~第8幕~
氷山由紀は野神修也の分身を引き連れて、廃工場表口から裏口にまわり裏口から入るルートを辿った。
「交戦がはじまったのね?」
『うん、違いないよ。早速明日香ちゃんの傭兵が久保先生にやられたようだ』
「西園寺は? 動揺した?」
『う~ん、こちら側からは見えなかったなぁ。でもさすがに驚いたとは思うよ。だって久保先生がメス投げていたし、当たってそうだし』
「久保の能力はメスで傷つければ“支配下”におくことができるのよね?」
『そうそう、本人はそう言っていたね』
「じゃあ西園寺は」
『やられたかも?』
由紀は口元を緩めると自身の身体を蒸気化して移動を始めた。
そのスピードは修也の分身である虫よりも遥かに速かった。
『ああ~見失っちゃった』
『工場内部にも一体いるでしょ? 万事抜かりはないわ』
『う~ん、とりあえずこの体はお家に戻そうかな。痛!』
修也がチップ越しに姉の晶子と会話を交わしていた時の事。修也は館にある本体からも激しい痛みを感じた。館にある本体が損傷をしたワケでない。だとすると…………原因はすぐにわかった。
修也の分身の半身が熱線によって焼き尽きていた。
この痛みは、この焼かれようは、光熱によるものに他ならない。明神翔は修也を見下ろしていた――
「裏切ったな! この野郎!!」
「裏切る? 元から命を奪い合う死神同士、裏切るも裏切らないもないだろ?」
「ウラアアアアアアアアッ!!」
半身だけになった修也は全身を虫に分散させて翔に特攻した。しかし、その全てが翔の纏う光熱のベールに焼き殺された。
「飛んで火に入る夏の虫とはこのことか。ああ、今は夏ですらないか」
翔は空を見上げると指さして光線を放った。光線は1体のドローン飛行体を撃破した。
「クソッ! あの白髪頭!!」
モニター室前の晶子は両拳でテーブルを強く叩き、制御盤を壁に投げつけた。
「1本とられたね。アイツはこっちの本拠地を知っている。アイツの雇用主を一刻も早く特定しなくちゃ……やばいよね?」
修也の本体はいつになく神妙な面持ちでぼやいた。
明神翔は廃工場から少し離れた草むらにいる。彼はじっと廃工場を眺める。
「今の俺は粒子単位で物を把握できる。細菌サイズの虫ですら自然に始末する事ができるワケだ。それもこれもたっぷりと療養させて貰えたからだが。あとこんなことが俺にもできるワケか」
翔は自らを発光させて分身を3体作りだした。
彼はこうして時が熟すのを待っていたのだ――
∀・)読了ありがとうございました!修也格好ワルイの巻でした(笑)いつも飄々として笑っていた彼ですが、とうとう笑えなくなりましたね。さて決戦の行方はどうなるか、次号です!




