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 何か急に忙しくなりました ~取り敢えず受付の応対を教えてみたのですが こんな物でいいんですかね?~

 フィオが【ヴェイグ・シザー改】でクマのような外見の魔獣に斬りかかる。

 刃が深く刺さり、そこから抉るように傷口を開いて行く。

 痛みから自分の死角から攻撃されたと知った魔獣【アーマーベアー】は、標的を変更してフィオに向かって鋭い爪を振り下ろそうとした。

 だがそれは致命的な隙を生む事に為る。


 標的変更し視線をフィオに移した時にはマイアが既に走り出し、アーブガフの牙より作られた剣【暗剣アーブファング】の魔力を解放して肉薄する。

 この武器の特性は一撃必殺の刺突力にある。

 ガジェットロットは武器に改良されると、その特性によってさまざまな効果を発揮するようになる。

【アーブガフ・ファング】の特性は貫通力を大幅に上げ、更に毒による追加効果を齎すのである。

 狩りに措いて状態異常を与えられる武器は貴重な戦力であり、その有効性は以外にも多くの冒険者が使い熟している事からでも分かるであろう。

 効果が低くとも少しでも有利な状況に持っていけるのであれば、生存率はその分だけ高くなり、果ては依頼を達成させる一端を担うのである。


 ましてや低級とはいえ竜種の毒である。

 中型の魔獣にとっては大きな痛手となるのだ。

 だが、今回はその毒が活躍する事は無かった。

 背後から飛び掛るように繰り出したマイアの剣が、アーマーベアーの後頭部に吸い込まれ、その命を刈り取った。

 一瞬アーマーベアーが痙攣すると、その瞳から光を失い前のめりに倒れた。


「意外にて手間取ったわね…けど、これで依頼は完了」

「後はノームさんに任かせましょう。他に採取もしないといけませんから」

「採取するのは【マドリカ草】、【ムラサキドクダミ】、【シビレカイユの樹皮】」

「ポーションと毒消し…麻痺ケシ…回復丸も出来ますけど?」

「別口で、【マッシブ茸】、【ケミカルフロックの肝】、【ムキムキカズラの根】……」

「ジョブさんからの依頼ですね? プロテインを作るのに必要だとか」

「あの人……錬金術が使えるなら、何で他の人に教えないのよ……」

「プロテインしか作れないからですよ? 他の物を作る気はないみたいですし」

「…何なのよ、あの人………」


 無論、病的なまでに筋肉をこよなく愛する只の変態である。

 フィオ達が受けた依頼は商人からの依頼である素材の入手と、筋肉の伝道師からの依頼によるプロテインの素材の採取であった。

 今まではジョブ自身が採取に出ていたのだが、流石に宿を無人にする訳には行かず急遽フィオ達に依頼をして来たのである。

 更にどう云う訳か他の冒険者の約半数が引退を宣言、現在建築中であるギルド本部内でフロアスタッフとしての訓練を始めていた。

 これはもうじきは本格的にギルドとして始動するために必要な人材が不足しており、やむを得ず冒険者の半分をスタッフとして起用する事にしたのだ。

 当面はこれで何とか乗り切ろうとはしているが、ここ数日で何故か外部からの冒険者が増えてきており、どうもこの村の地下にあるダンジョンの情報が漏れた様であった。


 考えてみればこの村には多くの職人が来ていたのだ。当然、ダンジョンの情報も少なからず外部に漏れる可能性は決してゼロでは無かった。

 既に作業工程が終わり、この村から町に戻った職人達も大勢いるのである。

 その職人達が酒場の席でうっかり洩らしたとしてもおかしくは無い。

 結果、その真偽を確かめるべくこの村に来た冒険者が結構居たりするのだった。

 その為ジョブも宿の仕事に追われ、日課であるプロテインの素材採取に出る事が叶わない程である。

 そこでジョブはフィオやマイアにプロテインの素材採取を頼んでいたのだった。

 宿よりもプロテインの方が大事なジョブであった……


「何か……凄く間違っている気がするんだけど……」

「ジョブさんですから、それよりも見た事の無いキノコですよ?」

「一目で判ると言ってたけど……」

「この辺りにも生えているとか言ってましたよ? どんな茸なんでしょう?」


 何気に古木や草叢、木々の根元を覗いてみる。

 其処でマイアは異様なモノを発見する。


「・・・・・・・・」

「どうしたんですか? マイアさん」

「たぶん、マッシブ茸てこれだと思う……」

「…変な形の茸ですねぇ~」

「確かに判り易いけど……これって……」


 その茸は見た目以外は普通に茸であった。

 問題はその茸が湿り気で浅黒く輝く、やけに筋肉を強調するようなポーズをした茸であった事である。

 見た目で判り易いが、マイアがゲンナリするのも良く分かるだろう。

 実にジョブが求めるにふさわしい程にマッスルな茸なのだ。

 流石にマイアは帰りたくなって来た……まぁ、無理もないが……


「それでは採取しますね♡」

「ブレないわね、フィオ……」


 時折フィオの天然が羨ましく思えるマイアであった。

  

