57 情報収集のサポート
急ぎ帰路に就いた私たちは、何とか日没前に領主館に辿り着いた。
とりあえずメイスンは解放し、話の続きは夕食後にアルフレッドとすることにした。
「ご飯のことを考えたらお腹が減っていることに気がついたわ」
「今日の昼はほとんど食べていませんからね」
撤退を急ぐあまり、本当にちょっぴりパンを齧っただけだったもんね。
ダイニングルームに並べられた料理を見て、改めて食材の豊かさに気付かされる。
公爵家を出る時に持ち出した食料は、まだまだたっぷり残っている。
魔法で耕した畑では作物がこれでもかと実るので、私はこの先もお腹を空かせることはないだろう。
領民たちも然り。
お腹いっぱい食べることができれば、犯罪に走る必要もない。
幸せなサイクルの出来上がりだ。
でもそうでない場合は――。
「お嬢。まずは夕食に専念しましょう。あれこれ考えながらだと食べた気がしないでしょうから」
「そうね」
具沢山スープの野菜の味を一つ一つ確かめながら美味しくいただいた。
◇◇◇ ◇◇◇
食後に部屋を移るのも面倒臭いので、食器を片付けてもらって、そのまま話をすることにした。
テーブルには紅茶だけになっている。
「考えたんだけど――」
「は?」
まだ何も言っていないでしょう!
だって、ずっと気になっちゃって頭から離れなかったんだもん。
「まず、ゲルツ伯爵領の状況把握をメイスンにさせるって話だったわよね」
「そうですね。背後に我々がいることを悟られずに、一商人として情報を集めてもらわなければなりません」
「そうね。そうなると、行商に転じた話に信憑性を持たせるために、それなりの偽装が必要でしょう? それに私たちの支援が必要となった際に、すぐに動けるようにしたいし……」
つまり、タイムロスをなくしたい。
何かあった時、知らせを受け取るにも、応援に駆けつけるにも、相当な距離を移動することが不可欠となる。
ゲルツ伯爵領の近くに作戦拠点を設けた方がよくない?
「お嬢。何だか嫌な予感がします」
あぁん?
喧嘩売ってんの?
「以前、ゲルツ伯爵領にバスで迎えに行った際、塀の近くに停めたでしょ? あの辺りに、人員と物資を一時的に置いておけるような拠点を作ろうと思うの?」
「……は?」
「行商というからには商品が必要でしょう? それに、もしゲルツ伯爵領内でこの前みたいに生活に困っている人がいるなら、それとなく援助したいし。とりあえずはメイスンが一日中商売ができるように、すぐに商品を補充…………あ!」
「その顔は相当ヤバいことを思いついたんですね。聞きたくないような――」
アルフレッドがもごもごと失礼なことを言っているけれど、マジでいいアイデアだと思う!
最初は、門番や塀の見張りに気づかれないくらいの距離の地下に拠点を作ろうと思っていた。
マンションのA棟とB棟とをつなぐ渡り廊下みたいなものを地下に作って、地上へ出る真下あたりにドドンと寝泊まりできる管理人室みたいな部屋を作ろうかと。
でも地下通路なんだから、何も遠慮して領地外で止める必要なくない?
領地内の、メイスンが店を出すところまで繋げちゃえばいいんじゃない?!
ふっふっふー‼︎
「早速明日メイスンを呼んで作戦会議よ!」
「はぁ」
アルフレッドは項垂れながらも、「はいはい」と了承してくれた。
「はい」は一回でいいんだけどね。
◇◇◇ ◇◇◇
翌日。
応接室に、アルフレッド、キース、メイスンに集まってもらった。
今日は興奮しないで、ちゃんと落ち着いて話す。そのためにお茶も用意した。
「さて。じゃあ作戦会議を始めましょう」
「作戦――て。また大袈裟な。お嬢。遊び半分じゃないのは分かりますが、普通に話してくださいよ」
くっ!
