☆11. 王子と時を奪われた姫
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「俺もあの時は半分お遊びのつもりだったんだ」
「あの時?」
「そ、仮面舞踏会の時」
ユリウスは顔を顰めた。
あの夜会三昧はすでに、心の奥底へとしまい込んである。
もう二度と、思い出す事はないだろうと思っていたが。
「ユウリィに金髪碧眼の令嬢になってもらっただろ?」
(ええそうですね)
すっごい嫌でしたよ。
ユリウスは感情を隠さず、面に出した。すると、フィリップが苦笑する。
「そんで、俺が赤茶に翡翠。さあ、なんでしょう?」
いきなり謎かけが始まった。
緊張感がないのか、緊張が切れたのか。
(金髪碧眼に赤茶髪、翡翠……?)
そして『お姫様』。
この組み合わせはあった気がした。
どこにあったのか。
金髪碧眼で思い出すのはまずはノアだ。あと、仮装した自分。
赤銅色と翡翠は自分の色。あと、仮装したフィリップ。
お姫様はどうだ?
自分とフィリップは違う。
すると……?
「…………!」
ユリウスは閃いた。
緊張していたら思いつきもしない、解答が。
「童話……王子と時を奪われた姫?」
初めてノアを見た時、お姫様みたいだと思った。
その時に思い出していたのはこの童話。
ただ、あんまりにも現実味のない解答だ。
しかし、フィリップはニヤッと笑う。
その顔は「正解」と、いっていた。
童話『王子と時を奪われた姫』は城下で人気のある絵本。
よくある嫉妬で不幸に見舞われる姫を王子様のキスで助けるという話だ。
この話の場合、金髪碧眼の美女が魔女に嫉妬され時を奪われてしまう。
そこにお決まりの王子が現れて、額にキスをして呪いを解くのだ。
その王子の姿は、赤銅色の髪と翡翠色の瞳。
仮面舞踏会の仮装はその二人を模していたらしい。
「お前、気付くかなって思ってたけど。全くそういった素振りを見せなかったから」
「今、気付いた……」
あの時は金髪碧眼=ノアという頭があった為、全く気付かなかった。
しかし大好きな童話なのに気付けなかった自分が情けない。
よくよく考えれば、初めて仮装してフィリップに会った時『姫』って呼ばれたじゃないか。そんな大ヒントがあったのに、今まで分からなかったなんて。
そんな事を考えつつ、はたと気がついた。
「……その仮装なら俺が王子の方が便利じゃない?」
「アホか! 俺に女装させるか!?」
「部下に女装を強要。サイテー」
「お前のは女装言わない!」
ユリウスは口をへの字に曲げてみたが、フィリップは自分の意見を譲らない。
「だったら俺が王子で、別の女性騎士を連れればよかったじゃん」
我ながらナイスアイデアだと思う。
男装なら戦いやすいし、女性騎士ならドレスで戦う事も訓練している。
その方が戦力的には高いし、ひょっとして始めの接触で捕える事が出来たかもしれないのに。
そこまで言うと、フィリップはそっぽを向いた。
心なしか顔が赤い気がするのはなぜだろう?
「だから、その。……お遊びが半分って言っただろ」
ユリウスは目を瞬く。
フィリップが口ごもるなんて珍しい。
いつも余裕シャキシャキのくせに。
こういう顔をされると、イジリたくなる。
「へぇー。嫌がる部下を女装させて遊んだんですねー」
「違うだろ! 誤解を生む!」
ユリウスはほくそ笑む。
このネタはしばらく使えそうだ。と。
しかしながら、話がそれまくっているので軌道修正。
お遊びはおしまい。
「じゃ、残り半分。本気の話を聞きます、殿下」
ユリウスは真面目な声色で続きを促し、フィリップも表情を変え答える。
「俺は上がってくる情報を集約した時に、ある共通点に気がついた」
それが童話に似ている事に。と、フィリップ。
「重複するが、成長鈍化は恐らく病の類ではないと推測されている。理由は側にいる家族等に同様の症状が見られない為だ。当事者の子供も至って健康。強いて上げるなら、成長が遅くなっているせいか、体温が少し低いぐらいだ」
フィリップが一度言葉を切ったので、先を促す様にユリウスは頷く。
「成長鈍化の魔法がかかっていると考えられている子供は、八割が女子。一割が男子」
そして、と繋ぐ。
「一割が解術出来た者たちだ」
「え?……解術できたの?」
ユリウスは驚き敬語も忘れた。