「……これは口を出せる隙が無いわね…親の沽券にかかわる問題だわ……」

「三年も手紙すら寄越さず、娘を放置していた親が何を言うのじゃ?」

「ウグッ!? ヴェルさんはキツイ……」

「寧ろ、ヤサグレずに健やかに育っている方が不思議なくらいじゃ。いまさら親の威厳を取り戻そうと云うのはムシが良過ぎると思うのじゃが?」

「はうっ!? 其処まで言う? 言っちゃうのぉっ!?」

「やろうと思えば、年に何度かは帰って来れたのではないか? ここはフィオを褒めるべきじゃと思うのじゃ。

 二親がおらずとも三年もの間、一人で生活をしておったのじゃからな。威厳を取り戻す前に、親としての責務を果たすべきなのじゃ」

「…申し訳ありません……」

「謝るのは我にでは無く、フィオであろう? 自分が間違っておると反省しているのなら、我が子にも頭を下げるのが親としての義務であろうに…」

「返す言葉もございません……」 


 ルーチェ撃沈……深く静かに絶賛水没中。

 そんな二人を見て、セラは何か信じられないような物を見た様な驚愕の表情を浮かべていた。

 そして左右に首を振り、震えながら少しづつ後ろへと下がって行く。


「な、なんじゃ? 何をそんなに驚いておるのじゃ?」

「…ヴェルさんが……あのチチスキーさんが……まともな事を言っているっ!?」

「失礼なのじゃぁ!!」

「乳を見たら飛びつかずにはいられない、あのチチスキーさんが……一体、何を拾って食べたのさっ!?」

「お主は我をそんな目で見ておったのかっ!? 失礼じゃろっ!!」

「三度の飯よりも乳好きで、一日の大半を乳をパフる事だけを妄想していたあのチチスキーさんが……

 嘘だ、僕は信じない……こんなんの………こんなの僕の知ってるチチスキーさんじゃないっ!!」

「何で、変わり果てた幼馴染を説得しようとして傷ついた、乙女のようなセリフ回しで言うのじゃっ!?」

「こんなのおかしいですよっ、チチスキーさんっ!!」

「Vガン風にいうなぁ!! それほどかっ、そんなに我が真面な事を言うのがおかしいかっ!!」

「貴女は、風呂場で僕の胸をパフった人だっ!!」

「まだ言うかっ!! 其れは肯定か? 肯定なのじゃなっ!! 我は其処まで落ちぶれてはおらぬっ!!」

「どの口でそんな事が言えるのさっ、女湯で胸を狙っていた乳ハンターがっ!!」

「逆ギレっ!?」


 セラにとって聖魔竜の通り名は最早過去の栄光になり下がっていた。

 今では只の変態であり、乳を求めて彷徨うチチスキーさんなのである。

 たった一つの過ちが、威厳や栄光を捨てる事に為る良い例であろう。

 そして失った物は取り戻す事は出来ないのである。

 哀れ嘗ての聖魔竜は、最早変態チチスキーーさんになり下がったのだった。


「気をつけてぇ~チチスキーがWatching・You~~背中から君をつけねらぁ~~てる~♪ 振り向いたらぁ~カウンター~~♪」

「歌に乗せて何を伝えようとしてるのじゃぁ!!」

「狙われた乳を~ただパフられるよりも~~カウンター狙ってぇ~迎撃する方が良い~~♪ 

 倒れるまで、殴るくらい、熱く怒り込めたいからぁ~~~♪」

「其処までっ!? 我は其処まで害虫扱いなのかっ!?」

「バーニング・ハート~バーニング・ハート~~~胸だけは~~~♪ タッチ前に~~速攻滅~~~揉ませないぃ~~~~♪

 熱く~燃える~この拳ぃ~~♪ 君にぃ~向けてぇ~~DEAD ENDのぉ~~~ファッキン・ユゥ~~~~♪」

「謝れぇ―――――っ!! ド〇グナーのスタッフに謝れっ!! これは色々と不味いのじゃぁ!!」

「チチスキーさんが胸を狙わなければいいだけの話だよ? でないとコレは終わりの無いワルツになるし」

「我の所為だと言いたいのかっ、セラはっ!! 替え歌はそろそろ不味い所に来ているのじゃ!!」

「自重しようよ……チチスキーさん………チチスキーさんのしてる事は犯罪ですよ?」

「その憐れむような微笑みがムカつくのじゃぁ!! 見ておれ、いつか必ず悶絶させてやるのじゃ!!」

