~第3幕~
明神力也は突然の胃潰瘍に襲われて緊急入院してしまった。胃潰瘍? いや、違う。殴られるような痛みを受けてからの吐血だった。翔が何かの打撃を受け、雇用主としてダメージを被った。こういうことだろう。
そういえば翔は青風園へ出向いて以降、力也のもとに帰ってきてない。
「調子にのったのか……お前らしくないな、翔」
力也の回復は医師が驚くほど順調だった。おそらくは翔が自身の能力を以てして治癒させているのだろう。「光」という能力がどれほどの力を持つのか力也には見当がつかないが、利便性には長けている力であるみたいだ。
「また、独り言ですか。明神警部」
警部補の綾間が病室に入ってきた。
「ははっ、何もすることがないとね。ついおかしくなるみたいだ」
「警部が可笑しくなっているのはここ最近ずっと、でしょう」
「ハッキリ言うなぁ」
「でも、無事に回復されているようで何よりです。青風園ですが、どうやら来月には閉園するみたいです」
「そうか。可哀想になぁ」
「殺伐としたことが続いていましたからね。最終的にはあんな事件が起きた。管理者として責任が問われるのは自然なことです」
「あの施設で起きた件は全て林原拓海、一人の少年の仕業だったと言うのかな」
「それが奇妙なことはまだ続いているのですよ」
「なに?」
「今朝、横浜市のそれぞれ離れた場所から2人の毒殺死体が発見されました。使われた毒は青酸カリなどではなく、国内に存在しない蠍の毒だと思われます」
「何だ? それ?」
「二人とも自宅にて寝ているところ、急に毒がまわったかのようです。考えられるのは『デスストーカー』なる蠍が家に侵入して、2人の体中を刺した……ということになります」
「体中!?」
「ええ、だって体中に刺さった跡がありましたから。だけど、奇妙なことが1つあるのです。2人とも自宅周辺付近を隈なく科学班が捜査しましたが、該当するような蠍は1匹もいなかったということです」
「まるでSFの世界だな」
「それで片付けますか?」
「まさか。退院したなら私も現場に入ろう。マスコミが勝手な推測をたててね、事実でない事実を認めることになったら叶わないからね」
「お願いしますよ。誰にも手が負えないのが正直な話ですから……」
溜息をつき、軽く項垂れる綾間をみて力也は考えた。
死神が暗躍している。そして次々と敵を始末してゲームを進めている。
その中に虫を扱う奴がいる。これは厄介だな……と。
「早く帰ってこないと困るぞ、翔」
「翔さんは今いないですよ、警部」
苦笑いする綾間は話を続けた。
「警部も可笑しいですが、ここのところの横浜は地域全域がおかしい。人間が明らかに人間的でないやり方で殺害されている。全国的にみてです、こんなにおかしい事が起き続けているのは僕たちのこの街だけですよ。ここ最近とかはベイスターズも負けてばかりだが、このままじゃあハマスタで試合すらも……」
「綾間、お前はベイスターズファンだったのか」
「生まれも育ちも横浜です。高校時代は野球部でした。こないだ話したでしょ」
綾間は疲れている。この街の警察も疲れている。
力也にはその根源がわかっていた。しかし、それを綾間に説明したところでわかっては貰えないだろう。いち早くダメージを完治させること、それから翔と合流することが急務に思えて仕方がなかった。
しかし焦ってはいけない。おそらく翔が死神の何者かからダメージを被ったのは違いない。自身の能力の分析と作戦の練り直しが必要だろう。
力也はすでに反撃の体勢を整えようとしていた――
横浜の山奥深くに廃棄された錆びた車内のなかで翔は自身の光輝く手を胸にあてて全身治癒に努めていた。父の力也も重傷を負ったに違いない。他の死神との対峙で敗北を喫したのは素直に報告するしかないが、厄介なのはその死神達が自身の能力を完全模造し、彼女達が優位にたってしまっている事だ。
冷静になるべきか、攻めるべきか。
父と再会した時に何て言うべきなのか。翔は治癒に努めながらも、一人悶々としていた――
∀・)久しぶりの明神親子の登場でした!九龍パンチが相当効いていたみたいですね(笑)また次週!!




