番外編4:罪悪感の先に
二章終了後のフィリップ視点です。
ユリウスに謝らなければならない。
勝手に所有の印なんてつけた事を。
でも、どうやって謝る?
女性の姿をしていたお前にムラムラっときて、つい?
それじゃあ、ただのヘンタイじゃないか。
俺はただ自分の知らないところであんな格好をしてほしくなかっただけで。
なんで? って、聞かれたら?
……ユウリィの事が――。
だから、俺のものに――……。
(って、どの道ヘンタイじゃないか)
フィリップは口元を押さえて眉を顰めた。
前者だとただの女好きに聞こえてしまうし、後者だと……告白もセットになる。
告白。と、いう言葉を考えただけで、無駄に緊張する。
いつかはするのだが、今……と、いうタイミングは正直どうだろうか?
ついでのようにするのは、なにか違う。
となれば、告白せずに謝る……しかし、それでは……。
謝りたい。その気持ちは十分過ぎるほどあるにも関わらず、なぜそのような事態になったのか説明できない。
フィリップは出られぬ迷路にはまりながらも、いつもの部屋へと辿り着く。
「お呼びですか、フィリップ殿下」
壁越しにユリウスの声が聞こえた。
急務でない限り、仮面護衛騎士とはこのように壁越しで話をする。
正体を公にしない様にする為、普段の接触は極力避けるのが決まりだ。
でも最近はそれすらも煩わしく、近くに彼女がいるのに顔も見られないなんて何の拷問なんだとさえ思う。
いっそユリウスを仮面騎士から、ミラー達と同じ護衛騎士に異動させるのはどうだろうか?
いや、待てよ。そんな事をしたら、ユリウスはセクト家長男として、貴族の付き合いをしなくてはならなくなる。
そうなれば縁談が舞い込むかもしれない。しかも、その場合は女性からだ。
それは非常にマズイ。以前、ヴァーレイ家からの縁談だって、ユリウスは断れなかった。
また、そうならないとは言い難い。
じゃあ、男装を止めてもらって……
(だめだ……その方が、絶対縁談が来る)
その場合は男共からだ。それだけは……
「……殿下?」
訝しげに俺を呼ぶユリウスの声に、我に返った。
「悪い、ぼんやりしてた」
「珍しいな、こんな時に」
本当はずっとお前の事考えてた……なんて、当然言えるわけもなく。
「すまない……なんか最近寝不足でな」
結局、誤魔化してしまう。
「なんか、気がかりでもあるのか? 調べてこようか?」
ユリウスは優しかった。
あんな事した俺を気遣ってくれている。
副業したユリウスに罰として代休も与えず仕事をさせているのに、自分はどうだ?
あんな事しておいて、素知らぬ顔してお前と話をしている。
ずるい奴だ。
罰を受けねばならないのは俺なのに。
「フィー? 大丈夫?」
「あ、ああ。大丈夫だ……」
「ウソ。大丈夫じゃない」
「……大丈夫だ」
ユリウスがしつこく聞いてきた。
もう男装中の男言葉も忘れて、素で訊ねてくる。
多分俺が何かを隠している事に気がついたのだろう。
直接腑抜けた顔を見られたわけでもないが、やっぱり分かってしまうのか。
でもどうせなら、その気付きは別のところで発揮してほしかった……と、思うのは贅沢だろうか?
「ねえ、ここじゃあ話しにくい事?」
場所の問題だけではない。
どうやってうち明けて、謝ればいいのかもう分からないんだ。
あれこれ考えて散々言葉に迷っていると、ユリウスがとんでもない事を言いだした。
『場所を変えたいなら、うちに来る?』
任務中じゃなくても、お前に会えるのか……?