「その前に始末をつけるべきだと? 僕は何時でも良いよ? 何なら今からでも……」

「墓穴を掘ったっ!? 待て、今のは無しじゃ!! なぜ既にスコップを………」

「口は禍の元と云う事も知ろうね、チチスキーさん♡」

「スコップは……スコップは人を殴る為の物ではなぁ――――――――――――――いっ!!」


 ―――――ボグッ!!


 結局埋められるヴェルさん。

 既にこれは予定調和に組み込まれてしまったのかも知れない。

 セラはヴェルさんを首だけ出して袋に詰め、その場で地面を掘り始める。


「墓穴を掘るのは僕なんだけどなぁ~そろそろ諦めてくれてもいいのに……」

「姉さん……何もわざわざスコップで穴を掘らなくても、【ピット・フォール】で穴を掘ればいいのでは?」

「……おおっ!? その手が在った。なんで今まで思いつかなかったんだろ?」


 地系魔術【ピット・フォール】

 落とし穴を仕掛けるのに重宝する魔術で、大半の冒険者なら使える比較的安価な魔術でもある。

 これが使えない冒険者はせいぜい駆け出しぐらいとも言われているほど重要視され、使い熟せれば色々と狩りには有利に働くのである。

 しかし、同時に犯罪紛いの事にも頻繁に行使され、盗賊に身を落とした冒険者が良く使う手段でもあるのだ。


 国内では人に魔術を行使する事は大罪とされているが、辺境ではこの法律は比較的緩かったりする。

 身を守る為にはいかなる手段を用いて仕方が無いと、ある程度の暗黙の了解が出来ているのだ。

 魔術を用いた犯罪が横行し、魔術で応戦するという悪循環がすでに出来上がっている故に法律自体は厳しくなってはいるが、結局は個人の良識の範囲内で判断が委ねられているだけに頭の痛い問題である。

 因みにセラのしている事も間違いなく過剰防衛の範疇に入り、当然犯罪扱いには為るがそれを咎める者等この辺境には居ないのである。

 ハッキリ言えば無法地帯なのであった。


「何で今回は頭を出して袋詰めなんですか?」

「ん~~? 鳥寄せの【ぺクロの種】があるから、ヴェルさんの頭にかけておこうかと……」

「・・・・・・・・」


 埋められて身動きできない所に、餌を求めて呼び寄せられた鳥に啄まれる。

 地味に嫌な拷問である。

 最近のセラはヴェルさんに対して情け容赦が完全に無くなっていた。

 呆れ果てているマイアの横で、セラは鼻歌を歌いながら種をまいていた。

 程無くして小鳥たちが集まりだし、やがてヴェルさんを突き始める。


「いたっ!? いたたたた……地味に痛いのじゃ!? にょおぉっ!?」

「あっ……もうリカバリーした……ついでに生肉でも置いておこうかなぁ…」

「にょぉおっ!? 何と言う地味に嫌な攻撃をっ!? お主、性格が悪くなっていないかっ!?」

「地球じゃ、本気でツッコミ入れたら死人が出るから…その点、チチスキーさんは頑丈でツッコミ甲斐が在るよ?

 手加減する必要性をまるで感じ無いし、遠慮なく殺れるっ!!」

「我の存在がセラの行動をエスカレートさせてるっ!? これは盲点じゃったっ!!」


 結局の所セラはヴェルさんにボケて欲しいのか、大人しくして欲しいのか判断に迷うところである。

 ただ解る事は、ヴェルさんに対して遠慮する必要が無くなったという事だろう。

 ヴェルさんが鳥達に襲われている所をマイアは呆れ顔で見ていた。


「フィオ……あの子に師事して本当に良いの? 物凄く容赦ないわよ……?」

「大丈夫ですよ、あんな事をするのはヴェルさんにだけですから!」

「………そう…(不味い……フィオはもう…手遅れかもしれない)」


 目の前の地味に嫌な嫌がらせを楽しそうに見ているフィオに、ルーチェは一抹の不安を隠せないでいた。

 三年もの間家を空けていた事が取り返しの付かない事に為ってしまった事を、今更ながらに痛感したのである。


「にょおぉ―――――――――――――――――――――――――っ!!」


 母親の悩みを他所に、ヴェルさんの絶叫は森に木魂したのだった。



  


