60 地下通路②
ぽすん。
うわっ!
一人だけの登場って初めてじゃない?!
「お前。昨夜私と話をした小人?」
「……私は私です」
哲学みたいな返事をしやがる!
ん? てことは、やっぱり人格は一つってこと?
ちぇっ。こいつだけかぁ。
「お黙り。それよりも、地下通路の入り口の開け閉めはどうやってやるの?」
「それはこちらがお聞きしたいです。とりあえず周囲に同化するようカムフラージュするところまでは終わっています」
おっ、おまっ、お前ぇぇ‼︎
昨夜のうちに質問しとけよな‼︎
「不明な点はすぐに聞きなさいよ」
「わざわざ開閉する必要があるのかどうか分からなかったので」
へ?
私のイメージを見たら分かるでしょう!
くぅぅ。
「必要あるの! そうね。この際だから、ちゃんとしたものにするわ。通路の出入り口は、ええと――あれ、ハンズフリーキー! 小さなクッキーくらいのものを持っていれば自動的に開くようにして。大丈夫だとは思うけれど、開閉部分に人が立っている時は開かないように安全対策をしてよ?」
「……」
「は? 返事は? 理解した? 正確に理解した? できるよね?」
「理解しました。できます」
そっけな。
ま、いいけど。
「あ! キーは三つ作ってね。それから、あっちのゲルツ伯爵領の方だけど。地上に出る際は、周囲に人がいないことを確認してから出る必要があるから、マンションのエントランスの監視カメラみたいなものを、超小型で地上に作ってちょうだい。もちろん地下でその映像を確認できるモニターもね。あっ、そうそう。あっちのゲルツ伯爵領の方は、出口付近に管理人室みたいな部屋を作ってちょうだい。物資やスクーターなんかを保管できるようにね」
「はい」
「今言ったこと、すぐにできる? ハンズフリーキー作成」
「はい」
「そ。じゃあクッキー型のキーは出来次第、私のスカートのポケットに入れてちょうだい」
「はい」
「ねえ。もう目を瞑らなくても仕事できる?」
「今ならおそらく」
おぉぉっ! それは便利。
前はできなかったけれど、今はできるようになったってこと?
「ねえ、確認だけど。オーダーするために呼び出す時も目を閉じなくてよかったりしない?」
「……?」
もしかして首を傾げている?
女神案件なんだね。
「とりあえず、今度からは脳内のイメージにプラスして会話で伝えるから」
「はい」
うーん。小人の表情が変わらないから、会話していてもちゃんとキャッチボールできた気がしない。
「じゃ、急ぐから早速取り掛かってちょうだい」
「はい」
よっし。
じゃあ、キーが出来次第、出発だ。
◇◇◇ ◇◇◇
元の場所に戻ると、アルフレッドがソワソワしていた。
「いよいよなんですね?」
「ええ。鍵はあなたにも一つ渡しておくわ。鍵を持っていると自動で開閉するんだけど、ちゃんと開閉部に人がいないか確認することを忘れないでね」
「はい」
「じゃあバスで――あ」
スクーターで来ちゃったからバスは領主館に置いたままだ。
「アルフレッド。領主館まで戻るわよ。」
「はい!」
なんだ、その弾んだ返事は。ノリノリじゃないの。
さては早く地下通路を見たいんだな。
◇◇◇ ◇◇◇
バスを集荷所に横付けして、野菜を詰め込んでいく。
メイスンに、『一日に販売できる量(やや多め)』と指示し、二日分をバスに積んでもらった。
「お嬢。またバスの中の様子が変わっていますね」
そうなのだ。
なんてったって、スクーターを乗せていくからね。
後部にトランクを開けるようなドアをつけて、ラダーレール代わりの木の板を乗せておいた。
「まあね。野菜の詰め込みが終わったら、私が乗ってきた乗り物も乗せてね。ええと。ゲルツ伯爵領に着いたら、バスを馬車に変えるから、その馬車を引く馬が必要ね。あなたたちの馬じゃなくて、王都から馬車を引いてきた馬を連れていく必要があるわね。馬もバスに積んだ方がいいかしら?」
「いえ。私たちが馬を連れて行った方がいいでしょう。お嬢自慢のバスほど速く走れませんが、馬車に変えて野菜を積み直している間には追いつけると思います」
そう?
「じゃあ、馬車を引く馬はアルフレッドに任せるわ」
「はい」
アルフレッドがキースに目配せをすると、キースは軽く頷いて走り出した。
まあ、そうなるよね。
…………‼︎
キターッ‼︎
今、ポケットに反応がっ‼︎
そうっとポケットに手を突っ込んでみると、あった!
手に触れた四角い物を取り出すと、三センチ角の黒いキーだった。
出来たってことだね!
「アルフレッド。これが地下通路の入り口の開閉ができる鍵よ。一つあなたに渡しておくわ。これをポケットに入れておいてちょうだい。これを持っている人が近づくと、入り口が開くの。私とメイスンは先に出発するから、キースと一緒に後で追いかけてきて」
「かしこまりました。ですが、私が到着するまで穴からは出ないでくださいよ」
「だから、通路だってば!」
アルフレッドが面倒臭そうに、「あー、はいはい」と軽く流している。
ちっ。
「私とメイスンがバスで下に降りたら、扉はいったん閉まると思うから、あなたとキースは準備ができたら、またここに近づいてね。くれぐれも開閉部の上に立たないようにね。地下に降りて少し進むと自動で閉まるから、閉まったことだけを確認してね」
「この四角い物を持っているだけでいいのですか?」
そうだよね。不思議だよね。
「そうよ。あ、ヒッチ。この色の違う地面には近づかないよう、みんなに言っておいてね。うっかり踏み入ると、大きな穴が空いて吸い込まれるってね」
まあ、キーを持っていない以上、開かないはずだけどね。
「はっ、はい!」
ヒッチが『気をつけ』の姿勢で返事しちゃってる。
あれ? なんか私の命令が作用している? いや、性格的なもんだね。
「メイスン! じゃあ、出発するわよ」
「……っ! はい」
いや、あなたもそこまで緊張しなくていいから!