そう思ったら今まで考えていた事なんて全部吹っ飛んで。
「ああ、ユウリィがいいなら……」
と、勝手に口をついてしまっていた。
後から無理やりそう言ってしまった理由を考えた。
直接会えば謝れるかも……なんて、そんな立て前を。
でもそんなのはやっぱり立て前でしか無くて、ただ俺はお前の顔が見たかったんだ。
・
・
・
ユリウスの休暇は翌日だった。
俺は変装をした後、城下で買い物を済ませてセクト家へと向かう。
手土産には城下で人気があるという菓子屋のスイーツにし、以前世話になったマリー達の分も用意した。
道中の足取りは軽く、自分が浮かれている事を自覚する。今日のように任務以外で会うなんて久しぶりだし、なによりユリウスの方から誘ってくれたのだ。嬉しいのは……当たり前じゃないか。
ただこんな浮かれた面でユリウスには会えない。
もちろん恥ずかしいのもあるが、俺はユリウスに謝らなくてはならないのだから。
ようやく屋敷に辿り着き、庭を窺うように覗き込むと、以前来た時より野草園の勢いがすごくて驚いた。
どうやら手入れを始めているようだが、終わっているのは見える範囲で半分弱といったところか。
この様子だと、裏手の方はまだだろうから……完遂までの道程は長いだろう。
(この草刈りを手伝えば、少しは……)
ふと俺は勝手に罪滅ぼしの内容を決めそうになり、首を振る。
そういう事は、まず謝ってから決めるべきだ。
俺は門扉をくぐり、屋敷へと向かうべく歩みを進めようとした。すると。
「い、いやぁぁぁっ!!」
「!?」
突然上がった悲鳴に驚き、すぐに庭へと入った。
誰の声かなんて確認する必要もない。自分がこの声を聞き間違えるハズなんてないのだから。
「ユウリィ!」
姿は草で見えなかったが声のした方へ駆け寄ると、ユリウスがギュっと身を丸めるようにして縮こまっていた。
「どうしだんだ!?」
「ムシ!!」
……聞くまでもなかった。
場所は草が生い茂る庭。当然、ムシも沢山いるに決まっている。
ユリウスは虫が大の苦手だ。
それこそ、ゴミじゃないのか? と言いたくなるような、小さな虫でも怯えるし、仮にボタン程の大きさの虫が出れば、今のような悲鳴を上げる。
そういえば、何年か前の視察中にヤツが出てきて、大騒ぎになった事もあったな。ただ……あの時のユリウスも可愛かった事を思い出すとつい、笑みがこぼれてしまう。
普段の彼女からは想像できないような、あの怯えきった仕草がたまらない。
しかも、あの時は自分の腕の中にいて……と、そこまで思い出しその後を反省した。
イタズラ心に火がついて、冷や汗をかいたのは自業自得なのだ。
とりあえず俺はユリウスを怯えさせる虫をペッと遠くに捨て、声をかける。
翡翠色の瞳に涙を浮かべる様はあの時と同じで怯える小動物のようだが……
「お前、なんて格好だ……」
思わず口にしてしまう程、ユリウスの格好は珍妙だった。
まず長袖長ズボンは当たり前で、頭に被っている布は首より長い位置まで垂れ下がっており、その上から帽子をかぶっている。顔はマスクをして、首にはスカーフ。手には手袋、足には長靴。
肌の露出は本当に目の周りだけ。それでも、眼鏡をかける始末。
その完全装備は見ているだけでクソ暑い。
確かに俺の知らないところで肌の露出はしてほしくないと思っていたが、こんな妙な形で叶っているのは喜ぶべきなのだろうか。
いや、むしろ今日は……
ああ、ダメだ。
暑さのせいで頭がおかしくなりそうだ。
「だって、草が凄すぎて、ムシもすごすぎて……」
お前の格好もすごいぞ。
この暑さの中で、その格好に耐えうる精神力を尊敬する。
「じゃあ、草むしりは後にするから、フィーは客間で待ってて」
なにはともあれ、俺は今日という降って湧いた幸運に心から感謝した。
通された客間は以前来た時と同じ部屋だった。
煌びやかな調度品も絵画もなく、非常に落ち着いた雰囲気のある部屋。
ごてごてとした物を見なれている連中にしたら、シンプルすぎてつまらないかもしれないが、今の俺には丁度良い。
華やかな雰囲気が嫌いなわけではないが、ずっとそんな中にいたら疲れてしまう。疲れた時には癒し。癒しといえば……。
落ち着いた雰囲気の中、ユリウスと話ができる。
そう思ったら途端に緊張した。
今日は何を話すつもりだったのか?
いや、そもそもユリウスと話す時、会話の内容なんて考えていたか?
