エピローグ. 俺たちの日常
最後がちょっと駆け足とご意見をいただいたので、元エピローグ(現29話)ラスト数行を削り、エピローグとして日常回を追加してみました。
駆け足の感じが抜けていないかもしれませんが。
アリスの家にフェアリー約三百名が引っ越した、その三ヶ月後のお話です。
フェアリーの群れを率い、空を飛びながら、眼下に広がる山々を注意深く見る俺。
右手の剣に慎重に魔力を込め、――振る!
「オラァッ!」
剣から出た衝撃波が山を切り裂き、一本の道のような筋を作った。
まあ、道のような筋……というか、実際に人が通る予定の『道』なのだが。
登ったり下りたりすることもなく、まっすぐと山間部を突っ切れる……そんな街道になる予定だ。
「わー、きれいにできたねー」
「さすがファー様ですわ!」
横で見ていたノエルとエクスタがほめてくれた。
山奥で練習をしたおかげだな!
――アリスの家周辺にフェアリーの集落を引っ越し、かれこれ三ヶ月が経っていた。
彼女の家は、とある村のそばに建っていて……
俺達は村人たちのお仕事を手伝ったり、魔物狩りをしたりで、彼らからの信用を得ようと毎日をがんばっている。
フェアリーの集落の長である俺も、衝撃波で大地を斬って畑用の水路をつくったり……、自分でいうのもなんだがなかなかの貢献ぶりだ。
最初は衝撃波が強すぎて畑の一部まで斬ってしまったりしたが、そんなミスも数回だけだったしな!
俺は後ろのフェアリー達のほうを向く。
「じゃあ、大きな瓦礫をどけたり、崖になっているところで崩れそうな部分があったら補修を頼むよ」
今さっきつくった『道』を指し、頼んだ。
彼女達は、ほとんどが精霊使いだった。
石を土にしたり、逆に土を石にしたり……
他に二つの岩をくっつけて一つの岩にしたりと、そんな魔法を使えるので、今回の土木作業に最適かと連れてきたのだ。
彼女たちはノエルの母――ミュッカさんと違って、精霊からもらった情報を解釈するのは苦手なようだが、こういう作業は問題なくこなす。
「「「はーい!」」」
元気よく返事をした精霊使い達が、作業を開始した。
ある精霊使いは土の表面を石にし、アスファルトのような道路をつくっている。
他の精霊使いは、今にも崩れそうな崖に魔法をかけて崩れにくくしていた。
こっちの精霊使いは土をこね回しては石にし、謎の彫像を作る。
あっちの精霊使いは歌を歌い始めた!
約七割がまじめに働いていて……
フェアリーにしては驚異的な作業率だな!
エクスタがあっちこっちを飛び回って、作業をしていないフェアリーをしかりつけているし、道作りは半日もあれば終わるだろう。
これは長である俺の影響だろうな……
まじめなフェアリーの元には、まじめなフェアリーが集まるのさ!
さて、俺もエクスタと同じように、みなに発破をかけてくるか!
「おーい、彫像なんて作ってないで、石の地面を作ってくれよー。……もしくは、村の人の彫像でもつくってやってくれ」
なんとなく村人が喜ぶだろうかと、最後にそんな提案も混ぜてみる。
彫像を作っていたフェアリーがコクリとうなずき、アリスの父の彫像を作り始めた。
……すごく、似ている。
面白くなった俺は、「鼻はもう少し低いんじゃないか」とか「次は五メートルの村長の像を作ろうぜ」とか「爺さんの顔はそのままで、体をマッチョにして裸にしよう!」とか提案しながら、残りの時間を過ごしたのだ。
「ファーちゃーん、なんか大体の作業が終わったみたいよー」
『ドラゴンを大根で叩きのめす村長の奥さん』を作っていたら、そんな声をかけられた。ノエルだな。
「私、崖とかも見て回ってたけど、もう問題はなさそうだったー」
彼女もまじめに作業をしていたようだ。
横にはエクスタもいた。
「ファー様、あとは細かい作業だけですから、帰っていただいて大丈夫ですよ。やっぱりファー様が近くにいると、フェアリー達がまじめに働きますね」
……うむ……気がついたら俺、彫像作りしかしていなかったな。
前にエクスタが、『あそこにいるファー様に言いつけますよ、と叱ると、フェアリー達が言うことを聞く』と話していたんで、ちょっとは役に立っていたと信じたい……
一応、エクスタの声音からは皮肉の感じは聞き取れなかったから大丈夫だろうか……?
