歴史
「ざっくりと歴史を振り返るわよ」
夏木さんがノートPCをハッキングして分かったことを説明しだした。
中国のトップだった習金平が共産党の慣例による定年を嫌ってその地位にしがみついたことに始まったようだ。目をそらすために対外政策を強化させた。前々から支援していた沖縄の独立運動を促進させ、日本からの独立し、琉球国として自立。
米軍基地は日本からの支援金が無くなったために維持できなく撤退。
琉球国の国防は中国が支援を表明した。日本や米国等の西側諸国は経済封鎖を行ったため主だった産業が無かった琉球国は中国に援助を求め経済的軍事的傘下に収まった。
それを足がかりに台湾侵攻。台湾内の中国の息がかかった団体が手引をしてあっという間に台湾が落ちる。韓国は元より経済的属国になっていた。
次に習金平が日本に侵攻を開始。ロシアに横腹を突かれたくない中国は共同戦線を張り、日本を北から侵攻させた。北海道はロシアの領土に、関西以西は東海省として中国領土に組み込まれた。
そこまでが、習金平の絶頂だった。
その後、中国国内ではクーデターが煽り、バラバラに。更に、中国軍の日本侵攻に合わせて現れた化物が中国国内や日本全土に猛威を振るった。
国体を維持できなくなった中国は各軍閥毎に自立。
日本は東日本で辛うじて息をしている状態になったそうだ。
「その化物って巨大ミミズのことかな」
「そう。あれはヒモムシの突然変異よ。MHIGD社の生体科学研究所で開発されたものね。私達がいた時代に開発されたの。それを利用されたようね」
「MHIGD社の機密が中国に漏れたのか?」
俺達がこの世界に飛ばされた直後、俺達が勤めてた会社MHIGD社が研究していたTAHSやその他の研究が漏れたらしい。そして、それを中国が量産化したと。
「なんで機密が漏れたのかな? もしかして夏木さんが漏らしたんじゃないの?」
俺は疑いの目を向けた。
あの夜、TAHSを載せていたトレーラーについていたアンテナが不自然に動いていたのを思い出す。
「……なんで私が漏らしたって思ったの?」
「だって、夏木さんは中国のスパイなんでしょ?」
「ふふっ」
夏木さんは微笑んでいるが目は笑っていない。
「さて、本題です。菱木くんは帰りたいの?」
「そりゃ帰りたいさ」
「じゃあ、貴方は彼処にいた中国人に降る? それとも日本国に向かう?」
問の意味を考えるが良く分からん。
でも、心情的には中国より日本だろ。
その反応を読み取った夏木さんは悩ましい顔をした。
「今の日本はかなり苦しいみたいよ? 食料は安定しないし、それに【ソレ】を手に入れるまでかなり遠回りになるし」
「【ソレ】ってのは?」
「私達がお家に帰るためのテクノロジーだと思って。私達が飛ばされた瞬間を目撃した中国人技術者が70年前にいたのよ。その研究成果が大阪にあるみたいね。そこまで日本軍と一緒に進軍、接収しないと」
それはかなりハードル高そうだな。そもそもこの世界に俺達の戸籍がなさそうだし。俺達が日本軍に入隊して……って考えると、確かに遠回りしそうだ。
そうすると中国人に擦り寄るか。それでも機密に近づけないだろう。
いや、夏木さんの肩書が通用すればいけるのか?
「夏木さんはどうすれば良いと思う?」
「私は中国に帰属して生きていけると思うわよ? 私だけだったら」
嫌な予感がする。
こいつは俺が足手まといだと思ったらすぐに切り捨てそう。予感じゃないな。確実にそうするだろう。
「夏木さんと一緒にその研究施設に潜入するってのはどうかな?」
夏木さんは俺の提案を聞くと考え始めた。チラチラとこっちを見ながら何かを計算するように手であごを撫でる。
ジロッと擬音語が飛び出そうに俺の方を向く。
「良いかもね。でも、ここから600kmちょっと。歩いて行くには長旅よね」
「TAHSは保つのかな」
「……東京は生きてるらしいわ。潜入して中国軍の配備状況を調べましょう。その前に機体と身体のメンテナンスをしないとね」
「身体のメンテナンスって……」
「美味しいもの食べたり。あっ、貴方がするのよ? 私、料理下手だし」
……期待はしてませんよ