もちろん話題にしたい内容を思い浮かべる事はあったが、今のように改めて考えた時、何にも頭に浮かばないなんて思いもよらなかった。
(情けないぞ、俺……)
普段格好をつけている訳ではない。優しく、強くあろうとしているだけで。
当然、情けない姿だけは晒さない様にはしているつもりだ。
ああでも、今日は俺を心配したユリウスが時間を割いてくれている……と、いう事は。
俺は片肘をついた手の甲に額を乗せ、溜息をつく。
すでに情けない事態に陥っている事に、今更気がついて。そして、ヘコんだ。
悩みの種をその種自身に相談しようとしている。
これを情けないと言わず、なんという。
一人俺が意気消沈していると、廊下から声が聞こえてきた。
意識は知らず知らずそちらへと向いてしまい、まるで聞き耳を立てたように声を拾う。
「……やっぱり止めよう? マリー」「何を今さら……のですか……ス様!」「で、でもさ!」「でもも、かかしもありません!」「マ……」「往生際が悪いです!」
最後に聞こえた言葉と同時に部屋がノックされた。
俺は二人が何を言い争っていたか考えを巡らせる暇もなく、返事をする。
そして。
「――――…………」
息を、呑んだ。
扉を開けて入って来たユリウスの姿に目が釘付けになる。
赤銅色の髪に翡翠色の瞳。
変装していないユリウスの色。
それだけじゃなくて。
薄い桜色のワンピースに、肌が透ける白のカーディガン。
腰まで伸びた髪をサイドから緩く結び、華の付いた髪飾りで止めてある。
そして……胸元には俺の贈った青い石のネックレス。
その姿はユリウスが令嬢として生活していたら、いつも見られたと思われる女性の姿だった。
「ほ、ほら、マリー。やっぱりおかしいって。いつもの服に変えてくる……」
ユリウスが眉尻を下げ、耳を触った。
その仕草が懐かしくて、フッと頭の中が軽くなる。
「え、フィー?」
ユリウスから声をかけられた時、すでに立ち上がり手を取っていた。
「…………このまま、夜会に連れて行きたくなるな」
「はあ? そんな事の為に、女装したんじゃないよ」
女装。
まだユリウスはそんな事をいう。
どこをどう取ってもお前は女性なのにな。
「まあ、いいや。今日は気分も場所もいつもと変わっていいだろ? ゆっくりしていくといいよ」
ニッっと笑うユリウスは姿と笑い方がアンバランスでまた可愛い。
きっと令嬢のようにお淑やかに微笑んでも可愛いに決まっている。
……多分俺はどんな姿を見てもそう思うのだろう。
でも色だけを思えば、赤銅&翡翠が一番いいと思っている。
「その姿を見ると五年前の仮面舞踏会を思い出すな」
「あー……たしかに。あの日も似たような色のカツラをしてたもんね」
五年前の仮面舞踏会。
ユリウスが女性だと気付いた日。そして、俺にとって忘れる事のない日。
あの日がなかったら俺は今もお前を男だと思って護衛として連れていたのだろうか。
そうなっていたなら、悲しいな。
お前は親友として申し分ないが、やっぱり女性でよかったと俺は思っているから。
俺達は久しぶりにゆっくり話をした。
それこそ五年前の仮面舞踏会の話から始まったので、「あの日、金のマダムを見たか?」「見た見た!あれは、お姫様の仮装だったよね?」「恐らくそう思ったが……」「似合うっちゃあ似合うけど、ちょい惜しい感じだったよね」「たしかに……」なんてそんな風に、あの時出来なかった夜会の感想を言い合っていた。
それにしてもお互いよく覚えているもんだな。
やっぱり不慣れなところへ二人で行ったわけだから(まあ、別々に会場入りしたが)、特別印象に残っているのかもしれない。
俺にとっては特別な日……なのだが、ユリウスの中では良い思い出のようだ。
まあこの調子で、しばらくあの日の思い出話に花を咲かせていると、「そういえばあの日って、フィーの身長微妙に高くなかった? いやあー……ずっと聞いてみたかったんだけどさ」と、ユリウス。
こ、こいつ…………。
さりげなく小型爆弾をブッこんできやがった。
あまり思い出したくないが、俺はユリウスよりチビだった。
年下のユリウスより小さいのは格好が悪く。そして、あの日は……
「ねえ、どうだったの? 実際は?」
ニヤニヤ笑いながら俺を見るユリウスは、からかいモード全開だ。
ヤバい。
ここであの日シークレットブーツを履いていた事がバレたら、からかいに拍車がかかるだろう。
なんとか話を逸らさねば。
「……ユウリィこそ、あの時なんでそそくさと庭に出てきてたんだよ」
しかも、半泣きで。
さすがに泣きそうになっていた事まで聞くと可哀想なので加減しておく。
今泣かれる。とまでは思っていないが、涙を引き合いに出すのは禁じ手のような気がするから。
案の定、聞かれたくなかった事のようでユリウスの目が泳いだ。
「どうなんだユウリィ?」
ん? と言って首を傾げてやれば、ユリウスはむぅとした表情で俺を見る。
その表情も可愛い。
思わずキスをしたくなるのを必死に我慢しながら、俺もユリウスを見つめる。
こんな風に見つめ合っている時間が愛しくて、この時間がずっと続けばいいのに。……なんて、どこかの乙女が考えそうな事さえ頭に過るなんて、俺も重症かもしれない。
幸せすぎる時間が過ぎていき、ついに観念したのかユリウスが短く息をついて「……声、かけられたの」と、ぽつりと言った。
一瞬、意味が分からなかった。
ああでも思い出せよ。ユリウスが庭に出てくる前、何をしていたか。
そういえば、金髪碧眼の男に話しかけられていたような……って!!
