番外編1:五年前のあの日
お待たせいたしました!?
五年前のあの日。フィリップ視点をお送りいたします(*^_^*)
補足:フィリップ十四歳、ユリウス十三歳。
その事実を知ったのは忘れもしない五年前。
俺は情報収集という名の興味本位で夜会に出席する事にした。
その会は通常の夜会とは異なり身分を明かさず仮装をして参加する仮面舞踏会。
連れは幼馴染みのユリウス一人だけ――――
・
・
・
「ユウリィのやつ、どこにいるんだ」
城下にあるパーティー会場としてよく使われるサファイヤホールにて。
城から出た俺は従者を撒き、無事会場入りを果たしていた。
今日の連れであるユリウスとは会場で落ち合う事になっている……しかし。
飲み物を片手に辺りを見回すが、ユリウスらしき人物は見当たらない。
たしかに皆が仮装している為、すぐわかるとは思っていなかったが……そこは幼馴染み。
しっかり探せば見つかると思っていた。
(まさかあいつ、参加してないんじゃないか?)
正直この夜会への同行も、かなり嫌がっていた。
それを「お前騎士になりたんだろ? だったら王子である俺の言う事は絶対だぞ」と、誰がどう聞いても脅しとしかとれない言葉で無理やり承諾させた。
まあ、悪いとは思ったが。
それよりも、夜会というところがどういったところであるか、興味があった。
俺自身、舞踏会には参加した経験はある。ただし、数は少ない。
今回の仮面舞踏会という夜会は俺にとって未知数で一体何が起こるのだろうとわくわくしていた。
身分も素顔も隠して行われるパーティーは少しだけ大人になった気がするのだ。
と、まあそんな事を考えながら会場を見回すが、どうしてもユリウスが見つからない。
ユリウスには無理やり同行を承諾させた為、あいつがどんな格好で参加するのか聞いていない……と、いうか教えてもらえなかった。
ただ、ちゃんと護衛してくれるとは言っていたが。
でもよく考えれば俺自身、剣術の心得はある。なにもユリウスに守ってもらう必要などない。
(どちらかといえば守るのは年上の俺だろ?)
ユリウスは一つ年下の弟分だ。その弟分に守ってもらうだなんて格好が悪い。
そう考えたら、自分がユリウスを見つけなくては。と、いう気持ちになった。
まったく。世話の焼ける弟分をもつと大変だな……。
しかし時は無情にも過ぎて行き、俺はユリウスを見つけられなかった。
・
・
・
(俺にばれないよう、自分だけこっそり眺めてる気かあいつ……)
俺は大分痺れを切らしていた。
なにも傍に張り付いているだけが護衛じゃない。
そうはいっても俺がこの会場に来てどれぐらい時間が経ったと思っている?
もうそろそろ、さりげなく接触してきてもよさそうなのに、それらしき人物とは話をした覚えもない。
探しているのに見つからない。
そんな現状はユリウスとかくれんぼをしてる気になってきた。
(絶対見つけてやる)
ここは意地でも俺が。
ユリウスから話しかけられるのではなく、俺が必ず見つけてやる。
もう何度も見てはいるが、もう一度会場を見回す。
参加者の仮装は様々だった。
仮装といってもドレスは通常の夜会で使用される物に目元を隠す仮面のみの参加者もいれば、本の中から出て来たような妖精や獣、術師や騎士などのように完全仮装など。
男女問わず顔に化粧を施している参加者もいる。
そんな中ユリウスを見つけられないとなると、完全仮装ではないかと思う。……と、なればやっかいだ。せめて顔が出ている仮装じゃないと見つけるのは難しい。
「あちらに腰かけられている男性素敵ね」
横を通り過ぎた年若い令嬢の声が耳に入った。
一瞬ユリウスかと思い女性が来た方向に目線を向け、フッと息をつく。
視線の先には金髪碧眼の美男子がいたが、これはユリウスではない。
髪や瞳の色は道具があれば変えられるがそもそも顔が違う。
金髪碧眼男は服装こそ仮装していたが、顔自体はなにもしていない様に見える。
(普通に顔出してたら、身分を隠せる仮装の意味ないじゃないか)
よもやその男はアホなのかもしれない。
(まあ、絶対隠さないといけないわけじゃないからな)
そんな生温かい目で男を見ていると、ふとテーブルを挟んでその男の隣にいる女性に気がついた。
腰のあたりまで伸びる髪はストレート。その色は暗めの茶色。
身体のラインが分かる深緑のシンプルなドレスに、肩から背中の方へ流れるようにすっぽりとフードを被っている。
顔は今の角度から見えないが、姿からして魔女の仮装の様だ。
そこへ金髪碧眼男が話しかけている。
何やら熱心に声をかけているところを見ると口説いているのだろうか?
