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 そして、ロカス村 ~どこかで見た展開再び~

 エルフの里を襲ったヴェノムオーガスト襲来より一月。

 セラ達はロカスの村に帰還して、いつも通りの長閑な日々を送っていた。

 最近では宿の数も増え、迷宮へと挑戦する冒険者の数が日増しに増えてきている。

 その大半がロクデナシであり、ギルド直轄の黒服隊に囲まれては抵抗できない程に袋叩きに遭っていた。


 別にダンジョンで問題を起こすなら自己責任だが、酔った勢いで村人に絡むのは戴けないだろう。

 無論この村の大半は冒険者であり、例え酔っ払いでも情け容赦なく叩きのめしている。

 ある意味では過剰防衛と言えなくも無いが、元から筋が通らないロクデナシの冒険者に対し、ロカス村は更に理不尽とも言うべき処置を取っている。

 その陣頭指揮を執っているのがロカス村の静かなるドン、ボイルである。


「よう、糞餓鬼共。よくも俺達のシマで好き勝手にやってくれたな? 覚悟は出来てんだろ? あぁ~っ?」

「い、いや……済まねぇ。俺達が悪かった……」

「悪いの一言で済ませられるなら、衛兵は要らねぇ~んだよ。テメェ等みたいなチンピラがいるから、俺達の格も下がってしょうがねぇ……」

「す、すす……済まない…。俺達が悪かった……」

「だからよぉ~……筋を通せって言ってんだ。テメェ等、俺達になんて言いやがった? 『俺らは誰の指図も受けねぇ! 何でお前等のルールを守らなきゃ為んねぇんだ!!』だ。

 その結果がこうして拘束され、散々ボコられる事になったんだろうが……違うか?」

「そ、それは……」


 ロカスの村は急速に発展して来ている。

 だがそれは決して良い事ばかりでは無く、外部から来る者達によって治安の悪化を招く事になった。

 これまで犯罪にかかわった者達も、あの秘薬のお陰で洗いざらい罪を告白し、気づけば衛兵に捕らえられるという始末である。

 彼等は敵に回した相手が悪すぎた。

 ロカスギルドは今や堅気ではあるが、事実上はマフィアと化していたのである。


「吐いた唾は飲めんぞ? 覚悟は良いか?」

「や、やめろ……やめてくれぇ―――――――っ!!」


 ボイルは葉巻を一息吸うと、紫煙を静かに吐く。


「・・・・・・やれ」

「へい! 兄貴ぃ!!」

「「「「やっちまえっ!!」」」」


 哀れなチンピラ冒険者は、こうして一時的に真っ当な人間に戻される。

 彼等は涙を流して罪を悔い、薬の効果が切れるまで心行くまで懺悔するのだ。

 その後、己の犯した罪を記録され衛兵に突き出される事になる。

 因みに今回の犠牲者は強盗と強姦の常習者であった。

 悪が消えるのだから社会的には良い事なのだが、やっている事はあまりに非常識である。

 恐るべし【サイケヒップバッド】。


「チッ! また犯罪者か……辺境だからと言って、屑が集まるのは遠慮願いてぇな……」


 吐き捨てるように言い放つボイルは、既に危険すぎる漢だった。


「だな。最近こうした連中が日増しに増えてやがる」

「衛兵も人手が足りなくて難儀しているのに、忌々しい限りだ」

「ダンジョンで死んでくれりゃいいのに……」


 こうした犯罪者と予備軍はダンジョンを利用しようとはしない。

 何かにつけて他の冒険者に絡み、脅迫と暴力で上前を奪うのが定石だった。

 だが、一度こうした犯罪者を捕え、全裸で磔にした時から数は減ってきている。

 尤も、それは飽くまで目に見える範囲での話であり、彼等は一度悪行が成功すると村を出て、ほとぼりが冷めてから再び戻って来るのである。

 一度楽な道に進むと彼等は同じ事を繰り返すのだ。


「面倒だから全裸でダンジョンに放り込むか?」

「それが良いですな。どうせ犯罪者だし、死んでも誰も悲しまない」

「舐められっぱなしだと、ストレスが溜まる」

「衛兵たちも手間が省けるってもんだろ?」

「次からはその手で行こう」


 酷い話だが、辺境は危険が多い。

 こうした犯罪者の被害も多く、今まで幾度となく商人達が襲われていたのだ。

 甘い顔をすればつけあがる様なクズが、幾らでも湧いて出て来るからだ。

 故に彼等の対応もより苛烈になって来る。

 