あなたがわざわざ指摘しなけりゃ、すぐに真面目モードで話が始まっていたのよ!
「フン。アルフレッド。あなた、少し口を慎みなさい。領主様が話してんのよ」
「領主様って――。あれだけ『シャーロッテ様とお呼び』って言っておきながら、こういう時だけ偉ぶるんですね」
うっさいなー。
「もう黙って。それよりも、メイスン」
「は、はい」
「緊張しなくていいのよ。メイスン。あなたにはゲルツ伯爵領に潜入してもらおうと思っているの」
「せ、潜入?」
メイスンが分かりやすくガクブルと震え始めた。
いや、何も命のやり取りをすることはないから、そこまで怯えなくても。
「潜入って言っても、やるのは商売だけよ?」
「は、はあ」
「それに、キースも護衛につけるから安心して」
「え?」
キースは急に名前を呼ばれて驚いているけれど、お前に拒否権はない。
そうじゃなきゃ、この場に呼んでないっつーの。
「護衛に雇った人間も、あなたの通行証でゲルツ伯爵領に入れるの?」
「あ、はい。私が身元保証する形になるので」
「じゃあ、キースは問題なく入れるわね。あなたは普通に野菜を売ってくれたらいいの。行商をしていたことになっているから、たまたまこの辺境の地を通りがかって、『おぉぉ! 何と立派な壁だろう! これほど見事な壁を作るとは、さぞや立派な領主様が来られたに違いない!』と、感心してふらりと訪れたことにするの――」
「お嬢。それ、どうしても言いたいんですね」
「お黙りアルフレッド! とにかくね、そうやってこの地を訪れて野菜を仕入れたことにして。それで昨日の街で売ったら完売して、どうやら食料が不足しているみたいだと聞きつけ、昔住んでいたゲルツ伯爵領が気になって来ちゃった、っていう話にしましょう」
「は、はあ」
「あ。その前に。ゲルツ伯爵領って行商人も商売していいのよね?」
「あ、はい。店を構えている商人と同じ許可証があれば問題ありません」
「じゃあ、あなたは問題ないのね」
「はい。私は店こそ失いましたが、許可証はまだ有効です」
「へえ。ねえ。行商で領内に入った場合、どこで店を広げるの? さすがに好き勝手にはできないでしょう?」
「特に定めがある訳ではありませんが、やっぱり売上が見込める人通りの多い通り沿いに馬車を停めて商品を並べたいですからね。といっても、行商人が入り込める余地はあまりなくて、結局は、そこそこ稼いでいる平民の家が密集している場所を探して取り合いですね」
へぇ。
キッチンカーの出店場所を探すみたいな感じ?
うちの近所は、曜日ごとに決まった店が来ていたけれど、あれって商業施設か何かが仲介してんのかな?
そうだよ!
行商人が場所探しに苦労しているんなら、そこに商売っ気を見出す人間もいるんじゃない?
「ねえ、メイスン。土地の所有者で、空き地を有効活用しようと考える人間なら、そういう行商人とかに手数料を取って馬車を停めさせてやったりするんじゃない?」
「あ!」
思い出した?
「確かにそうです。そういえば聞いたことがあります。かなりいい立地だと、売上の二、三割を取られるそうですが。あ、でも中には、場所代として少額を受け取るだけの奇特な人もいたっけ……」
「決まりね。最初は店を広げられる場所を探して、決まったら数日馬車で寝泊まりして販売してちょうだい。在庫切れをさせないように、人だかりができたら、昼過ぎには『今日の分は完売』って店を閉めるくらいでいいわ」
「はい」
「後は、作物の出来や、物資が不足している兆候がないかとか、あなたがいた頃と領民の暮らしぶりが変わっていないか、それとなく情報を集めてちょうだい」
「分かりました」
「じゃあ、今日中に準備を済ませるから、明日から早速始めましょう!」
私はノリノリなのに、なぜか三人はむっつりと黙り込んでいる。
なぜに?
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