「口説かれたって事か!?」
思いのほか大きな声になり、口元を押さえた。
ユリウスは恥ずかしそうに頬を少し染めている。
それは、肯定って意味だよな?
なんて事だ……!!
「……そこで、セシル様に私の事を知られたみたい」
はあ!?
しかも、セシル!!
そういえば、セシルはユリウスと仮面舞踏会で会ったと話していた気が。
まさか、あの時の金髪が……!
以前、その話をしていた時はユリウスの手を握ろうとするセシルを駆除するのに、気を取られていたから気付かな……………ん? 待てよ。
「…………男の格好しているセシルを見たの初めてだな」
「…………私も、あの日が最初で今のところ最後かも」
俺達二人は妙な事に気がつき、そしてよくわからない溜息をついたのだった。
とまあ。楽しい時間はあっという間に過ぎてゆき。
時刻は夕方になってしまった。
「じゃあ、そろそろお暇するとしようか」
本当は帰りたくない。
だが、泊まって行くなんてそんな選択肢など無く。俺は、渋々ながら席を立った。
ユリウスも「そうだね」と言い、当然ながら引き止めてはくれなかったが。
でも代わりに、「ラッシュと会ってく?」と、言ってくれた。
虫よけ効果のあるハーブの香りを身に纏い、犬小屋まで歩いて行く。
ラッシュはというと相変わらず小屋の外で寝転がっていた。
「ラッシュ! フィーが来てくれたよ!」
ユリウスがニコニコしながら声をかけたが、何故かラッシュはこちらへ来ない。
その事実にユリウスは「がーん」と文字を背負っているのが見えるほど、落ち込んでいた。
「な、なにがあったんだ……」
犬好きのユリウスにとってこれは耐えがたい状況なのは見て取れる。
「それが……」とユリウスが話を始め、先日のラフィーネの一件が原因じゃないかという事がわかった。
それ以来へそを曲げているラッシュ。
…………じゃあ、その仲を取り持ったら償いになるだろうか?
俺は結局ユリウスに謝れていなかった。
折角ユリウスが時間を取ってくれたのに、自分ばかり楽しい思いをして。
腑抜けた姿を晒したくない。と、格好をつけているだけではなく、本当は……事実を伝える事を恐れている。
「ラッシュ……久しぶりだな」
俺はユリウスに気持ちを悟られないよう、ラッシュを呼んだ。
すると、ラッシュはむっくり起き上がりこちらに駆けて来たかと思うと、足にじゃれついてきた。
「えー……どおして」
ユリウスがすごく不満げな声を上げる。
そんな彼女に悪いなと思いながらも、俺は腰を降ろしてラッシュの好きなようにさせた。
ラッシュは俺の脚が気に入ったのか膝下辺りにどっかりと体重を乗せてくつろぎ始め、そんなラッシュをユリウスが撫で始める。
膝下を押さえられている俺としては身動きがとれず、ぼんやりとラッシュを撫でるユリウスを眺めた。
しばらくそうしていると、ユリウスが上体を起こして腰から下を撫でた。そして、スカートを押さえたまま、屈もうとする。
「お、おい。服が汚れるぞ」
慌てて止めたが、ユリウスは「別にいいよ」と言いそのまま座ろうとした。
馬鹿ユウリィ!
