表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
200/253

196.頂点捕食者


 バレていた──なんて、気が付いていたけれど。


「人聞きが悪いな」


「あぁ、使ったって言い方が気に喰わんか?」


「俺は別に嘘を言った訳ではないからな」


「それもそうか」


 肉食獣の様な笑みがスッと消えて、いつもの軽薄そうな雰囲気が戻ってくる。くるくると見せる表情の変わる男だが、そのどれもが本当の姿なのだろう。ユランの様に仮面を被る男ではない。


「あ、別に怒ってる訳じゃねぇよ」

「俺がそれを気にすると思うのか?」

「思わんなぁ」


 窓枠に腰を掛け、近くにあった机に土足を乗せる。大きく開かれた足も、膝の上でプラプラ揺れる腕も、背景にそぐわない柄の悪さだ。


「お前はただ、シーナの王子()と友人だって言っただけだもんな」


 正確には、ギア王子の友人と言われていると告げただけだ。

 ヴァーハン家元当主に──ヴィオレットの祖父に。


「想像以上の効力だったよ。そこだけは感謝してやる」

「感謝してるやつの態度じゃねぇけどな」


 シーナという国の重要性は、きっとギアよりもユランの方がずっと理解している。海に囲まれた島国、他国からの干渉を受け付けず、独自の文化と環境を育み続けて幾年月。各国が様々な方法で手を伸ばし、その度に掴めずにいた。

 その王族、それもシーナを体現しているとさえ言われた男と、友人である。その言葉は、どんな手土産よりも彼の男にとって魅力的だったらしい。

 友人と言うだけで、他の何かがあるわけではないのに。ジュラリアに益を齎せると決まった訳ではないのに。そもそもギアが友人だからと口添えするはずないと思っていた、今の今まで。


 ――そんな不確定に縋りたくなるほど、シーナという国は重要であるらしい。


「それで? どういう風の吹き回しだ。俺が本気でシーナとの架け橋になるつもりがあるとでも?」


「ハハッ、ありえねぇだろ。お前が自らこの国の利益になろうなんて」


「それはお前も同じだろう。俺とシーナ国王を繋げるなんて、面倒なだけで面白くもなんともない」


「まぁ、面倒ではあるけど……面白いとは思ってんぜ?」


 にやりと笑う、子供が悪戯を仕掛けた時の無邪気さで。人生の全て、命の全てを『楽しさ』で測る者の笑みだ。それは自分だけでなく、他人の人生に対しても。


「お前がうちの国に興味がない事は知ってる。目的の為に名前を使っただけで、実際に行動する気はねぇんだろ。それこそ、この国の上が期待してる働きなんて欠片もする気がない。うちとの繋がりは国にとって強力な切り札になるだろうに」

 

 すらすらと語る声も表情も、いつもと同じギアのもの。それなのに、今目の前で踏ん反り返る男は、まるで次元の違う存在に見えた。

 

「でも、それは、俺には関係ない」


 気崩された制服、シーナ伝統のアクセサリー、肌、髪の色。どれをとってもこの国では異質で、だからこそ目を惹かれる。誰にも従わず、誰もを見下すよう刻まれた遺伝子。

 傲岸不遜、唯我独尊、傍若無人。誰も省みない、誰にも縛られないのに、誰もがその存在に縛られる。

 

 甘く愛らしい顔に浮かぶ、優しさも柔らかさもない嘲笑は、この国とは対極の、それでも確かに、王子としての顔だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