 

 この一年、一度足りとも、ほんの一瞬ですら、その心がヴィオレット以外に動く事はなかった。この男の『心』という機関はどういう仕組みをしているのか、片鱗すら理解出来ない。きっとそれはユランの方も同じで、好奇心と自由だけで行動するギアの心なんて欠片も理解出来ないんだろう。


「お前が俺を使ったのと同じ様に、俺もお前を使う。ギブアンドテイクってやつだ。ユランにとっても悪い話ではねぇだろ」


 この国の益になってたまるかというスタンスではあるが、わざわざ害してやるつもりもないはずだ。ヴィオレットが住む国なのだから、それ以上の理由はいらない。

 何より、ヴィオレットとの婚約を結ぶまでの方法は少なからず強引であった。ユランの生まれ持った立場の不安定さを考えれば、後ろ盾が多いに越した事はない。シーナとの外交なんて、考えうる中で最高のカード。

 頭の良いユランが、自分の怒りや恨みで折角の手札を捨てるはずもない。


「……ほんと、嫌いだわ、お前」

「そ? 俺は気に入ってるぜ、お前の事」


 あの日、無感情に声をかけて来た日からずっと。


 ──切り札は隠し持つ、そして、最後に使う物だろう?


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