夜会というのは出会いの場でもあるから、まあそういう事もあるんだろう。
俺も何年かしたらそういう事をするのだろうか? 今のところ、あまり想像できないな。
今は公務を覚える事と剣術の稽古が楽しいし、ユリウスとつるんで出かけたりするのもおもしろい。
大体女性は支度とか買い物が長いだろ。あれに付き合うのは面倒だよなー………
そんな事を考えながら、口説かれている魔女を見ていたらフードの角度が代わり、一瞬だけ顔が見えた。
(……結構可愛い顔だな)
金髪碧眼男の見る目も悪くない。
そんな魔女の瞳は碧色。湖みたいな綺麗な色で、同じ青色といっても俺とはまた違った色だった。
ちらりとフードから覗いた魔女の表情は困っているように見えた。
たぶん、うまく断りの文句を言えず戸惑っているのだろう。
助けてやっても良いが、それも野暮のような気もする。
(……しかし、なんだ。あの魔女、どっかで見た事あるような………?)
少しだけ自分の立ち位置を変えてみる。
もう少し顔をよく見たら誰か分かるかもしれない。そう考えて。
長い睫毛に、人懐っこそうな丸い瞳。
髪はふわっと軽そうで、さわると柔らかそうだ。
――――そして次の瞬間。俺は魔女をまじまじと見る事になった。
なんと魔女は困った表情を浮かべながら、片手で耳を掴むように触ったのだ。
俺は同じような事をする奴を知っている。
そいつは赤みがかった茶色の髪に翡翠色の瞳をもつ――――……。
(あいつ、女装してきたんだな)
そりゃあどんな格好でくるか教えてくれない訳だ。
気づかないフリをして口説いてやろうか。
間近で女装姿を見られたらユリウスも恥ずかしがるだろうし、しばらくからかうネタにもなる。
そんな悪だくみを考えていると都合よく魔女が席を立ち、庭の方へ歩いていった。
俺はチャンスとばかりに後を追いかける。
会場から庭へと続く扉は大きく開いており、魔女はそのまま扉をくぐってゆく。
夜の庭先は少し肌寒いが月明かりは綺麗だった。
ほんのりと明るい月は庭を優しく照らし、魔女の行く先をも指し示す。
一定の距離を保ちつつ影を頼りに追いかけてゆくと、ようやく魔女の後ろの姿を見つけた。
「こんなところで、どうしたのですか? レディ」
背中を見せる魔女に優しく声をかけてみる。
魔女はビクッと肩を震わせたが、振り向かない。恐らく声で俺だとわかったのだろう。
(さては、恥ずかしくて振り向けないんだな)
そう思うとニヤニヤが止まらない。
手を引っ張ってこちらを向かせようとも思ったが、相手は傍から見れば女性だ。
そんな乱暴は許されない。
俺はスッと魔女横に立ち、腰に手をまわして優しく自分に引き寄せた。
「遠目では完全に令嬢だったぞ、ユウリィ」
そう言って、どんな顔しているのかニヤニヤしながら魔女の顔を見た。そして――――
「え、あ、……ユ、ユウリィ?」
一拍置いて出た声は何とも間抜けたモノだった。
フードに隠れた顔を上げ、上目づかいになるのは翡翠色の潤んだ瞳。
引き寄せた腰回りは思っていたよりも細く、触れた肌は柔らかい。
普段晒される事のない首元は白く……そして。
少し顔を赤らめたその表情が。
「フィー………」
いつもの声で愛称を呼ばれ間違いなくユリウスだと確信する。
ユリウスは潤んだ瞳を隠す様に下を向き、そして俺の衣装の胸元を掴んできた。
からかってやろうとか、面倒掛けさせやがってとか、いろいろ考えていたハズなのに。
口からは何の言葉も出ず、ただ覚えたのは眩暈だけ。
俺はユリウスが次に話しかけてくるまで、茫然と立ち尽くしていた。
・
・
・
しばらく俺はユリウスに対して普通に接することが出来ず、その間様々な苦悩と努力があった。
長年同性の幼馴染みだと思っていた奴が、まさか女性だったなんて。
あの日、ユリウスがどうしてあんな顔をしていたのか分からないし、本人も全く触れようとはしない。
一時的にだが、普通に接する事が出来なくなっていた俺としても、尋ねるタイミングを完全に失っていた。
しかしユリウスはまるであの日の事など覚えていない様に普通だった。
ホントに、翌日から。
――――そして今、ユリウスは騎士となり、以前と変わらず男装をして俺の傍にいる。立場上、正体を公にしない仮面護衛騎士として……。
そんなユリウスに尋ねた事がある。
「令嬢に戻らないのか」と。
ユリウスは困った顔をして耳を触った。
【番外編:五年前のあの日 おしまい】
お読みいただきましてありがとうございました!
今回はあまり甘くないですね……(汗)
番外編ではフィリップ視点を後二話は入れる予定です☆
一話は甘酸っぱい感じになっているハズです!
しばらくお待ちくださいませ~