 その後、ギルドの掲示板には犯罪者の処罰対応が掲示される事になる。

 これを見た犯罪者予備軍を含む後ろ暗い連中は、この村の恐ろしさに震えあがる事になった。

 また、この対処法を不満に思った犯罪者が冒険者に成りすまし、衛兵に抗議させるように頼んだが結局は無駄になる事になる。

 村に派遣された衛兵も、これ以上の犯罪者に対応できない為、この対処法は大いに喜んだのである。

 これを機に17名の重犯罪者が全裸でダンジョンに送り込まれ、この世から綺麗に消える事になった。

 彼等の生きていた証は、ダンジョン内に現れる魔物の姿として永久に残されるのである。






「そんな訳で、アレが元犯罪者の為れの果てです」


 にこやかにセラが指をさしたその先に、表情の無いゴロツキ紛いの魔物が武器を持って出現していた。

 中には同じ顔の人物が複数存在し、彼等の全てが全裸であった。


「は、犯罪者をこんな風に処分するなんて……」

「私達は……恐ろしい場所に来てしまった……」

「犯罪者には同情しないけど……この処刑方法は酷い……」

「辺境だから人手が足りないんだよ。犯罪者は直ぐに増えるけど、僕達には限られた人員しか居ない。

 捕まえても護送するだけの人手が割けないから、こうして処罰するしかないんだ……」

「諸行無常じゃのぅ……」


 半神族三人の弟子達は、ダンジョンで己の技を磨くべく修練に明け暮れていた。

 第三階層まで下りて直ぐに出て来たのが、この全裸のバーバリアンである。


 ダンジョン内で死んだ者達は、その遺伝子情報事ダンジョンに組み込まれ、各階層を徘徊する魔物として再生されるのである。

 元よりこのダンジョンは、嘗ての神話時代の建築物の自己再生機能の暴走により生み出される。

 どんな生物もこの特殊な機能に呑み込まれ、他の生物の情報を組み込まれる事で防衛システムを構築するのだ。

 中には特殊な機能が付加されたアイテムを保有している事があり、魔物を倒すとそのアイテムが取り残される事になる。

 だが、そうした装備の数々は桁違いの強さを持つ魔物が所有し、倒すには魔獣とは異なる戦略が要求される。

 しかも階層が深くなるにつれ難易度も上がり、冒険者達による命懸けの戦いが繰り広げられるのだ。


 セニア、アベル、イクスの三人も修行の為にこのダンジョンに入ったが、流石に人間の姿を持つ魔物を相手にするのは気が乗らない様である。


「所詮は偽物だよ? それに、この世界は人間も油断が出来ないんだ。いざと為ったら殺す覚悟も必要だし」

「分かってはいるけど……すこし…」

「アタシ達には重いと思う……」

「出来ない訳では無いですが、慣れてしまうのが怖いですね」


 この命の値段が安い世界に於いて、盗賊や追剥などの犯罪者を殺したとしても罪には問われない。

 寧ろ被害が多いので率先して殺しているほどだ。

 ダンジョンはそうした覚悟を学ぶ上でも重宝されている。


「人殺しに慣れろとは言わないよ? でも、万が一の時になって殺せない様じゃ、死ぬのは自分になるからね?」

「殺す覚悟は持っているべき…という事ですか?」

「そう、冒険者も熟練者になるほど狙われやすくなるし、ランクが高ければ大勢で襲って来るんだよ。組織的にね」

「それはまた……酷い話ですね」

「まぁ、上位の冒険者の多くは良い素材を所持している事が多いし、甘ったれたクズ冒険者はそうした素材に縁が無い。

 奪った方が良いと思うのも分かるけど、大半は返り討ちに遭っているのが常識かな?」

「ダンジョン内でも似たような事になるんじゃないの?」

「セニアちゃん、鋭いね? いるよ、実際にそうした行為をする馬鹿が」


 ダンジョン内にも盗賊家業を行う者達は確かに存在する。

 浅い階層で陣取り、下層から戻って来る冒険者を狙う者達が後を絶たない。

 しかし、このロカス村のダンジョンは違う。


 ダンジョンの入り口は冒険者ギルドの建物で完全に塞がれ、入り口から入るには人目につくフロアと受付で手続きをしなくてはならない。

 誰が何時ダンジョンに潜ったのかがわかる為、未然にこの行為は防がれる事になる。

 同時にランクが低いのに数日も潜り続けるのは不信に思われるので、こうした犯罪行為を行うのはリスクが高過ぎた。


「そんな訳で、このダンジョンの治安は比較的に安全だという事になるんだ」

「良く考えられていますね。他のダンジョンはどうなっているんだろ?」

「聞いた話じゃ、入り口自体は放置されているから犯罪者は侵入し放題。時折、行方不明者が頻発して出るらしいよ?」


 ダンジョンを管理運営しているギルドはロカスの村だけであり、他では領主や街の町長が運営しているので管理が杜撰なのである。

 安全面での配慮を怠っているので、迷宮内での盗賊行為による被害が後を絶たない。

 後にロカス村の運営方針が基盤となり、他のダンジョンも組織的運営化になるのだが、それはまた別の話だ。

 

