PROLOGUE:LIFE IS NO RETURN
私たちのいる「青風園」は連日テレビのワイドショーで賑わっていた。昨晩、入居者である林原拓海が従業員を殺害し、それから近くの河川敷で自殺したと報道されている。小学生が拳銃を所持して凶行に及んだそれは謎ばかりが残る。
「すごいよね~。死神ゲーム関係じゃなかったらやばいよね?」
「手元に拳銃が残ったのでしょ? 死神ゲームで彼が雇用者だったならさ、拳銃はなくなっていると思うよ?」
「それは“タイムパラドックスに反しなければ”という前提で、だよ。現実的にそれで辻褄が合うのであれば、改変はされない。死神ゲームの可能性はあるよ?」
「私、難しい話はわからないよ。ところで奈美さ、こないだ逃がした死神はどうするの? 私たちの“休止期間”はもう間近に迫っているよ?」
「暫くはおとなしくしたほうがいいかな。私達の詮索は多分してこないと思う」
「じゃあ、私は暫く普通の人間で普通のことを楽しもうかな♪」
「普通のこと?」
「うん、好きな人できちゃってね♡」
黒崎零か。私は直感で美奈が好意を寄せる男がわかった。
「そう、まあ、好きすれば?」
「そういう言い方ないじゃん! もっと応援してくれても良くない!?」
私はすぐに「あぁ~ごめん、ごめんね」と謝った。私にとってはこのゲームを制する為にも奈美のご機嫌とりは必須だ。私が生前付き合っていた彼氏へ実は前々から好意を寄せていたという過去の背景もある。まぁ、仮想空間のなかの自由行動だ。好きにすればいいだろうと思うのだが……。
私には妙な胸騒ぎがあった。
現実世界にもどった時に交際がうまくいくかどうか、この仮想空間で交際をしてみて検証してみたいと美奈は矢継ぎ早にロマンスな理屈を語り続ける。
そんな美奈を横目に私は思考を巡らせた。
黒崎零、彼は入居してから間もなく林原拓海と妙な親交を結んでいた。私が睨んだ際も動揺している素振りがみえた。単純に美奈から声をかけられてドキドキしていただけもしれないが。もし彼が死神ゲームの関係者であったなら、それはそれ以上に厄介なことがないぐらいに厄介なことである。彼を殺害することに対して美奈が賛同する筈もないからだ。
そして私たちの使う能力「ドッペルゲンガー」は3日ごとに私とともに姿を消失してしまう仕様となる。言わば「代償」というルールを使用したそれだが、その期間の美奈は普通の人間となって能力を使用できなければ、死神を見る事すらもできなくなってしまう。
自身の能力がコピーされたと認識している死神がわざわざリベンジでやって来るとは考え難い。しかし万が一あの死神がやってきた場合、美奈は応戦するどころか気づくことすらもできないのだ。
「ねぇ、ちゃんと私の話を聴いている?」
「え? ああ、うまくいくといいよね! デートとかどこでするの?」
「そうそうそれだけどさ……」
私は気丈に笑って美奈の話にのることにした。
不安を増長させるだけではこの先どこかで綻びがでてしまうだけだ。
私たちの能力は明日から3日間停止する。
その3日間は美奈を信じて任せるに他ならなかった――
∀・)第3幕開幕です!!オープニングは九龍奈美から。最強すぎると作中で話題にした能力ですけども、それが完全装備ではないということがわかった話になります。そしてこれが本章のプロローグになります。予想以上に膨れ上がった2章でしたけども、第3章もまた長くなるかもです(笑)また暫くお付き合いお願いいたします☆




