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集団

 目の前を集団が通り過ぎる。

 着ているものは迷彩服で手にはちょっとゴツいライフルらしき銃を構えている。

 だらだらとくっちゃべりながら歩いている。喋ってる言葉は聞こえるのだが理解できない。


 俺達は光学迷彩を施し、草むらに隠れている。


「夏木さん。あいつら何語を喋ってるのか分かる?」

「……中国語ね。手に持ってる銃は05式戦略ライフルみたい」

「中国!? 俺達中国大陸に飛ばされたってこと?」


 思わず大声を出して振り向いてしまう。この状況で見つかっても良いことなさそうだ。


「それは分らないわ。 ライフルも中国陸軍の銃だし。 ただ色々相違点もあるわね」

「……どうしようか。ここは日本だって信じて疑ってなかったからどうしていいか分からん」


 集団は俺達に気付かずに離れていく。どこへ向かうのか。


「……じゃあ付いて行けば? レーダーに映るぎりぎりを追えば気付かれにくいと思うわよ」

「それいいね。では」


 十分離れて俺達は移動を始めた。

 光学迷彩は切ってある。動いていたら意味ないようだし、何よりバッテリーの消費が激しいみたいだ。

 慎重に歩いて行くがこちらに気付いた様子はない。


「夏木さんは中国語分かるの?」

「……そうね。数カ国語喋れるし」

「すげー。 じゃああいつらは何喋ってたか分かった?」

「……にほ……ううん。良く聴こえなかったわ」


 なんだろう。夏木さんの口が重い感じがする。


「どうした? 何か心配事でも?」

「別に」

「まあ、喋るのはお任せしますよ」


 俺は元気づけるように明るく言う。

 日本人じゃなくて気落ちしたのかな?


 1時間も追跡しながら歩いていると人の反応が増えてきた。


「集落かな? 人がいっぱいいる」


 周囲にはいつの間にか木々が減り、平野が広がっている。このままだと見つかってしまうかもしれない。

 少し小高い丘があり、そこで様子を確認することにした。


「……村かな。畑もあるし」


 川が流れている傍に木柵で囲われた集落が見える。その周りには畑が広がっている。

 集落には人々が生活を営んでいる様子があり、子どもたちが走り回っている。家も30棟ほどある。

 村の出入り口らしき門には高い塔が立っていて歩哨がいる。


「うーん。埒が明かないから俺がこんにちはって行ってみるか。TAHS脱いで」

「行くなら私が行くわ。貴方言葉しゃべれないでしょ?」

「でも女性を一人で行かせるのはな。何かあったら遅いし」

「あら。私を女扱いしてくれてたの? それはそれは」


 夏木さんはからかうように言ってくる。

 かなりウザい。


「男だったらとっくにぶん殴ってるよ。とにかく行ってくるよ」

「待って。私が行くわ」

「でも……」

「良いから。貴方はここで見張ってて。TAHSは脱いでいくわ」


 ここから門までは約1.5km。何かあった場合すぐに近づけない。


「TAHSはもう少し村の近くで脱いだほうが良くないか? 万一の場合でも着て逃げられるし。腰もまだ少し痛いんだろ?」

「……そうね。じゃああそこの岩場の近くで。逃走経路は貴方が確保しておいてね」

「分かった。端末は持ってけよ? それで呼び出してくれれば殴りこみに行くから」


 夏木さんは頷くと村の近くの岩場まで歩いて行った。


 ――俺は色々準備しておきますか


 対物ライフルのバレットM109とブローニングM2重機関銃に三脚架を取り付け並べて置き、いつでも撃てるようにしておく。安全装置を外しセミオートにしておく。

 TAHSの使い方もいまいち分らないことも多いが音声ナビでだいたい解決する。「狙撃、狙撃」と呟いていると「スナイパーモードに切り替えますか?」と聞いてくる。


 ――でも、実際に撃つ段階になったら俺は引き金を引く事ができるのかな?


 門を望遠モードで見張っていると夏木さんが丸腰で近づいていくのが見えた。


「あの人……何考えてるんだ?」


 タイトスカートのスーツ姿で歩いている。いくら服が無いからってそんな無防備、且つ場所にそぐわない格好なのはいただけないだろう。無駄に警戒や扇情しても良いことないと思うが。


 当然ながら門に近付くと迷彩服を着た門番らしき兵士? に停められる。銃を突きつけられて何か応答している。

 夏木さんが何かを取り出して見せると雰囲気が変わった。


「……何を見せたんだ?」


 望遠の倍率を変えても小さすぎて分からないが名刺サイズのような何かを提示しているようだ。


「この期に及んで名刺交換なわけねえよな?」


 何やら偉そうな人が出てきて夏木さんと話し合っている。

 夏木さんは話がついたのか銃を下ろされ偉そうな人と一緒に建物に入っていった。


「どういうことだ?」


 わからない。

 あの村の兵士とコミュニケーションがとれて保護してもらえることになったのだろうか。危険はないのだろうか。

 夏木さんからは何も連絡はない。俺から呼び出しても返信はない。


 それから日が暮れても夏木さんは建物から出てこなかった。


 辺りは暗くなり、鳥が不気味に鳴いている。闇を縫うように村に近づいていく。銃火器や荷物は二号機の傍に置いておいた。いま持っているのはMK17の一丁とM9銃剣だけだ。

 TAHSを着ているとガサガサ音がして動きづらい。ただ、脱ぐにしても生身で銃を持ってる人間の前に立ちたくない。


 気付いたことがある。

 電気を使っている形跡がない。見張り台の灯りは焚き火だし、家々から溢れる光もロウソクかランタンのようなものを使っている。

 水煙があがっているのが家の周囲にプロパンボンベもないし粗末な建物からは水道管もガス管も通ってないように見える。


 ――限界集落でもない感じを受けるが中国辺境だとこんなもんなのかな?


 中国だと決まってるわけでもないが。分かっている事柄を組み立てていくしかない。

 畑をなるべく荒らさないように木柵に近づいていく。見張りもこちらには気づいていない。

 やる気もなさそうだ。椅子に座ってボケっとしているように見える。


 胸の高さの木柵をジャンプで乗り越える。

 ガシャンと音が響く。受け身を取るように転がりながら建物の影に隠れる。

 見張りの様子を見ると、音が鳴ったところを注視しているようだが、異常を発見した挙動ではない様子だ。


 外を出歩いている人は見られない。

 音を立てないように家の影を縫って、夏木さんがいると思われる建物に近づく。


 手を建物壁面につける。集音モードにすると壁面振動を拾い、建物内部で話をしている音が拾える。ただ、ノイズは酷くて声がそれほど聴こえない。


 家の中を歩いている音や椅子や机を引いている音に混じり夏木さんの声が聴こえてきた。

 中国語で喋っている。内容までは分からないが切羽詰まった状況では無いみたいだ。


 足音が近づいてくる。3人。家の中ではなく屋外にいる。

 歩いている音なので俺が気付かれた訳ではないと思う。巡回してるのか?

 夏木さんのことが気になる。気になるが今のところ酷い扱いをされてる様子はない。

 このままだと見つかってしまう恐れもあるので、離れることにした。

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