火葬
パチバチと焚き火の燃える音がする。もう辺りは真っ暗である。
昼は遺体を燃やすのに時間を費やしてしまった。人間の体は燃えづらく、燃やすのにかなりの燃料を使った。緑の巨大ミミズも一緒に燃やしてしまった。夏木さんは3人の遺体に点火するところを見届けると、その場を離れトレーラーの影でTAHSを着たまま丸まり小さくなっていた。
その夜は何も食べる気がしなかった。死体の焼ける芳ばしい、それでいて吐きそうになる臭いが充満しているのもある。
何よりも先が見えない状況が心をガリガリと削ってくる。それと、あの巨大ミミズが近くにいるかもと思うと足が震えてくる。TAHSを着込んでいる時には、スクリーンを通すことにより現実感は薄れるが、TAHSを脱いでその目で直接見ると背筋がゾワゾワしてくる。生物の根源的な恐怖感を呼び起こされる。
辺りが暗くなり行動が制限されるとどうしても佐古田さんが襲われた場面が思い起こされてしまう。もう少し何かできたんじゃないかと思うと同時に、己の無力感を感じてしまう。
遠くでゴロゴロと雷が鳴る音が聞こえてきた。
俺はようやく動く気になり夏木さんに近づいた。
「……雨降りそうですよ。今日はトレーラーの中で休みませんか?」
「……」
何も答えないので俺だけトレーラーの中で横になった。暫くするとトレーラーを雨が叩く音が聞こえてきた。その音を聞いていると意識が遠くなった。
目が覚めた。
トレーラーの外にでると、日が昇り良い天気になっていた。
俺も単純なもんで一晩寝たらさっぱりした。トレーラーの中とはいえ、天井がある、平らなところだとよく寝れるもんである。
夏木さんはTHASを着たまま体育座りでうつらうつらしていたようだ。
「おはようございます」
俺はTHASの装甲をコンコンとノックするように叩いた。
夏木さんは頭を俺に向けたが何も言わない。当然ヘルメットを被っているので表情も窺えない。
「ちょっと出てきて下さいよ」
何も言わずにそっぽを向いてしまった。
――しゃあないね。もう少し立ち直るには時間がかかるのかな
そう言えば社長や佐古田さん達は何を食っていたのか不思議に思ったが、切り取られたジープの荷台にレーションがあったようだ。2つだけ残っていた。
――社長が俺達のために残してくれてたんだろうか
これは万一の時に残しておくことにする。
ベンツの荷台には俺の着替え、夏木さんの荷物、社長のバッグが入っており、トレーラーの運転席には佐古田さんの手荷物ぐらいしか入っていない。
――食い物は既に無しっと
ペットボトルも全て飲みきっている。
トレーラーにはTAHSのハンガーがあり、制御する機会や交換パーツ、それと銃が置かれていた。
――武器を民間の車で運んで良いのかな?
今更ながらそんなことを考えてしまった。
銃のことは良くわからないが管理一覧を見る。
・FN SCAR-L (MK16) 2丁
・FN SCAR-H (MK17) 2丁
・5.56x45mm NATO弾 720発
・7.62x51mm NATO弾 720発
・ブローニングM2重機関銃 2丁
・12.7x99mm NATO弾 2400発
・M109ペイロード 2丁
・25x59Bmm NATO弾 120発(各種弾丸含)
なにやら物騒な感じを臭わせてる。佐古田さんが振り回していた銃がMK17ってやつかな。
俺としてはもっと口径の小さい猟銃が欲しい。こんなのを鳥に向けて発泡しても良くて肉塊、悪くて鳥の挽肉の出来上がりになってしまう。
トレーラーにはもっとよく分からない備品が多数あるが俺には関係のなさそうなものばかりだ。これらを見ていても腹の足しにはならないから、釣りでもして今日の食料でも調達するか。
トレーラーを離れようとしたときにコンソールに刺さってた端末を見つけた。夏木さんが持っていたTAHSを遠隔操作するときのスマホのような端末だ。
「あのミミズがいると思ったらおちおち散歩も出来ないからな」
端末の画面を見ながら操作していく。こんなのは単純にできていないと極限状態の戦場で小難しく操作なんてできないので、俺にも操作が容易にできた。
TAHSの警戒モードを立ち上げ、周囲の状況を探らせる。不審なものが近づいてきたら警告を鳴らすようにしておく。
釣り道具一式を持って川に降りた。餌は昼に捕れた魚の内臓だ。少し腐りかけのほうが臭いがするのか食いが良い。
川の状態も渓流の趣きを見せている。このロケーションでの釣りでは人の影が見えてしまうと魚が警戒して釣果が落ちてしまうことがある。なので、しゃがみ岩の影に隠れるようにして仕掛けを放り込む。
釣りは良い。
川のせせらぎ、水の流れを見ているだけでも時を忘れられる。仕掛けや竿の細かい反応を楽しんでいるだけで他のことを忘れていられる。
川の流れにのって仕掛けが動いていく。動きが早くなったり渦巻いていたり。
不意に糸がフケたと思ったらクッと引っ張られた
竿をグンと合わせると12cm程度の大きさのイワナが釣れた。
結局それ以外に釣れなく、日が暮れそうな時間になったので竿を収めた。
夏木さんに飯をお誘いしたが身動ぎ一つしないので仕方なく一人で玄米を炊いて食べた。水煙やイワナの焼いている匂いをわざとらしく漂わせてみたが反応は無かった。……TAHSを着ているから当然か。
星空を見上げながらこれからのことを考えたが何も浮かばない。俺達以外に誰もいないのかも、との考えげ頭をよぎると、どうしようもなく絶望感に苛まれる。
ひとつ言えることは、ここにいても何も始まらないってことだ。明日には夏木さんとちゃんと話をするしかない。
――今日はもう寝ることにしよう
※M109ペイロード
25x59Bmm NATO弾を使用する大口径対物ライフル。形状はM82に似ているが銃身が短く、初速は425m/s[5]と大きく低下しているが、装薬量の関係で有効射程はM82とほぼ同等の2,000mで、口径が拡大されたことで運用できる弾頭が増え、通常弾の他に徹甲弾、徹甲焼夷弾、多目的榴弾、徹甲榴弾、成形炸薬弾、開発中のBORS信管を用いた空中炸裂弾などが使用可能になる。
全長:1,169.4mm 重量:15.10kg 装弾数:5発 (wikipediaより)
重装弾狙撃の対物ライフル。M82ベースだが使用する25mm弾は「主力戦車以外なら大体潰せる」というキチガイ染みた攻撃力を誇る。
元々対戦車ライフルの弾丸を用いるため建物の壁をぶち抜くという荒業も可能。(アンサイクロペディアより)
※イワナ(岩魚)
イワナに限らず川魚にはハリガネ虫やジストマなどの寄生虫がわんさか集ってます。必ず加熱して食べてください。ちなみに好みにもよるのでしょうがイワナよりヤマメの方が美味しいと感じます。