「ああ。ただ、解術方法までわかった訳じゃない」
「そ、そっか」
解術方法がわかっていれば、何も妖精を探す必要がない。
風邪を引いたら薬を飲むのと同じだ。
はやり病でもない限り、原因のウイルスまで探し特定する必要はない。
「解術できた理由はわからない。ただ、解術された子供のそばには、赤茶、翡翠をもつ人間が側にいた」
これを見て、童話を思い出したという。
「じゃあ、試しに王子様と同じ色を持つ人を側に置いてみたら?」
「それが出来たら苦労しない」
「だよね」
提案しておいて愚案である事を認める。
何かよくわからない魔法にかかっている人の側に、わざわざ近づく人はいない。
それこそ、家族や王子様以外は。
「俺が行こうか?」
「だめだ」
ユリウスの発言に間髪入れず不採用が下された。
まるで言い出す事がわかっていたかのような反応に、少し反感を覚える。
「お前は男装していても、本来は女だ。王子要件を満たしていない」
「でも、魔法をかけられた子供は男の子もいるんでしょ?」
ならば自分でもいいのではないかと思う。
そう思ったが、フィリップは首を横に振る。
「決定的な事は何もない。そんな状況でお前を使う事はできない」
そこまで言うとフィリップはフッと息をつき、手を頭に乗せて来た。
ユリウスの気持ちを諌めるかのように頭を優しく撫でる。
大きな手の感触はなんだか心地よかった。
「お前はほんとに王子様だな。ユウリィ」
(王子様って……)
ユリウスは苦笑する。
本物の王子に言われても。と、思った。
「まあ、とにかく童話に近い状態があったから、二人で仮装して参加した。ひょっとしたら、妖精から接触があるかもと考えたからだ」
たしかに半分お遊びの様な作戦だ。
だが、僅かでも成果を上げている事がすごいと思う。
頭から手を退かしたフィリップは穏やかに笑った。
その笑顔にユリウスは目を瞠る。
(久々のさわやかスマイル!)
いつもはニヤッとかニヤリとかの擬音がつきそうなイヤラシイ笑みが多い。
その為、こんなさわやかな笑顔は滅多にお目にかかれない。
ユリウスは照れ臭くなって顔をそむけた。
少し鼓動が速くなってる気がする。
フィリップの容姿は王子たる、格好の良さを兼ね備えていた。
長身、整った顔立ち、そして、さわやかスマイル。
地位に関しては申し分ない事は、言うまでもなく。
公式の夜会ではさぞかし騒がれている事であろう。
でも、ユリウスは知っている。
この普段は余裕を振り撒いているこの王子が。
実は、とっても初心だという事を。
(私、見たもんね)
珍しく公の護衛に就いた時の事。
隣国の姫に挨拶する時、手に口づけを落とすのではなく、両手で包み額に近づけたところを。
何度か会っているのだから、口づけでもよいはずなのに、敢えて額に近づける挨拶。
決定的だった。
手に口づけを落とす挨拶すら、躊躇っているという事実。
これを初心と言わずなんという!
(早く克服出来るといいけど)
自分が女装を強いられるのはこれが最大の要因だと思っている。
ユリウスはニタリと笑った。
思い出したら悪戯心に火がついたのだ。
幸い、部屋には二人しかいない。
ユリウスは立ち上がり、腰かけているフィリップの前に手を差し出した。
「殿下、練習する?」
フィリップはポカンとしていたが、次の瞬間には顔が真っ赤になった。
意図がわかったのだろう。
ユリウスは笑いが堪え切れない。
自分がイジワルな面をしている事を想像できる。
『ばかやろう』と、怒鳴られるかな。
それも合わせて、からかってやろう。
そう思っていたら。
差し出した手を下から優しく包み込んだと思ったら、口づけが落とされた。
ユリウスは驚いて飛び退く。
勢い余って床に尻もちをついたが、お尻の痛さも吹っ飛んでいた。
触れるか触れないかの口づけ。
(でも、たしかに感触が……)
そこまで考えて顔が熱くなっていくのがわかる。
「フィ、フィー??」
うろたえるユリウスにフィリップは余裕の笑みを浮かべる。
「誘うなら、今度はドレスを着てこい」
そう言って部屋から出て行った。
ユリウスはペタンと床に座り込んだまま。
顔を真っ赤にしたユリウスはどっちが悪戯を仕掛けたのかわからなくなっていた。
今回もお読みいただきましてありがとうございます!(*^_^*)