反省しながらも、残りの作業を彼女たちに任せ、アリスの部屋にある俺の家へと飛び立ったのだ。
そろそろ魔物狩りに出かけた元長老たちなんかも帰ってくるころだな。
村の近くを飛ぶ。
カンカンと大工仕事の音が聞こえてきた。
窓に格子をはめたりして、フェアリーが入れないようにと努力をしている人だろう。
『気がついたら家の中にフェアリーがいた! 部屋の中に別荘を建てていた!』などということを嫌がる村人がいるのだ。
俺もフェアリー達には言い聞かせていたので、最近は村人からの苦情も減ってきていたが、ゼロにはできていないからな。
まあ、食事時になるとなぜかフェアリーがいて、自分の食事を要求してくる……、みたいなのは村人達に受け入れられているので、どちらかというと人間達が俺達になれるほうが早いかもしれない。
「これを痛む腰に、ぬってくださいね」
パタパタと飛んでいたら耳慣れた声が聞こえてくる。アリスだ。
彼女が話しかけているのは腰の曲がったお婆さん。
あのお婆さんからは、前に肉をもらったことがある。
ニコニコした雰囲気のいい人で、フェアリー達もなぜかあの人にはイタズラをしない、そんなお婆さんのはずなのだが……
「あいよ」
薬の入った容器を受け取ると、さっと背を向けて歩き去ってしまった。
ずいぶんと、そっけないな……
「なんか、今日は機嫌が悪かったな。あのお婆さん」
降りていき、ポツンと一人立っているアリスに声をかけた。
「腰がよっぽど痛むのか?」
「ん? ……ううん。いつも、あんな感じだから……。たぶん、わたしを……怖がっている、のかな?」
白い髪と赤い目を『邪神の巫女』などとして忌避する人間たち。
規格外の俺にもフレンドリーに接する村人達なのに、アリスとは距離を置いているみたいだ。
「いじめられていたときとか助けてくれたから、良いお婆さんだよ」
そんなフォローはしていたが……
良くも悪くも、迷信や宗教などを信じ込んでいる相手は、どうにもできないからなー。
「……そういえば髪は染めないのか?」
彼女の毛は白のまま。
毛染め薬を作れて、その原材料もじゅうぶんあるはずだけど。
「うん……あんまり変わらなかったから……」
毛を染めただけだと、村人からの扱いは変わらなかったのか……
「……こんなだと、お婿さんも見つからないね……!」
なんとなく暗い雰囲気になってしまったのを嫌ったのか、冗談めかして雰囲気を変えようとする彼女。
それに合わせ、俺も言葉を重ねる。
「そうなったら、俺がアリスを嫁にするから大丈夫だぜ!」
アリスは寂しそうに微笑んで、「ありがとう」と俺に伝えた。
あくまでも冗談交じりの、そんな約束だったが……、十年後、俺は実際にこの約束を守ることになる。
それというのもだな……
アリスの薬師としての能力だけを目当てにした嗜虐趣味の貴族やら、借金で首が回らなくなった男とかの求婚が相次いでな。
『彼女は俺が守る!』とばかりに近くにスタンバイし、近づいてくる男どもを厳しめにジャッジしていたら、本当に人が寄り付かなくなったんだよ!
ま、まあ、最終的には俺が約束を守り、アリスを嫁にもらったから問題は一切ないんだが……!
やるときも体を小さくする魔法のポーションを使うので、本当に、問題は一切ないのだが……!
結婚するとき、彼女の父にはめちゃくちゃ怒られちゃったけどね!
彼女は『幸せだ』といってくれたが……、すまぬ、アリスの父よ……
おしまい
ブックマークや評価、感想、レビューまでいただきまして、大変嬉しかったです! どこかで宣伝してくださった方がいるようなら、その方にも感謝を。ありがとうございました!