「それより、アレを倒さないと先には行けないけど?」

「ブラブラ揺れてるのぉ~……。少し触ればギンギンになるのではないか?」

「ヴェルさん……下ネタ禁止」

「えぇ~~~っ?!」


 このダンジョンは何かがおかしい。

 確かに伝説上の魔物は存在する。しかし、このダンジョンには変態嗜好の魔物も現れるのだ。

 可愛らしい妖精の姿で近付き、女性の下着を強奪する魔物は記憶にあろう。

 しかも、『被る』と言うプロセスで変身強化されるのだ。

 幸い出現箇所は此処よりも下層なので、この場に現れる事は無いが……それも時間の問題に思われる。


「それじゃ、張り切って行きましょう。裸・マン共を蹴散らして、【ガジェット・ロッド】を手に入れるんでしょ?」

「そうですけど……(ちらり…ぽっ/////)いやぁあああああああああああああああああっ!!」

「「「「待てや! お前は今、どこを見たっ?!」」」」


 魂が男のセラと少年二人、ヴェルさんは論外としてセニアだけが真面な女の子なのである。

 当然魔物とは言え、股間の紳士を自然にぶら下げているような変態と闘う気には為れない。

 寧ろ戦意が低下しているのは危険である


「のぅ……心なしか、あの裸・マン共……喜んでおらぬか?」

「「「えっ?!」」」


 全裸の無表情な魔物達の頬に、薄っすらと赤みがさしてた。

 やがて股間紳士は反り建つバベルの塔へと変化する。

 しかも彼等は恍惚な表情を浮かべ始めていた。


「「「こいつ等、セニアに全裸を見られて喜んでいらっしゃるぅ――――――――――っ!?」」」

「いやぁああああああああああああああああああああああっ!!」

「何だかのぉ~……普通に魔物は出るのに、偶にこんなのが出て来るのぅ。何故じゃ?」

「知らないよっ!!」


 そう、このダンジョンは普通に定番の魔物が出現する。

 ゴブリンやオーガ、オークやサイクロプスなどファンタジーでは御馴染みの顔ぶれだ。

 しかし、時折変態的な行動を起こす魔物も現れ、冒険者達を混乱に陥れるのである。

 それも組織的に行動するのだから始末に悪い。


「さっさと倒しちゃえば? 多分弱いと思うよ?」

「せ、先生……そうしたいんですけど……」

「アレに武器を向けるのは遠慮したい」

「いやぁああああああああああっ!? 何でこっちに来るのぉ―――――――っ!?」

「そのリアクションが奴等を増長させるのじゃろ。一気に殲滅してしまえ」


 少女に群がる全裸の武器を持った男達。

 どう見ても邪な想像しか思い描けない。


「セニアは……変態に大人にされるのじゃろうなぁ~……」

「殺らなければ犯られる。その覚悟が無ければ弄ばれるだけだよ?」

「「いや、助けろよっ!!」」


 全裸のバーバリアン達は、表情が怪しい位に恍惚していた。

 しかも、股間の紳士は三割増しで増大している。


「君達が助けなよ。今あれを倒さなければ、セニアちゃんは一生物の傷を背負う事になるよ?」

