~第9幕~
翌朝、施設は案の定大騒ぎとなった。警察が何人か来ている。施設の入居者はここから出して貰えないらしい。外をみると多くのマスコミがカメラを持って施設を映していた。
「話を要約するとこうだ。尾崎進士がいつの間にか行方不明になった。アイツの部屋の前に大量の水シミが残り、そこにアイツの血痕までたくさん残った。そういう話だ」
「えらく淡々と話すのだな」
「事実を話しているだけだろ? それより零君、昨日の事は覚えているのか?」
「ああ、だけどお前が……」
拓海は手を広げて「もう喋るな」とジェスチャーした。2人は食堂で食事しながら会話を交わしていた。やはり拓海は只者でなさそうな素振りがみえていた。
「この建物にはいるのさ」
「この建物にいるって?」
「死んだ亡霊みたいな奴だよ。俺の妹は九龍っていう女子高生2人組と遊んでいるが、2人もいない。実際は1人だ」
「なんだって!?」
「しっ、でかい声をだすな! いいか、赤い目をした九龍とは会話を交わすな。目も合わすな。見えると悟られたら殺される。そんな気がして仕方ないのさ」
「そうかよ。とんだ所に来てしまったな……」
「静かに生きようぜ。俺達にここ以外の居場所なんてないのだから」
拓海はそう言うとお茶を啜って立ち上がった。部屋で1日休むに他なさそうである。
零は1人で考えた。拓海の言う「亡霊」とは「死神」のことではないのか?
色んな仮説が零のあたまを駆け巡る。次第に落ち着かなくなった彼は、施設の自動販売機で缶ジュースを買おうと、部屋をでた。同時に人とぶつかる。同い年ぐらいの女子、九龍奈美だった。
「ご、ごめんなさい。痛くなかった?」
「あ、ああ、大丈夫だよ。そっちは?」
「私? 大丈夫よ? 君がこけているからさ……」
「ああ、こう周りが騒々しいと落ち着けないよな」
「うん、黒崎君だっけ? 今からどこかに行くつもりだったの?」
「自販機にジュースでも買いに」
「そうなんだね! 私もそうしようとしていたところ! 奇遇だね! 一緒に行く?」
「え? ああ、まあ、別にいいけどさ……」
零と美奈は2人して自動販売機で飲み物を買った。零はコカ・コーラで美奈は爽健美茶を手にしている。ぎこちない感じが互いにありながらも、2人は互いのこれまでの事を紹介し合った。
美奈には双子の姉がいた。2人揃って幼少期にこの施設へ入所したらしい。つい数年前までは2人して高校のバスケ部で活躍を果たしていたが高速バスの横転落下事故により、姉の奈美は木の串刺しとなって目の前で死んだそうだ。
驚くべきはこれを淡々と話している美奈の姿だった。
「よく話せるよな。思いだしたくもないだろうに」
「もう過去の話だし。それにそれを言うなら零君も同じじゃなくて?」
「俺は見てなんてないから……九龍さんみたいにさ」
「ふうん、同じことだと思うけどな。ねぇ、明日、外にでられたらいいね?」
「ああ、でも、多分大丈夫だと思う。話を聞く限り訳が分からない出来事だしな。おまけにここには監視カメラもなかったらしいし。警察もお手上げだろう」
「本当、怖い話……」
「逞しく生きているアンタが言うなって」
美奈の肩をポンと叩くと零は飲み乾したペットボトルをゴミ箱に入れた。
「ねぇ、黒崎君」
「何だよ?」
「黒崎君ってカッコいいよね」
「は? よせよ。今はそんなことに返事もできる余裕もねぇよ」
「うん、ごめん」
美奈の瞳は茶目っ気が多く、潤んでいるのと同時に彼女の頬が赤らんでいるのが零に見えた。そのまさか……なんていう思い上がりも彼にはなかった訳でない。佳奈美のことを思いだして彼女に背を向けた。
彼は悟られないようにしていた。
彼女の隣には赤い瞳をした瓜二つの女子がじっと零を見ていたことを。
翌日、零たちのいる施設は外出許可がおりるようになった――
∀・)第九幕ゆえに九龍登場!!もしかして暫く休載するかもです。また割烹で知らせます。




