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墜落

 ――眠い


 夜は、一人で番をしてたことと、更に悶々として目が冴えてしまい、中途半端に仮眠したおかげで頭がボーとしている。


 ――腰が痛いからしかたがない。しかたがないが……


 大人の作法としてベロチューと乳揉みしたらそりゃ最後まで面倒見ないとイカンだろ。何事も中途半端はイカンよね。

 ジッと手を見る。しかしデカかった。歴代一位を獲得したね。手に余ってたし。


 日が昇る。

 夏木さんの腰次第だがここに居られるのも今日一日だけだ。水が保たない。洗濯や水浴びもしたいが飲水が無くなってしまうのは怖い。


 あと、食料か。米が食いたい。米米米……

 丼もの食いたい。親子丼とかカツ丼とか。チャーハンも捨てがたいな。

 ラーメンでも良いな。そう言えばたしかバックパックに賞味期限切れの棒ラーメンを入れた記憶があるな。◯タイの棒ラーメン。アウトドアでのインスタントラーメンの決定版。省スペースを追求したあのフォルム。味もなかなか良い。特に外で食べるインスタントラーメンは旨い。中毒性があるよね。


 夜中には口寂しさに桑の実をちょこちょこ食べてたがもうほとんどない。また、採取しにいくか。イモムシもついでに。

 そろそろ肉も食いたい。鳥や豚や牛が食いたい。駄目でも鹿が食いたい。この辺に姿を見せないんだよね。水が湧いてないからか。

 でも、獣道があるから何らかの獲物はいそうなんだけど…… TAHSに反応がないからな。


 ぼけっと考え事していると、ツェルトからゴソゴソと音がしてきた。

 にょきっと夏木さんの頭が出てきた。腰はまだ痛いのか?

 夏木さんはブラウスとタイトスカートにスニーカーといった格好で出てきた。このアウトドアな環境とはマッチしないがしようがないね。

 夏木さんはちょっと寝ぐせがかった髪を撫で付けている。


「おはよう」

「うん、おはよう。腰の調子はどう?」

「大分いい感じ。動けるようにはなったし イッッッ」


 夏木さんは腰を押さえながしゃがむ。

 動けるってことは骨は大丈夫なんだろう。

 俺がジーと夏木さんの動きを見てると視線を感じたのか顔をこちらに向けた。


「何考えてたの? どうせやらしいこと考えてたんでしょ」

「アホか。違うよ。腰は大丈夫かなって」

「ふーん。どうだか。お腹減っちゃたな」


 俺はほとんど無くなった桑の実が入った袋を手渡す。


「腹減ったよね。夜に色々考えてたんだけど夏木さんは何食べたい?」

「そうね…… 銀座にあるお寿司屋さんとか麻布のフランス料理出すところとか……」

「なにそれ?」

「三ツ星レストランだけど…… 知らないの?」


 そんなもん知らん。この女と付き合うやつは金が掛かりそうだな……


「まあ、そんなこと考えてもしかたないか。動けそうだったら昼前に動こう。水もつきそうだし。ドローン飛ばして近くの川を探して欲しい」


 夏木さんは空を見上げると難しそうな顔をする。


「ココだと木が邪魔して飛ばしにくいわね……」

「じゃあ俺が操作するから」


 夏木さんは技術者のクセに操作は苦手なようだ。しょっちゅう操作でつまらないミスを連発している。

 俺は一号機の肩にドローン格納庫(ハンガー)をセットすると端末をいじる。回転翼が組み立てられて飛び立つ。頭上の枝葉に当たらないようにコントロールすると上空に飛び立っていった。


「……」


 夏木さんが何か言いたそうに俺を見つめている。俺は視線を感じて横目でちらっと見るが端末から目を離せない。


「何だよ?」

「いーえ、別に。ちょっと納得が行かないだけ」

「納得?」

「製作者の私より操縦が上手いのは癪に障るかなって」


 進路方向に川がないかドローンのカメラで確認していく。上空からだと判り難いが木々が木々が線状に途切れていれば当たりがつけられる。

 夏木さんは足を崩している。腰が痛いのかいつもよりだらしがない格好だ。タイトスカートが少しめくれ上がっている。


「言いがかりだな。あとパンツ見えてるぞ」

「変態、見ないでよ!」


 足をピタッと閉じる。


 ドローンは山間部を抜けて平原にでた。平原に何か違和感を感じる。人工物らしきものがチラッと見えた。


「何かあるな。遺構があるのかな……」


 ドローンを旋回させようとした時にモニターに衝撃が走り画像が乱れる。


「あれっ? おかしいぞ」

「どうしたのよ」


 夏木さんが俺の端末のモニターに顔を寄せてきた。

 ドローンは衝撃が何事も無かったかのように安定している。


「何かに当たったのかな? 高度が突然落ちた」

「ぼけっとして木にでも当てたんじゃないの」

「この高度で木が生えてるわけ無いだろ?」

「じゃあ鳥に当たったのかも」


 ドローンの速度を落とし、高度を下げ気味にする。


「あれ? 真下に何か動いてる……?」


 モニターを凝視するが判別できない。


「何やってるのよ。貸しなさいよ。こんな時には……えっ?」


 顔を寄せあいモニターを見る。ガンガンと衝き上げるような振動をカメラが拾う。


「なになに? これ……人?」


 夏木さんが叫ぶように言うと、ドローンのモニターがブラックアウトしてコントロールが効かなくなった。

 俺と夏木さんは固まったように端末を握りしめる。


「どういうことだ?」


 俺は夏木さんに聞く。


「解らないわ…… 直前の画像をレコーディングされてるから巻き戻して見てみるわ」


 端末を操作しながらコマ送りにして再生していく。

 画像が振れて不鮮明だが、判別出来ないこともない。空や周辺の木々がぐるぐると回りながら映り込んでいる。旋回しながら落下しているような感じだ。


「ここ!」


 夏木さんがコマ送りを止めモニターを指差す。

 そこには銃を構えて狙い撃っている人の姿が何人も確認された。ブレまくっているのでよく見えない。コマ送りしながら確認していく。だが、次の瞬間には画面に砂嵐が走り、ブラックアウトした。


「人がいる?」


 夏木さんが自分に問いかけるように言う。


「夏木さん。これはどういうことだ?」

「知らない! 自分でも少し考えなさいよ」


 人がいる。銃がある。元の世界に戻れたのか?

 いや、少なくともドローンにいきなりバンバン撃たないよな。

 これは一体……

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