「・・・・・・けど・・・・」

「あんなのでも……人間………」

「時には人間の敵だろうと殺す必要があるんだよ? 此の侭見ているだけじゃ只の偽善者だし、アレは人間じゃない」

「見た目の問題だよっ!」

「分かってはいるのだが………どうしても踏ん切りがつかないんだ……」

「いやぁああああああああああああああああああああああっ!!」

「「「・・・・・・・・・・」」」


 見た目が人間と区別がつかない魔物。

 その魔物に追い回されるセニア……このままでは別の意味で酷い目に遭う可能性が高い。


「仕方ないなぁ~……えい!」


『ぎょぱっ?!』


 間抜けな声を上げて、全裸のバーバリアンは脳天から真っ二つになった。


「ほんの少しの躊躇が仲間を殺す事もあるんだよ? どちらかを天秤にかけないと、死ぬのは自分自身になるからね?」


 セラは容赦なく砲剣を振るい、バーバリアン共を片っ端から解体して行く。

 其処に躊躇い等微塵も無く、情け容赦ない修羅が降臨していた。

 首が飛び、腕が飛び、腹が引き裂かれ消えてゆく男達。

 その姿は悪鬼に等しかった。

 悪夢の様な光景である。


「人型だから何? 君等の躊躇いがセニアちゃんを殺しかけたと分からないの? こいつ等は最終的に敵を殺す為に動いているんだよ?」


 ダンジョンの魔物は外敵を始末するためだけの存在である。

 例え見た目や行動が変態的でも、最終的には敵を排除する性質が備わっている。

 心理攻撃を仕掛けてくるこの手の魔物が変なだけで、その性質は敵を殺すだけに特化しているのだ。

 そして、この程度の説明はダンジョンに潜る前にギルドから警告されている。

 三人が知らない筈が無いのだ。


「戻ったら、反省会だね」

「「「はい……」」」


 見た目だけで判断すれば、次に死ぬのは自分になる。

 この時手が出せなかった三人は、ダンジョンから戻り次第反省文を書かされる事になった。

 新人冒険者の何割かがこうした犯罪者に仏心を出し、または殺せずに殺される前例が後を絶たない。

 必要な時に非情になれなくては生き残れないのだ。


「それじゃ、奥に進むとしよう。20階層まで下りると、偶にガジェット・ロッドを持ってる奴が出て来るから」

「僕達・・・・・生きて帰れるかな?」

「森でのサバイバル生活がありましたからね……」

「遺書・・・書いて来れば良かった…」


 悲痛な思いを胸に新人たちは迷宮へと挑み続ける。

 水先案内人は歩く非常識だった。

 

 彼等が戻って来たのは、既に深夜を回った時間帯である。




 翌朝、セラが起きると……そこには全裸のマイアと、だらしない寝相で眠るヴェルさんの姿があった。

 幸せそうな寝顔のマイアに何処か優し気な微笑みを浮かべたセラは、優しくマイアの髪をなでるとシーツを静かに彼女に掛けてあげる。と同時にヴェルさんの鼻に洗濯バサミを挿む。