折角、そんな綺麗な格好してるのに……
「ま、待て。あー……マリーを困らせる気か」
とりあえず思いついた言葉を言うと、ユリウスも眉をひそめ「たしかに」と、言って思いとどまった。
ただ、本当に座りたそうだったので。
「どうしても座りたいなら……こっちに座れ」
俺は下心を隠して自分の膝へとユリウスを呼んだ。
ユリウスは一瞬考え「ラッシュも乗っかってるのに、私まで乗ったら重いよ」と、言ってきた。
問題はそこかよ……
ガクっとうな垂れそうになるが、ある意味その鈍感さが隙になっている事にユリウスは気がついていない。
「……かまわない。ユウリィが乗っても小枝ぐらいにしか感じないから」
「えー小枝!? 失礼しちゃうな、もう!」
普通喜ぶとこじゃないのか? ここは?
ユリウスは「もやしとか、小枝とか、そんなに頼りなく見えるかな……」と、ぶつくさいいながら俺の膝に腰を降ろした。
横向きに腰かけたユリウスは膝下にいるラッシュを撫ではじめる。ラッシュも満更でもないようにされるがままで。そして俺は。
……理性を総動員しながら平静を装った。
傍にいるユリウスからはいつもとは違う、ハーブの香り。
それは自分がつけてもらった虫よけと同じ香りで。自分と同じ香りが彼女からしている事がなんだか嬉しい。
視線の先は丁度、首元で。
青いネックレスが夕日に照らされてキラリと光る。
そして、そのまま視線を落とすと……。
さすがに胸元の印は見えない。ただ、見えないだけでまだきっとあるだろうなと思うと、罪悪感とはまた別の想いがせめぎ合っているのが分かる。
一刻も早く消えてほしいと思う気持ちと。そして、もう一方は……。
俺はそっとユリウスを支えるように抱き寄せた。
ユリウスがこちらを向いたのが分かる。でも、俺は彼女の肩に額を落としているので表情は見えない。
「ごめんな」
理由も述べず、ただ謝罪のみを口にする。
こんなのは卑怯だ。そう思っても、これ以上言葉が出てこなかった。
ユリウスは何も言わない。だから、もう一度だけ「ごめん」と、言葉にした。
ふわっと頭を撫でる感触が伝わってきた。
ゆっくりと優しく。まるで、愛犬を撫でる時と同じように、俺の頭に温かい手が触れる。
「いいよ」と、聞こえた。
驚いて顔を上げたら、ユリウスはニッコリ笑って「いいよ」と、また言ってくれた。
不覚にも泣きそうになった。
しかし、それではあんまりにもカッコが悪いのでまたユリウスの肩に額をあてる。
ユリウスは何に対して謝られているか分かっていないだろう。
だけど、許してくれた。
それだけで、内に秘めていた罪悪感がゆっくり流れて行くのが分かる。
(俺、は……)
ユウリィが好きだ。
もうどうしようもないぐらい好きで。
お前の言葉一つでこんなにも心が軽くなってしまう。
でも、本当は。
(……軽くなってはいけないのに。な)
俺は抱き寄せた腕に力を込める。
自分とユリウスの距離がもっと縮まって、首元には唇が触れそうになった。
もう少し顔を寄せれば口づけできるぐらい近くに。
目の前にいるのにキスもできない焦燥感が確実に俺を苛み続ける。
身を焦がすような想いに胸が苦しくて苦しくて押しつぶされてしまいそうだった。
そんな俺の気持ちを慰めるように、ユリウスは何も言わず頭を撫で続けてくれている。
ゆっくりと浸透していく甘い想いと、ジワリと広がる黒い欲望。
この優しさも、可愛い笑顔も、全部、全部――――……俺のものに、したい。
罪悪感とせめぎ合うのは独占欲。
黒く渦巻く欲望は、身勝手にユリウスを我がものにしようとしている。
しかし一方で、その欲望が優しいユリウスを傷つけない様に自分自身で守りたいと願っていた。
そんな矛盾した想いを胸に、俺はユリウスを手放せずずっと抱きしめ続ける。
本当は彼女に口づけして自分の想いをぶつけたいと思いながら……
【番外編4:罪悪感の先に 終 NEXT→第三章】
今回もお読みいただきましてありがとうございました!!(*^_^*)
二章の番外編はひとまずおしまいです。お読みいただいたみなさま、お疲れさまでした!!
次回は第三章を予定しております。(執筆中)
また、投稿を始めたらお付き合いくださいますと嬉しいです