 ロカスの村では、次第に数が増えてくる冒険者の対応に追われていた。


 其れと云うのもダンジョンの情報が洩れ、一獲千金を狙う冒険者達に徐々に押し寄せられると、準備の整っていないこの村では対応しきれないのだ。

 せめてもの救いは冒険者の数がまだ少なく、対応できる範囲内で収まっている事だろう。

 その為、ボイル達を含むギルドホール・スタッフは急遽ギルドを立ち上げる事を敢行していた。

 とは言えまだ下準備が出来ておらず、現在その準備に追われている。


「この未使用の書類束はこの辺りでいいのか?」

「いいんじゃね? それを使うのは受付とダンジョン入口の受付の二つだけだろ?」

「俺達は書類の整理に追われるのかよ……狩りをしていた方が楽だぜ……」

「言うなよ……まさか、こうも早く客が来るとは思わなかったんだからよぉ~……」

「俺達はまだマシだぜ? 厨房や受付をする女どもは客相手の営業もしなきゃ為んねぇ~」

「だな、厨房じゃ仕込みに追われてるし、受付担当も何をするか分からず手探り状態だ」


 そもそも彼等には客商売をした経験が無い。

 事態が知らない所で急速に進んでしまっていただけで、辛らは自分達のすべきことが分からず右往左往しているのが現状である。

 何もかもが手探り状態であり、少なくともあと三日の内に準備を整えなければならないのだ。


「幾らなんでも早すぎるわよ、もう少し時間が欲しかったわ……」

「どこの職人だよ、情報を流しやがったのは……」

「ところで、ギルド職員用の制服は出来ているの?」

「まだよ……今、急ピッチで作ってる最中」

「食堂の食材は足りるのか?」

「暫くは……しかし、間に合うのかよ……」

「難しいな……」


 このギルドは建物の中央に迷宮への入り口が在り、それを囲う様な構造でたてれている。

 南側正面は食堂兼ギルドの受け付け、並びに二大商会による戦利品の買い付けをするようになっており、東側側面は厨房、西側側面が倉庫並びにスタッフルーム、北側がこの村の冒険者が集うギルドルームとなっていた。