 鏡台に座り、銀色の髪を櫛で梳かし、薄い色のファンデーションを使いナチュラルメイクを施した。

 更に口紅を引くと、彼女は満足に笑みを浮かべる。


「うん、完璧♡」


 そして時は凍りつく。

 まるでそこが極寒の凍土の如く、凄まじい程の冷たい風がブリザードとなって吹き荒れた。


「・・・・・・・・・待て待て・・・・僕は今・・・何した?」


 認めたくは無い。

 しかし、今自分がした行動はあまりに恐るべき事であった。


「まさか……そんな…。僕は……既に女性化してるとでもいうのか?!」


 既に末期であると感じ始めたセラ。

 異様な慣れた手つきでメイクをし、しかもその行動に対して違和感すら感じていない。

 更に言えばマイアへの態度である。

 これは所謂……ゲームでおなじみの〝お姉さま〟行動に酷似していた。

 しかも百合系である。


「ヤバイ……マジでヤバイ……。あの写真集の販売から、こうした行為が気にならなくなっているよ!!」


 女装させられてからと云うもの、どうやら此方との垣根に穴が開いたようである。

 異世界であるという事が、辛うじてセラ=優樹との境界を作っていたのだ。

 それが写真集の販売から一転して、この様な行動が目立つようになって来ている。

 これは優樹としての人格に盛大な危険信号どころか、寧ろ既に核が落される事が判明した都市の如く緊急事態であった。

 警鐘がガンガン音を立てて鳴り響き、艦載機がスクランブル発進をしたが全機撃墜されたかのような衝撃だった。


「これは不味い……最悪だ・・・・・・・・・」

「そうじゃな・・・・最悪の目覚めじゃ・・・・」

「うん・・・・マジで最悪って、ヴェルさん!?」


 振り向くと、手に洗濯バサミを持ったヴェルさんが実に不機嫌そうにセラを睨んでいた。


「セラ……お主、人が気持ちよく寝ている時に、何故この様な悪戯をするのじゃあぁ!!」

「えっ? そっち? それは・・・・・・」

「それは…何じゃ?」

「何となくムカついたから……。いつも飯食って暴れるだけのヴェルさんが無性に憎い。食っちゃ寝して女性の胸を追いかけ回し、剰え他人の迷惑すら顧みず自由なヴェルさんを沈めたい程ムカついたから」

「はっきり憎いと言いおったっ!? しかも恨みが濃いっ?!」


 寧ろセラに迷惑をかけている分、そのストレスが暴力となってヴェルさんに襲い掛かる。

 更に女性化の危機と言うストレスも若干含まれており、その解消の為にヴェルさんが生贄になっている事を当人達は知らない。


「おのれぇ~…そのようなナチュラルメイクで我を誘惑して於いて、お主は素知らぬ顔で我にこの様な仕打ちをしたと言うのかっ!」

「うん。だってぇ~、ヴェルさんだし?」

「即答?! しかも何故、疑問形なのじゃ!!」

「寧ろ本能? 何となくだけど、見ているだけで素材にしたくなるような……狩り人の本能みたいなぁ~?」

「我を狩る対象として見ていたっ?! 此の侭ではられる……殺られる前にれっ!!」


 ヴェルさんはジリジリと間合いを取って来る。

 セラもまた、ヴェルさんの襲撃に対してカウンターを狙うべく、間合いを計っていた。

 そして、セラがベットの傍に来た時にそれは起こる。


「ん……んぅ~・・・・・」

 

 ベッドで寝ていたマイアが、静かに起き上がる。

 彼女は眠る時は下着を付けない主義のようで、何時も全裸であった。

 しかしながら最近は慣れてしまい、セラは然程違和感なく受け入れている。

 其処が問題であるのだが……。


「あ、マイアちゃん。お早う」

「む、マイアが起きたか……お早う・・・・」


 マイアは朝が弱い。

 特に、この時点で寝ボケて居る傾向が強かった。

 そのマイアは強引にベットへとセラを引きずり込み、仰向けに倒れた彼女のに身を寄せると、どこか切なげに……いや、既にこれは恋する乙女の表情だろう。


「ちょ、マイアちゃん?! 何を・・・・・」

「お姉さま・・・・」

「「お姉さま?!」」


 二人は驚愕する。

 普段のマイアが決して口にしない言葉に、セラとヴェルさんが硬直した。


「・・・お姉さま・・・・もう一度・・・してください・・・・」

「あ、あれぇ~?! 何か、既視感デジャヴを感じるぅ~~?! 何で……」

「・・・・忘れられないくらいに・・・私を・・・・お姉さまの物に・・・してください…」


 どこかで見た光景に、セラは言いようの無い不安がよぎる。

 マイアは当然ながら寝ボケて居るのだが、其処には禁断の扉が見え隠れしていた。


「せ、セラよ……お主、何時からマイアとその様な関係になったのじゃ?」

「記憶にないよっ!! 其れよりもヴェルさん、助け…むぐぅ~~~~……」


 行き成りマイアに唇を塞がれる。

 しかも舌まで絡めて来る程だ。これはもう、白い花園に突き進む段階である。

 濃厚なキスはセラの意識を(酸欠で)茫洋とさせ、思考を麻痺させるほどに長く続く。


「・・・・・最後の・・・お別れをする前に・・・私に…お姉さまを刻み込んで・・・」

「・・・・・だ、駄目・・・・マイアちゃん・・・・・これ以上・・・」


 マイアの手はセラのシャツのボタンを一つづつ外して行き、白い肌を優しく愛おし気に触れる。


「・・・・・これが…本当に最後ですから・・・・私の……最後の我儘ですから・・・」

「・・・だめ・・・これ以上は・・・・本当に・・・・戻れなくなっちゃう・・・」


 寝ぼけているとは思えないような悲しくも切なげな表情に、どう抵抗していいのか分からない。

 それ以前に抵抗する力は濃厚なキスで奪われていた。

 マイアは可成りのテクニシャンなのかもしれない。


「ヴェ、ヴェルさん・・・・とめて・・・・・」

「お、おぉ……此れが百合・・・・・・初めて見るのじゃ・・・・」


 ヴェルさんは傍観者に徹していた。

 散々エーデルワイスを貶していたくせに、この状況には興味津々の御様子。

 助けは来ない。傍にいるのはデバガメのエロ魔獣だけである。


「・・・・お姉さま・・・・私・・・もう・・・」

「だめ・・・・お願いだから・・・・や、やめ・・・・」


 マイアの指先が、セラの胸元を覆う僅かな布の中央へと延ばされ、その留め金を外した。


「――――――――――――――――!!」


 セラは言葉に出来ない悲鳴を上げる。


 早朝のロカス村に、白い百合の花が咲き乱れた。

 ・

 ・

 ・

 ・

「……すんごい目に遭う所だった…。危うく禁断の扉を開く所だったよ…ハハハ……ハァ~……」


 訳では無かった。

 最後の一線を越えようとした時、マイアが漸く目を覚ましたのだ。

 その結果、彼女は自責の念に駆られている。


「すみません、姉さん……。何か……寝ぼけてしまって……」

「寝ぼけていた割には、やけに真に迫っておったのぅ。マイアよ、お主……そっちの気があるのではないか?」

「相手が姉さんだったら……構わないけど?」

「セラよ、愛されてるのぅ……」

「何か……潔くそっちに走った方が良いような気がして来たよ……。Ha-haha…死ぬには良い日だ」


 セラの目はどこか虚空を見上げ、焦点が定まっていない。

 完全に精神的ダメージを直撃で受け、メンタルブレイク寸前の末期段階に突入し、更に確率変動で大フィーバーであった。