 更に建物自体は三階建てであり、ギルド・スタッフが寝泊まりする為の宿泊施設となっていた。

 問題はスタッフの数と仕事内容で、彼等は行き成りこの職場に廻された為、どの様な仕事をすればいいのかが分からないのだ。


「こんな仕事、した事無いからなぁ~……」

「ねぇ、先生なら何か分からないかしら?」

「先生か……冒険者だろ? フロア・スタッフの仕事なんて分かるのか?」

「僕がどうしましたか?」

「「「「「先生っ!? いつの間に……」」」」」

「いま帰って来て、様子を見に来たんですけど……何やらお困りの様ですね?」

「「「「「先生っ!!良い所に…助けてくださいっ!!」」」」」

「おおぅ!?」


 仕事のイロハも分からない駆け出しスタッフに詰め寄られ、セラは驚いて飛びのいてしまった。

 その後、話を聞いてみて彼等の問題に頭を抱えたくなって来た。


「つまり…自分達がどんな仕事をすれば良いのかが分からないんですね?」

「そうなんだよ……俺達は書類整理とか言われてもなぁ~……」

「受付ってどうするのよ……何をすればいいのかが分からないんだけど……」

「なるほど…ならば予行練習をしましょう」

「「「「「「予行練習!?」」」」」」


 この村の人達はギルド・スタッフとしてどのような仕事をしていいのかが分からないのだ。

 ならば、スタッフの何名かを実際に訓練して基準とし、後の者達がそれに倣う方向で訓練をすればいいだけの話である。


「受付が最初の肝ですね。先ずは僕がやってみますから、誰か冒険者の役をしてください」

「んじゃ、俺達が……パーティーも想定した方が良いのか?」

「そうですね、数人で来る客が多いでしょうから」

「実際の受け応えを学ぶのか……確かに有効な手段ではあるな……」

「では始めましょう。先ずは僕が受付をしますね?」


 そう言いながら受け付けのカウンター席に座るセラ。

 更にカウンターの上に紙の束と、筆記用の羽ペンとインクを用意した。


「それでは受付の訓練を始めます。冒険者の方こちらへどうぞ」

「・・・・・・・・・」

「いらっしゃいませ、このギルドのご利用は初めてですか?」

「あ? あぁ……」

「では、先ず此方の紙に名前、所属して居る街のギルド名、並びにランクをお書きください」

「書かなくちゃいけないのか? 面倒なんだが……」

「規則ですから、中には犯罪者紛いの冒険者が居られますので、その特定の為にも必要となっています。

 書き終わりましたら確認の為にギルドカードも拝見させて貰います。

 仮にこの手続きを拒否した場合、当方のギルドの依頼、並びに迷宮のご利用は出来なくなります。

 これは規則として定められておりますので、ご了承ください」

「「「「「お~~~~~~~~~っ」」」」」」


 感心する職員スタッフ担当達。


「これでいいのか?」

「では確認させていただきます。ランクはD、受けられる依頼は四番ボードに張られた依頼書になります。

 依頼を受ける場合にもこちらに依頼書を持って来て下さい。

 先に依頼手数料を頂きますが、これは依頼が失敗した時に依頼主である村や街への違約金として贈られる事に為ります。

 手数料金が支払われたのを確認したら認印が推される事に為り、そこから依頼開始となります。

 では頑張ってくださいね。次の方どうぞ」

「「「「「「おぉ~~~~~~~~~~~っ」」」」」」


 鮮やかな手際である。

 しかも天使のような笑みで送り出されたとなれば、受付で登録を済ませた冒険者も悪い気はしないであろう。

 

「待って、ダンジョンを利用する客の場合には如何するのよ?」

「簡単ですよ? 何なら試しにやってみますか?」

「お願い、どうも要領が分からないから……」

「では、すみません、もう一度今度は迷宮の利用者役をお願いします」

「わかった。やってみる」


 再び受付の前に立つ青年。


「いらっしゃいませ、ご依頼はお決まりになられましたか?」

「迷宮を利用したいのだが、どうすればいいんだ?」

「先ずは此処の受付で誓約書を書く事に為ります」

「誓約書? 何の為に?」

「万が一迷宮内で命を落としたとしても、当方に其の苦情を持ち込ませないために在ります。

 迷宮に入る以上は危険を承知で挑戦いたしますので、御自分の命は自己責任と云う事に為ります。

 仮に迷宮で命を落とされましても当方は遺体の回収、並びに遺留品を遺族に返還する様な事は一切致しません。

 非常に申し訳ないのですが、其処はご了承くださいますよう、お願いいたしております」

「か、書かなきゃ駄目なのか?」

「申し訳ありませんが、その場合は迷宮のご利用は不可能と云う事に為ります」

「そ、そうか………これで良いのか?」

「では、今お書きになった誓約書と、迷宮のご利用金一人1ゴルタを迷宮入り口の受付でお渡しになってください。

 迷宮から出たら再び1ゴルタを支払わなければ為りませんが、これは当方のギルド及びご利用になられる冒険者の方々のサービスを提供するために使われる事に為りますので、ご了承ください。

 では次の方どうぞ……とまぁ、こんなかんじかな?」

「「「「「おぉ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ‼‼‼‼」」」」」


 何故か拍手されて、少し照れてしまう。


「こんな感じでお願いします。書かれた書類を纏めて記載するのが男性スタッフの役割になりますね」

「絡んでくる冒険者はどうするんだ? 中にはタチの悪い奴等も居るだろ?」

「その時には黒服さん達の出番になりますね。問答無用で力づく……」

「あぁ~なるほど! だからボイルさんはガタイの良い男達を集めているのね?」

「そう云う事に為りますね。では皆さんもやってみてください、食堂のウェイトレスの方は分かりますか?」

「そっちは何とか…幸い奴隷達の中に食堂経営者がいたから色々と教えて貰っているわ」

「ん~~…なら問題は無いかな? 迷宮内で見つけたアイテムの売買は商人さん達に丸投げでいいでしょうし……」


 こうしてギルド運営の準備は少しづつではあるが、着々と進んで行った。

 セラのやった受け付けの訓練は後にマニュアル化し、今後のギルド運営に大きく関わって行く事に為る。

 しかし、それはもう少し後の話であり、今の彼等は何とか応対を巧く熟そうと真剣に練習を繰り返していた。

 多少ギルドを本格的に運営する為の動きが早まったが、誤差は修正の範囲内で収まっている。

 後は三日後に向けて準備を万全に整えるだけであった。

 

「なかなかに忙しくなってきましたねぇ~さて、どうなる事やら……」


 多少の懸念は残されているが、取り敢えずは予定通りに進んでいる。

 後は実際に運営してみるしかないのである。


 賽は既に投げられているのだから……

 


 

 


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