 セラは怖かった……。元の世界で実の妹を襲ってしまうかもしれない自分の可能性が・・・・・・。


「いったい、どのような夢だったのじゃ?」

「そうね……確か、私が姉さんの後輩で、先輩である姉さんが何処か遠くへ行くと知って、夕日の差す学び舎の一室で告白して……。

 そこから切ない思いが成就した後に・・・・・・・・・・ポッ♡」

「それは……何処のオト○クじゃ? まんま、担任教師の過去話では無いか……」

「それだと、マイアちゃんが事故で死んでゴーストになるの? 見たくは無い筈なのに……続きが気になる」


 色々ヤバい会話だった。


「いえ、そのあと無事に卒業して、街で偶然再会した後に二人で事業を成功させ、裏社会から世界を牛耳る一大勢力の基盤を作り上げるハードな展開に・・・・・・」

「「何でっ?! 何があったらそんな展開になるのっ?! つーか、見てぇ!!」」

「弱小企業時にマフィアと抗争して何故か勝つんです。そのあと国家の陰謀に巻き込まれたり、テロリストと戦闘したり……あっ、二人で悪魔を殺しまくったのもありましたね」

「「どんな展開だっ!? ストーリーが急転直下過ぎて良く解らない!!」」

「最後は不思議な力に目覚め、黒い暗黒卿と二人で戦っていましたよ?」

「「一大スぺクタル過ぎてついて行けない……。フォース覚醒?! 」」


 前半は切ない百合ロマンスでも、後半はハリウッド並みの怒涛なハード展開だった。

 物語が繋がるかは微妙な所だが、所詮は夢の話である。

 夢は常に脈絡がある展開になるとは限らない良い例だろう。


「それより、朝食の準備じゃ! ローストチキンを所望する」

「作るのに手間なんだけど……。良いよね、ヴェルさんは何もしないから気楽で…」

「野放しにすれば邪魔をしますし、天井からぶら下げればウザい……普段は役に立たない駄目人間ね」

「マイアにまで駄目な奴確定されたじゃとぉ!?」


 今更である。


「朝の運動の為に穴を掘ろうかなぁ~……」

「手伝いますか? 姉さん」

「我を埋める事も日常化してるじゃとっ?! お主等は悪魔か!!」

「「銀髪悪魔と言われてますが、それが何か?」」

「今更じゃった!!」


 そう、今更である。

 どんな非常識も、日常で幾度となく続ければ常識となる。

 銃撃が鳴り響く横で普通に生活を送る、どこかの危険な国と同じ理屈だ。

 それが異常である事だと云う認識が麻痺して来るのである。


 こうしてロカス村の日常が始まる。

 それが世間一般的には異常であるという事を置き去りにして……。


 悲しい事に、人は良い意味でも、悪い意味でも慣れる生き物であった。


 お久しぶりの投稿です。

 最近別の話を書き始め、執筆作業が滞っております。

 何とかしたいのですが、私生活との折り合いがつきません。

 これ、どうしたら良いんでしょうね?


 転暇は構成が破たんし、ごぶチーはネタはあるのですが書く気が起きない。

 神僕はネタ切れ状態が続いております。

 何か、気分がノッて来ない。『サイケヒップバッド』が欲しいこの頃です。

 そんな中、書いてているのが『アラフォー賢者の異世界生活日記』です。

 八話ほど書いてありますが、もう少ししたら投稿する予定。

 主人公はオッサンです。


 これも何処まで書けるのか不安になります。

 

 転暇ですが、異世界の生活がまるで思い浮かばず、悩んでいるこの頃。

 またしばらく停滞するのでしょうか?

 この様な状態ですが、楽しんでくだされば幸いです。


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― 新着の感想 ―
[一言] そろそろ「ごぶりん」と共に此方にも目を向けて欲しいですねー…。一部はオッサンの方でもネタで使われてるけど
[一言] おもろい
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